交点
メグエラは暗くうつむきがちな表情で語る。
「いつもみたいに、こっちに来てた途中で魔獣に襲われた⋯⋯なんてさ。そんなの、納得できるワケないじゃん。
だから、私はネクロマンシーでお母さんを生き返らせるの」
「で、でも、ネクロマンシーって、骨とかオバケとか操るやつじゃん⋯⋯!
そこにフーちゃんのお母さんの意識なんて⋯⋯」
「あるよ! だって、魂はお母さんなんだもん! お母さんが、お母さんがあんな形で亡くなっていいワケ無いじゃん! ねえ!
私はお母さんのことを生き返らせてあげたいの! まだまだ生きてて欲しかったの!」
フローラの目から涙が落ちる。
俺は彼女の母親の幽霊──レイチェルさんのほうを見た。
「⋯⋯私を、ネクロマンシーで⋯⋯? それって、つまり⋯⋯。私は、既に⋯⋯?」
「レイチェルさん、黙っててごめん。
フローラさんから無視されてるって言ってたの、本当は、レイチェルさんが幽霊だから、『そこにいる』ってわからなかったんだ」
「ああっ⋯⋯そんな⋯⋯! あの子が悲しんでる時に、私はなんて、呑気なことを⋯⋯!」
レイチェルさんが、ごめんなさい、と繰り返しながら泣き始める。
⋯⋯親なんだったら、自分の罪の重さに涙するよりも、目の前で泣いてる娘に気を向けて欲しいものだが。
苦しみなんてものはそう、簡単には、止まってくれない。溢れ続けて、周囲の景色を塗り潰していく。
娘とのすれ違いがいつまでも続く。
娘にとっては透明で声も聞こえない幽霊だから、何を思っても、終わりは無い。
俺は灰の文字を消し、古代文字を記し始めた。
未熟なネクロマンサー見習いに、先輩からの痛言だ。
魔導師の大家、マッドリバー謹製の魔法陣を描き上げていく。
「⋯⋯素人がロクに修行もしないで、やろうとしてたのは本当に良くないことなんだが⋯⋯。
ここに、灰が用意されていて良かったぜ」
最後の紋様を書き込むと同時に、部屋の中に結界が張られる。
ワンルームの室内が、おどろおどろしい闇に沈んだ。紫色の煙が漂い、スウっと空気が冷えていく。
いかにも、お化け屋敷の風体。
俺が作り上げたのは、環境の魔力属性を霊的な方向へと大きく傾ける祭壇だった。
「えっ! こ、これ、まさか儀式魔法!?」
「何が起こったのかわかるの、メグちゃん!?」
「うん! あのね、これは魔法陣の特性を利用して、魔力を使わずに魔法を使うっていう、とっても凄い方法なの!
ちょっとでも間違うと物凄い事故が起きてしまうから、王都だと第Ⅱ種危険術指定がされてて──」
メグエラが武器を握りながら、解説を始める。
しかし、フローラは容赦なく冗長な話をぶったぎった。
「つまり、この紫色のは何!?」
「そいつは人間の霊感を高める魔法の煙だよ」
「きゃあっ! なに!? 男の声!!」
「落ち着け。俺だ。霊感を上げたから、霊体だった俺の声も聞こえてるんだ」
俺は適当に手を振って存在感をアピールしてみる。
フローラは気味が悪そうな顔で、喋るぬいぐるみを見下ろした。
「なんで、急にこんなことしたのよ⋯⋯。
てか、これ出来るなら筆談いらなかったでしょ!」
「いやー、後からコレ使いたいなーって思っちゃって。まあ、それはさておき。
──レイチェルさん。今なら娘さんと話せますよ」
俺はレイチェルさんのほうを向く。
彼女は涙を拭いながら、顔を上げた。
フローラが息を呑む音がする。
「話したかったこと、いっぱいあるでしょ。話せるとこから、話してみたらどうですか?」




