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脱出開始


 現在、俺の目の前には三つの課題が転がっている。


①魂の檻からの脱出、およびエルシーの肉体への帰還。


②レイチェルさんの悩みへの対応。


③メグエラからの熱烈なアプローチへの対処。


 ざっくり分けると、こんな感じだ。

 ①だけが特に重要で、他は別にクリアしなくても良いサブクエスト。

 ②は上手いこと進めれば、レイチェルさんを俺の使い魔としてスカウトできるかも、というポジティブな問題。

 ③は上手いこと好感度をコントロールしていかないと、悪霊認定で粉砕バッドエンドになりかねないというネガティブな問題。


 こんなややこしい現状を、並列で同時に処理できるとは思えない。

 メグエラもフローラも、幽霊の声が聞こえてないから、そもそもの難易度がベリーハードだし。

 ここはもう、①の解決だけを見据えよう。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。

 俺は、鳥籠の鍵の辺りに近づいて、ぴょんぴょんと上下に揺れてみた。


「フーちゃん、見て見て! 天使様が踊ってるよ! 可愛いね!」

「私には何も見えないんだけど⋯⋯。てか、それ、ネクロマンシーに使うんだから、人間の魂じゃ無いものに入られてると困るんだけど」


 ⋯⋯ネクロマンシー?

 フローラの言葉に、俺は首を傾げる。

 彼女はただの薬草農家で、幽霊もロクに見えていないのに?

 俺はレイチェルさんのほうを見た。


「レイチェルさん。フローラさんが魔法使いに憧れてたのって、きっかけは何だったとかわかりますか?」

「ええ。もちろん、覚えているわ⋯⋯。魔獣狩りに来た魔法使いさんが、氷の弓矢で戦ってるのを見て『格好良い!』って⋯⋯」

「それじゃあ、ネクロマンシーに興味を持ったのは⋯⋯?」

「⋯⋯たぶん、私を無視するようになった辺りから、かしら⋯⋯?

 ネクロマンシーかどうかはわからないけれど、新しい魔導書を買ってきて⋯⋯。魔獣の骨を被ってる、変な男を家に上げるようになって⋯⋯」

「その魔導書は、いまどこに?」

「ええと⋯⋯、ごめんなさい。私には、どこに何があったか⋯。

 ねえ、フローラちゃん。あの黒い魔導書は、どこに置いてあったかしら⋯⋯?」


 レイチェルさんの問いかけに、フローラは当然、目もくれない。

 幽霊が見えていない人間というのは、こういうものだ。

 彼女は自分の横にいる母親の霊のことなど無視して、目の前のメグエラに声を掛ける。


「メグエラ、ちょっとそこどいて。檻の中身を外に出すから」

「あっ! そうだよね! 天使様も、そこじゃあ居心地が悪いよね! アタシ、お座布団とお茶を用意するね!」

「しなくていいでしょ、オバケは浮いてるし、お茶も飲めないし」

「それはそうだけど⋯⋯。おもてなしをする心持ちはありますよ~って意思表示だから! お茶は一種の愛情表現? みたいなの!」

「あっそ。まあ、好きにしたら? とりあえず、そこ、早くどいて」


 フローラがクールに話を進める。

 どうやら脱出はクリアできそうだ。

 このまま帰ってしまってもいいが⋯⋯、レイチェルさんのことは、ちょっと気掛かりだ。

 娘を心配してるのに、幽霊だから無視される。

 自分がとっくに幽霊になってるって自覚も無いから、成仏も出来ずに彷徨っている。


 ⋯⋯そして、娘さんは母親が亡くなってしまった後に、ネクロマンシーに傾倒している。

 恐らくは、母を生き返らせるために。

 才能も無い上に、ロクな修行も積まない状態で。

 無謀にも、蘇生の奇跡に夢を見ている。


 ⋯⋯危なっかしくて、見てられない。


 ネクロマンシーはあくまでも、アンデッド系の魔族を操るだけの技術だ。

 仮に人間を生き返らせることが出来るとしても、それはもう、人としての一線を超えてしまった〝人外〟だ。

 そこの線引きがしっかりと出来ていない者が、ネクロマンシーに手を出すと、操られているアンデッド達の基盤崩壊を引き起こすことになる。

 ネクロマンシーは、擬似的な転生を起こすことは出来ても、生命体の蘇生には至らない。

 それが出来るのは、邪神くらいだ。


 フローラが鳥籠の鍵を開け、キイ、と小さな扉が開く。


「ほら、外に出な。本当にいるのか、わかんないけど」

「いるよ! もう、フーちゃんったら! まだアタシの妄想だって思ってるー!」


 メグエラが頬を膨らませながらポカポカと軽くフローラを叩く。

 フローラは「はいはい」と受け流して、調理台のほうへと向かった。彼女はそのまま、鍋で水瓶の水を汲み、夕飯の準備に取りかかる。


 俺は鳥籠から抜け出して、ふよふよとログハウスの中を飛び回った。

 魂だけの状態では、出来ることはほとんど無い。

 魔法で適当なゴーレムを作ろうにも、ここに来る前にトーリヤと戦ってたせいで魔力不足だ。

 けれど、俺は、何かしてやりたい。

 レイチェルさんとフローラが、もう少しくらいは幸せになれるような、何かを──。


「天使様?」


 メグエラが俺の軌跡を目で追いかける。

 俺はワンルームの室内を半分に区切ったパーティションをふわふわと越えて、プライベートの空間にちょっとだけお邪魔した。

 メグエラみたいな友人がいるなら、たぶん、アレがあるだろう。


「あっ、ダメですよー! そっちはフローラちゃんのお部屋ですから!」

「は? なに? アンタの天使様、何かやってんの?」


 背後からメグエラとフローラの声が聞こえてくるが、それは無視だ。

 俺は小棚の上に飾られていた、ネコのぬいぐるみに向かって飛び込む。

 見るからに大事にされている物だが、今だけ少し貸してもらうぜ。


「魔力調律──、同調開始──」


 俺は呼吸を整えて、ネコのぬいぐるみに憑依した。

 ──さあ、ここからは、絡まった糸をほどく時間だ。



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