魂の檻
やっほー! オタクくん、見てるー?
さっきは⋯⋯、変なとこ見せちゃってごめんね。
オタクくんは気にしないで。いつも通りに、好き勝手しゃべってくれていいからさ。
⋯⋯俺? 俺はいま檻の中にいるよ。檻と言うか、鳥籠。
トーリヤの館から帰る途中で、なんか捕まっちゃってさー!
今は手のひらサイズの人魂になって、鳥籠の中でふよふよしてるんだ。
魂だけの状態だと、物体をすり抜けられる筈なのに、この檻は何故かそれも無理なんだ。
体が無いとマトモに魔法が使えないから、すげーピンチなの。大変ダー!
てなわけで、どうにかしてこの檻の中から抜け出すことが、今の俺の目標だ。
改めて周囲を見回すと、そこはどこかの家の中。
ワンルームのログハウスのように見える。
玄関入ってすぐのところに、居間と調理場。
床にクマみたいな獣の革が敷いてある。
手作り感が満載の、丸太を半分に切ってくっつけたらしいテーブルの上に、俺の檻は置かれていた。
部屋の真ん中に、二本の棒の間に布を張った簡素なパーティションが置かれ、布団が目隠しされている。
壁には薬草が吊るされて、乾燥させられていた。
「⋯⋯何回見ても、脱出に使えそうなものは見当たらないな」
俺は溜め息を吐いた。
この鳥籠に捕らえられた時のことは、覚えていない。
エルシーの体に帰るためジャンプして、着地したと思ったら、この檻の中に入っていた。
魔術的な話をするなら、この鳥籠は、霊魂を吸い込んで封印してしまうタイプの魔道具なのだろう。
悪霊対策グッズとして、たまに売られているのを見る。
⋯⋯教会で祓って貰ったほうが早い上に確実なので、わざわざ買うのは常駐の神官がいないほとド田舎の住民くらいだが。
「つまりは、この辺りに教会は無いってことなのかなー。それともタダの学者か、ネクロマンサーか⋯⋯」
考えたところで、仮説を絞り込むための情報は何も無い。
せめて家主が現れれば、何かはわかるだろうけど⋯⋯。
「あ、あのぅ⋯⋯。あなた、誰かしら⋯⋯?」
不意に、上から声がする。
見上げてみれば、そこには半透明の女の霊が浮かんでいた。
「うわっ! オバケだ!!」
「え、ええ⋯⋯? オバケ⋯⋯? ご、ごめんなさい、怖がらせちゃったかしら⋯⋯?」
体を縮こまらせて、オバケが俺から距離を取る。
「ちょっと待って! 離れないで! お姉さん、名前は!?」
「な、名前⋯⋯っ? レイチェル、だけど⋯⋯。その、ごめんなさいね⋯⋯」
レイチェルさんがオドオドしながら、鳥籠の前に座る。
彼女の足はいかにも幽霊な、下に行くほど細くなる煙状のアレなのだが、普通の人間と同じように曲げたり伸ばしたり出来るようだ。
うんうん、実に良い。
外見年齢もアラサーアラフォー辺りに見える。
おっとりとした瞳の側には泣きボクロ。少し雑めに括った長髪に、働き盛りの味を感じる。
服装は田舎っぽい──、いや、素朴で控えめな彼女にとてもよく似合っているシンプルなデザインのワンピースだ。
面倒な社交界のレディ達とはまるで違う、引き算が生み出す穏やかな魅力が俺を包み込む。
⋯⋯オタクくんの言葉を借りるなら、「サブクエ持ちの宿屋のおかみさん」ってところだろうか。
「レイチェルさん、後で俺のハーレムに入りませんか!?」
「ハーレム? ⋯⋯って、何かしら? ごめんなさいね⋯⋯。私、都会の言葉には疎くって⋯⋯」
レイチェルさんが苦笑する。
そう言えば、この世界では「ハーレム」は一般的な言葉じゃなかったな。
信仰の都合で、王家でもあって絶対的に一夫一妻の世界観だし。
悪魔の生態をしっかりと学ぶ機会でもなけりゃ、ハーレムって言葉にはまず出会さない。
オタクくんみたいに、漫画を通して専門用語が身近になるっていうのは、実は凄いことなんたぜ。
語源への配慮とか誤用には気を付けろ、って学校のセンコーは言ってたけどな。
⋯⋯それはそれとして。
レイチェルさんに出会えたことで、脱出の糸口が掴めるかもしれない。
なんなら、俺の使い魔として一緒に来てくれるかも!
マッドリバー家はネクロマンシーの研究もめっちゃしてたから、幽霊を仲間にしちゃっても面倒事はたぶん無いぞ!
俺はニコニコと笑いながら、脱出計画を考え始めた。
狙うは、カワイコちゃんも一緒にお持ち帰りのトゥルーエンドだ! 頑張るぞー!




