第四十二話 波乱の体育祭(前編)。
九月はまだまだ暑い日が続く。台風も上陸し始めていて、体育の授業が体育館で行われる事もあった。
九月の一週目は、怪我のこともあり体育祭の練習は参加出来なかった。しかし、お呪いのお陰もあってか、傷口の治りが早く、九月の二週目には参加する事が出来た。
「痛くなったら言えよ。」りんのすけが心配してくれた。
「もう大丈夫だよ。二人三脚の練習しようぜ。」
体育の授業は、ひゅうがのクラスと合同だ。前半は『台風の目』の練習。後半は各自の出る競技練習が出来る。
俺はしゃがんで、りんのすけの左足と自分の右足を白い布で縛った。
「1で外側の足、2で内側の足を動かす。掛け声を合わせろ。」
りんのすけは俺の腰に腕を回す。
「おっけー。せーの。」
俺はりんのすけの肩に腕を回して、掛け声を上げる。
「「いち!!に!!」」
二人で顔面スライディングしてしまう。
「歩幅を合わせろ!!」りんのすけが怒鳴る。
「そっちこそ!力加減しろよ!!」
ムキになって言い返す。
「ハハハ!つかさ達も二人三脚出るんだなあ?大丈夫か?」
ひゅうがはペアの男子生徒と一緒に、俺たちの所に駆け寄って来た。足が繋がっているのに、全然転ぶ気配がない。
「何でそんなに息ピッタリなんだ?」
俺はりんのすけと一緒に立ち上がりながら聞いた。
「サッカー部で一緒のチームメイトだからな!体育祭本番でおれっちと勝負する?」
この「っち」は静岡弁で、複数形を意味する。
りんのすけは、闘志に燃えた顔になる。
「受けて立とうじゃないか。」
「おれっちペアはアンカーだから、負けてたらジュース奢りな!」
ひゅうがとりんのすけが睨み合う。火花が散る。
「つかさ。さっさと練習するぞ。」
りんのすけが勝手に歩くので、俺は片足で飛びながら転ばないように動いた。
「ちょっと待て!転びそう!おい!」
グラウンドの端に移動して、練習を始める。
何回か練習する内に、俺はある事を思い付く。
「歩幅と力加減はりんのすけに合わせるよ。俺の縛られてる右足は、余り力を入れないようにする。その方が速く行けそうだ。」
「わかった。一度試すぞ。」
りんのすけは頷き、掛け声を合わせて踏み込む。
さっきよりスムーズに合わせられるようになった。それを見越して掛け声をどんどん速くする。どんどん速くなる。速すぎて俺の足は追いつくのに必死だ。
「良いじゃないか!つかさ!」
りんのすけは目を輝かせてハイタッチを求めた。俺は満面の笑みでハイタッチをする。
「はぁ。はぁ。かなり良くなったと思う!この調子で。はぁ。はぁ。体育の授業中にいっぱい練習しよう。」
息切れしながら、額の汗を拭った。体力付けるために、朝ランニングしようと俺は心の中で誓った。
十月九日スポーツの日。体育祭本番。
小学校や中学校と違い、保護者の観客は少なかった。高校の体育祭は、内輪で楽しむ行事らしい。
朝早めに学校へ行き、更衣室で体操服に着替えハチマキをして外に出る。
事前に教室の椅子を応援席に移動していた。体育祭当日、競技がない時はそこで待機する。
部活対抗リレー用の衣装は、りんのすけが用意して、当日の朝全員に配っていた。衣装を椅子の下に仕舞う。
応援席の順番は自由だったため、同じクラスのオカ研四人は固まって座っている。左隣にりんのすけ。前に進一、その左隣に和田だ。
進一は何やら大きい包みを持って来ていた。長さ二メートル程ある細長い物が、白い紙に包まれている。
「進一、それ何?」俺が聞くと、
「部活対抗リレーで使うバトン。」と返された。
「アンカーに渡すまでは開けないようにしろよ。」りんのすけはオカ研メンバーに言った。
「こんな大きい物を持ったら走りにくそうなのだよ。」
和田はメガネを上げながら文句を言った。
「中身知ってるのって誰?」
俺は進一の背もたれに寄りかかって聞いた。
「僕とりんのすけと山河先輩だけ。」
進一は淡々と言う。
「へえー。すごく中身が気になるけど、楽しみに取っておこ。」俺は自分の椅子に深く腰掛けて、両手を頭の後ろで組んだ。
開会式が始まるため、整列をし、朝礼台の前に整列する。列の先頭には応援団長の先輩やクラスメイトが並ぶ。色毎に大きな旗を持つ旗手も居る。
左から赤組、青組、黄組で整列している。俺は青組の先頭に野崎先輩が居る事に気がついた。まさかの応援団長の位置だ。
各色の応援団長は朝礼台に立つ校長先生の前まで行き、宣誓をする。休めの姿勢で後手を組む先輩達の背中が視える。野崎先輩だけ、布製籠手で肘まで隠れていた。
開会式が終わり、そのまま一年生は整列し直す。第一種目は『台風の目』だ。
黄色チームがとても強かった。他のクラスに比べてもサッカー部が多いからだ。
赤チームも健闘したが、二位で終わってしまう。
「これ不利過ぎないか?」俺は応援席に戻りながらボヤいた。
「チームの勝ち負けは別に良い。二人三脚で勝つ事だけ考えろ。」
りんのすけは自分の席にどっかりと座り、腕組みをしてへの字口になった。
次は、二年生の全体競技『大縄跳び』だ。山河先輩は黄色チームだった。黄色のハチマキをカチューシャのように巻き、頭のてっぺんでリボン縛りしている。
競技が始まると、男子生徒達がざわつき始める。胸の揺れを食い入るように見ているのだ。二年生はギャル系の可愛い人が多いのもあり、憧れている男子生徒も多いらしい。
俺もつい夢中になって見ていたら、りんのすけに肘鉄を喰らわされた。脇腹が普通に痛い。
そして、勝敗の結果は聞き逃した。
次は綱引きだ。全く練習していないが、先輩後輩混ざって行われる。
俺と和田が競技に出るため、一緒に待機列へ向かった。
「和田。綱引きのコツ知ってるか?」
「何だね。そんなもの、全力で引っ張るだけだろう?」
「チッチッチ。違うんだなぁ。コレが。体を寝かせて空を見上げれば良い。」
俺はドヤ顔で言う。和田は悔しそうな顔をする。
「ふん。そんなもので勝てるとは思わないのだよ!」
「まあ、騙されたと思ってやってみようぜ。」
和田の後ろに俺の順番で、他の競技者と合わせて二列縦隊で縄の前まで移動する。
「よーい。」
パン
空砲の音と同時に、縄を引く。
最後列に居る先輩が大声で叫んだ。
「上見ろーー!!」
俺は体を反らせて上を向く。目の前の和田が屁っ放り腰になっている事に気がつき、つま先で膝裏を攻撃し、膝カックンさせた。
和田は俺の上に倒れ上を向く。
縄がゆっくり動き始め、どんどん後ろに引っ張られる。
パン
空砲が鳴り勝負が決した。
「うおおお!!!」
先輩や同級生達とハイタッチをする。勝ったのだ。
その後も、俺は和田の膝カックンをした。結果、リーグ戦を勝ち抜きで赤チームが勝利を収めた。
「やったな!和田。」
俺は笑顔でハイタッチを求めた。
「膝カックンの件は許してないがね!」
和田はプンスカしながらも、ハイタッチを返してくれた。
次は三年生のクラス対抗リレーだ。野崎先輩は、第一走者だ。ゴールラインに立つと、高速で印を結んだ。ズルじゃないのか?
ピストルの合図で一斉に走り始める。野崎先輩は二位と大きく大差を付けてバトンを渡した。やっぱりズルだった。
それでも、後半の方で抜かれ、野崎先輩のクラスは二位なっていた。
三年生のクラス対抗リレーが終わるとお昼休憩の時間になった。
今日は祝日で売店が休みのため、コンビニで買ったパンを持って来た。オカ研のメンバーに飲み物を買いに行く事を伝え、一人で校舎横の自動販売機に向かった。
人の居ない校舎横に女子生徒と男子生徒がいた。俺は気不味くなり、陰に隠れて二人が居なくなるのを待った。
「好きです。付き合ってください。」
女子生徒が告白を始めた。うっ。最悪なタイミングに来てしまった。
「悪ぃな。」男子生徒は振った。
聞き覚えのある声。そーっと顔出すと、女子生徒が泣きながらこちら側に走って来た。俺は急いで隠れる。
「おい、つーちゃん。見えてンぞ?」
野崎先輩に首根っこを掴まれてしまう。
「すみません。すみません。飲み物買いたかっただけなんです。」
俺は両手を合わせて必死に謝った。
「どれ飲みてェんだよ。選べ。」
野崎先輩はポケットから小銭を取り出し自動販売機に入れた。
「え?良いんですか?」
「サッサっと選びやがれ!」
お尻を軽く蹴られる。俺は急いでボタンを押し、レモンサイダーを取り出す。
「ありがとうございます。モテるんですね?」
俺は先輩の方に向き直って言った。
「別にィ。モテるとかモテないとかよくわかん無ェし!」野崎先輩はスポーツドリンクを買い、自販機から取り出した。
「もしかして、山河先輩と付き合ってたりします?」俺は恐る恐る聞く。
頭を天辺から鷲掴みにされ、顔の目の前で睨まれる。
「付き合って無ェわ!!あいつは妹みたいなモンなんだよォ!!」
「すみません!すみません!」俺は全力で謝る。
「つーちゃんは彼女居無ェの?」
先輩は手を離し、スポーツドリンクを飲んだ。俺はサイダーを両手で持ち、ペットボトルのキャップを見つめる。
「居た事ある様に見えます?」
「あるから聞いてンだけど?へぇ。そっか。なるほどなァ。」
野崎先輩は一人で納得しながら、応援席の方へ歩いて行ってしまった。
俺も応援席に戻る事にした。
「遅いぞ。」りんのすけに睨まれた。
「ごめん。自動販売機が混んでて!」
俺はテキトーな理由で誤魔化した。
進一は飲むゼリーを飲み込んでスマホで時計を確認する。そして言った。
「着替えないとだね。」
「もうそんな時間?」俺は驚く。
「中身を見ていないのかね?着替えるのが大変そうだったのだよ!」
和田はドヤ顔で言う。
俺は急いでコンビニのパンを口の中に詰め込み、モグモグしながら荷物を持つ。川島に声を掛けたが、文化部の方で着替えが必要らしい。走り終わったら急いで着替えると言っていた。
ひゅうがのクラスの応援席に行き、手招きをして合流する。五人で更衣室へ向かった。
「何コレ!すげぇ!」ひゅうがは袋から衣装を取り出して言った。
本格的なコスプレが入っている。髪色に合わせた黄色い着ぐるみで顔だけが出る様になっている。頭と指の先が長い。見た目は宇宙人と言うよりは、エイリアンの様な不気味さがあった。
和田のゾンビも、俺の狼男も、りんのすけの吸血鬼も、リアルな造形をしていて不気味さが強い。
「うちの会社で取り扱っている商品だ。宣伝にもなると言う理由でお金は掛からなかった。」
りんのすけは着替えを進めながら言う。
「僕、猫耳だけじゃ無いの?」
進一はすでに着替えを終わらせ、白猫に変身していた。両手両足に猫の足を模した靴と手袋、ベルトで固定した尻尾、赤い首輪には鈴が付いている。猫耳は耳の中まで毛が生えたリアルな物だった。
「可愛い!」俺は進一に駆け寄り、スマホで写真を撮る。
「つかさ。一旦落ち着いて。」進一は淡々と言う。
「進一君は山河先輩とセットになる様にデザインして貰った。走る順番も並んでいるから、見栄えも良いだろう。」
りんのすけはニヤリと笑いながら言う。進一は不服そうに頬を膨らませたが、反論はしなかった。
全員着替えを終わらせ、日陰で順番が来るのを待つ。この暑さで着ぐるみは死んでしまう。
一応速乾素材を所々に使われていて、夏仕様にはなっている様だった。
運動部のリレーが始まる。
「そう言えば、ひゅうがは走らないのか?」
俺は気になって聞いた。
「三年生が主になってやるから、一年生は出ないんだぁー。」
ひゅうがはニコニコしながら言った。
「ねえねえねえねえ!見て見てー!!」
後ろから山河先輩の声がし、全員で振り返った。
フリフリの魔法少女に変身していた。肩の出たトップス、短いスカート、指の出た長い手袋、胸元に大きなリボン。頭には大きなとんがり帽子を被っている。所々ハートが散りばめられている。色は白とピンクでまとまっていた。
和田は顔を赤くして身を背けた。このムッツリ。
「進一と並ぶと、セットなのが分かるな。」
俺は感心して交互に見る。
「でしょー??」山河先輩は嬉しそうに進一を抱き寄せた。進一の顔がまた、タワワに埋まってしまう。
「暑い。」進一は小さい声で呟いた。
俺が山河先輩と進一を引き離すと、進一は急いで俺の後ろに隠れた。
「おうおうおう。ハロウィンみてェじゃん!!ウケる!!」
野崎先輩は、鬼門の中で着ていた陰陽師っぽい服装に着替えていた。
大きな包みを持った進一の右手を見て、野崎先輩は睨みつける。
「何だァ?そのデッケェの。」
「バトンだ。アンカーの野崎先輩が受け取ったら、中を開けてくれ。それまでは開けない様にしろよ。」
吸血鬼に仮装したりんのすけは、腕を組みながら偉そうに言った。
しばらく写真撮影やら談笑やらをしていたら、六人チームの文化部リレーが始まった。
オカ研+マジ研の合同リレーの順番が刻一刻と迫っている。




