第三十八話 友達の声。
絶体絶命のピンチ。と言っても、俺は羅刹天と言う神様の事を全く知らない。二人は打つ手無しの様子で意気消沈だ。
俺は急な思い付きを口に出した。
「あの。神様だったら、また山河先輩にお願いして降霊術をして貰えれば、少しでも隙が作れないですかね?その間に出口を開けて出られれば何とかなる、とか。ハハ、都合良すぎですよね。」
俺は苦笑いする。
野崎先輩の目に光が戻った。
「それ!採用!!!急いで部室行くぞ!!」
「何も策がないよりは全然マシですかね?急ぐなら、俺が担いで運びます!」
サソリさんはそう言うと、俺と先輩を俵抱きして、全力で走り校舎に飛び込んだ。
「うお!!いきなり何しやがンだ!!」
野崎先輩は驚いて大声を上げた。
俺はりんのすけに俵抱きされた時の事を思い出した。あれもサソリさんに教えてもらったんだな、と確信する。
「はい!着きましたよー♪」
サソリさんは丁寧に二人を下ろした。
「チッ。とりあえず連絡だ。」
野崎先輩はスマホを取り出し。山河先輩に電話をした。
【一方その頃。ひゅうが。】
つかさの事が心配で、全く落ち着けない。
何か出来ないかと思い、進一君を呼んでマジ研の部室まで来てもらった。
「それは、かなり不味い状況だね。流石に行った事を見た事もない場所に居るつかさ達を助ける術は思いつかないや。」
「そう……だよな。」
おれは進一の言葉を聞いて、さらに気持ちが落ち込む。
そんな時、山河先輩のスマホが鳴った。
山河先輩は、さっきの占いで力尽き、床に寝転がっている。そのままの体制で、スカートのポケットを探り電話に出た。
「はあ?無理だって。もう力使えない。え……。それはもっと無理。わかった。死ぬなよ、先輩。」
電話を切った後、山河先輩は泣き始めた。
「何があった?」りんのすけは先輩に駆け寄って聞いた。
「うぅ……。グス。鬼の親分みたいなやつが出てきちゃったんだって。だから、もう一回降霊術やりたいんだけど、力尽きてるし、宗派違い過ぎて出来るかわかんない!無理!うぁぁん!先輩が死んじゃうのはもっと無理!!」
山河先輩は地面の上で駄々を捏ねる様に暴れながら泣き叫んだ。
「それを召喚出来れば、向こうの手助けが出来るんだよね?とりあえず、体力回復しないと!!どうすれば回復できるんだ?」
おれも山河先輩の所に駆け寄って聞いた。
「甘いもの食べればイケるかも。グス。」
その言葉を聞くと、りんのすけはすぐ誰かに連絡した。
「何でも良い。甘い物を沢山持って来てくれ。」すぐに電話を切る。
進一はりんのすけと山河先輩に質問をした。
「降霊術って宗派によってやり方が違うんだね。」
「ああ。先輩が出来るのは恐らく西洋のやり方だろう。信じている神が違うと召喚は難しいはずだ。この世界にはあらゆる降霊術がある。やり方を変えるか、潜在能力を底上げすれば可能性は上がるだろう。」
りんのすけは口に手を当てながら言った。
進一は黙って部室を出て行った。しばらくして戻ってくる。
「はい潜在能力を上げる薬。この前の体力テストで使った残りだけど、これを飲めば全ステータスを上げられる。僕用に調合してるから、効果が強すぎるかも知れないけど、この状況なら強いに越した事ないよね。」
進一は小さなジップ付きの袋を出した。中には白い錠剤が数粒入っている。
「すげえ!それがあれば助けられるかも知れねえ!」
おれはガッツポーズして喜んだ。
「試す価値はあるな。」りんのすけはニヤリと笑う。
「その怪しい薬、本当に効くかわかんないけど、それしか縋るもんないって事ね。りょ!なんか嫌な予感が消えないから、もう一回電話する。」
山河先輩は起き上がり、胡座をかいて電話をする。
「そっちの状況、もうちょい詳しく教えてくんない?それと羅刹天の見た目の事も。え?急に誰?あーね。……見た目はOK。状況は?あれ。もしもーし!もしもし!!?うそ、切れちゃった……。」
山河先輩は青ざめて、持っていたスマホを落とした。
「それは切られたという事か?電波が通じなくなったと言う事か?どっちだ。」
りんのすけは早口で聞いた。
「電波が通じない。向こうの部室が壊れたんだと思う……。」
山河先輩は俯いて、両手を床についた。
「嘘だろ……死んでないよな?」
おれは涙が出るのを必至に抑えて皆んなに聞いた。
マジ研の部室にいる全員が黙ってしまう。
「持って来ましたよ、坊ちゃん!」
ワタヌキさんが沈黙を破って部室に入って来た。両手いっぱいに袋を抱えている。
山河先輩は涙と鼻水を腕で拭って言った。
「甘いもん食って、薬飲んで、すぐ始める!」
【一方その頃。つかさ。】
野崎先輩は電話を切った。
「とりあえず、降霊術やってもらう様に頼んだけど、成功する可能性はほぼゼロだ。まず、ちぃが出来る降霊術の方法だと、宗派が違うから無理だ。あと、羅刹天が召喚されたからって、その時間の内に出口を開くのも無理。時間が無さ過ぎる。」
ため息を吐いてまた暗い顔になる。
「そしたら、俺がまた囮になります!」
俺が立候補する。
「人間が神に対抗するのは、ちょっと厳しいんですよね。」
サソリさんは苦笑いをする。
野崎先輩のスマホが鳴った。
「どした?おお。状況と羅刹天の見た目?」
サソリさんは野崎先輩のスマホに顔を近づけて言った。
「こんにちわ。目撃したのはわたくしだけですので、代わりにお伝え申し上げます。背丈一六〇センチメートル、白い長髪を頭の上でお団子にして纏めてました。着物は黒、帯は赤です。」
サソリさんが話している間に、俺は廊下が気になり、ドアから覗いた。
物凄い殺気。階段を誰かが登って来ている。
言い終えると、サソリさんは元いた場所に下がった。
「やばいです!来てます……!」
俺が言い終える前に、爆発音がした。部室の部屋の壁に大きな穴が空き、その穴の奥に白い髪の女の人が立っている。
「クソッ。やっぱり結界破れンのかよ!」
「不味いですね。移動しましょう。」
サソリさんはまた俵抱きをして、高速で移動した。
プールの入り口前で降ろす。
「急ぎ、出口を開く事に務めて欲しいです。俺が何とか神様の気を引きます。」
そう言い残し、サソリさんはまた校舎へ戻って行った。
「出る事を優先する。それしか道がねぇ。」
野崎先輩は、下唇を噛みながら悔しそうに言った。
「死なない程度に、あの無鉄砲バカの事頼む。でも本当に……絶対に死ぬなよ。」
先輩は弱々しく言った。
「勿論です!」俺はサソリさんを追いかけて、校舎へ走った。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
校舎は地響きで揺れていた。
天井を突き破り、サソリさんが落ちて来た。
「サソリさん!!!」俺は動揺しながらすぐに駆け寄った。
「ガバッ。全然太刀打ち出来なかったっす。」
サソリさんは口から血を吐いた。腕や脚から血が滲んでいる。
「とにかく、移動しましょう!」
俺はサソリさんを背負い、歩き出す。
すると、天井を突き破り、目の前に奴が現れた。
「其方に用はない。その男を降ろせ。」
脳に直接話す様な不思議な声で、羅刹天は言った。
「それは出来ない。」俺はゆっくりと後退りながら言う。
「鬼を殺した罪人ぞ。生きては返さぬ。」
羅刹天は右手を前に突き出した。掌から槍の先端が現れる。
俺はすぐに駆け出し、わざと転んだ。
背中の方から槍が空を切る音が聞こえる。
「罪人を庇うはまた罪人。其方諸共、今ここで死ね。」
俺は、また立ち上がり全力で走る。校舎を出て、またわざと転ぶ。
「ぐっ……!」ふくらはぎに槍が掠めた。
痛い。痛い。痛い。血が滲む。
でも、死にたくない。
痛む脚を必死に我慢して、立ち上がる。
「もう俺の事は置いて逃げて下さい。」
サソリさんは弱々しい霞んだ声で、俺に伝える。
「それは出来ません!サソリさんが狙われてるんですよ?ここでサソリさんを死なせたら、俺は俺の事を一生許せなくなる。」
俺は必死に脚を動かす。このまま死ぬ訳にもいかない。誰も死なせる訳にはいかない。
空間が一瞬歪んだ。
転移。目の前に羅刹天が立ち塞がった。
掌を俺に向ける。
またわざと転んでギリギリで避けるが、転んだ時に傷口を地面に叩きつけてしまう。
「っく……。うおおおおおおお!!!!」
叫んだ。叫ばないと力が入らないからだ。無理やり振り絞った力と勇気で立ち上がり、今出せる全力で走る。
痛い。逃げたい。帰りたい。
(生きて帰って来い!生きてさえいれば良いから!ずっと待ってるから!)
脳内にひゅうがの声が響いた。
「えっ!」俺は後ろの方から声がした気がして、振り返った。
羅刹天の上に、金色の魔法陣が出ている。
眩い光に包まれる。眩しい。
光が収まり、目を開けると、羅刹天の姿は居なくなっていた。
今のうちに、と俺はサソリさんを背負いプールの結界まで走った。




