第三十九話 目には目を、歯には歯を。
【一方その頃。進一。】
ギャルの先輩は、りんのすけの使用人が持って来たケーキやクッキーを次々に口の中に放り込む。
ひゅうがの買って来たスポーツドリンクのペットボトルを、一気に半分飲み込むと僕の薬を口に入れ、残りのスポーツドリンクを飲み切った。
「なんか、今なら何でも出来そー!って感じ!!よし!!!ダメは元々だ!!!始めるぜ!!!」
ギャルの先輩は、頬を叩いて気合を入れた。
魔法陣の上には、お菓子のゴミや僕の薬の入った小さな袋が散乱と置かれていた。
「よろしくお願いします!」
ひゅうがは先輩に深々とお辞儀をした。
僕とりんのすけとひゅうが、使用人は部屋の隅で大人しく座った。
先輩は、魔法陣の真ん中に、指先から垂らした血を数滴垂らした。
儀式が始まる。
不思議な言葉を唱え始めた。手は前に組み、正座をする。
魔法陣の中心から冷たい風が吹いている。どう言う仕組みなんだろ。凄く気になる。
りんのすけを挟んで隣にいるひゅうがは、目を瞑り、手を組み、拝み始めた。
「生きて帰って来い!生きてさえいれば良いから!ずっと待ってるから!んむぐ。」
声が思い切り漏れている。りんのすけは、ひゅうがの口を押さえて黙らせる。
先輩は目を瞑り、組んだ手を上に上げた。すると、先輩の様子がおかしくなった。
立ち上がり、上を向き、目を開く。髪は逆立ち、白目を剥いていた。
「うぅぅ。うううう!!邪魔をするな小娘!!我を何方と心得る!!貴様諸共全て破壊してやる!!」
先輩の声ではない。脳に直接入り込んでくる様な不気味な声だ。
「あらら。大変ですー。」
使用人は急に立ち上がった。黒スーツの胸ポケットを探り、一枚のお札を取り出した。
「サソリさんから預かっていて良かったです。よいしょ。」
使用人は少し背伸びをして、ギャルの先輩の頭にお札を貼る。
先輩は、大人しくなった。
「な……何だ?何をした……?」
憑依している声の主は苦しそうに言う。
「わかんないです。何ですかね?これ。」
使用人は惚けているのか、本当に知らないのか、腕を組んで首を傾げた。
「干渉されている……。っく。神への冒涜だぞ。わかっているのか。」
自称神様は静かな声で言う。
「うーん。わかってないです!」
使用人は笑顔で言った。この人、大丈夫なのか?
しばらく、沈黙が続いた。長く留めて置けば、時間稼ぎになるらしい。
とりあえず、潜在能力覚醒剤……、おっと。言い方が悪いか。パワーアップの薬が効いた様で僕は安心した。
数十分程経ったところで、魔法陣の中に散乱しているゴミや薬が、カサカサカタカタと揺れ始めた。
閃光。思わず目を瞑る。
光が消え、目を開ける。先輩は正座で手を組む姿勢に戻っていた。魔法陣に散らばった物が全て消えている。
ゆっくりと、組んでいた手を緩める。そのまま、パタリと床に倒れた。
「はぁ。はぁ。今日はもう一歩も動けん!」
先輩は仰向けになりながら言った。
「お疲れ様でした。ありがとうございます。」
僕は先輩にお礼を言った。
他の皆んなも先輩を労い、お礼を言う。
「進一くん。一回ハグさせて!」
先輩は仰向けのまま、両手を広げた。
「……それは無理です。」少し気まずくなりながら、僕は小さい声で言った。
ギャル、怖い。
【一方その頃。つかさ。】
プールの結界内に入り、サソリさんを下ろし横にした。
俺は着ていたワイシャツとネクタイを脱ぐ。ワイシャツを引き裂いた。
先にネクタイで、自分の脚を縛り止血をする。サソリさんの血の出ている箇所に破ったワイシャツを押さえ、圧迫止血法を試みる。テレビで見た眉唾な知識だが、何とか止血が出来た。さらに傷口を縛って応急処置をする。
サソリさんは俺の頬に手を当てて、笑顔を向けた。
「ありがとうございます。命の恩人ですね。」
「それはこっちの台詞ですよ!何回も助けてもらってるので、お互い様です!」
俺は頬に当たった手を、両手で握りしめた。
少し離れた場所で、野崎先輩が儀式を行っていた。簡易な祭壇の前で、お経を唱えている。
祭壇のローソクの火は、多分俺が職員室から借りてきたライターで付けたのだろう。
先輩は最後に印を結び、指で空を切った。
「開いたぞ!」
先輩が大声で呼んだ。
俺はサソリさんを背負い、先輩の元へ急いで向かう。良かった。帰れるぞ。
そう思った瞬間。空が光に包まれる。眩しい閃光に目が眩む。奴が戻って来た。
俺の頭の上に、お菓子のゴミが降って来た。頭の上に何か乗り、片手でそれを取る。
「白い錠剤?袋に何か書いてある。ドーピング薬(潜在能力向上)。進一の字だ!」
俺は上を見上げた。最悪。羅刹天が空に浮かんでる。
「逃げられると思うたか?」
不気味な声が脳内に響く。
俺は急いで距離を取り、手の上に錠剤を全て出した。
一粒口の中に入れ飲み込む。
「野崎先輩、これ飲んで下さい!パワー増強剤です!」
俺は先輩に向けて錠剤を投げる。ハンドボール投げの成績は微妙だったが、今は薬の効果で先輩の手の中に錠剤が届いた。
「わけわかンねえ!けど、飲む!!」
先輩は錠剤を飲み込んだ。
背負っているサソリさんの重さが感じられないほど、力が強まっている。中学の時に飲んだ薬より効果が大きい。
俺は全力で走って羅刹天から逃げる。速い。あ、スピード出過ぎ。
俺は校舎に顔面をめり込ませ、そのまま気を失ってしまった。
【代わりまして。野崎先輩。】
あのクソガキが渡した薬のおかげで、自分の中の霊能力が上がっているのがはっきりと分かる。
涅哩底王は結界を破れる。このまま出ちまったら、現世に破壊の鬼神を連れ帰る事になるよな。
クソ親父に教わった涅哩底王の事を思い出せ。獄卒。鬼神。毘沙門天の眷属。それで、眷属の仲間に夜叉が居て、えーと。
夜叉…………!
自分の中にある魂みてぇなモンが、今ドクンってしたぞ。何でだ?!
手の甲の刺青が光ってる。五芒星が反応してるって事は……?何だ!何か思い付きそうなのに、後ちょっとが出て来ねぇぇぇ!!!イライラする!!!!
あれ、クソガキが俊敏になってる。っておい!壁にぶつかって気絶してんじゃねえか!!!
涅哩底王めっちゃ狙ってンだけど?
さっさとアイツを止めねえと!!
ううううう……!!!ハッ!わかったぜ。クソ親父。そう言う事かよ!
「オイ!涅哩底王!お前ェのお仲間連れて来てやンよ!!驚きやがれ!!!」
こっち見たな。動き止めたな。行ける。
腰のポーチから札を取り出す。指の先で分かる。出て来たがってンじゃねえか。
舌を少しだけ噛み切る。イッテェェェ。少しでも痛え。血が口の中に広がる。
札に血を吹き掛け、構え、印を組みながら唱える。
「唵弩弩麼里迦呬諦娑婆訶・ヤクシャ!」
顕現しやがれ。夜叉。お前に全てが掛かってる!
札が光った。成功だ。俺様結構センスあるかも?
龍の様な顔。民族衣装みたいな格好。男夜叉だ。あの涅哩底王も、流石に距離取ったか。
今のうちに、クソガキと無鉄砲バカ拾いに行くぞ。後、一歩。何で、届かねェ……!
調子コイて強い奴の口寄せやったせいだなァ。目の前が……見え……。
【代わりまして。つかさ。】
地響き。金属のぶつかる音。瓦礫の崩れる音。
「ヤバい!!気絶してた!!」
俺は咄嗟に立ち上がり、仰向けで倒れているサソリさんを背負った。
学校敷地外のすぐ側で、羅刹天と何かが戦っている。両手に刀を持った何かは、羅刹天の槍攻撃を封じ、互角かそれ以上に戦えている。
「何だあれ……?そうだ、出口!今のうちに帰れる!」
俺はプールの入り口を見る。あれ、野崎先輩が倒れてる!
「先輩!大丈夫ですか?」先輩の体を揺する。
「……。力が出ねェ……。……出口入れ。」
小さい声で呟いた。
「わかりました!出ます!」
俺はサソリさんと野崎先輩を両肩に担いだ。
そのまま走ってプールの入り口へ向かう。見た目は何も変わっていないが、俺は祭壇の奥へ飛び込んだ。
空が青空に変わる。人の足音や話し声等の雑音が、耳を働かせた。
「戻って来れた……!」
俺は二人をその場に下ろし、座り込んだ。安心して腰が抜けた。
野崎先輩はうつ伏せになり、這いつくばって俺に近づいた。
「閉じるぞ。そこ退けクソガキ。」
先輩はシッシッと、払い退ける動作をする。
「そんな状態じゃ駄目ですよ。無理しないで下さい!」俺は心配でオロオロしてしまう。
「閉じるくらいどうって事ねェよ。開けるより閉じるほうが楽だ。」
先輩は、フラフラと体を起こし胡座をかく。
印を結び、お経を唱える。
しばらく唱え続けた後、指で空を切った。
「これで、取り敢えず安心だ……。クソガキ。名前何だっけ?」
「◯◯つかさです。助かりました。本当にありがとうございました。」
「イーヤ。つーちゃんも良くやってくれた。偉かったぞ。」
先輩はそう言うと俺の頭を軽く撫で、仰向けに倒れて気絶してしまった。
まだ動ける俺は、倒れている二人のお兄さんを俵抱きし、保健室連れて行く事にした。




