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第三十七話 この男、強すぎる。

 土足のまま校舎に上がっていたため、そのまま校舎の外に出る。

「いっちょ、やりますか。」

 結界の外に出て、俺は身構えて言った。

「あれれ?さっきより、増えてませんか?」

 サソリさんは腰に手を当てて、目の上に手を当てながらキョロキョロした。

 数百メートル先に、四体の鬼が居るのが確認出来る。見た目はどれも同じで赤黒い鬼だ。

「結界に集まってきてンだよな。この世界では珍しいモノだからって感じ。」

 野崎先輩は気怠そうに、腰に手を当てたまま頭を掻いた。小さくため息を吐くと、戦闘体制で構える。

「プールに辿り着くまでは、俺様も加勢してやんよォ!」先輩が叫ぶと、三人同時に駆け出した。

 正門側の敷地内を通り、グラウンドを抜け、東側の角にあるプールまで目指す。

 外側から、サソリさん、俺、先輩の順で横に並び陣形を取って走る。

「わあお!グラウンドに、二体もいますねえ!」サソリさんは楽しそうに言う。

 しかし表情は冷徹で、殺気立ち、口元だけ笑っている。

 野崎先輩はスピードを上げて、最前に出る。腰に付けたポーチから赤い紙人形を三枚取り出して、顔の前で構える。

「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」

 呪文を唱えると、飛び上がり鬼目がかけて紙人形を投げる。紙人形は一直線に鬼の脚とお臍に張り付き、赤い炎を上げて燃え上がった。鬼の動きが鈍くなる。

「凄いですねえ!魔法みたいです!それじゃあ、俺も行くっすよー!」

 サソリさんは猛スピードで前に出る。大きく飛び上がり、空中でガンホルダーから拳銃を二丁取り出し構えると、そのまま一発ずつ放った。

 銃声が響いて反響する。

 動きの鈍くなった鬼の目にヒットし、鬼はそのまま倒れた。

 華麗に着地をすると、拳銃から出た煙を息で吹き飛ばし、ホルダーに仕舞う。

「何だァその銃?呪い(まじない)でも込められてンのか?」先輩は眉間に皺を寄せながら言った。

「秘密でーす。」

サソリさんは微笑みながら、人差し指を口に当てた。

「プールまでの道、塞がっちゃいましたね。」

 グラウンドの端に横たわる鬼のせいで、グラウンドの中に入れなくなった。

 サソリさんは鬼の腕を両手で抱えた。

「ヨイショ。」

 軽い掛け声と共に、鬼をグラウンドの真ん中まで背負い投げで放り投げた。

「つ、強すぎませんか?サソリさん。」

「死ぬ程、努力しましたんで!」

ピースしながら少しドヤ顔をした。

「もう一体も倒すゾ!!」

先輩はまた走り出し、紙人形を取り出すと呪文を唱えて投げた。

 動きが鈍くなった所で、今度はサソリさんが飛び出す。カーゴパンツの両脇にある真ん中のポケットからラガーナイフを取り出して両手に構える。

 背中に周り、無数に生えた棘を足場にして上まで飛び登り、後頭部を跳び箱の様にして飛ぶと鬼の目に斬撃を繰り出した。

 そのまま宙返りして着地する。サソリさんの背後で鬼が倒れた。倒れた衝撃で砂埃が舞い上がる。

「すみません。俺何も出来てない。」

 俺は二人の強さを目の当たりにして、申し訳なくなった。

「何言ってンだよ!さっき大活躍しただろォ?それに、これから嫌でも活躍してもらうゾ!!」

 三人でまた駆け出す。プールに到着した。

 プールは、一階が更衣室、二階がプールになっている。りんのすけのメッセージによると、更衣室の入り口が鬼門の出口になっているらしい。

「俺様はここから結界を張る事に集中する。鬼退治、お前らに任せたからな!!」

「おっけー!」

「わかりました!」

 三人は一旦別れた。野崎先輩は、印と呪文で結界を張る作業を進める。

 サソリさんと俺は手分けして、周囲の警戒に務める。サソリさんは、学校の敷地を取り囲む塀の上に登った。俺はプールの北側にあるテニスコートの方まで走って様子を伺う。

「嘘だろ……。」

 ゆっくりと、確実に、赤黒い鬼よりも大きい十メートルはある青黒い鬼が近づいてきていた。細長く尖った顎、鋭く細い目、白くボサボサの長い髪を生やし、手には刀を持っていた。

 俺は振り返ってサソリさんを確認した。他の赤黒い鬼と戦闘をしている。

「サソリさん!!!俺、あのデカいやつ引き付けます!!手が空いたら手伝って下さい!!!」

大声で、サソリさんに向けて叫んだ。

 サソリさんは戦闘したまま、親指を立てた。

 校舎の裏門を通り、住宅街へ出る。近くで見ると、本当に大きい。見た目も怖いし、強そうだし、正直心臓は壊れそうな程動いている。

 でも、コイツをこれ以上近づけたら、元の世界に帰れなくなる気がする。

 俺は、友達の顔を思い浮かべた。一緒に食べたご飯。勉強会。お泊まり。お祭り。笑顔。

「絶対に帰ってやる!!!」

気合を入れて、力強く地面を蹴る。一気に青鬼まで距離を詰める。

 こちらに気が付いた。赤鬼よりも動きが速い。

 攻撃動作を待たずに、横に飛んで庭に飛び込む。


ズゴゴゴゴゴゴゴ……


 刀の斬撃が地面を割った。大きな亀裂が入り、道を分断する。

 俺は立ち上がり、柵を登り隣の家まで移動する。青鬼の足音が聞こえ、こちらに向き直るのがわかった瞬間にわざと転んだ。

 刀を振る瞬間が見えないが、ギリギリの所で避けられた。体のすぐ横に地割れが出来ていた。

 このままでは、いつ攻撃が直撃してもおかしくない。広い所へ出ないと。

 なるべく足音を立てない様に走る。

 青鬼の足音。咄嗟に転ぶ。

 あれ。斬撃の跡が近くにない。

 住宅街の交差点まで出て、乗客を確認する。

「サソリさん!」

 信じられない光景を目の当たりにした。サソリさんが青鬼の刀を折っていたのだ。サソリさんの手には、ナイフが持たれていた。

「上手に転べてる様ですね!お利口さんです。」

サソリさんは、青鬼の拳を避けながら、俺に笑いかけた。

 青鬼は折れた刀を捨て、ステゴロで勝負を仕掛ける。

 サソリさんは全ての攻撃を軽々と避け、突きつけられた拳に飛び乗ると、そのまま上まで駆け上がった。

「あんまり弾薬は使いたくないんですけど、そうも言ってられなそうですね。ちょっと大きすぎだぞ。」

サソリさんは持っていたナイフを捨て、拳銃に持ち帰る。鬼の肩に足を踏み出すと、そのまま思い切り飛び上がった。

「バーン。」

 一気に六発の弾丸を頭に撃ち込んだ。青鬼は自分の顔を押さえながら倒れる。

 サソリさんは綺麗に着地すると、俺の所まで駆け寄った。

「怪我はないですか?」

「はい。お陰様で助かりました。」

俺は深くお辞儀をした。

「いえいえ。つかさ様のおかげで、赤い方の鬼もだいたい倒せました!ナイス時間稼ぎ!」

サソリさんは俺の肩に手を置き、もう一方の手で親指を立てた。

 一度、プールの方へ戻る。戻りながらサソリさんはナイフを拾って慣れた手つきで仕舞った。

「どこから湧いているのかわからないですから、警戒は怠らないで下さいね。」

真剣な顔でサソリさんが言った。

 俺は何回も首を縦に振る。

 裏門まで辿り着くと、空が閃光に包まれた。眩しくて目が眩む。

「これって、結界を張り終わった合図ですか?」サソリは腕で光を遮りながら聞いた。

「違うと思います!さっきはこんな閃光無かったですよね?」

 煌々と輝く閃光は、徐々に弱まり元の赤い空へ戻った。

 急いでプールへ向かった。野崎先輩は無事だろうか。

「野崎先輩!」俺は先輩の元へ全速力で駆け寄る。

「良かった。無事だったかお前ら。さっきの閃光、何かわかるか?」

 野崎先輩は結界を張り終え、プールの出入り口の前に簡易な祭壇を作っていた。火のついた蝋燭を二本立て、木の札を間に置いている。

「今の所、原因不明ですね。ちょっとぐるっと見て来ます!」

サソリさんはそう言い残し、一瞬で居なくなった。

 野崎先輩は、手で風を起こし蝋燭の火を消した。

「嫌な予感がする。いや、ヤベェ匂いがする。出口を完全に開けるのは、この匂いの正体が分かってからだ。」

 二人で辺りを警戒する。

 しばらくして、サソリさんが戻って来た。

「どうだった?」先輩が聞く。

「真っ白い髪の女性が居ました。異様な雰囲気だったんで、多分人間じゃないですね。」

サソリさんは、少し俯きながら言った。表情が暗い。何か察しが付いている様子だ。

 野崎先輩も表情が暗くなった。

「それって、何なんですか?」

俺は二人の異様な様子が気になって、恐る恐る聞いた。

 野崎先輩が重い口を開く。

「涅哩底王(ねいりていおう)だ。」

「ていおう?ですか。」俺は首を傾げる。

「あー、やはりそうですよね。……はぁ。俺、鬼倒し過ぎちゃったな。」

サソリさんは腰に手を当て、上を向きながら片手で顔を押さえた。

「別名は羅刹天だ。女の姿って事は、羅刹女って言われる種類だろォな。神様だよ。鬼の神様。鬼神だよ。」

野崎先輩はしゃがんで、ヤンキー座りをした。

「神様って、そんなの倒せないですよね……。」俺は少し取り乱す。

 俺の言葉に、二人ともさらに暗い顔をする。

 どうしよう。このままじゃ、元の世界には戻れない。

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