第三十五話 スケベと勇気は高いよう。
【一方その頃。つかさ。】
職員室の窓から外を見る。空は赤い雲で覆われている。景色は何も変わらないが、生き物は虫すらもいなかった。
ズシーーン……ズシーーン……
地響きがする。窓に近づいて確認を取る。
「……!!??」
驚きのあまり、尻餅をついてしまった。
五メートル程の巨大な化け物が、家を薙ぎ倒しながら歩いている。
赤黒い肌に、大きな顔。背中と頭に棘を生やしている。耳は大きく尖り、手に棍棒を握っていた。
俺は思わずスマホの録画を撮る。バッチリ映す事が出来た。
気づかれない内に、マジ研の部室へ急いで戻った。
「ライター、持って来ました。」
俺は両手でライターを差し出す。
「おっ。やれば出来んじゃん。」
野崎先輩は俺の頭をワシャワシャと撫でた。
「んじゃあ。これからの流れ、説明するからな。耳かっぽじってよ〜く聞けよ。」
先輩は、パイプ椅子に座り股を開いて座り、前屈みになった。
俺は床に直接胡座をかいた。
「まずは、鬼門の出口を探す。ちぃなら見つけられるから、今頼んだ。んで次は、出口を開ける。儀式するから時間かかる。その後外出て、鬼門閉じればおしまい、チャンチャン。」
「ちぃって、山河先輩ですか?」
「そーだよ。降霊術の占いが出来るから、神のみぞ知るを教えてもらうってワケ。」
野崎先輩は両手を広げてドヤ顔をした。
「外に鬼みたいなのが居たんですけど、アレは無視すれば襲って来ないんですかね?」
「いや、見境なく襲って来ンぞ?近くに居たのか?」真剣な顔で、俺に顔を近づけた。
「学校の敷地外ですけど、職員室の窓から見えました。」
俺はスマホで撮った動画を見せた。
「はぁ……。マジかぁ。」
顔を片手で覆い、そのまま前髪をかき上げて上を向く。
「俺様は、鬼門の中に入ンの二回目なんだわ。ガキの時に修行の為だって放り出されてさ。そン時死にかけて、結局クソ親父に助けてもらったんだよ。」
嫌な事を思い出した様で、苦しい顔をした。
「そうだったんですね……。」
何て声をかければ良いのかわからない。
「陰陽師の修行。ちゃんとやっときゃ良かったなあ。今更遅ェか。……。ちょっと着替えるから大人しく待っとけ。」
怖い顔で睨まれ、指を差された。
ラッキースケベが発動しない様に、俺は一歩も動かなかった。
【一方その頃。りんのすけ。】
僕は呼び出されマジ研の部室に居た。隣にひゅうがも居る。
「山河先輩、状況を詳しく説明して欲しい。」
腕を組んで、床に座る山河先輩を見下ろす。
「鬼門の中に、つーちゃんとウチのバカパイセンが入っちゃった。多分パイセンは、外に出る方法を知ってる。とりあえず、アタシが降霊術やって鬼門の出口を探す。その後、パイセンが出口を開いて外に出て、鬼門を閉じるって流れ。ただ、かなり時間が掛かるし、向こう側には鬼が居るから、助かる可能性は百パーセントじゃない。って感じ。」
ひゅうがは、取り乱した。
「つかさ、死ぬかも知れないのかよ……!おれ達はただ待つしか出来ねーのか?」
「うん。信じて、祈って待つ。それしか出来ない。」
山河先輩は俯いて、申し訳なさそうに言った。
僕は状況を今一度確認する。
「一連の儀式が必要で、その間に襲われたら終わりって事だな?」
「そう言う事。」
「囮が居れば、成功率は上がるか?」
「そうだね。鬼と戦える人間なんて聞いた事無いけど。」
山河先輩は口に指を当てて、首を傾げた。
「戦える人間。居るぞ。」
僕は口角を少し上げて言い切った。
【一方その頃。つかさ】
野崎先輩の着替えが終わった。白い着物に薄灰色の袴風のズボン。袴の先は、茶色のブーツに仕舞い込んでいる。腰にスマホ入れ程の大きさの革のポーチをカラビナで付ける。そして、手に付けていた籠手を外した。
籠手を外すと、両方の手の甲に五芒星の刺青が彫られていた。
「うし。とりま、外行くぞ。校舎の周りぐるっと結界張って、鬼が入れない様にする。マジ研の部室潰されたら詰みだからな。」
「わかりました。」
俺は先輩の後ろをついて行く。下駄箱で運動靴に履き替えた。
校舎を出てすぐ、野崎先輩は印を構えた。両手を不思議な形で組むと、「臨。」と呟いた。
五芒星の刺青が金色に光る。
その後、ものすごい速さで印を結び、長い呪文を唱える。最後に指で空を切る。
白い光が細長く、上に上がって行くのが見えた。
それを一定の間隔で何度も続けた。白い光と光の間に薄いベールが出来ていく。
校舎の裏側まで来たところで、大きな足音が近づいてるのがわかった。
鬼だ。まだ遠いが、確実に近づいている。
「先輩、俺が囮になります!その魔法、続けて下さい!」
「おい!」先輩に呼び止められたが、鬼に向かって走り続けた。
俺は校舎を出て、住宅街に着いた。数百メートル先に鬼がいる。
「鬼さんこちら!!手の鳴る方へ!!!」
鬼に向かって手を叩きながら大声を出す。
鬼と目が合う。巨大な瞳で見られると、少し怯んだ。
棍棒を振りかざす。あ、やばい。
ドゴォォォン!!!!
俺の目の前に、棍棒の先端があった。
「あっぶねえー。ヒィッ!」
俺は立ち上がり、全力で走る。家の中に入り、二階の窓から隣の家の屋根へ着地する。
屋根の上に立つと、鬼の横辺りに出た。鬼は振り向き振りかざす。
「うわあーー!」俺は全力でジャンプした。
屋根にしがみつきよじ登る。そして、屋根から木へと飛び移り、地面に着地する。
やばい。体力が持たない。
鬼の足元まで走る。踏み潰されそうになり、避けようとしたら転んだ。何故か鬼の背後へ転がる。そのまま距離を取るため、また走った。
ベランダのガラスを破り、家の中に侵入する。鬼は気が付いていない。一度呼吸を整える。
さっき転んだ時、不自然な避け方だった。ラッキースケベが作用しているのか?転んで避ければ、攻撃は当たらない。
「試してみるか。」
呼吸を整え終え、二階の窓から屋根の上に登った。
俺は大声で鬼に挑発した。
「お前の攻撃、全部避け切ってやる。かかって来いよ!!!!」
鬼はこちらに気がつくと、ゆっくりと歩き出した。
俺は屋根から降り、玄関から外へ出る。
鬼の足が目の前に現れた。俺はわざと転ぶ。
重心が狂い、思ってもない方向へ転がる。
ギリギリのところで、鬼の棍棒を避け切った。
行ける!これなら、避けられる!
俺は自信が湧き、アドレナリンが出る。脳が覚醒した様な錯覚に陥る。
この薬の効果は多分六時間程だ。それまでは避け続けられるはずだ。
俺は走り回りながら、何度も何度も攻撃を避け続けた。制服はとっくにボロボロだ。
俺は後ろに下がりながら、攻撃をよく見る。振りかざした瞬間に後ろに転んだ。そのまま転がり続けて、電信柱に頭をぶつけてしまう。
「イッテェェェ!!」
俺は頭を抑える。目の前で鬼が棍棒を振りかざす。これは、間に合わない。
俺は目を瞑った。棍棒が床にめり込む音が聞こえる。
「よく頑張りましたね。偉かったですよー。」
「えっ!」俺は目を開けた。
サソリさんは俺をお姫様抱っこして、屋根の上を走り続けている。
「何で居るんですか?!」
「坊ちゃんに言われたんですよー。助けてって。」
サソリさんはニコニコしながら言った。
「でも、鬼門って簡単に入れないんですよね?サソリさん、一体何者なんですか?」
「んー。それは秘密です!」
サソリさんは俺にウインクした。




