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第三十四話 ついに手に入れた、ラッキースケベ。

 夏休み明けの登校日。俺は学校に行きたく無くてグズグズしていたら、例によって母親に追い出された。

 りんのすけと一緒に、学校へ続く緩やかな登り坂を上がっていく。

「そう言えば、この前罰ゲームで使わなかった薬ってどうしたんだ?」

「ああ、アレか。まだ持っているよ。ほら。」

りんのすけは鞄から小さな薬入れを出した。

「うわ、ホントだ。他の薬の効果、聞いたんだっけ?」

「青く丸い錠剤はスケベな幸運が上がるらしい。茶色のカプセルは性転換する。」

りんのすけは、薬箱の上から指を差し説明した。

「ラッキースケベ……!」俺は目の色を変えて、青い錠剤を見る。

「何だ?飲んでみたいのか?」

りんのすけは軽蔑の目で俺を見る。

「そりゃあ、男のロマンだからな。誰だって飲みたいだろ。」

「試しても良いぞ。いつ使うかわからないしな。」そう言って、薬箱の蓋を開ける。

「おっはよーー!!!」

いきなり、俺とりんのすけの肩に腕を回してひゅうがが飛びついて来た。

その勢いで、薬が宙に舞う。

「あ!」俺は青い錠剤目掛けて飛び込んだ。

 そして飲み込む。

「よし!」俺はガッツポーズした。

 時間差で茶色のカプセルが地面に落ちた。

「おい。本当に飲んだのか?」りんのすけは動揺する。

「え?何の話してんの?」ひゅうがは首を傾げた。

「バッチリ決めてやったぜ!」

俺はドヤ顔で親指を立てた。

 その後、どこからとも無く現れた燕が、俺目掛けて飛んで来た。

 俺は避けようとしたが、蹌踉めきひゅうがに向かって転んでしまう。

「イテテテ。」

 ん?何だ、この柔らかい感触。

「つ、つかさ!」ひゅうがは困惑の声を上げる。

 俺は顔を上げると、ひゅうがのズボンをずり下ろし股間に顔を埋めていた。

「うわー!!ごめん!!」

俺は急いで立ち上がると、小石につまづいてまた転んでしまった。転ぶ直前に体を地面に向ける。

「おい。ふざけるなよ。」

りんのすけの殺気を感じた。

 転んだ表紙に、りんのすけの胸元に手が入ってしまった。どう言う事?

「すぐ抜く!ごめん!」

偶然開いていたボタンの隙間に腕が入り込んだらしい。急いで抜こうとするが、焦っているため抜けなかった。指先に小さなシコリの様なものが当たっている気がする。

「……ッ!」りんのすけの顔がみるみる赤くなる。

 りんのすけのワイシャツのボタンを一つ外して、何とか腕を抜く。

 俺はその後二人にビンタされた。両頬が痛い。

「まあ。その薬の効果が本物で、見境がないと言う事はわかったな。」

ワイシャツのボタンを閉めながら言う。

「変な薬飲んじゃ駄目だぞ!とりあえず、転ばなければ大丈夫だろ。足元には気をつけろよ。」

ひゅうがは腰に手を当てて俺を指差した。

「はい。反省してます。すみませんでした。」

俺は通学路の真ん中で、二人に土下座して謝った。

 その後、些細な段差や障害物に気を配り、何事も無く教室にたどり着く事が出来た。

 座って居れば安心だ。しかし、一時限目は始業式で体育館に移動しなければならなかった。

 移動のタイミングになり、クラスの皆んなが居なくなるのを待ってから動き出した。

 廊下の様子も伺い、人気がなくなりかけた所で、階段へ向かう。

 しかし、階段で転んでしまった。

「あれ、痛くない。」

俺は頬から伝わる体温感じ、恐る恐る顔を上げた。

 一瞬のうちにワイシャツのボタンが吹き飛び、裸体に直接抱きついている事に気が付く。

「おい……。テメェ、良い度胸してんじゃねえか。死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」

 ドスの効いた低いこの声は……。

「野崎先輩!」

 俺は急いで飛び退いた。すぐに立ち上がり、全速力で逃げ出す。

「待てゴルァ!!!!逃げられると思ってんじゃねぇぞ!!!」

「ヒィィ!!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 一階の廊下を走り、中庭を抜け、再び校舎に入る。渡り廊下から外へ飛び出すと、誰かが出しっ放しにした三脚の下を潜り、敷地内の北側に向かって逃げ続けた。

 首根っこを掴まれ、首が締まる。終わった。俺の人生これまでだ。

「……おい。何か感じないか?」

野崎先輩は、俺の首根っこを掴んだまま、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

「えっ。確かに空が赤い様な?」俺は上を見上げて言う。

「クソッ。今日は何日だ?」

先輩は俺の手を離して、ポケットに手を突っ込んだ。

「八月二十八日の月曜日です。」

俺は立ち上がり、先輩の方に向き直った。

 俺は今置かれている状況が読み込めず、恐る恐る確認する。

「何が起こってるんですか?」

「鬼門だよ。鬼門。チッ。開くタイミングがいつもより早いじゃねえかよ!クソがァァ!!」

野崎先輩はイラつきながら、近くにあったバケツを蹴り飛ばした。

「じゃあ、地獄に来ちゃったって事ですか?」

「平たく言えばそう言う事だ。絶対に生き残ってやる。死にたくなかったら着いて来い、クソガキ。」

 俺は野崎先輩に言われた通りに、大人しく後ろを歩いた。

 知らない教室に入る。紋様の描かれたカラフルな布や煌びやかな飾りが幾つかぶら下がり、水晶玉や革製の本が乱雑に置かれている。

「ここって何ですか?」

「マジ研の部室だよ。ここだけ結界張ってあるから、外と連絡取れるンだ。はあ、マジめんどくせー。」

野崎先輩は、首の後ろを掻いた。

 いつもズボンに手を入れているせいで気が付かなかったが、布製の籠手の様なものを着けている。指先は全て出ていて、手の甲から肘まで黒い布で覆われている。

「おい、ちぃ。部室来い。良いから。行きたくても行けねンだよ!……鬼門開いてた。そ。よろー。」野崎先輩は電話を終えた。

「すみません。俺のせいで大変な事に。」

深々とお辞儀をして誠意を込めて謝った。

「あぁ?良いよ。別にィ。鬼門なんて普通は入れねえから。お前ぇのせいじゃないっしょ。」

野崎先輩は怒っていなかった。

「何か手伝える事ありますか?」

「そうだなぁ。あ、ライター持って来い。」

「タバコ吸うんですか?」

「は?ちげーよ。これから必要なンだよ!いいから持って来い!」

野崎先輩は、俺を蹴り飛ばした。

 そのまま立ち上がり、歩き始める。

 ライターなんて持ってる人いるか?

 ない知恵を無理矢理絞り出す。

 あ、スガッチ先生。

 俺は思い付き、職員室まで走った。一番汚いデスクを探す。そのデスクにある鞄を漁って、見つけた。ライターだ。

 俺はライターをポケット仕舞った。






【一方その頃。山河先輩。】


 マジありえん!バカパイセンのバカっぷりには、愛想つきそう。

 とりま、部室向かうけど。アタシ偉すぎ、健気すぎ。絶対ケーキ奢らせよ。

 部室着いた。何すりゃ良いの?一回電話するか。

「おい。部室着いたけど。うん。え?そりゃ出来るけどさ。アレ超つかれンだけど?……ウッソ!つーちゃんも一緒?流石にかわいそすぎ。友達心配すんじゃん。待って、待って。一旦友達にも伝えるわ。待てっつってんだろ!捜索願い出されたらどうすんだよ!ね?そうしょ?はーい。じゃねー。」

 はあ。二人同時だったのは不幸中の幸いかもなあ。

 イケメン君探しに行くか。

 体育館来たけど、気まず。なんか皆んな静か過ぎ。

 こう言う時は、匍匐前進っしょ。カサカサ。一年の列ここか。一番後ろのやつに聞こう。

「ねえ。りんのすけって子に不幸があったから伝えたいんだけど、連絡先知らね?」

「うお!びっくりしたのだよ……。むむ。それはご愁傷様だね。連絡先を教えるから待ちたまえ。」

「ういー、さんきゅ。アレこれ、ひゅうが君のじゃね?」

「おっと、失敬。こっちだったのだよ。」

「おけー。ありがとー。」

 そ言えば、つーちゃんってひゅうが君とも仲良かった気がする。

 二人にメッセージ入れとこ。マジ研来てくれれば連絡取れるのも伝えて、おし。

 やっと部室に戻れた。アレ始める前に、つーちゃんの友達来るまで待つか。

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