第三十三話 ひゅうがのおじさんを紹介するぜ。
夏休み終了の一週間前。海外から戻って来たひゅうがを迎えに行って、そのまま一緒にご飯を食べた。
他の国の高校生たちは日本とは全然違う、と話をしていた。国によって、サッカーのスタイルが違う部分もあるらしい。
一緒にラーメンを食べながら他愛もない話をした。ひゅうがの身体は、何だかひと回り大きくなっている気がする。
「さらに筋肉が増えたんじゃ無いか?」
「えー?そうかな。自分じゃよくわかんないや。」
ひゅうがは自分の身体を捻って、見回した。
「制服入らなくなってるかも知れないぞ。」
俺は冗談混じりで言った。
「えー!それは困るなあ……。待って、結構ガチで心配になって来た。持って行ったパンツが履けなくなって、現地で新しいの買ったんだよ。」
ひゅうがは、縮こまって俯いた。
「まだ昼だし、一緒に確認しようか?ついでに宿題も写して良いぞ。」
俺はそう言って、ラーメンを啜った。
「つかさ、最高かよ!ありがとう!マジで感謝!一応、高校生代表で海外遠征行かせてもらったから、他の人よりは少しだけ宿題少ないんだ。それでも全然終わる気がしなかったから、マジ助かる!」
俺はひゅうがのために、夏休みの宿題を全て持って来ていたため、そのままひゅうがの家まで向かう事にした。
私鉄の電車に乗り、終電まで行く。バスに乗り換えて、すぐに到着した。
蔦の絡まる煉瓦造りのお洒落な一軒家だ。
「ここ、おれの叔父さんの家なんだ。実家が遠いから、高校の間だけ住まわせてもらってる!」
ひゅうがは家に入る。俺もお邪魔します、と中に入った。
「おかえりー!あ、こんにちわ。ひゅうがの叔父です。」
さらさらの長髪に、真っ白い肌。ヒョロっとした長身で、ダル着姿。顔の整い方が、少しだけひゅうがに似ていて、年齢不詳のイケメンだ。
「お邪魔します。」俺は頭を下げた。
「叔父さんは、漫画家なんだ。だから毎日家にいる。それなのに家事をやらないから、仕方なくおれがやってる。」
ひゅうがはニコニコと紹介してくれた。
「凄い!何の漫画描いてるんですか?」
俺は興味津々で聞いた。
「アハハ。ちょっと言いにくい感じのやつかな。一般受けする様なものじゃ無いよ。」
叔父さんは、愛想笑いで誤魔化した。
その後、二階にあるひゅうがの部屋に行った。かなり綺麗に片付いている。サッカー選手のポスターが壁に何枚も貼ってあった。
「ちょっと荷物片付けるから、テキトーに座って待ってて!」
そう言い残して、ひゅうがは一階へ走って行った。
トレーニングに関する本やサッカー戦術論の本が、本棚に仕舞われていた。どの本も背表紙はボロボロで、何回も読まれた事が一目で分かった。
手書きで、日付と試合に関する事が書かれたDVDも沢山並んでいる。同じ試合でもテレビ番組や配信番組毎で分けられている。
階段を駆け上がる音がする。
「ごめん!お待たせ!先に制服のサイズ確認してもいい?」
「もちろんだ。」
そう言って、ひゅうがは服を脱ぎ始めた。やっぱり、筋肉が太くなっている気がする。
ワイシャツに袖を通すと、肩の部分がパンパンになっていた。
「ちょっと力入れただけで、破れそうだな。」
「だよなー!え、どうしよう。制服ってどこまで自由なんだろ。」
「ちょっと学生手帳貸してくれ。」
俺はひゅうがから手帳を借りて、校則を確認した。
「制服の着用義務はあるが、指定ワイシャツじゃ無くても良さそうだ。その腕が入るワイシャツを買いに行くか?」
「いいのか?付き合わせてごめんな!ありがとう!あとは制服の下も確認しないと……。」
ひゅうがはワイシャツを脱ぎ、私服のズボンも脱いだ。
制服に足を通す。ジャストサイズくらいで収まっている。
「これ屈伸したら、破けないかな?」
ひゅうがはそう言って膝を曲げる。お尻に椅子の背もたれが当たりよろめいた。
「うわっ!」
「あっ!」
ひゅうがは、俺の上に倒れ込んだ。姿勢を崩し、背中が床につく。
「つかさ、ごめん。大丈夫か?」
ひゅうがはそのままの体制で顔を赤くして、俺の心配をした。
「あ、うん。大丈夫。」
俺も釣られて赤くなる。
突然部屋のドアが開いた。
「あっ。」ひゅうがの叔父さんは、俺とひゅうがを見た途端に、スマホで写真を一枚撮り、静かに消えて行った。
「アイツ!何してんだ!」
ひゅうがは、起き上がり追いかけた。ドタバタと音が鳴り、静かになった所でひゅうがは部屋に戻った。
「まあ!こんだけ走っても破れないなら大丈夫だな!」ひゅうがはニッコリと笑った。
近くの商業施設で、適当なワイシャツを何枚か買って、ひゅうがの家に戻る。
その後、部屋に置かれたローテーブルに宿題を出し、書写しを始める。
「夏休みは後一週間くらい残ってるから、宿題そのまま持ってて良いぞ。」
「ありがとー!至れり尽くせりだあ。良かったら、夕飯作るから食べて行ってくれ!」
ひゅうがは座ったまま頭を下げた。
「ひゅうがの手料理?是非食べたい!」
「つかさ程上手じゃ無いけど、そこは勘弁な!」ひゅうがは片手で拝んで誤った。
夕飯時になる。一階のリビングへ行き、ダイニングテーブルに座った。
キッチンに立つひゅうがはレアな感じがして、カウンターキッチンの向こう側からずっと見てしまう。
キャベツやもやしたっぷりの豚肉入り野菜炒めを作ってくれた。
ひゅうがは叔父さんを呼びに行き、三人で食卓を囲んだ。叔父さんは長い髪を後ろで縛っている。
「めっちゃ美味しい!」俺は優しい炒めを食べて目を輝かせる。
「ひゅうがは家事ができるし、努力家だし、とっても良い子だから、是非貰ってください。」
叔父さんが微笑みながら俺に言う。俺は頭にハテナが浮かぶ。
ひゅうがは顔を真っ赤にして、叔父さんの頬をパンチした。
「友達を困らせるな!馬鹿!」
「ちゃんと手加減してくれてるから、痛く無いんだー。」
叔父さんはニコニコしながら殴られた頬を摩る。
「叔父さんと仲良いんだね。」
「まあな。でも二人暮らしだと、つい怒っちゃう事も多いよ。」
ひゅうがは冷やかな目で叔父さんを見る。
「まあ、それは全部オレが悪いからなあ。」
叔父さんは頭を掻いて、少し左に傾いた。
「聞いてくれよ、つかさ。この前、叔父さんが珍しく洗濯機を回してくれたんだけど、洗剤入れ忘れるし、何かのメモ用紙も一緒に洗うしで、結局おれが洗い直したんだぜ?」
「忙しそうだったから手伝いたかったんだけどねえ。」
叔父さんは苦笑いをする。
「その気持ちは嬉しいけど、結果としてやる事増えたからなぁ!慣れない事はしないようにしてくれよ?」
ひゅうがは叔父さんを睨みつける。叔父さんは笑顔のまま冷や汗をかいた。
「ハハハ。うちの母親も時々洗濯失敗するからなあ。大目に見てやってくれ。」
俺はひゅうがを宥めた。
「うぅ。こんなダメな叔父さんを庇うなんて、良い子だなあ、つかさ君は。」
叔父さんは感激する。
「駄目だぞ、つかさ!コイツ、ちょっとでも優しくするとすぐ調子乗るから。」
俺の方を見ながら、親指で叔父さんを差す。
その後もしばらく談笑して、そろそろ帰る時間になった。
「ひゅうがはこれからトレーニングするのか?」バス停まで一緒に歩きながら聞いた。
「一応やるつもり。でも時差ボケがあるから、軽く済ませるけどねー。」
「そうか、無理すんなよ。」
「うん!ありがとう!」
ひゅうがは、見えない尻尾を振りながら嬉しそうな顔をした。
残りの夏休みは、ダラダラと過ごしてしまった。
楽しい夏休みを過ごした分、学校へ行く憂鬱感が増した気がする。




