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メノアの旋律


「到着! ラブサウス地域!」

「何だか故郷を思い出すね、ライト」


「そうだな。自然が豊かだし。故郷で魔物をあまり見なかったのも、冒険者が駆除してくれてたのかも」

「それなら、今度は私たちが守ってあげる側にならないとね」


 ラブサウス地域に足を踏み入れた四人。

 初めて来るはずの場所なのだが、不思議と来たことがあるような感覚になる。

 それも、自分たちが生まれ育った場所と似ているからだろう。


 もしかしたら、この地域に住む人たちの中にも将来冒険者を志している子どもがいるかもしれない。

 そんな子どもたちの役に立つならと、俄然この依頼に対してのモチベーションが上がった。


「それで、魔物の巣はどこにあるのかな?」

「地図によるとこっちだね~。私の記憶が正しければ、結構近いはずだよ」

「どんな魔物がいるんでしたっけ? ゴブリン? オーク?」

「んっとね~……ゴブリンだね」


 ここから少し歩いたところに魔物の巣があるとのこと。

 完璧に地図を把握しているメノアを信じて、三人はその後ろを付いて行く。

 ゴブリンは巣を作る場所にこだわりを持たない。


 森の中、洞窟の中、廃墟の中。

 場所が分かっていなければ探すことにすら一苦労だが……今回はメノアがいる。


「というか、レーナは地図持ってきてるでしょ?」

「――あ、そうでした。この印が付いているところが巣の場所ですかね?」

「そうそう。位置的には森の中だね。視界が悪いかもしれないから気を付けないと」


 メノアの言う通り進むと森が見えてくる。

 割と木の数が多く、しかも一本一本が大きく太い。

 ちゃんと考えて戦わないと木々にぶつかりそうだ。


「ここからはゴブリンたちのテリトリーだから油断しないでね。知能もあるから、トラップとか仕掛けていてもおかしくないよ」

「はい。アイラちゃん、私の近くにいてね」

「分かりました……!」


 メノアは周囲を警戒する。

 いくら自分たちの実力があるとはいえ、地の利は間違いなくゴブリンたちにある。

 地の利は戦闘においてとても重要な要素だ。

 急に木の上から飛び降りてくるかもしれないし、実は今も弓などで狙われているかもしれない。


「あ、レーナさん! この足跡、ゴブリンのものです! つい最近ここを通ってます!」

「そ、そんなことまで分かるの?」

「はい。足跡が向かってるのは……この先の洞窟みたいですね」


 アイラに言われて初めて気付いたが、地面にはゴブリンのものと思われる足跡がいくつかある。

 さらに、この足跡は少し進んで洞窟にへと向かっていた。

 この洞窟がゴブリンの巣と考えて問題なさそうだ。


 以前のアイラなら、足跡を見ただけでも誰のものかまでは特定できなかったような気がするが……これも進化したことによる恩恵だろうか。

 やはりアイラのスキルは唯一無二と言っても過言ではない。


「お、入り口には松明があるね。巣はここで確定かな」

「メノアさん、どうしますか?」

「まずは態勢を整えるよ。《旋律》をよく聞いててね~」


 メノアはそう言うと、首にかけられていた小さなオカリナをくわえる。

 そして、耳に浸透していくような、透き通ったメロディーを奏でた。


 これがメノアのスキル《旋律》。

 ライトたちの体には、目に見えるほどの変化があった。


「す、すごい……力が湧き上がってくるみたいだ」

「私も……こんなの初めてだよ」

「はっはー。これは攻撃力上昇の《旋律》だよ~。次はスピードアップの《旋律》!」


 続けてメノアはオカリナを奏でる。

 数秒前に比べて足が軽い。このままジャンプしたら、どこまででも飛んでいきそうだ。

 しかも、この効果を付与されているのはライトだけではない。


 レーナも、アイラも、張本人であるメノアも。

 何人にまで効果を付与できるのか分からないが、サポート系の冒険者の中では圧倒的な仕事量と言える。

 メノアを欲しがるパーティーが多いのも納得だ。


「さて、ライト君。準備はいい?」

「は、はい!」

「ゴブリンがそろそろ出てくるよ!」


 ライトは新しい剣を強く握る。

 メノアのオカリナを聞いて、巣の中にいたゴブリンたちがワラワラと出てきた。

 今のところ確認できるのは十数匹ほど。


 しかし、巣の中にはまだまだゴブリンが大量に残っているだろう。

 まずライトは、なまくらの武器を掲げて飛びかかってきたゴブリンを冷静に対処する。


「――はぁ!」

「――ガガッ!? ギギッ!?」


「おぉ、凄い威力……これが噂の《剣神》か」


 ライトの一振りを見て、メノアは感心するように頷いた。

 《剣神》の噂は常々伺っていたが、実際に見てみるとやはり凄まじい。

 まだまだ粗いところは目立つものの、間違いなくトップレベルの冒険者に並ぶ。

 ただ、ライトの立ち回りに僅かな違和感を覚えた。


「レーナ。ライト君が戦う時っていつもこんな感じ?」

「はい……そうですけど、どうかしましたか?」


「何だか、常に迷ってる気がする。それに《剣神》の熟練度もあまり上がってないみたい」

「あ……もしかして」


 メノアの疑問に、アイラは心当たりがあるような返事をする。


「ライトさんがたくさんスキルを持っていることが原因なのかもしれません……」

「たくさんスキルを持ってる? どういうこと? スキルは一人一個じゃなかったっけ?」


「えっと、ライトさんはスキルの実の毒を無効化することができて……なのでスキルの実もたくさん食べられて……えっとえっと」

「なるほど。にわかには信じられないけど、言おうとしていることは分かったよ。レーナ、このことは本当なんだよね?」

「間違いないです」


 そう――とメノアは頷いた。

 想像を超えるライトの能力には驚いたが、これならライトの立ち回りも腑に落ちる。

 Sランク冒険者界隈で一部話題に上がっていた《木の実マスター》はこのことなのだろう。


 アイラの言い方だと、ライトは既に多数のスキルを獲得しているはず。

 スキルを多く持っていることのデメリット――それにメノアは気付いた。


「よし、私も加勢してくるよ。試し切りもしたいし」

「分かりました。頑張ってください!」

「任せなさい!」


 メノアは《旋律》が付与された状態で剣を取り出す。

 表情は至って真剣そのもの。

 いつもは明るくおちゃらけた雰囲気だが、戦いの中になるとまるで別人のように表情が変わった。


 相対するものが人間から魔物に変わるだけで、ここまで雰囲気が変わる冒険者も珍しい。

 今のメノアからは、普段から想像できないくらいの迫力が伝わってくる。


「ライト君、カバーするよ!」

「――っ、はい!」


 後方から飛び込んでくるメノアに、ライトが合わせる動きをする。

 ライトに引き付けられているゴブリンをメノアが穿ち、そしてメノアに注意を向けたゴブリンをライトが斬る。

 即席とは思えないようなコンビネーションだ。


 普通はもっと声を掛け合ったり練習をしたりしないといけないのだが……ぶっつけ本番でもかなり高いクオリティを出せている。


(そうか、メノアさんは常に俺の位置を確認してる……ペースも全部俺を中心にしてくれてるのか)


 ゴブリンを数匹倒したところで、ライトはようやく気付いた。

 自分がメノアに合わせる動きをしているつもりだったが、現実はその真逆。

 メノアがライトに合わせて動いているのだ。


 よく見てみれば、メノアの立ち位置は常にライトと数歩の距離。

 どんな想定外の攻撃をゴブリンがしても、お互いにお互いを守れる位置関係である。


 常にこの距離を保つならライトの位置を把握し続けることが必要だが、メノアは多数のゴブリンに囲まれながらそれを行っていた。

 恐るべき空間把握能力と集中力だ。


「――せあっ!」

「――よっと」

「――ググッ!? ゲゲッ!?」


 着実に一匹ずつ倒していく二人。

 あっという間にゴブリンは残り五匹まで減った。

 メノア自身、サポートに特化している冒険者であるが単体でも十分に強い。


 少なくとも、攻撃特化のBランク冒険者程度では敵わないレベルだ。

 メノアが追加で二匹、ライトも追加で二匹。

 残りはたった一匹のゴブリンになる。


「レーナ! ラストお願いしていい?」

「は、はい! ――はあぁっ!」


 メノアは最後の一匹であることを確認すると、後ろでアイラを守っていたレーナの名を呼ぶ。

 いつでも戦闘に加われるように準備していたレーナは、《旋律》で付与されたスピードを披露しながら剣を振るった。


 最後は、ゴブリンに断末魔さえ言わせないほどの一瞬で終わることになる。

 並の冒険者であれば、場合によっては数時間ジリ貧で戦い続けることもありえるこの依頼。


 メノア、ライト、レーナの手にかかれば数分で終わった。


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