↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/99

馬車の中で


「レーナァァァアアー! ごめええええぇぇーん!」


「こんなこともあろうかと、馬車の予約は昨日の時点で取っておきました」

「おおっ!? ちょっと複雑だけどありがとう!」


 昨日と同じように寝ぐせを残したまま集合するメノア。

 遅刻の時間さえ縮まっているものの、お出迎えを達成することはできなかった。


 しかし、レーナはこんな時のことを見越して対策を講じている。

 一番の問題であった馬車も、先に予約をしておいたため乗れなくなるということはない。

 他の冒険者には申し訳ないが、Sランク冒険者の特権と言うやつだ。



「いやー、レーナは優秀だねぇ……ぜぇ……きっと冒険者以外の道でも成功してたよ……うぷ」

「無理に喋らなくていいですから、ちゃんと息を整えてください」


 メノアは隣にあった街灯にもたれかかり、大きく深呼吸をする。

 Sランク冒険者としてはあまりにも乏しい体力だ。

 アイラも「大丈夫ですか……?」と心配して彼女を見つめていた。


「……ふぅ。よし復活! 依頼を受けに行こ!」

「一応先に依頼の確認しておきましたけど、今日は色んなものがありますよ」

「お、当たりの日だね。ライト君はどんなのがいい?」

「お、俺ですか?」


 ギルドの依頼が貼られている壁の前に移動する三人。

 丁寧に並べられたそれらを眺めていると、急にライトの意見を求められる。

 メノアはあまり一人で物事を決めるタイプではなく、みんなで話し合って決めたいタイプ。


 自分のパーティーでもリーダーを務めているが、独裁とは真逆の方針を掲げていた。

 これもお喋りな性格が発展した彼女なりのリーダーシップだ。


「えっと、この前は単体の魔物討伐だったから、複数の魔物討伐も経験してみたいです」

「なるほど! 素晴らしい向上心だよ! 良いと思う!」


「ライト、この魔物の巣の駆除なんてどう? 数も多いと思うから、メノアさんの試し切りにもピッタリじゃないかな?」

「へぇー、そんな依頼もあるんだ。ララノア国だとあんまり見ない依頼だし面白そう!」


 メノアの肯定的な返事。

 意見は全く衝突することなく、数分もしないうちに決まってしまった。


「アイラちゃんもこれで大丈夫?」

「わ、私はライトさんとレーナさんに付いて行きます……!」


 アイラは彼女なりに力強い返事をした。

 同じ冒険者と言っても、幼くサポートのみに特化したアイラ。

 自分でも役割はしっかりと理解しているため、ライトとレーナが向かうのならどこへでも向かう。

 二人が決めたのであれば、返事は考えるまでもなくイエスだ。


「じゃあ決まり! 全員剣の錆びにしちゃうよー!」



 そんな明るい表情で言うセリフではないが、とにかく受注する依頼は決定した。

 メノアはベリッと依頼の書かれた紙を剥がすと、受付へとバタバタ持って行く。

 その手際はレーナと比べても遜色ないほど。


 やはりSランク冒険者にもなると、こういった行為は清廉されていくものなのだろうか。

 あっという間に三人の元に戻ってくる。


「場所は南方のラブサウス地域だって!」

「馬車は五号車を使えます。こっちです」

「了解! レッツゴー!」


 初めて向かう地域に期待を抱きながら、四人は馬車に乗り込んだ。

 それに加えて、ライトは今回共闘するメノアにも注目している。


 どんな戦い方をして、どんなスキルの使い方をするのか。

 そして、今の自分の実力でどこまで付いて行けるのか。


「メノアさん。もし俺の戦い方で悪いところが見つかったら、遠慮なく言ってください。こんな機会滅多にないので」

「アドバイスってこと? 私なんかでいいの?」


「もちろんです。俺はまだスキルを最大まで活かせてない気がして……」

「なるほどね……うん、任せて! 厳しくいくよ!」


 メノアは力こぶを作って先生モードに入る。

 厳しいメノアというのはあまり想像できないが、ライトとしてはちゃんとハッキリ言ってくれる方がありがたい。


 以前アイラにアドバイスを貰おうとしたことがあるものの、《鑑定》はスキルの能力が分かるだけで効果的な使い方が分かるわけではなかった。

 レーナも感覚で《剣聖》を使いこなしているため、言語化して教えるのを苦手としている。


 当然ライト本人も《剣神》のことを全部理解できていない。

 第三者であり、実力者であるメノアなら何か新しいことを教えてくれるかも。

 新しい武器の試し切りもそうだが、ライト的にはこっちの方がメインの目標だったりした。


「メノアさんって弟子とか取ったりするんですか?」

「えっとね、過去に一人だけいたかな。多分今はAランク冒険者だったはず」

「へぇー、意外です」


「レーナー? それってどういう意味―?」

「いえいえ! メノアさんは優しいから師匠としてのイメージがなかったので」

「うーん……実は他の人からもよく言われるんだよね」


 メノアに師匠としての覇気がないこと――それは、やはりレーナ以外の人間も感じていることらしい。実際本人もそのことで悩んでいるようだ。


「でも、雰囲気よりも実力の方が何倍も大事ですから……! それに、私は優しいメノアさんの方が好きですよ」

「そう言ってくれるとありがたいよ。……あ、でも、ライト君には厳しくいくからね!」

「は、はい。お願いします」

「うんうん……お、見て! 良い景色!」


 ビシッと指をさされて、ライトは少し緊張した様子を見せる。

 できるだけいつも通りのパフォーマンスを出せたらいいが……。

 馬車に揺られる数時間で肩の力を抜けるようにしなければ。


 なんて。

 弛緩とは真逆の心境にいるライトを察したのか、メノアは外の景色を一緒に見るように誘う。

 ライトの隣で、顔を並べて。かなり距離が近い。


「わ、私も景色見る!」

「そ、それなら私も……!」


 そんなことをしていると、その様子を見ていたレーナとアイラが二人の間に割り込んでくる。

 ただでさえ二人でも狭いスペースなのに、四人ともなるとかなりキツイ。

 ライトが元々二人のいた席に移ろうとしたら……レーナにグイっと引っ張られて阻止された。


 もしかして、この二人も緊張気味の自分を気にしてくれているのだろうか。

 それなら彼女たちの配慮を無駄にできない。

 少々息苦しさも感じるが我慢。


 結局、ライトたちはこの状態のまま目的地に到着することになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。