31.これぞチート?
「ず、ずるいわよ、そんなの」
そんなに無詠唱が衝撃的だったのか。アンリはちょっと涙目だ。
「アンリ様、まだ我々に出来ないとは限りません」
「そ、そうよね。あたしにも出来る可能性はあるのよね」
セーナの言葉にアンリは気を取り直した様子。
その後、これまで俺がやってきたことを説明したのだが、結局俺以外誰も出来なかった。
あまり意識をしていなかったのだが、そもそも魔法陣を脳内で描く以前に、俺のやり方だと順を追ってプロセスを生成する能力が必要なのだ。そしてそれは、鑑定の魔道具で固有能力と分類されているものらしい。
「……やっぱり、ずるい」
アンリは床に手をついて項垂れた。
「ふっ。それを我々はチートと呼ぶ」
何故かレイルが偉そうに胸を張っている。
レイルが使うスキル習得補助呪文では、固有能力に分類されるスキルには効果が無いらしい。
俺も試しにレイルの呪文を唱えてみたのだが、何も発動しなかった。ただ、レイルの能力は他人にも効果を付与可能らしく、俺たちにも恩恵が得られるみたいだ。
ただ、個人がどれだけのスキルを保有出来るか、プロセス実行領域の様に容量があるらしい。
なので、取得するスキルは厳選した方がいいとレイルに忠告された。一応、肉体の成長によりスキルの容量も増えるらしいのだが、効果的な方法が判らないためあまり当てにも出来ない様だ。
「アフロスは近接戦闘の訓練もしているみたいだから、身体能力を強化するスキルがあった方がいいよね。それとも、既に習得してたりする?」
「いや。俺は逆に、身体能力を落とす《負荷》を掛けているよ」
「……えっ?」
俺の返事に何故かセーナが反応した。
何を驚いているのだろうと見やると、
「いえ、鍛錬ではしっかり成長されていたと思ったもので。どれくらい落としているのですか?」
「今は《負荷》レベル二、十%くらいかな」
「そんなに……」
そこまで驚くようなことだろうか?
そもそも、現時点で俺とセーナの運動能力には雲泥の差があるのだ。その俺が九割の能力しか使っていなかったとしても誤差でしかないと思うのだが。
セーナも黙ってしまったので、話題を替えよう。
「そう言えば。レイルは認識したスキルを呪文として詠唱出来るんだったよね?」
レイルの説明を聞いて、気になったところを質問した。
「ええ。ただ、スキル獲得補助の対象として指定するためだけの詠唱だけどね。普通の呪文として扱っても、何も効果は発揮しないわ」
「試しに、身体強化スキルを詠唱してくれないか」
レイルは頷くと、呪文を唱えた。
「今のは、運動能力強化のスキル。レベルは呪文に含まれないから、上級者のスキルを参考にしても特に意味は無いわね」
「なるほど」
レイルの捕捉に頷く。
「ちなみに、運動能力強化レベル一だとどれくらいの効果なんだい?」
「だいたい、二割増しくらいかな」
「結構増えるんだな」
言いながら、気になったことを試してみる。
無詠唱の際に脳内で描く魔法陣を、今見せて貰った魔法陣にして起動したのだ。もちろん、対象は自分だ。
力が漲ってきた……気がする。
試しに垂直飛びをしてみた。
「おっ、体が軽いな」
僅かにではあったが、普段よりも高くジャンプ出来ていた。
「……今、何やったの?」
「無詠唱で使う呪文の指定に、運動能力強化の魔法陣を入れてみたんだが、成功したらしい」
「そんな……多様なスキルを習得もせずに自由に再現出来るなんて……」
アンリが更に落ち込んでいた。
「さすがアフロス。これぞチートだわ」
レイルにも呆れられた。
「出来るのはレベル一だけだろうし、効果時間や魔力の消費もどれくらいか判らないんだけどな」




