30.チート説明
「夜も遅くなったので、古文書の話は明日にしよう」
そう告げて、俺はベッドに潜り込んだ。……未だにややよじ登る形なので恰好は付かないが。
五歳児の体にはもう十分に遅い時間で、体の方はすっかりおねむ待ちなのだ。
九歳のレイルでもまだ夜更かしに強い体ではないだろうが、それでも俺よりはマシなのか、ベッドに寝転がって、俺が渡した紙束に集中していた。
翌朝。
目が覚めたとき、いつにない重しと感触と匂いを感じた。
横を見ると、案の定、レイルが俺の布団に潜り込んで、抱き付いて寝ていた。
「……そんなお約束は要らない」
遠慮なく、デコピンを喰らわせた。
「はぅあ」
レイルが仰け反る。どうやら寝たふりか。
「も~、そこは寝ているお姉ちゃんに悪戯するシーンでしょ」
「誰がお姉ちゃんだ」
もそもそと起き上がり、着替える。
レイルは既にケリーから借りた寝間着(女物!)から着替えていた。
「んで、どうだった?」
どうせ最後まで備忘録を読んでいるだろうと、感想を聞いてみる。
「それなんだけど……これって、アンリちゃんたちには秘密にしてたんでしょ。これからどうするの?」
逆に問われる。
あまり大事にしたくなかった……いや、自覚はしていないが、独り占めしたかったという思いもあったのかもしれない。だが、レイルが現れたことで、先のことを考えなければいけなくなったのだ。
独り占めしている状態だったなら、俺のさじ加減でどうにでもできた。だが、俺以外にも同類が現れたのだ。レイルの家の古文書がどういう内容かは判らないが、レイルを見た限り、おそらくチートを補助できるであろうことが書いてあると予想出来る。そして他にも同類がいないとも限らない。
簡単に世に広めていい内容ではなさそうだが、俺一人で判断しない方がいいだろうとも思う。
「この際だ。あの二人も巻き込んでしまおう」
「やっぱりチーレム……」
レイルが何か言いかけたので、デコピンを喰らわせておいた。
レイルを連れてアンリの部屋へ行くと、アルシャークが待っていた。
「その子がレイルちゃんかい」
どうやら、アンリから事情を聴いているらしい。
「うちとしては、フィリアード家に難癖付けられたくはないので、うちの客分としては扱えないけど。アフロス君の家の食客としてなら、うちが世話をするのも吝かではないよ」
気軽に、そう言ってくれた。ただ、ちょっと顔が引きつっているところを見るに、レイルの父親はあまり相手にしたくなさそうだ。
「ありがとうございます、アルシャーク様。……いつも父がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ははっ、君が気にすることは無いさ。ここにいる間は、アフロス君同様、うちの教育係の元で勉強や鍛錬をしてくれて構わないから、好きに過ごすといいよ」
古文書については説明していないのだろう。それについては触れなかった。
アルシャークが退室した後。
俺は思い切って、古文書について説明することにした。と言っても、実際に説明したのはレイルだったが。
レイルは、大地の備忘録と、レイルの家にあった古文書について、能力向上に関する内容を掻い摘んで説明し始めた。
《加護》などの、スキルとは違う、肉体に宿る効果のこと。
その宿る効果を、任意に追加したり、その容量や効果を高める方法があること。
魔法陣を脳内で描くという手法があること。それを使えば詠唱が不要になること。
スキルの獲得を補助する呪文があること。これはレイルの家の古文書に書かれていたらしい。
ただし、それらを可能にするためにはいくつかの資質やスキルが必要であり、万人に出来る訳ではなさそうであること。
それらのことを説明して。
俺が試しに明かりの魔法を無詠唱で実行して見せると、アンリとセーナは絶句していた。




