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六畳一間とアイテムボックス  作者: ネフェル


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第7話:邂逅

「えっと……、お姉ちゃんも一緒にご飯食べる?」


「あっ、いやえっと……」


 再び大きな音が響いた。


 そこは遠慮せずに食っておけと抗議するかのように、テレサのお腹から何度も音が鳴っていた。


「……ごめんね。ちょっとだけ分けてもらえると嬉しい……」


 少女が美味しそうに頬張って食べていた食事を恵んでもらうのは心苦しいが、今はこの子を頼るほかない。




 洞穴へと近付いたテレサは改めて周囲を観察する。


 木々に阻まれた岩肌を目にした時は森の最奥にそびえるあの巨大な岩山かとも思ったが、どうもそうではないようだ。


 周囲を見た限りどこまでも岩壁が続いているというわけでもなく、恐らくは一軒家ほどの大きさの岩山が地面から突き出ているだけのようだ。


 入り口近くに設けられた焚き火の前には少女が使っている変わった椅子とは別に、ちょうど腰を降ろすのに良さそうな一抱えほどの大きさの石が置かれていた。


 お邪魔しますとテレサが石に腰掛けると、少女は食べかけの食事を椅子に乗せるやててっと洞穴の奥へと駆けていく。


 少女が向かった先には橙色の何かが焚き火の炎でほのかに照らされていた。


「あれってテントかな……?」


 テレサが空腹で鈍った頭でぽつりと呟く。


 あんな派手な色合いのものは初めて目にしたが、どことなくその形はテレサのよく知るテントと似通っている。


 洞穴の中を見回せばテントの他にもヘンテコなもので溢れており、一見しただけでは用途不明のものから実用的なものまで多種多様な道具が揃っていた。





 そしてやはり橙色の何かはテントであったようで、少女は何故かわざわざ靴を脱いでから入り口の布をめくって中へと入り、ピシャッと閉めるとテントの中がパッと明るくなった。


 どういうわけかその光源は宙に吊るされていて、炎のように揺らめきもしない。


 少女が中で何やらゴソゴソしているのはシルエットから察せられるが、どうもテントの内側に四角い何かが沢山貼り付けられているようで、映し出される影の形から少女が中で何をしているかまでは分からない。


 少しして少女が再び顔を出すと、その手には大皿料理(オードブル)を両手で抱えており、うんしょうんしょとこちらへ運んできてくれた。


 その大皿がそばにあった盆代わりの大きな平石の上へごとりと置かれる。


 黒い大皿にはガラスのように透明な蓋が被せられており、その蓋の上には銀(ステンレス)のフォークと絞った手ぬぐいが乗せられていた。





「はい」


「あ、ありがとう」


 少女が手ぬぐいを手渡してくれる。


 これで手を拭けということだろう。


 手ぬぐいは温かい湯に浸けてから絞ってくれたようで、手の中が温かくて心地よかった。


 ついでに顔と首も拭いてさっぱりすると、少女がフォークをこちらへ手渡し、膝の上にそっと大皿が乗せられた。


 料理が冷めていないことが皿の温かさで伝わってくる。


 そして少女の手により、先ほどから釘付けになっていた大皿の蓋が開けられた……。




 ふわっと食欲を刺激する香りが湯気と共に立ち昇る。


 口の中で久しく唾液が湧くのを感じ、綺麗に盛り付けられた数々の未知の料理を前に、胃袋が早く喰らえと急かしてきた。


 少女はこちらの反応も待たずにまたててっとテントへ駆けていき、ガサガサ音のする奇妙な白い袋(レジ袋)を手に提げて戻ってくるや、袋の中身を石の盆の上にいくつも並べていた。


「おいしいよ……?」


 テレサがまだ料理に手を付けようとしない様子を見て、少女が心配そうに声をかけた。


「あっ、うん。い、いただきます……」


 初めて手にした銀食器を震わせながら、テレサが大きな茶色の塊にフォークを突き立てかぶりつく。




 ――鳥肉だ。めちゃくちゃ美味しい……。



 テレサが口にしたのは若鶏の唐揚げであった。


 それもよく知る塩味以外に高価な香辛料の風味までもが感じられ、それは彼女がこれまで口にしてきたどの肉料理よりも美味かった。


 嬉しさと安堵のあまり、テレサの頬に涙が伝う。


「おいしい?」


 口いっぱいに頬張るテレサに、少女がそっと手ぬぐいを差し出しながら声をかける。


 テレサは顔を隠して嗚咽を漏らしながら何度も首肯していた。


 その様子に少女は口元をほころばせると席へと戻り、おじさんの手料理(惣菜弁当)が褒められたことを嬉しく思いながら静かに食事を再開した――






 * * *






「何から何までありがとう。遅くなっちゃったけど自己紹介させてね?私の名前はテレサ。街で兵士をしているの」


 食事を終えたあと、二人はそのまま焚き火の前でくつろぎながら挨拶を交わす流れとなった。




 恐ろしいことにテレサはあのオードブルを全てペロリと全て平らげている。


 彼女よりも先に弁当を食べ終えた少女は、もしかするとあれじゃ足りないかもと再び追加の料理を取りに行ったりもしていたのだ。


 テントに入るやアイテムボックスから取り出したのは、パンの絵が貼られた収納ケース。


 中には井手がこれまで買い集めてきた様々な種類の菓子パンや惣菜パンといった半額シール付きの戦利品がこれでもかと詰め込まれているのだ。


 少女はそこからパンをいくつか取り出すと、その他にも乾パンの入った大きな缶詰をいくつも取り出し、先にテレサの前に用意していたミネラルウォーターのボトルと一緒に並べておいた。


 そして食事に夢中だったテレサの前で、缶の開け方やペットボトルの蓋の開け締めについて懇切丁寧に説明していたのだ。


 まるでこれも付けるからそれ食ったらとっとと帰(け)えれとでも言わんばかりに――




「お嬢ちゃんのお陰で命拾いしたわ。本当にありがとう……。ところで、お嬢ちゃんのお名前を教えてもらってもいい?」


「ネフェル……」


「そう、ネフェルちゃんって言うの。可愛い名前ね」


 ネフェルと名乗った少女は嬉しいのか、少し俯いてモジモジしていた。


 テレサはその様子を微笑ましく思いながら自身の体をゴソゴソとまさぐり「あれ……?もしかしてお財布落とした……?」と呟きつつ何やら細長い小瓶のようなものを懐から取り出した。


 もし地球人がその小瓶を目にすれば、誰もがそれを試験管だと答えたであろう。


 コルクで封のされたガラス瓶は華美な装飾など一切施されておらず、透き通るような透明感も相まって、まるで規格化された工業製品のような精巧な造りをしている。


 加えてこの世界の文明レベルから明らかにかけ離れたその小瓶の中には、赤より深い深紅の液体が満たされていた。




 テレサは少女の前にしゃがむと、その小瓶を掲げて見せた。


「ネフェルちゃん。これは見たことある?」


 問われた少女はふるふると首を横に振る。


「これはね?ポーションって言って、怪我を治すお薬なの。見てて」


 テレサはそう言うとコルクの栓を抜き、遭難中に枝葉でできた手の甲のひっかき傷に小瓶の中身を一滴垂らした。


 すると手の甲が優しい緑の光に包まれ、傷はたちまち癒えてしまった。


「すごい……」


 ネフェルが不思議そうに手の甲を触って確認するが、傷は綺麗さっぱり消えてなくなっている。




 テレサが使ったこの薬は中級ポーションと呼ばれるもので、彼女の失くした財布の中身の何倍もの値で取引される代物だ。


 中級ポーションには傷を治す以外に毒を治す効果もある。


 魔物から受けた傷が原因で、毒が回って命を落とした者の話はこの世界では珍しくない。


 このポーションは親元を離れて兵士になる道を選んだ娘の身を案じ、テレサの母が祖父の代から受け継いでいたものを娘への選別として渡したとても大切なものなのだ。


 なお余談ではあるが、山菜や毒キノコや腐った食べ物による中毒症状もまとめてドカ食いしたあとで気絶する前にこれを摂取していればぶっちゃけどうとでもなったのだが、そこは彼女の可憐な容姿に免じて目をつむろう――




「ネフェルちゃん。命を救ってもらったお礼に、このポーションを受け取って欲しいの。良かったら貰ってくれるかな?」


 そう言ってテレサはポーションを差し出すが、ネフェルは首を横に振った。


「困ってる人を助けるのは当たり前のことなの」


 少女の志しはとても立派なものだ。


 だがテレサとしては命を救ってもらっておいて礼のひとつも返さないわけにはいかない。


 善行は報われるべきものなのだ。




「そっか。ネフェルちゃんはとっても偉いんだね。ならこう考えるのはどうかな?このお薬はネフェルちゃんが自分のために使うんじゃなくて、誰か困ってる人を見つけた時に、その人のために使ってあげるの。そうすればその人も助かって、きっといっぱい感謝してもらえるわよ?」


 それを聞いてネフェルが思い浮かべたのは、いつも助けてくれる名前も分からない変なおじさんの顔だった。


 ここでこうして何不自由なく暮らせているのはおじさんのお陰だ。


 そのお礼にとお花や山菜を届けているが、助けてもらってばかりなのでいつかちゃんとお礼をしたいと少女は思っていた。


「……貰ってもいいの?」


「もちろん!大事に使ってね!」


 ネフェルはお礼を言ってポーションを受け取ると、身に付けていた肩掛け鞄の中へと大切にしまった。


 ちゃんと受け取ってもらえたようでテレサもホッとした様子だ。




 そうして一段落ついたところで、テレサはネフェルに気になっていたことをいくつか質問することにし、しゃがんだ姿勢で少女と目線を合わせながら彼女は言葉を切り出した。


「ねぇネフェルちゃん。もし知ってたら教えてお姉さんに教えて欲しいんだけど、この森から外へ出る道って分かるかな?」


 するとネフェルは鞄の中をゴソゴソ漁り、何やら黒っぽい奇妙な筒を取り出した。


 以前に井手が何個か送ったコンパス付きのLEDランタンである。


「これを使えばお外に出られるよ。お姉ちゃんに貸してあげる」


 道を聞こうと思ったらヘンテコな道具を渡され、受け取ったテレサは困惑した。


「えっと、これは何に使うものなの?」


 ネフェルがランタンをもう一度手に取ると、上部のコンパスが蓋のようにパカっと取り外された。


 コンパスを指し示しながらネフェルは使い方を説明する。


「この中に変な針が入ってるでしょ?この針ね、赤いほうがずっとおんなじほうを向いてるの。だから森から出る時は針のこっちのほうに向かって歩けば村があるよ。ナイフとかお鍋とか鉄が近くにあると、針がそっちを向いちゃうから気を付けてね。」


 ハイと手渡されたコンパスの向きをぐるぐる回して確認したが、なるほど確かに中の針は常に同じ方向を指していた。


 しかしこのような道具の話をテレサはこれまで耳にしたことがない。




「あとね、ここを引っ張ると明かりが点くの。」


「まぶしっ!」


 筒がカシャッと伸びるとペカーッと光った。


 その光は炎を使う見知ったランタンとは比較にならないほどにまばゆい。


「ずっと点けてるとそのうち元気がなくなって暗くなってくるけど、その時はここをこうやってから、こうやってしばらく回すとまた元気になるよ」


 展開したハンドルを少女が楽しそうにギュンギュン回すと、確かにランタンは光の強さを更に増した。


 実演が終わりはいっとランタンを手渡される。


 テレサも今すぐギュンギュンしたい衝動に駆られたが、それは一旦後回しだ。


「……ありがとう。でもお姉さんがこれを借りちゃったら、今度はネフェルちゃんが困るでしょう?」


「ほ、他にも何個か拾ったから大丈夫……」


「……」


 バツが悪そうに顔を背けながらネフェルはそう答えた。


 少女に聞きたいことはことは山ほどあったが、テレサにとってそっちはどうでもいい。


 最後にこれだけは聞いておかねばならなかった。




「教えてくれてありがとう。じゃあ最後にもうひとつだけ。もしかしてネフェルちゃんはここに一人で住んでるの?」


 これまでの明るい表情とは一変して、少女の顔に暗い影が差した。


「お姉さんね?ここへ来る途中で麓にある村を通ったの。もしかしてネフェルちゃんはその村に住んでて、今はここで一人で暮らしてるんじゃないかな?」


 洞穴の中には木とも鉄とも違う素材でできた奇妙な形の物干し台のようなものが据え置かれているが、そこに干されている衣服は子供用の小さな服しか見当たらない。


 問われたネフェルは何も答えずうつむいたままだ。




 その反応でテレサは大体の事情を察した。


 麓の村の出身かどうかは定かではないが、この子は恐らくその魔力のない体質故に、元いた村を離れるはめになったのであろう。


 ならば自分が保護するまでだ。


 命を救われた恩は必ず返さねばならない。





「決めました。ネフェルちゃんは今日からお姉さんが保護します」


「ほご……?」


 知らない言葉にこてんと首を傾げる少女の隙を突くように、テレサはガシッとネフェルの体を掴むと小脇に抱えてしまった。


「いや!降ろして!」


 当然ネフェルはジタバタ暴れて抵抗するが、やはり鍛えられた兵士なだけあってそんなものではビクともしない。


「子供が一人でこんなところに引きこもってちゃダメよ。街でお姉さんと一緒に暮らしましょ」


「私ここがいいの!」


「ダーメ!このまま一人で森に住むなんて危ないわ」


 たとえ自活できていようが、こんな幼い少女を置いて帰れるわけがない。


 これまではたまたま魔物に襲われなかったのかもしれないが、危険なのはなにも魔物だけではないのだ。


 もしここに迷い込んだのが悪漢であったなら、この子が悲惨な末路を辿るのは目に見えている。


 民を守る警備隊の端くれとして、そのようなことを見過ごすわけにはいかなかった。




 テレサは背嚢の中にネフェルが用意してくれたパンや缶詰やミネラルウォーターのボトルをレジ袋ごと詰め込みながら、未だ抵抗する気概を見せる少女に声をかける。


「荷物はあとで取りに来るから心配しなくて大丈夫よ。えっと、確か針のこっち側に進めばいいのよね?よし!そうと決まればこんな辛気臭い森さっさと出て行きましょ!安心してネフェルちゃん。街に着いたらお姉さんが美味しいお菓子を買ってあげる」


 お菓子と聞いたからか、それきり少女はスンと大人しくなった。




 ――フッ。所詮はお子様。チョロいわね。


 少女から借り受けたこの不思議なランタンに加え、水も食糧もある。


 美味しい食事を沢山食べたお陰で魔力も急速に回復している。


 そうとあらば、こんな森から脱出するのは容易いことだ。






 * * *






 洞穴を後にしたテレサは、少女を小脇に抱えた人攫いスタイルで鼻歌交じりに霧の中をずんずん進む。


 ネフェルは手足をぷらぷらさせて大人しくしているが、洞穴を出てからずっと黙ったままだった。


 テレサは少女が退屈しないようにと歩きながら声を掛けた。


「とりあえず、街に着いたらまず最初に必要なのは服かしら?ふふっ、お姉さんがネフェルちゃんに似合う可愛い服を選んであげる。お酒を控えれば、今のお給料でもたぶん大丈夫よね……?あっ!そうそう!ネフェルちゃんは樹液って舐めたことある?実はお姉さん、ここで遭難しかけた時にお腹が空いて死にそうだったから試しに舐めてみたの」


 テレサは食糧を求めて樹海をさまようなか、空腹に耐えかね樹液に群がる何の罪もないヨロイムシ達をポイポイ引っ剥がし、樹皮に舌を這わせて虫達の食糧を奪った。


 しかしその味は酸っぱくて土臭くてとても食えたものではなく、口直しに魔法で水を生み出し魔力を無駄に消耗しただけに終わった。


「あれは人間の食べるものじゃないわよ。ネフェルちゃんはお腹が空いても樹液なんて舐めないでね?」


 テレサは先ほどからこのようにずっと話しかけているが、ネフェルは観念したのか暴れもせずに黙ったままだ。


「もー。ネフェルちゃんったら心配性なのね?大丈夫よ、帰る方向さえ分かればこんな森すぐ出られるわ。それにお姉さん、こう見えて結構頼りになるんだから。もう面構えからしてその辺の兵士さんとは違うでしょ?」


 小脇に抱えられたネフェルは何か言いたげな目でテレサの顔を静かに見上げる。


 そこにあるのはほんの少し前に幼い少女からメシを恵んでもらい、それを泣きながら食べていた人物のものとは思えない自信に満ちた表情であった――





 ふとテレサが口をつぐむと同時に歩みを止めた。


 霧の中からフォレストウルフのものと思しき魔力の反応を感じる。


 どうやら群れでジリジリと取り囲んで襲撃の機会をうかがっているようだ。


「まったく、来て欲しい時に限って姿を見せないくせに。空気の読めない狼ね。」


 フォレストウルフが今になって姿を現したのは、テレサがそれまでまとっていた異様な殺気が霧散したせいだ。


 実際彼女はネフェルに保護される前の今朝も、肉を調達する目的でフォレストウルフを誘き寄せようと落ち葉の上で大の字になって死んだふりを試みていた。


 しかしその禍々しい殺気までは隠しきれず、返ってフォレストウルフ達は彼女に対する警戒レベルを更に引き上げ余計に近付かなくなるだけに終わった。


 だが腹八分目まで回復した今の彼女からはそういった脅威は感じられない。


 どうやらフォレストウルフ達はテレサを再び狩りの対象に定めたようだ。




「大丈夫……?」


 ネフェルが見上げながらそう問いかけるが、その声に怯えの色はない。


 それはこの状況を案じてのものではなく、ど(・)ち(・)ら(・)か(・)と(・)言(・)え(・)ば(・)確(・)認(・)だ(・)っ(・)た(・)。


「安心して、これくらいなんてことないわ。お姉さんが強いってこと、ちゃんと証明してあげるわね!」


 そう返すテレサの顔にも焦りや虚勢の色はない。


 周囲を視線で牽制しながら、テレサは抱えていた少女と荷物をゆっくりと地面に降ろす。


 テレサの流派は両手持ちの型による剣術だ。


 自信があるとはいえ、それでも片手だけで挑めるような数ではない。





「ネフェルちゃん。危ないからそこでしゃがんでジッとしててね……。あっ!こら待ちなさい!」


 テレサが腰の剣を抜こうとした次の瞬間、隙をついたネフェルは地の利を得たぞとばかりに脱兎のごとく霧の中へと駆け出した!


 賢い少女はなにもお菓子につられて大人しくしていたわけではない。


 小脇に抱えて運ばれながらも周囲をつぶさに観察し、道順を記憶しながら逃げる機会をうかがっていたのだ!


 ネフェルは走りながら肩掛け鞄の中から予備のランタンを取り出し、徐々に包囲網を狭めるフォレストウルフに臆することなくその間を駆け抜ける。


 そしてその隙を突くかのように、魔物達はテレサへと襲いかかった。


「ああもう!しつこい!」


 テレサはすぐさまネフェルを追おうとするも、魔物達の連携攻撃によって行く手を阻まれる。


 やがて周囲がむせ返るような血の匂いで満たされた頃、その場に立っていたのはテレサただ一人となった――





「またあの洞穴に戻ったのかな……」


 傷一つ負うことなく全てを片付けたテレサは、刀身の血を払いながら思考する。




 今からあの子を追いかけるのは恐らく無理だ。


 足取りを魔力で追おうにも距離が離れすぎているうえ、そもそもあの子にはその魔力がない。


 ランタンの針を頼りに逆方向へと戻ればまたあの岩山に辿り着けるのかも知れないが、テレサは森の外へと向かう際、コンパスの目盛りを明確に定めず大雑把に目指して進んでいた。


 己の勘でもう一度あの場所に辿り着ける確証はない。


 二重遭難という言葉がテレサの頭をよぎる。


 ここでもし闇雲にネフェルを探そうとして食糧が尽きてしまえば、あの子にもらったチャンスを自らふいにすることにもなりかねない。


 一度森を脱出し、追跡技能に長けた者と共に救助隊を組んで出直すほうが確実だ。




 少女がいつからこの森に住み着いているかは不明だが、少なくとも森での生活に馴染んでいる様子ではあった。


 血色も良く、着ていた衣服も含めて薄汚れてはおらず、魔道具とも違う不思議な道具に囲まれていて生活に困窮しているようにも見えなかった。




 そして何より気になったのは、先ほど起きた襲撃の一件だ。


 あのフォレストウルフ達はすぐ横を走り抜ける少女の後を追おうとはしなかった。


 ま(・)る(・)で(・)少(・)女(・)が(・)見(・)え(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)、何の関心も示さなかったのだ。


 恐らくあの特異体質のお陰もあって、この魔物の住まう危険な森の中でも生き永らえることができたのであろう。


 となると、あの妙な道具の出所についてもおおよその見当はついた。




「待っててねネフェルちゃん!お姉さんがあとで必ず迎えに行くから……!」


 テレサは後ろ髪を引かれながらも、少女に借り受けた命綱を頼りに、その後帰らずの森から無事生還を果たした――


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