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六畳一間とアイテムボックス  作者: ネフェル


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第6話:保護

 見渡す限りの平原と、雲ひとつない突き抜けるような青い空――


 どこまでも続く一本道の街道を、二頭の馬が急ぐでもなくのんびりゆったりくつわを並べて進んでゆく。


 馬の背に揺られていた男女のうち、腰に剣を携えた革鎧姿のうら若い女性が手の中の干し肉を豪快に噛みちぎり、もしゃもしゃしながら隣の護衛対象の男性へと話しかけた。


「二割も収穫量が増えるんですか!? 凄いですね!」


「ああ。 王都のほうでは検証も済んで使えると判断されたんだ。 それで大号令がかかってこうして各地を回ってんのさ」


 男は王都から派遣された農業技術指導者の一人だ。


 王都で考案された新しい農法を王国内の端々にまで伝えるために、各地の村々を回って技術が定着するまで滞在するという役目を負っている。


「しっかし驚いたよ。 ゴブリン五匹を相手にあっという間だもんなぁ。 俺だったら一匹見ただけでもクワを放り投げて逃げ出してたよ。 言っちゃあなんだが、最初は護衛が若い娘さん一人って聞かされて正直不安だったんだ。 でも嬢ちゃんみたいな腕利きの兵士に守ってもらえるなら安心だ」


 旅の道中で魔物や野盗の類いに襲われる危険と常に隣り合わせのこの世界では、腕の立つ護衛の存在は不可欠だ。


 長い金髪をお下げにした護衛役のこの女性は実際まだ若いが腕は立つ。


 自己紹介の時にテレサと名乗っていたが、農村の生まれで剣の腕に自信があって、成人前から村の自警団に所属していたとも語っていた。


 二十歳前後の身でこうして単独での護衛任務を任されているのだからその実力は折り紙付きであろう。


 護衛対象の男に褒められた彼女は頭に手をやって少し照れた様子を見せた。


「いえいえそんな! これでも結構上司からは注意されるんですよ? お前は剣の腕は確かだが、欠点も目立つからそっちを先に直せって」


「まあ、人間欠点の一つや二つは誰だってあるさ」


「私ってドジで食いしん坊のおっちょこちょいで方向音痴で忘れっぽくて、あと向こう見ずだしボーッと考え事をしてることが多いってよく注意されます」


「結構あるな」


「この前も寝間着のまま出勤しちゃって怒られたんですよ。 なので今回の任務はバシッと決めて、警備隊のみんなに有能アピールをするつもりです!」


 隣でフンスと意気込む彼女を見て、男は初対面の時に抱いた不安がまたぶり返すのを感じた。


「……まあ、嬢ちゃんなら腕も立つし大丈夫だろ。 器量もいいんだし、なんなら嫁の貰い手だってすぐ見つかるさ」


「えへへ、いえいえそんなこと……。 あ、言っておきますけどおじさんとはお付き合いできませんよ? 私結婚相手は頼りがいのある同い年くらいの人って決めてますから」


「言われなくても遠慮しとくよ……。 それよりそろそろ近付いてきたんじゃないか?」


 そう言って男が指差す先には木製の柵や畑が見え、人里が近いことがうかがい知れた。


 二人が目指しているのはこの辺境領の最も端に位置している小さな村だ。


「みたいですね。 この先にあるのがあの帰らずの森で有名な村です」


「ああ、にしてもおっかねえな。 俺もこんな近くであれを見るのは初めてだよ」





 帰らずの森――


 目的地の村の主な収入源は農作物と樹海で採れる原木であるが、誰もがそれらの産業や村の名よりもその名を先に口にする。


 二人の視線の先にあるのは、視界を埋め尽くす果てしない樹海と、それに覆い被さるようにして立ち込める雲の海。その奥には巨大な一本の柱のような断崖絶壁が雲海から生えるようにしてそびえ立っているが、天まで伸びる柱のその頂きは分厚い雲に覆われていて、全貌をうかがい知ることはできない。


「噂じゃ霧に飲まれると二度と戻って来れねぇなんて言われてんだろ? よくもまあ、そんな場所で木を切り出そうなんて思えるもんだな」


「私の知ってる話だと、樹海の浅い場所までなら霧は出ないそうですよ。 たぶん伐採してるのも村の近くまででしょうね。」


 テレサの知る噂の通り、村では伐採や狩猟目的で森へ入ることはあっても、奥まで進みたがる者はいない。


 村人達も迷信を恐れているため、森側の開墾は今も手付かずとなっていた。


「どっちにしろ、村で世話になる間は近付かないに越したことはねえな」





 そんな樹海の麓の村に無事到着した二人は、村人に村長宅を案内してもらい、庭の手入れをしていた村長である老人とも顔合わせを済ませることができた。


 テレサは封蝋の押された羊皮紙の書類を連れの男とセットで村長へと引き渡す。


 彼女の任務は彼をここへ送り届けるところまでだ。


 技術指導を終えるまで村に滞在する必要はなく、指導を終えたと手紙が来てからまた迎えに来る手筈となっている。






「それでは私はこれにて失礼します! お仕事頑張ってください!」


 テレサはビシッと敬礼をキメるや、馬に跨りルンルン気分でその場を去って行った。


 来た道とは逆方向に……。


「あれ? あっちは森じゃなかったか? まあ、帰る前に観光くらいはするか。 それじゃあ村長さん。 詳しい説明は一旦中でさせてもらっても構いませんか?」


 そう、彼女は浮かれきって忘れていたのだ。


 無事帰還するまでが任務であるということを――




 * * *




「特別手当かぁ……。 ふふっ、帰ったら何に使おっかなぁ。 やっぱ美味しいものでも……。 ああでもでも、可愛いアクセサリーなんかも捨てがたいなぁ……あだっ!?」


 馬の背に揺られながら上の空で皮算用にふけっていたところ、テレサは太い木の枝に額をぶつけて落馬した。


 幸い持ち前の運動神経が活かされ反射的に受け身を取ったことで大事には至らなかったが、ここに来てようやく事態の深刻さに気付いたようだ。


「あれ? ここどこ? なんか霧が出てない? ね、ねぇ馬くん。 ここってどこかな?」


 そんな彼女の問いかけに、かたわらに立つ馬は連れてきたのはお前だろうとばかりにフンと一鳴きするだけだ。


 テレサは手のひらの湿った落ち葉の感触と、立ち込める深緑の香りを今更ながら意識した。


 そして今しがた自分で口にした霧という単語に彼女の顔は青ざめる。


 帰らずの森――、自分はそこに踏み入ったのだ。




 ふとその時、何かの気配を感じたテレサは腰の剣を引き抜き両手で構えた。


 周囲は霧でよく見えないが、魔力の反応と落ち葉を踏む音、そして獣の唸り声がこちらを取り囲むように展開している。


「馬くん。 危ないから動いちゃダメよ……。 あっ! コラ!」


 視界の利かない中で獣に囲まれ馬はパニックを引き起こし、薄情にも彼女を置き去りにしてその場から走り去った。


 それを追うようにして何頭かの獣の音が離れていくのも聴こえてくる。


 テレサの意識が馬へと向いたその瞬間、隙を突くかのように獣の一頭が霧の中から飛びかかって来た。


 額に小さな角を持つ魔物、フォレストウルフだ。


 だがテレサは驚く様子もなく、一刀の下にその魔物を斬り伏せた。


 別の一頭も連携するように襲いかかるが、彼女は動じる様子もなく返す刀で迎え討つ。


 そうして彼女の周りに五つの死骸が転がると、樹海は再び元の静けさを取り戻した。





 テレサは刀身の血を振り払って剣を鞘に納めると、自身の置かれた状況を確認する。


 今は数歩先もろくすっぽ見えない濃い霧に包まれ、周囲の落ち葉は先ほどの戦闘で踏み荒らされていた。


 日没を過ぎたのか、気付けば辺りも暗くなりかけている。


 どこにあるのかはっきりしない馬の蹄の跡を辿って元来た道を帰る自信はない。


 馬とはぐれたことが悔やまれた。


 今身に付けている背嚢の中にいくらかの物資は入っているが、荷物のほとんどは馬の鞍に括り付けてあったのだ。


 考えれば考えるほど、不安だけが募っていった。





「とにかく冷静にならないと……。 今から闇雲に歩き回って帰ろうとするのは危険。 完全に暗くなる前に安全を確保。 うん、大丈夫」


 彼女は訓練生時代の野営訓練や当時の教官の言葉を思い出し、あえて声に出すことで自身のメンタルを落ち着かせ、これから取るべき行動を再確認した。


 行動を開始したテレサはまず最初に一番近くの木に近付き、目線の高さの位置にナイフを使って印を付けた。


 とりあえず馬とはぐれた今いる場所をはっきりさせるためだ。


 そして印を付けた後は、一旦この場から離れることにした。


 ここには先ほど殺めたフォレストウルフの死骸が転がっている。


 長く留まっていては血の匂いで集まって来た他の魔物や肉食獣に襲われる可能性があるため場所を移す必要があった。





 あまり視界が利かぬなか、できる限り一直線に歩くことを意識しながらその場を離れ、ナイフで木の幹に矢印を刻みながらテレサは移動を始める。


 そうしてある程度進むうち、ひときわ太い木の幹を見つけた。


「この木が良さそうね」


 彼女はその木を本日の仮拠点と定めると、木を見据えたまま数歩ほど後退り、片手を前へと伸ばして精神を集中させる。


 するとテレサの体から金色の粒子が浮かび上がり、まるで雪が空へと昇るように光の粒子が宙を舞う。


 彼女が行おうとしているのは、土属性魔法である"石杭"の魔法だ。





 この世界では、魔法とは誰しも当たり前に扱うことのできる力である。


 全ての人々は生活魔法と類される基本の魔法と、火・水・土・風の四つの属性のうち、どれか一種類の属性魔法を扱える。


 テレサの場合は彼女の金色の髪が示す通り、土属性に適正があった。


 体内で練っていた魔力が形作られると、彼女の頭上に人の腕ほどもある石杭が縦に並んでいくつも現れ、それらが木の幹に向けて矢のような速さで一斉に放たれる。


 激しい音と共に石杭が深々と打ち込まれたことを確認すると、テレサはその杭を枝打ち梯子にして木に登り、太い枝を選んでその上に腰を降ろした。


「ここならとりあえずは大丈夫そうね」


 彼女は下を見ながらそう独りごちる。


 地上で夜を明かすのは危険だ。


 いくら焚き火で火をおこそうが、自分一人しかいないこの状況で下で寝るなど魔物達の餌になるのと同じなのだ。





 テレサは樹上で更に土魔法の"石板"で石の板を生み出すと、それを手頃なサイズに魔力で成形し、そばに伸びるもうひとつの木の枝に橋渡しするようにして石の板を架ける。


 そして枝と石の板を木に巻き付いていたツタでしっかり固定してやれば、不安定だった樹上の足場は安定し、仕上げに周囲の枝葉をツタで縛ることで壁と天井を作って即席のシェルターを完成させた。


 いともあっさりと拠点を確保したテレサはドヤ顔でシェルター内部を見回すと、己の手際の良さに自惚れる。


「きっと私って、逆境の中でこそ花開くタイプなのよ。 ふふっ、無事に帰ったらみんなから不屈のテレサなんて呼ばれちゃったりして。 あっ、なんか魔法使ってお腹空いちゃったな。 おやつでも食べよっと。」


 とりあえず携行食でも腹に入れようと上機嫌で背嚢の口の紐を解いて中を確認してみれば、入っていたのは替えの服や靴下だけだった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 夜の森に慟哭が響き渡り、驚いた鳥達が一斉に飛び立った。


 石の床に手を付き、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら不屈のテレサは泣き叫ぶ。


 どうせ背負うなら軽いほうにしようと、重い荷物を馬の鞍に括り付けていたことを今更になって思い出したのだ。


「もうダメだ、おしまいだぁ……。 私ここで死んじゃうんだぁ。 あああああああああ……」




 * * *




 遭難二日目――


 腹の虫の音で朝早くに目を覚ましたテレサは、空きっ腹を押さえつつ地上へと降りる。


 そして早速とばかりにその朝一番の絶望を味わった。


 昨日彼女が印を付けたはずの木が忽然と消え去っていたのだ。


「木が無くなってる……。 トレントだったんだ……」


 地面をよく見れば落ち葉の湿り具合が違っていた。


 落ち葉は大きな太い線を描くように掻き分けられ、その痕跡を元に戻しながら何かが這いずったような跡があったのだ。


 彼女の口にしたトレントとは動く木の魔物である。


 見た目はただの木だが意思を持ち、根を動かして移動する習性があり、加えて周囲に自生する木に合わせて見た目も魔力も完璧に擬態し森の木々に溶け込んでしまう。


 トレントは魔物の中ではスライムと並ぶほどに非常に温厚な生き物で、たとえ自身の体を熊の爪研ぎに使われようが反応せずに見過ごしてあげるほどの大きな体躯に見合った寛大な心の持ち主なのだ。


 当然ナイフで傷を付けられる程度のことで目くじらを立てることもないのだが、不運なことに今回はその性質が仇となった。


 もっとも、この森のトレントは魔物の強さとして上位に位置付けられている。


 仮にナイフの傷で逆上された場合は命の保証はないので、ある意味幸運だったと言えなくもない。




「どうしよう、どっちに進めばいいのかますます分からなくなっちゃった……。 あっ! でも昨日あれだけ魔物に襲われたんだからお肉には困らないや。 朝ごはんにしよっと。」


 彼女は持ち前のポジティブさをいかんなく発揮し、鞘から刀身を抜き放つと新鮮な肉を求めて幽鬼のような足取りで樹海の中をさまよった。


 その日はフォレストウルフやその他の野生動物達も、彼女の放つ異様な殺気に怯えて姿を見せることはなかった……。




 * * *




 遭難三日目――


「水……、水を飲まないと……」


 テレサは目覚めてすぐに水分を補給すべく、両手で椀の形を作って手の中を見つめ、精神を一点に集中させる。


 そして手の周りに小さな青い粒子がポツポツ生まれると、たちまち両手は澄んだ水で満たされた。


 この力は生活魔法である"種火" "湧水" "乾燥" "土塊"のうちの"湧水"によるものである。


 魔法のおかげで生命維持に不可欠な飲料水は確保できていたが、この方法も長くは使えない。


 理由は彼女の空腹状態にある。


 栄養失調状態では傷の治りが著しく遅くなるのと同様に、空腹は魔力の回復に悪影響を及ぼす。


 テレサは手の中の水を飲み干したあと、濡れた手で顔を濡らして洗顔代わりに服の袖で顔を拭ってから独りごちた。


「お腹空いたな……」


 遭難前に食べていた携行食の干し肉のことを思い出す。


 技術指導の男を送り届ける道中では、馬を操りながら干し肉を際限なくもしゃもしゃ貪り隣の男は若干引き気味だったのだが、あの時適度に小腹が満たされていたせいで村で食事も取らずにとんぼ返りを決め込んだのだ。


 あの時の判断を思い返すと悔やまれた。


「早くなんとかして出口を見つけないと……」


 このままろくに食事を取れない状況が続けば、いずれ魔力は枯渇し移動すらままならなくなる。


 とは言え、彼女がこの森で何も口にしなかったわけでもない。


 季節が春先から春になったばかりということもあり、木の実や果実はなくとも山菜や新芽は見つけることができていた。


 過去の山菜採りの記憶や訓練生時代の野営の経験がここでも活かされたのだ。


 ただし覚えていたのは特に美味しかった数種類のみで、他は似たような有毒植物の可能性もあったために断腸の思いでやめておいた。


 どのみち山菜を口にしただけでは腹の足しにはなっても活力を得るには至らないであろう。


 昨日はそうして食糧と出口を求めてさまよい歩いていたテレサであったが、その中で一つ大きな発見があった。





 この森には自分以外にも人がいる――





 この事実に気付いたのは食糧探しの最中のことだ。


 何者かがナイフのような刃物を用いて山菜を摘み取った痕跡があったのだ。


 しかもその切り口は真新しいもので、加えて群生地が無くならないようにと採り尽くさずにいくつかは残されていた。


 明らかに人の手によるものだ。


 気付いたテレサはすぐに大声で助けを求めたが、残念ながら返事が返ってくることはなかった。


 恐らく声が届きにくいのであろう。この森は彼女が知る普通の森よりも静かすぎるのだ。


 辺りを漂う魔力を含んだこの妙な霧のせいで音が阻まれているように感じられるのも気のせいではないだろう。


 最初の襲撃の時も魔物の接近に気付くのが遅れたが、あれも恐らくはこの霧に魔力の反応を阻害されていたせいだ。


 熟練の風属性持ちであれば風魔法でもっと遠くの音を拾ったり届けたりできただろうが、土属性のテレサにとっては無い物ねだりでしかない。




 テレサはとりあえず痕跡のあった木の根元近くに『助けて』と文字を刻んだ。


 このメッセージが読まれるかどうかは分からないし、彼女に斥候のような痕跡を辿る技能はない。


 しかし少なくとも希望を持つことはできた。


 多少弱音を吐くことはあっても、テレサはまだ生きることを諦めてはいなかった。




 * * *




 そうして森の中をさまよい歩くテレサであったが、体感で恐らく正午を回ろうかという頃合いに、霧の晴れた場所へと踏み入った。


「霧が晴れてる……」


 だが油断はできない。帰らずの森を無事抜けたとも限らないのだ。


 この森の霧は意思があるかのようにその濃淡を変える。


 ぽっかり穴が空いたような霧の晴れた場所というのはここ以外にもいくつも目にした。


 脱出できたと突き進んでも結局また霧に阻まれるのだ。


 そういったこともあり、テレサはこれまでの経験から霧が晴れた程度で糠喜びこそしなかったが、今回に限っては少し様子が違っていた。





 まず目に付いたのは木々の隙間から見える切り立った岩の断崖。


 木々が邪魔してはっきりとは分からないが、視界の先では岩肌が縦にも横にも続いているように見える。


「もしかして、樹海の奥にあったあの山なのかな……。 あれ? じゃあ私、外を目指すどころかどんどん奥に進んでたの……?」


 自身に死が迫っている現実を改めて自覚し、テレサは膝から崩れ落ちる。


 絶望の淵に落とされかけていたテレサであったが、そんな彼女の目に今度は別のものが飛び込んできた。


「洞穴……? 火!!」


 断崖の一部に大きな横穴が空いているのが目に留まり、その入り口から焚き火と思われる光が内部を照らしていたのだ。





 テレサの瞳に再び希望の光が宿る。


 彼女は立ち上がると洞穴目掛けて一直線に駆け出した。


「やった! これで助かった!」


 そして洞穴に近付くにつれ、テレサはそ(・)れ(・)に(・)気(・)付(・)い(・)て(・)ゾ(・)ッ(・)と(・)し(・)た(・)。




 人(・)が(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)。




 焚き火がある以上、それを用意した人間がいるのは当然だ。


 だが洞穴からは人の気配など感じられなかった。


 だからテレサはその主の帰りをそこで待つつもりでいたのだ。


 より正確に言えば、全ての生き物が持つ魔力の鼓動を感じ取ることができなかった。


 魔力の無い人間がいるとすれば、そ(・)れ(・)は(・)死(・)者(・)だ(・)け(・)だ(・)。




 焚き火のそばにいたのは、初めて目にする空色の髪をした幼い少女だった。


 見たこともない服を身に纏い、見たこともない椅子に腰掛けて、銀の匙を手に弁当のようなものを幸せそうに食べていた。


 少女のほうもその視線に気付いたようで、呆気に取られて立ち尽くしていたテレサと目が合った。


 その目は大きく見開かれ、テレサを見て驚いたのか、こちらを向いたまま固まっている。


 その無害そうな様子にテレサはハッと我に返り、両手を振って敵意がないことを少女に伝えた。




「あっ! えっと! ごめんね急に驚かせて! お姉さん、ちょっと森で迷っちゃって――」


 言葉を続けようとしたところで、テレサの腹から盛大に音が鳴った。


 恥ずかしさから顔を赤くしつい黙ってしまったテレサであったが、やや間を置いて先に沈黙を破ったのは少女のほうだった。


「えっと、お姉ちゃんも一緒にご飯食べる?」




 遭難から三日目。


 迷子のテレサは女児によって無事保護された。


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