第5話:一人ODA
異世界の無も知らぬ少女とアイテムボックスでやり取りを交わすようになってはや数日――
あれから井手は少しだけ変わった。
それまでの彼は自身の人生において大きな夢や目標といったものは抱いておらず、ただなんとなく仕事をこなし、稼いだ金のいくらかを趣味のゲームやマンガやエロ同人などの娯楽に投じ、余った時間を暇つぶしのために消費するという日々を送っていた。
もちろんそれは悪いことではない。人生とは死ぬまでの間の長い暇つぶしという言葉もあるのだから。
そんな井手の小さな変化はまず給料の使い道に現れ、それまで稼いだ金は趣味の娯楽から少女の生活支援に回されるようになった。
やむなく娯楽費を削って捻出したということではなく、単に彼の中で優先度が変わったのだ。
ある意味推しができたと言っていい。井手はそれまで動画配信者に入れ込むようなタイプではなかったが、今では推しの配信者にチップを投げるかの如く、少女への支援を惜しまなくなった。
それは幼い少女という庇護対象と関わったことで、守るべき相手を見つけて芽生えた父性によるものなのかもしれない……。
そんな井手であるが、彼は少女の生活水準を改善するにあたり、衣食住の大まかなテーマに分けてここ数日の間奔走していた。
まず衣について。
夢の中で少女が着ていた服は麻製と思われる長袖のチュニックとズボンであった。
あれが一張羅なのかそれとも向こうの洞穴内に予備を置いてあるのかは不明だが、見たところアイテムボックス内に代えの服はないようである。
アイテムボックス内には毛皮で包まれた荷物もあるので、もしかするとその包みの中身が予備の衣服とも考えられるが、井手は少女のプライバシーを尊重して中身を検めるようなことはしていない。
どちらにせよ、向こうへ品物を送れるというのであれば、せっかくなら衣服についても日本で手に入る現代品を試してもらおうと井手は考えた。
そうして馴染みの総合スーパーの子供服売り場へと足を運んだ井手であったが――
「どれを買えばいいのこれ……」
売り場には可愛い我が子に着せるための可愛らしい服がこれでもかと並べられているが、ノープランで子供服売り場に足を踏み入れた井手は一般の洋服コーナーとは違うカラフルすぎる光景に圧倒されてたじろいだ。
自身の普段着でさえ適当な井手にとって、女児服を選ぶという行為はハードルが高い。
井手はガールズファッションコーディネート系のゲームをプレイした経験もないのだ。
「無難に上下セットで売ってるやつにしとくか? 待てよ靴も必要だな。 あれ?そういえばあの子ってどんな靴を履いてたっけ? 自分で靴紐って結べるのか? 小さい子だとやっぱマジックテープ式のほうがいいのかな。 いやそもそもどのサイズを買えばいいんだ?」
女児服の前でうんうん唸る井手はスマートフォンを取り出すと、『女の子 小学一年生 服のサイズ』と検索しおおよそのサイズを調べ始める。
するとそこへニコニコ顔の女性店員がやって来た。
「いらっしゃいませ。 娘さんへのプレゼント選びでしょうか?」
「ああいえ、自分用なんでお構いなく」
スマートフォンの操作に集中していた井手は画面を見つめたまま片手で制して無意識に断りを入れた。
「下着は綿100%にしとくか。 穿き心地も良さそうだよな」
「ご、ごゆっくりお選びください」
若干引きつったような笑みを浮かべて離れていく店員に気付かぬまま、その後も井手は買い物を続ける。
そうして悩んだ末に彼が購入した服は特売品のピンクのジャージセットであった。
一応ちゃんとした理由はある。なにせ贈る相手のサイズが分からないのだ。
目安となるサイズのあたりをつけたうえで、それを基準に前後のサイズを洗濯時の予備も含めて買い揃える必要がある。
当然その分出費もかさむため、選んだ商品の大半は安物だった。
少女のアイテムボックスが有限であるように、井手の財布も有限なのだ……。
次に食について。
もっと美味いメシを食わせると大見得切って部屋を飛び出した井手であったが、あの日彼が買って帰ったものは同じく総合スーパーで売られていたおにぎりや惣菜や出来合い弁当などであった。
残念ながら井手には隠れた料理の才能などといったものはない。
一応過去に自炊経験はあった。
動画サイトでたまたま目にした『簡単!』『すぐできる!』の文字と共に映された春巻きのサムネイルに惹かれてついタップし、包丁も使わずキッチンばさみや電子レンジを駆使してさも簡単そうに作った春巻きを美味そうに食べる動画に踊らされた井手は、翌日の仕事帰りに材料を買い揃えて実際にそれを作ってみたのだ。
幸いにも井手は初めての作業はセオリー通りに進めるタイプだったので、素人なのに変なアレンジを加えて食材の墓場を作り出すメシマズ系ヒロインのような愚行は犯さなかった。
しかし実際に完成した料理は普通としか言いようのない出来で、見てくれが少々悪く味は食べられる程度といった微妙な結果に終わってしまい、しかもその翌日に買った冷凍春巻きのほうが安くて手軽で美味いと三拍子揃っていたのだ。
なので井手は自炊をやめた。今では昔勢いで買ったホットサンドメーカーを気が向いた時だけ使う程度だ。
そんな男が作る微妙な手料理を腹ペコの少女に振る舞うより、スーパーの出来合い弁当を買って来るほうがマシだろうと井手は開き直ったわけである。
そんな井手であるが、その日彼は少女の力を借りる形で自身の狩場である惣菜コーナーで無双していた。
半額弁当や惣菜の買い溜めである。
井手は半額シールの貼られた惣菜が棚にあるのを見つければ、たとえそれがダブっていようと手当たり次第にかごの中へと詰め込んだ。
そう、今の井手には少女のチート能力である時間停止機能付きのアイテムボックスが自宅に備わっているのだ。
あれの前ではもはや消費期限など意味を成さない。
アイテムボックスのすみっこをちょびっと間借りさせてもらうことで、食い扶持が一人増えても食費を抑えられるのだ。
「おっ。今日はオードブルも半額か……。たまには奮発してこいつも買っとくか。」
どう見てもパーティーサイズの重くてデカいそれを井手は躊躇なくカゴの中に投入した。
半額弁当を狙う周囲の狩人達が「こいつ正気か?」というような目を井手へと向ける。
既に同じ種類の半額商品ばかりが沢山詰まったカゴにオードブルまで入れるのは正気の沙汰ではない。
家族がいたとてどう見てもそれらの弁当を今日明日で食べ切れるはずがないのだ。
「冷凍庫か……」
狩人の一人がぽつりと呟く。
自身の健康すら度外視した井手のその捨て身の戦法に、狩人達はその日から井手にフリーザーの二つ名を与えた――
そして最後の住について。
井手が一度だけ夢で見た光景では、少女は洞穴の中で毛皮にくるまる形で眠っていた。
あれでは寒いし虫も寄って来るしで快適な睡眠など望めまい。
そこで井手は野営といえばテントということで、同じく総合スーパーの一角に設けられたアウトドアコーナーを見て回った。
陰キャの井手はアウトドアとは縁遠いのでこのコーナーをじっくり見るのはこれが初めてのことである。
規模は小さく専門店の品揃えには及ばないが、必要最低限のものは揃えられそうであった。
「へえ。こんな便利なものがあるのか」
井手の興味を惹いたのはポップアップテントと呼ばれる種類のテントであった。
展示写真によれば収納袋から取り出して広げるだけでものの数秒あれば設営できると書いてある。
テントの設置といえばポールを立てたりペグで固定したりするイメージだったが、これなら連続写真を用いた説明書を一緒に送れば少女一人でも恐らくなんとか使えるだろう。
井手は他にも使えそうなものとして、折りたたみ椅子、ウレタンマット、炭、トング、焼き網、ウォータージャグといった品々をカートに乗せた。
「寝袋が欲しかったけど置いてなかったな。今度別の店を探してみるか」
どうやらこのコーナーにはアウトドア用品と言ってもバーベキュー関連のものしか置かれていないようだ。
一応欲しい物は手に入ったので会計を済ませにカートを押していた井手であったが、ふと途中にあった防災グッズのコーナーに目が留まる。
「ああそっか。避難所生活みたいな目線で考えりゃいいのか」
井手は野営をイメージした際、キャンプアニメや林間学校体験のイメージが先に浮かんでしまっていた。
少女に届ける物資について改めて考え直す必要がありそうだ。
とりあえずコーナーの一角に山と積まれていた大きな乾パンの缶詰を多めにカゴに入れたあと、すぐ隣に並んでいる防災ランタンにも目を向ける。
棚に置かれたLEDランタンはシンプルなものから多機能なものまで様々だ。
「充電方法は手回し式一択だな。ラジオとスマホの充電機能は必要ないし、時計とアラームもいらないな……。おっ、こっちはコンパス付きか。コンパスはあっても困らないな」
展示品のLEDランタンを手に取って明るさやコンパスが分離する仕組みを確認しながら、井手は使用者目線で少女が実際に使う場面を想像する。
「夜中にトイレに行く時は、やっぱ戻る時にテント側も明るいほうが良さそうだな。壊れた時のことも考えて余分に何個かあれば安心か。あっ、てかトイレットペーパーも必要だな。穴掘り用に園芸用の小さいスコップも忘れずに買っておかないと……。待てよ、森の中だと蚊取り線香も必須だよな」
考えれば考えるほど、必要と思われる物は増えていく。
井手は思いつく限りの物資を買い物カートに詰め込み、持てる物以外は有料配送サービスを利用して自宅へと届けさせた。
井手は車を所有しておらず、移動はもっぱらスクーターなのでこれだけの大荷物は運べないためだ。
アイテムボックスを通じて少女と交流するようになってから、井手はこれらの品々を毎日仕事帰りに買い込んだ。
* * *
そうして数日が経った今、井手の自室はアイテムボックスが現れた初日から少しだけ様変わりしていた。
まず目につくのは押し入れの前に取り付けられた間仕切りカーテンだ。
アイテムボックスは以前の状態でも玄関を開けてすぐ目に入るような間取りではなかったが、玄関とは反対側の掃き出し窓の遮光カーテンを開ければ外から丸見えとなってしまうため急遽間仕切りカーテンが取り付けられた。
それ以外で目立つのは壁に貼られた数々の絵であろう。
それまで井手の部屋はポスターなど貼られていない殺風景な部屋であったが、今では少女がクレヨンで描いて送ってくれた絵や花が独身男の枯れた部屋に彩りを添えてくれている。
少女はお世話になっているお返しにと、あれから律儀にも毎日絵や花を届けてくれるのだ。
お返しの品を用意することが少女の負担になっていないかやや気になるところではあるが、その他にも山菜や兎と思しき肉まで時々送られてくることもあった。
井手は凝った料理など作れないのでそれらの食材を灰汁抜きしてから塩胡椒や醤油などで適当に炒めて調理しているのだが、盛り付けの際には二人分の皿を用意して自分の皿の料理を食べるところをグラサン姿で撮影し、その写真と一緒に少女の分の料理をお裾分けにと届けたりもしている。
普段から菓子パンや袋ラーメンばかりを好み、栄養管理とはほど遠い食事であった井手にとってはこちらのほうがまともな食事と言えるのかも知れない……。
そんな井手が最近他にもやりだしたことは、写真を使ったマニュアル作りだ。
アイテムボックスを介してこちらの世界の品物を送れるようにはなったが、だからといって送っただけでハイ終わりというわけにはいかない。
例えばスーパーの出来合い弁当。これはまず外装フィルムを剥がすことを伝えるところから始まり、中に入っているバランと呼ばれる緑色の草みたいなシートが食べ物ではないことや、付属の醤油ケースやソースやマヨネーズといった小袋の使い方についても写真で伝える必要があった。
なにせ相手は小学一年生くらいの小さな子供だ。
現代においても日本に訪れた大人の外国人観光客がコンビニおにぎりの開け方が分からず苦戦していたといった話は珍しくもないのだから、育った文明すら違う子供となれば用心するに越したことはない。
その際に出るゴミについても、井手はあの子が焚き火に焚べて有害な煙を吸い込むことのないようにと専用のゴミ箱も用意し、ゴミは燃やしたりせずに全てその中へ捨てるよう写真で伝えるなどしていた。
加えて井手はそれらの品物を送る際の収納ケースについても改善した。
同種の箱やカゴなどを複数個まとめて購入し、用途に合わせて使い分けられるよう分類したのだ。
まず衣類用の洗濯カゴは洗濯前と洗濯後とで二種類用意し、井手が自宅玄関前に設置されているやや古めの洗濯機で少女の服を毎日洗ってあげることにした。
そうすることで洗濯物の傾向からおのずと適正サイズも見えてくる。
ただし洗濯機にかけるだけで干したりアイロンがけなどはしない。
独り身だったはずの男が女児服を干しているのを目撃されれば大家やご近所さんに目を付けられてポリスメンを召喚される恐れがある。
なので服を干して乾かすのは少女のお仕事。
井手が解説写真と一緒に送ったパラソル型の物干しスタンドでセルフで干してもらう形となった。
分類用にまとめ買いしたそれらの箱やカゴには、少女が視覚的に判別しやすくかつ脳内検索しやすいようにとシンプルなイラストも貼り付けてある。
先の洗濯カゴの例だとピカピカのTシャツと汚れたTシャツのイラストを使って仕分けされ、その他の箱にもキリンさんやゾウさんワニさんゴリラさんといったデフォルメキャラのイラストで分けてある。
井手に秘められた絵の才能なんてものはないので、これらのイラストは全て専門サイトからダウンロードしたフリー素材を用いたものだ。
「しっかしラミネーターって便利だなー。これなら汚したり破れる心配もないし。なんかもっと他に使い道ってないのかな」
そうぼやきながら井手が使っているラミネーターはこのためだけに購入したものだ。
現在ラミネート処理を施しているのはA4サイズに印刷された飲食店のメニュー表のような何かである。
井手は分類用にといくつもの箱を用意したわけであるが、それらを少女がアイテムボックスから取り出す際に悩まないようにと目録の管理方法にも手を加え、写真一枚で全ての箱が閲覧可能な見える化を試みた。
ラミネート処理が施されたこの目録であれば、少女が使っていた肩掛け鞄に入れても紙が破れたりくたびれる可能性もグッと減る。
そうして井手がセットしたラミネーターの予熱時間を待つ間、ふと室内を見回して少女の描いたクレヨン画に目が留まった。
「あの絵もラミネートして保管したほうが長持ちするのかな?……あ、ダメだクレヨンは熱に弱いのか」
せっかく購入したラミネーターを他のことにも活用できないかと作業しながら模索する井手であったが、スマートフォンで調べたところ、どうやらクレヨンは溶けるので不向きのようだ。
絵は既にカメラで撮ってデジタル保存済みだが危ういところであった。
「待てよ。押し花になら使えるか?」
元栄養ドリンクの花瓶に挿さった異世界の花を見て井手がひとつ閃いた。
少女はこれまでいくつかの花を絵のお手紙に添えるようにして一輪ずつ届けてくれていた。
しかし花はいつかは枯れてしまうものである。
萎れてきたからといってゴミとして捨てるのも忍びなく、かといってお刺身タンポポのようにもしゃもしゃ食べるわけにもいかなかったので、井手はアイロンを使って押し花にしたものをバインダーに綴じて記念に保管していた。
しかし紙の間にひっそりと隠されたままでいるよりも、外に出して部屋に飾られるほうが花冥利に尽きるであろう。
「作るなら栞にでも加工するか。……あれ?だったら地球の花を栞にしてあの子に贈るのもいいんじゃないか?」
花そのものを贈ったとしてもすぐに枯れてしまう。カードや栞のような形のほうが花びらが散るようなこともなく長く楽しめるであろう。
「こっちの花とか落ち葉やクローバーで試してみるか。いつかは色褪せるから栞の表側は押し花で、裏側は実際に咲いてる写真にして両面仕様にするのもいいな。あの子喜んでくれるかな……?」
井手はそんなことを考えながら、ラミネート加工の終わった絵を箱に貼り付け、出来たばかりの目録を連絡用のクリアファイルに追加しアイテムボックスの中へと戻した。
「さてと。じゃあ最後はこっちをやるか!」
それまで若干乙女チックな考えを巡らせていた井手であったが、彼は何を思ったのか突然服を脱ぎ始め、上半身裸になるとサングラスを着用した。
そして現在半裸の井手の前には、二つの大きなポリバケツが用意されている。
片方には赤い温泉マークの絵が貼られ、もう片方には青い涙滴マークの絵が貼られていた。
これは井手の新たな試みである『少女に生活用水を送ろう』という計画によるものだ。
水については既に飲料用のミネラルウォーターと水道水で満たした生活用水用のウォータージャグを送っており、固形石鹸を使った手洗いや歯磨き粉と歯ブラシの使い方を写真で伝えていた。
しかし昨晩自宅でシャワーを浴びている時に気付いたのだ。風呂がねえじゃんと。
井手はカメラの前で手桶を使って洗面器に湯と水を注いで温度調整をすると、タオルを浸して絞ったあとの濡れタオルで体を拭き、なんの需要もない自撮りのサービスシーンを撮影した。
お湯で満たされたポリバケツは少女がうっかりやけどしないよう熱めの風呂程度の湯温には抑えてある。
もろ肌脱いで清拭する井手は上半身も下半身も共に鍛えられていない貧相な体ではあるが、少女が不快感を抱かないようにと事前にムダ毛を処理している点だけは評価できよう。
少女の入浴をどうするかという問題について、井手は最初に巨大な金ダライの中で体を洗う方向性で考えた。
タライだと半身浴すらままならない掛け湯スタイルにはなるが、それでも生活の質はかなり向上するはずだ。
そこで試しに浴室の蛇口から延長ホースを延ばしてアイテムボックス内のポリバケツに直接お湯を流し込む実験を試みたのだが――
「やっべぇw どうみてもうんこじゃんww 無限スケルトンうんこだよwww」
目の前で繰り広げられた光景は、アイテムボックスを境にホース内部の水の時間が停止し、それを後続の水が押し出す形でホース状の水の塊がとぐろを巻きながらバケツの中にうにょうにょひり出されるというものだった。
いい大人がそれを見ながらうんこうんことゲラゲラ笑う絵面とはなったが、一応実験自体は成功だ。
この方法であればタライの中に何度も湯を注ぐような手間は省ける。
少女のほうも汚れた湯はタライを逆さまにしてアイテムボックスから取り出すなりすれば簡単に中身を捨てられるだろう。
しかし残念なことに希望に見合うサイズと深さの巨大金ダライは店頭では見つからなかったため、ネットで注文した商品が届くまでの間はバケツを使った清拭で我慢してもらうことにしたのだ。
そうして清拭の説明用写真を撮影している最中に、アイテムボックス内で何かが光った。
サングラスの絵が貼られた連絡用の収納ケースが戻ってきている。
どうやら少女が何かを送ってきてくれたようだ。
井手は撮影を一時中断し、半裸のままケースを手に取り床へと置く。
ケースの中には少女が編んでくれた花冠が入っていた。
井手は静かに顔を上げるとサングラスを外し、感極まったようにギュッと目をつむった。
――これだ。この気遣いが嬉しいのだ。
正月の集まりで一年ぶりに会ったかと思えば開口一番に猫なで声でお年玉をせびり、マジありがとうの一言だけで済ませる可愛いけど可愛げのない親戚のガキどもとは違い、あの子はこうして毎日心のこもったプレゼントを欠かすことなく送ってきてくれる。
おぢへのケアが完璧なのだ。
もちろんあの子にいただき女子じみた邪悪な意図や対応マニュアルなんかはないと分かっているが、仮に騙されていようとあの子の笑顔を守るためならば、俺は自分の臓器だって売るかも知れない……。
花冠を手に物騒な感傷に浸っていた井手であったが、ふとローテーブルに置こうとしていた手を止めると、彼はその花冠を頭に乗せた。
貰ったばかりのプレゼントを身に着けてからもう一度撮影し直すことにしたのだ。
きっとそうしたほうが、あの子も喜んでくれるに違いない……。
「ついでにこっちのほうも撮り直しておくか」
井手はズボンのベルトで二つの乳首をそっと隠すと、今度はセンシティブな内容にも配慮しつつ二度目の撮影に取り掛かった。




