第9話:協力者-2
「えっと、狭い部屋でアレですけど、どうぞ上がってください」
井手の部屋へと招かれた佐方と伊口の二人は部屋の中をざっと見渡す。
テレビすらない部屋だった。
ミニマリストというほどではないが、物欲があまりないのか全体的に物は少なめで、急な訪問にも関わらず部屋の中は片付いていた。
それでもその部屋を殺風景と感じないのは、壁一面にいくつもの絵や押し花が飾られていたからであろう。
だが同時に疑問も湧いた。
事前に調べた情報では、井手は独身で既婚歴もないはずなのだ。
にも関わらず、飾られている絵はどれも小さな子供が描いたようなクレヨン画。
押し花の栞についても造花なのか、そのほとんどは見覚えのない花や葉で作られたものだった。
奇妙な点は他にもある。
不自然に据え付けられた間仕切りカーテンの存在だ。
部屋の間取りからして、カーテンの奥にあるのはクローゼットの類いのはずだ。
となると井手の言っていた見せたいものとは、察するにあのカーテンの奥に隠してあるのだろうとこの時二人は予想した。
「あの、今からお見せしますけど、あまり大きな声で驚いたりしないでくださいね?」
井手がそう言ってカーテンを開くと、二人の表情は驚愕へと変わった。
普段から感情を表に出さない伊口でさえ、口元に手を当て目を見開いたまま固まっている。
「なんだこれは……」
目の前には大きな光の箱があった。
ホログラムなどではない。
床や壁や天井を見ても、それらしい機械はどこにもない。
数々の物が宙に浮かぶその様子は、かつて佐方が宇宙旅行で滞在した国際宇宙ステーションでの光景を思い起こさせた。
だが物体がふわふわと浮く微重力空間での光景とは違い、目の前のこれはアクリルの中で固められたかのように完全に宙へと固定されている。
アパートの小さな一室に無重力空間を再現する技術など、今の地球には存在しない。
「これは触れても大丈夫なのかね?」
好奇心から自然とそんな言葉が漏れた。
「ええ、平気です。腕時計を入れると面白いですよ」
佐方はおっかなびっくり左手を光の中へと入れる。
光に触れると、手が濡れることなく水の膜を通るような感覚がした。
だが手首まで入れたところで、今朝の事故で壊れた腕時計を外したままだったことに思い至る。
それを見た伊口は無言のまま佐方の隣に立つと、彼女もやや緊張した様子で腕時計をはめた左手をそっと光の中へと差し込んだ。
そして時計の秒針が止まったことに二人は目を見開き、外へと戻せば時計は再び時を刻み始めた。
「その中では生き物以外の時間が止まるんですよ。俺はアイテムボックスって呼んでます」
「アイテムボックス……?」
「ゲームやマンガに似たような能力があるんですよ。俺が見た夢の中でも、女の子がそれと同じ力を使ってたんです」
「……良ければその夢の話を聞かせてもらえないだろうか」
井手は二人にこれまでの出来事を掻い摘んで説明した。
「……すると君は、その子がお礼にと送ってくれたその貴重な薬を、見ず知らずの儂のために使ってくれたと言うわけか」
「ええまあ。あっ、ですからお礼は俺じゃなくてその子にお願いしますね?」
「ああ、分かった。……ところで井手君。もうひとつ聞かせてもらっても構わないだろうか」
「なんですか?」
佐方は一呼吸置き、どこか緊張した面持ちで井手に尋ねる。
「君はあの旧道を普段から利用しているのかね?」
なにか重要なことでも聞かれるのかと思っていた井手であったが、その質問内容にやや拍子抜けしながらあっけらかんと答えた。
「え?いえあの時はたまたまですね。最初は新道を通る予定だったんですけど、なんか途中でスマホのナビのルートが勝手に変わっちゃって。でもそれで結果的に佐方さんが助かったんだから、やっぱ運のいい人っているんですね」
「……ああ、そうだな」
ほがらかに笑う井手に平静を装いながらそう返すが、その話を聞いた佐方は背筋が凍る思いをした。
仕組まれている――
あの事故はただの偶然ではない。
自分達は恐らく何者かに利用された。
思い返せば奇妙な点はいくつもあったのだ。
事故の起きたコースは普段から利用しているわけではない。
前夜に健康管理アプリのAIが明日の推奨メニューを組んだ際に、たまたまあのコースが提示されていたからそれに従っただけだ。
だが今思えば、あの時から既に誘導されていたような気がするのだ。
今朝の一連の出来事に疑惑の目を向ければ、その全てが不可解な連鎖のようにも思えてくる。
信号機のタイミングに違和感があった。
別のルートは事故や落雷による倒木で塞がれていた。
普段と同じ時間に自宅を出たはずが、いつもより日が高かった気がした。
壊れた腕時計の針と事故直後に見たスマートフォンの時刻にも、思い返せば一時間以上の誤差があった。
護衛ロボットの件にしてもそうだ。
途中ではぐれた原因はカメラの誤作動によるもので、追従モードのままロボットが見えない何かを私だと誤認したまま追いかけていたと報告を受けたのだ。
そして事故現場となったあの道には当事者以外に誰もあそこを通る者はなく、加えて予報になかった突然の豪雨にも見舞われた。
お陰で血まみれだった体も、道路に流れたおびただしい量の血の痕も、まるで痕跡を消すかのように誰の記憶にも残ることなく綺麗さっぱり洗い流されてしまっている。
あとに残ったのは既に回収済みの壊れたロードバイクだけだ。
この分だと、轢き逃げしたあの男が今も生きているのかどうかさえ怪しく思えてくる。
神仏を敬う気持ちくらいは持ち合わせているが、だからといってオカルトじみたものを信じたり傾倒するようなことはこれまでの人生で一度もなかった。
だがこのクローゼットの異空間を見て考えが変わった。
超常の存在というものは実在する――
そのことを意識した瞬間、今もこの状況を何者かに見下されているような錯覚すら覚えて背筋が震えた。
もし今朝の事故が元々の己の運命であったというならそれでいい。
本来事故で死ぬはずだった自分の元に、それを救うことのできる人物を都合よく引き合わせてくれただけ……。
なんと慈悲深いことか。
それが神なら信仰だってしたくもなる。
恐ろしいのはそれとは真逆の性質のなにかだった場合だ。
その場合は本来起きるはずのなかった事故を意図的に引き起こし、この若者との接点を持たせるためだけに一人の人間を瀕死の状況に追いやったことになる。
そのような因果すら自在に操れる存在が、目的達成のために人間をただのチェスの駒として扱っていると考えると恐怖でしかない。
恐らくあの事故は単に自分と彼を引き合わせただけでなく、余計なことはするなという脅しの意味も込められているのだろう。
もし欲をかいて彼を出し抜こうなどと考えれば、実行に移した途端に事故か突然死で消される可能性も――
「ところで井手様。そちらの保冷リュックの中身を冷蔵庫に入れなくてもよろしいのですか?」
「あっ、いけね忘れてた」
思考の海に沈みかけていた佐方であったが、伊口の声で現実に引き戻された。
井手は床に置きっぱなしにしていた保冷リュックを一旦アイテムボックスの中へ突っ込むと、光の中でバッグを開けて弁当をひとつ取り出し「これでよしっと」とレンジでチンし始めた。
夕食にはだいぶ早い時間だ。
もしかすると昼食がまだったのかもしれないと二人は考えた。
「昼食がまだなのに長話をしてすまないね」
「ああいえ、これはあの子のご飯なんですよ。こうやってレンジで温めてからアイテムボックスに入れとけば、消費期限も気にしないでいつでも向こうで温かいメシが食べられるんで」
これを聞いた伊口は普段の食事内容が気になった。
先ほど井手がこれまでの経緯を説明してくれた時は、少女への食事のことをご飯やメシと端折っていたために気が付かなかったのだ。
「いつもその子に用意されているお食事は出来合い弁当なのでしょうか?」
「ええ、そうです。あっ、ちゃんとパンと弁当の種類には飽きが来ないようにこだわってますよ」
違う、そうじゃない――
「あとこの前は無料クーポンが当たったんでバーガーセットを送ったんですよ。オマケのおもちゃも気に入ってくれたみたいです」
ほらあれ、と井手は壁の一枚の絵を指し示す。
そこには頭にオマケのお人形を乗っけてストローでミルクシェイクを飲むにっこり笑顔の少女と、毎回少し傾いた姿勢で描かれるようになったグラサン姿の井手の絵が貼られていた。
「伊口君」
「はい」
それだけで意図は伝わったのか、伊口は井手へと向き直る。
「井手様、キッチンと冷蔵庫を拝見してもよろしいですか?」
「別にいいですけど、なんもないですよ。ああそれとさん付けでいいです。様付けで呼ばれるのはちょっと慣れなくて……」
伊口は分かりましたと返すとシンク周りを調べ始める。
鍋や包丁やまな板といった必要最低限の調理器具はそろっていた。
実家から持って来たお古の炊飯器はあったが、コードが巻き取られた状態で最近使われた形跡はなく、米びつの中は当然空っぽ。
次いで冷蔵庫の中を見ると、入っていたのは食パンとジャムと冷やしている途中のミネラルウォーターくらいであった。
ここ最近は半額弁当がはかどっているのだ。
伊口は顎に手を当て少し考える様子を見せたのち、買い出しに行ってきますと告げて部屋を出ていった。
「あの、菓子パンとかコンビニ弁当みたいなのってそんなにまずかったですか?」
二人きりになった井手が「俺なんかやっちゃいました?」といった感じで佐方にそう問うていた。
「いや、別に悪いわけではない。食うものに困っているのであれば、それこそ茶漬けの一杯でも十分ありがたい食事だろう。ただこの先もひと月やふた月とそれが続くようなら、成長期の子供に偏ったものばかりを食べさせるのは健康面でいささか心配かもしれんというだけだ。儂もそのあたりについては昔医者に口酸っぱく注意されたクチでな……」
佐方は今より若い頃に医師から不摂生を言い渡された経験があり、以降は健康にも気を使うように努めている。
昔は井手と同様食事に関して無頓着であったため、井手がそうした理由にも共感できた。
加えて井手はある日突然、フリーターの身で血縁でもない無関係な子供を養うことになったのだ。
だが子供を養うにしてもそれを表沙汰にできない以上、国からの支援も控除も受けることはできない。
そのような状況下で収入や費やせる時間を考えれば、彼が出来合い弁当に頼るのも仕方のないことだと佐方も伊口も理解していた。
伊口が買い出しに出掛けている間、井手は佐方とお喋りしつつ、伊口が帰って来たらすぐ使えるようにとキッチンや調理器具を洗って時間を潰していた。
そうするうちに、話の途中で佐方のスマートフォンが鳴る。
どうやら買い物から帰って来たらしい。
佐方が荷物を運ぶのを手伝ってくると言うので井手もそれに付いて行き、三人は大荷物を抱えて部屋へと戻った。
米や食材以外にも色々と買い込んだようで、レジ袋のひとつからは三人分のクッションに加え、大小合わせたぬいぐるみ達も顔を覗かせている。
更には折りたたみ式のローテーブルまで購入していたようだ。
井手はアイテムボックス出現時に端っこが消滅したローテーブルをまだ使えるからと処分せず、ミネラルウォーターが入っていた段ボール箱を支えにそのまま使用していたのだが、どうやら見かねて買ってきてくれたようである。
「ではキッチンをしばらくお借りします」
そう言って伊口は下ろし立てのシンプルなエプロンを身に着けながら調理に取り掛かろうとする。
井手は美人のエプロン姿に少し見惚れていたが、ハッと何かに気付いて急に声を張り上げた。
「あのっ、伊口さんすいません!写真を撮りたいんですけどいいですか!」
「写真ですか?」
その唐突な申し出に伊口は首を傾げる。
井手はタブレット端末を手に取ると、彼が初めて少女にホットサンドを振る舞った時の写真を見せた。
「前にこうやって料理を作ってる時の写真を向こうに送ったことがあるんですけど、今日のご飯はこのお姉さんが作ってくれたんだよって、あの子に教えてあげたいんです」
写真というワードから反射的にナンパの口実を連想してしまった伊口だったが、井手が見せてくれた写真を見てすぐに納得した。
「そういうことでしたら問題ございません」
「では儂も米を炊くくらいは手伝うか」
アパートのキッチンは手狭であったが、佐方が隣で米を研いでいようと伊口は窮屈さを感じさせずに難なく調理をこなしていた。
井手はそんな二人をタブレットで撮影していたが、最初は彼女が何を作るのか疑問だった。
調理に使う道具がテーブルの上に並べられていたのだが、それらの中には糸切りバサミや化粧バサミ、デザインナイフに加えてピンセットまであったのだ。
どちらかと言えば手術道具のほうが近い。
井手にはそれらが調理器具とはとても思えなかった。
だがその理由はすぐに判明する。
彼女が作ろうとしていたのはキャラ弁だったのだ。
伊口がキャラ弁に決めたのはたまたまだ。
彼女は井手もよく利用している近くの総合スーパーで食材その他を調達したのだが、食品売り場へ向かう途中でぬいぐるみに目が留まり、当初予定していたワンプレート料理から子供が喜びそうなキャラ弁作りに変更した。
伊口は独身でそれまでキャラ弁を作った経験はないのだが、手先の器用さや記憶力の優れている彼女は、以前目にしたキャラ弁作りの動画からその技法については把握していた。
早炊きモードで白米が炊きあがると彼女はそれを型枠へと押し込んで形を整え、海苔などの食材を器用に切り出して作ったパーツで装飾を施し、買ってきたぬいぐるみのキャラを弁当で改善再現してみせたのだ。
まさにプロ顔負けの手際である。
「へー!こんなにそっくりに弁当で再現できるものなんですね」
「儂も初めて見るが見事だな」
「恐縮です」
そうして出来上がった子供サイズの小さな弁当を見て男性陣は感心した。
伊口の弁当は見栄えの良さだけでなく、栄養バランスもきちんと考慮されている。
また弁当とは別に温かいコーンスープも用意され、そちらは市販の粉末スープに追加のコーン缶を投入したものが可愛いマグボトルへと注がれていた。
「子供に作って上げるのは初めてですので、喜んでもらえるといいのですが……」
「大丈夫です!これなら絶対喜びますよ!」
味については井手の舌で既に保証済みなのだが、井手は少女が喜びすぎるんじゃないかと逆の意味で不安に思ったくらいなのだ。
彼は先ほどまで行っていた撮影の最中に、美味そうな料理の匂いと見た目につられて美人の前で腹の虫を鳴らす失態を犯してしまった。
その際気を利かせた伊口が、味見をお願いしますとフォローする形で切れ端部分を皿に盛って差し入れてくれたのだ。
井手は最初に選んだだし巻き卵を一口食べたその瞬間、別に味は親の料理とも似てもいないがなぜか故郷の川とかの風景を思い出し、そのあまりの美味さに自然と涙が零れ落ちた。
そして食べながら思ったのだ。
この伊口の弁当を食べた少女が感動のあまりむせび泣き「これに比べたらウチが今まで食べてたお弁当はカスや」と今の時代ならコンプラ的にアウトなセリフをつい口走り炎上するのではないかと危惧してしまった。
伊口のキャラ弁はそれほどまでに完璧な出来栄えであったのだ。
井手は最後に弁当と伊口を中央に捉えた三人の集合写真を一枚撮ると、プリンターでそれらの写真を印刷してひとつの冊子へと仕上げた。
弁当を収納している岡持ちは今日だけ特別仕様だ。
蓋を開けると中には矢印の書かれた紙がデカデカと貼られており、特製キャラ弁の仕舞われた棚がこれでもかと強調されている。
棚には弁当箱以外にもマグボトルやモチーフとなった手乗りサイズのぬいぐるみ、そしてクリアファイルに入れた連続写真の冊子も入れておいたが、それらが入った岡持ちは夕食時にアイテムボックスの中から一度消え、そうして無事に異世界へと転送される様子を三人で驚きながら見送った。
「弁当ならあの中に沢山あるんで、良かったら食べていきます?全部半額のやつでアレですけど」
「ありがとう。ご馳走になるよ」
「ご相伴に預かります」
そうして部屋で夕食を済ませた頃にアウトレットモールで買い込んだ商品が宅配で届けられたので、その後も三人は井手の部屋にたむろする形で新たに送る道具のマニュアル作りを手伝いながら、少女からの返事を待っていた。
「きっと今頃向こうでびっくりしてますよ」
井手がそう言って伊口に笑いかけたのは、先ほどから彼女に落ち着きがなかったからである。
伊口は三人揃って食事を取っている時も、マニュアル作りの最中も、ずっとそわそわした様子でアイテムボックスを気にしていた。
ちゃんと少女に美味しく食べてもらえたのか、やはり気になるのだろう。
それからしばらくして、アイテムボックス内に連絡用の収納ケースが現れた。
「伊口さん。これ、良かったら貰ってください」
先に中身を確認した井手は、そう言って中に入っていた人数分の花と一緒に一枚の絵を伊口に手渡す。
絵の中央には貰ったばかりのぬいぐるみを胸に抱いた笑顔の少女が描かれている。
いつもは二人だけだった絵は四人に増えていた。
「いただいてもよろしいのですか?」
「ええ、どうぞ」
井手は彼女が微笑んでいるところを初めて目にした。
伊口はお礼を言って立ち上がると、再びエプロンを身に付ける。
「すみません。キッチンをもう一度お借りします」
「何を作るんですか?」
「いくらでも保存が利きますので、明日の分のお弁当も先に用意しておこうかと」
「あ、だったら何か手伝えることってありますか?」
「そうですね……」
伊口は顎に手を当て逡巡する。
「では、そちらのテーブルでクッキーを作っていただけますか?材料はそろっていますし、お弁当で使った押し型もそのまま型抜きに転用できます。作り方は簡単ですので、調理しながら口頭でお教えします。焼く時はオーブンの代わりにフライパンで代用しましょう」
「かしこまり!」
* * *
若者二人がこちらの気苦労も知らずに呑気に料理を始めたのを見て、佐方は少し前まで疑心暗鬼に陥っていた自分がバカらしく思えてきた。
恐らくこの青年が選ばれたのは、ひとえにその無欲さゆえであろう。
実際自分も彼の人柄については気に入っている。
そして経済的に乏しい彼を金銭面でサポートするために自分が選ばれた――それだけの話しだ。
会社は息子に任せて既に身を引いている。
後は残りの余生を楽しむだけだと思っていた矢先に、人生最後の大仕事を押し付けられた。
なんのことはない。
神だか何だか知らないが、要は己の力が及ばぬ別世界だからと、そいつは我々に仕事を丸投げしてきたのだ。
やるべきことは単純明快。
たった一人の幼い少女を手助けしろというだけだ。
企業経営に比べれば造作もない。
こちらは金も時間も持て余しているのだ。
どうせ暇なら手を貸してやれと言われている気さえして笑えてきた。
「少し出掛けてくる」
佐方は小さく笑みを浮かべて手の中の花を胸ポケットに挿すと、普段より少しだけ賑やかになった部屋を後にした。




