それなら、俺のために死んでくれ
「どう?落ち着いた?」
「はい……急に泣いたりしてごめんなさい。」
奏人くんは、自分の顔を見た途端に号泣した私を、困惑しながらも落ち着くまで傍で見守っていてくれた。やっぱり奏人くんは優しい。
奏人くんのファンとして、これ以上は彼に負担は掛けられない。泣くのは、これで終わり。思いきり泣いて気持ちも落ち着いたので、先ずはこれからの事を考えよう。
エルミアに戻って、ただ嬉しさの余りに泣いてしまったが、よく考えればおかしな話だ。
この世界での私は一度死んでいるはず。それなのに、同じ体で此処にいるのは、普通はおかしい。見た感じ年齢的にもエルミアの実年齢と同じくらいに見える。
私は、転生したら新しい体に生まれ変わると思っていた。日本での体も微妙に違っていたし、美子姉さんの見るアニメやゲームでも、転生者は別の体に生まれ変わっていた。
日本で死んで転生したなら、この世界でも違う体に生まれ変わるはず。
(またエルミアとして生きていけるなんて……)
この姿で生きていくなら、家族の元に帰ってもいいのだろうか。両親や兄様達に、とても会いたい。でも、私が死んで10年が経つ。もう誰も私の事など覚えていなかったら、それはそれで悲しすぎる。それなら、帰ったところで迷惑になるかもしれない。
だけど、この転生の繰り返しが私の力なら、両親なら何か知っていそうだし、奏人くんを(ついでにマネージャーも)元の世界に帰す方法も分かるかもしれない。それなら、迷わず家族に会いに行くべきだ。
ああ、でも奏人くんが日本に帰ったら、一生会えなくなるんだ。それは、かなり寂しいな。
「どうしたの?思い詰めた顔をしているけど大丈夫?まぁ、こういう状況だから不安だろうけど、何とかするから、元気出してね。」
ほんとに優しいな。突然、知らない場所に居て、状況も分からず、奏人くんも不安だろう。それでも私の事を心配してくれて、本当に優しい人。顔だけでなく心も綺麗だなんて、奏人くんは、全てが完璧すぎる。
はぁぁぁ、奏人くんが居るだけで空気も綺麗に浄化されて、その場が澄んでキラキラと輝いて見える。
きっと、奏人くんは神に選ばれた唯一の特別な王子様なんだ。
「心配してくれて、ありがとうございます。奏人くんに心配かけるなんて、ファン失格ですね。」
私が照れ笑いを見せると、奏人くんの顔から笑顔が消えた。
「ファン?君は僕の事を知ってるの?」
ずいっと顔を寄せて、奏人くんが私の顔を凝視する。その顔が、段々と怪訝な顔に変わっていく。
「何だろう。君とは初めて会ったはずなのに、どこかで見た気がする。僕たち、どこかで会ったことがある?」
(ひぃぃ……顔が近いぃぃぃ。ヤバ。鼻血出そう。)
不意の接近で、国宝級イケメンの至近距離での凄まじい破壊力に、私は息も絶え絶えになりながら、何とか奏人くんから距離を取る。
「うきゃ、ちか……近いです。不用意に顔を寄せるのは止めてください。心臓が止まります。もちろん、会ったことはありますよ。私はずっと奏人くんのファンで、ここに来る前まで………一緒に………あっ……。」
奏人くんの表情が私を見つめたまま驚きで固まった。
「待って……きみ…その顔……まさか、僕を庇って刺された子なの?」
完全にばれた。イケメンに動揺し過ぎて失言だった。
「イヤ……あの……ちが…わないけど、違います。これはですね。何て言ったらいいのか……。」
私が原因で、異世界に飛ばされちゃいましたとは言えない。奏人くんに話して嫌われたり、虫けらを見るような目で見られたら、私の人生はそこで終わる。
解決策が見つかるまでは、何とかして誤魔化さないと、まだ話せない。
「君、何か知ってるんだね。お願いだ。どうか話してくれない?僕にも何か出来ることがあるかもしれないし、それに君には命を救ってもらったんだ。今度は僕が君を救いたい。お願い、僕に君を救う機会を与えてくれないかな。君の知ってることを聞かせて。」
奏人くんが両手で私の手を取り、その手を優しく包み込む。潤んだ瞳で見つめられ、私の心臓が、16年間生きてきた中で一番の速さで鳴りまくる。
「ひゃぁぁ!!話します!今すぐ話すので、手を……手を、離してぇ……。」
私を救いたいと、私の為に出来ることをしてあげたいと、私に命を捧げたい(?)と、懇願する奏人くんを拒絶することなど私にはできない。
それに、よく考えたら奏人くんに隠し事をするなんて、それこそファン失格。
推しには、私の全てを捧げ、全てを開放して信頼してもらわなければ誠実なファンとは言えない。些細なことでも隠し事はNOだ。
それに、奏人くんにはどんな時でも心穏やかに過ごして欲しい。そのためなら、嫌われるかもしれないという私の自分勝手な考えは切り捨て、全てを話すことが大事だ。
「分かりました。私の知ってることを全て話します。実は………。」
私は、奏人くんに全てを話した。実は、転生者で今回が2度目の転生であること。ここは、以前私が住んでいた世界の可能性があること。ただ、ここが何処かはハッキリ分からないこと。そして、奏人くんが私の転生に巻き込まれて一緒に転移してしまったこと。
私が話している間、奏人くんは真剣な顔で黙って聞いていた。
「………ということなんです。私の転生に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。必ず元の世界に戻る方法を見つけるので、もう暫く待っていて下さい。」
頭を深く下げて奏人くんに謝罪する。少しの無言の後、深い溜め息が聞こえた。
「はぁぁ、話しは分かった。それで確認なんだけど、あんたの話だと、死ぬとあんたは転生するんだよね?」
体が凍りつきそうな冷たい低い声に、私はゆっくり頭を上げる。視線の先には、眉間に深い皺を寄せ不機嫌そうな顔で、私を睨み付ける彼がいた。
「それならさぁ、もう一度死んだら元に戻れるんじゃないの。」
「へゃい……?」
奏人くんのはずなのに、私を睨み付ける顔には、王子様は何処にもいない。
優しい笑顔で優しい声で、みんなに美しい歌声を届ける素敵な彼は、どこにいったのか。
「俺さ、叶えたい夢があるんだよね。だから、今すぐに元の世界に戻りたいの。」
私の知ってる奏人くんとは、余りにも掛け離れていて気持ちの整理が追い付かない。目を伏せ、彼を見ないようにする。それでも、冷たい視線を感じて、私の体が震える。
「だからさ、おまえ、もう一度俺のために死んでくれる?」
私の顎に手を添え、無理やり上向きにされると、彼と視線が重なる。
死んでくれと言った彼の顔には、冷たい笑みが浮かんでいた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。次回もよろしくお願いします。




