えっ……まさか、またですか?
眩しい光に包まれて、次に目を開けると、ガッチリした何かに抱きついていた。
「うわっ、光で目がやられた。ちょっと何も見えないよ。えぇ、ちょっと……なに?」
パシパシと瞬きを繰り返していると、少しずつ目が慣れてきたが、少しぼやける。
まだハッキリ見えない中で、抱きついていた何かを手でペタペタ触れて確認する。
(壁?にしては……少し柔らかいな。あれ?何だかこの壁、いい匂いがする。)
いい香りと感触がちょうど良くて、スリスリと頬擦りしていると、頭上から「チッ」と舌打ちのような音が聞こえた。
その音に、上を見上げる。ぼやけた視界の中で大好きな人の顔が見えた気がして、更にパシパシと瞬きを数回繰り返す。
ハッキリとした視界の中、見上げた先に見えたのは、間違いなく最愛の推しの顔。
(えっ……まってまって…これって夢だよね?)
そっと震える手で、目の前に見える国宝級のイケメンつるつる肌に手を伸ばす。
(やだっ……凄いスベスベしてる。ほっぺ柔らか……。まって、感触が本物なんだけど……。)
頬っぺを触ってると、その手をガッチリと掴まれる。
「あの、もういいかな?くすぐったいから、触るの止めてくれる?」
ニッコリと微笑むその顔は、間違いなく最愛の推しで、壁だと思っていたのは最愛の推しの体で、私は恐れ多くも奏人くんに抱きついた状態だった。
「ひぃあぁぁぁぁぁ!!!!」
変な叫び声がこだまする中、私は再び意識を失った。
♢♢♢♢♢♢
「……んっ……」
「……ああ、良かった。起きた?」
その聞き覚えのあるイケボに一気に意識が覚醒する。目を開くと、目の前に国宝級イケメンの素晴らしい顔が見える。
「ぴゃっ……ど、ど、ど……どういう状況!」
急いで飛び起きて、奏人くんから距離を取る。
「あぁ、君がまた倒れちゃったから目覚めるまで膝枕してたんだよ。直ぐに目覚めてくれて良かった。体調はどう?」
「ひ……膝枕……」
推しに膝枕してもらえて、人生最大の幸福。きっと、寝心地も良かったでしょうね。意識なくて全く覚えてないけれど……ぐぬぬぬ、残念。
あぁ、でも倒れて奏人くんのお手を煩わせてしまうなんて万死に値する。
チラッと奏人くんを見ると、王子様スマイルで私を見ている。体調を気遣う優しい奏人くんに心臓の鼓動が速くなり、呼吸も浅くなり、そのうち眩暈がしてくる。
「ちょっと落ち着いて、ほら、ゆっくり呼吸してみて。吸って…吐いて…吸って…吐いて…。どう?大丈夫?」
奏人くんの言葉に合わせて呼吸を繰り返すと、少し落ち着いてきた。
「取り乱してすみません。平気じゃないけど、大丈夫です。」
奏人くんが近くにいるだけで、平常心は保てない。ただ、迷惑を掛けるのだけは嫌なので、一旦、無理してでも落ち着こう。
「大丈夫なら良かった。僕たちも状況が分からなくて困ってるんだよ。君は、ここが何処か知ってる?気づいたら君が抱きついた状態でね。僕たちは室内にいて、君とは違う女の子を抱えていた筈なんだけど、光に包まれたと思ったら此処にいたんだ。」
奏人くんの説明で、直前の記憶を思い出した。
(そうだ。私はナイフで刺されたんだ。)
奏人くんのストーカーに、彼を庇って刺され、たぶん……私は死んだ。それで、まさか、また転生した?
(それなら、奏人くんは何故ここにいるの?)
死んだら転生するということは、私と一緒にいる彼も転生したことになる。
あの刺された痛みを、彼も同じように感じたとしたら、救えなかった自分が許せない。
「もしかして、奏人くんも刺されたの?どこ?どこを刺されてしまったの。」
転生後の体に傷が残っている事は無いと思うが、心配で彼の周りを一周回って確認する。何処にも出血の後はなく安堵する。
「僕は…刺されていない。ファンの子が庇ってくれたんだ。でも、その子が大怪我をして、どうなったか知りたいけど……ここが何処かも分からなくて、マネージャーと二人で途方にくれてたところなんだ。」
「えっ?マネージャーさんも一緒なの?」
周囲を見渡すと、少し離れたところで木の棒を持ったマネージャーさんが見えた。
奏人くんしか見てなかったので、全く気づかなかった。
「奏人くんは、ここにくる直前の事で、何か気づいたことはありますか?」
私の言葉に、奏人くんは暫し考える。そして、何か気づいたように顔を上げた。
「そういえば、彼女が目を閉じた途端、眩しい光に包まれて、彼女を囲むように円形の何かが床に浮かんでいたな。僕は彼女に抱きつかれて動けなくて、マネージャーが慌てて僕に触れた途端、気づいたらここにいたんだ。」
話を整理すると、私が刺されて死んでしまって10年前みたいに転生した。眩しい光と、円形の何かを考えると、魔法が発動した可能性もある。死んだらみんな転生するのかと思ってたけど、10年前も私が無意識に魔法を使ったのかもしれない。
それで、信じたくないけど、私が奏人くんに抱きついていたから、生きてる奏人くん達も一緒に転生に巻き込まれてしまった。
この場合、奏人くんは生きてるから転生ではなくて、転移とかになるのかな。どちらにしても、完全に私が原因で私が悪いってことだ。
(うわぁ……めちゃくちゃ申し訳ない。転生の巻き添えで何処かに転移しましたって言いづらいよ。)
取りあえず、今は私が何処に転生したのか知らないと、これからの対応も変わってくる。
同じ日本だったらいいけれど、異世界だったら、謝って済む問題じゃなくなる。
周囲は木々に囲まれていて、山とか森だと思うけど、ずっと此処に居るわけにはいかない。生きるためには、人のいる場所を探したいけど、何も分からないから、どっちに行くべきかも分からない。
(困った。完全に詰んだ。)
考え悩んでいると、私の肩に大きめの上着が掛けられる。
驚いて振り返ると、優しい笑顔の奏人くんと視線が重なる。
「君の格好、少し寒そうだからね。僕の上着で悪いけど、良かったら使って。」
今まで奏人くんが着てた上着なので、彼の温もりと彼の匂いがした。
「暖かいです。貸してくれてありがとうございます…………。んっ?ちょっと待って……。」
寒そうな格好って言われて、改めて自分の着ているものを見てみると、私の着ていた服と違っている。とても高級そうな肌触りの良い薄手のワンピースに変わっていた。
しかも、体型が違う。俯いた時に視界に入る私のお胸が、明らかにでかくなってる。それなのに、腰もお腹も細い。バイトで鍛えた私の自慢の腕も細くなっている。
「……あっ、金色……。」
サラサラとした長い金色の髪が、懐かしい記憶を鮮明に思い出させる。
「あの……鏡……鏡を持ってませんか?」
自分の顔を確認したくて、奏人くんに震える声で尋ねる。
「鏡は、持ってないな。」
分かりやすくガッカリした私に、奏人くんはポケットからスマホを取り出した。
「鏡はないけど、これならどう?」
「ありがとうございます。お借りします。」
私は、直ぐにスマホを受け取りカメラを起動する。
「ああ、私だ。ちゃんと私に戻ってる。」
スマホの中には、日本での私の顔とは微妙に違うけど、六年間見慣れた顔が映っていた。金色の髪に青色の瞳で、ぱっちり二重の幼い頃より成長したエルミアが、そこに居た。
「えっ、ちょっと大丈夫?」
自分の顔を見て泣き出した私に、最愛の推しが慌てている。それが可笑しくて、泣きながら笑った。
どうやら私は、日本で死んで、またエルミアとして帰ってきたようだ。
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