家族と再会、転生の秘密
「エルミア!嗚呼、無事で良かった。本当に……良かった。無事に目覚めて嬉しいよ。おかえり、エルミア。」
私と奏人と植田さんは、アド兄様と一緒に馬車に乗って、屋敷まで向かった。
アストさんとハリオさんとは、街でそのまま別れた。魔物から守ってくれた二人には、後でお礼をするとアド兄様が言ってくれた。
そして、現在。ヴァレンシアの屋敷に着くと、私の覚えていた記憶よりも、少しだけ目尻の皺が増えたお父様が駆け寄ってきた。
そして、そのまま強く私を抱きしめる。強すぎて息ができない。く…くるしい。
「父上、エルが苦しがってます。力を緩めてください。」
アド兄様が、慌ててお父様から私を引き剥がした。
「ああ、すまない。嬉しすぎて、つい力を入れ過ぎてしまったな。エルミア大丈夫か?」
お父様が、しょんぼりとした顔で私を見てる。まるで叱られた大型犬の様で、有る筈のない垂れた耳が見える。
(お父様のこんな顔、私が幼い頃も見たことないな。)
渋顔のイケオジが見せるしょんぼり顔は、何だが可愛く見えて、今度は私からお父様を抱きしめてあげる。
「お父様、私の事を待っててくれて、ありがとう。ただいま。」
「ああ、ああ……おかえり。エルミア、私の可愛いお姫様。」
涙を浮かべたお父様が、今度は優しく抱きしめてくれた。そういえば、幼い頃は、お父様から『私の可愛いお姫様』って呼ばれてたんだった。ちょっぴり恥ずかしいけど、とても懐かしい。
「それで?無事にエルミアが戻って喜ばしい事だが、彼らは誰だ?」
お父様が、私の後ろに鋭い視線を向けて、冷ややかな声で話しかける。
「彼らは、エルの知り合いです。父上、これからの事も含め、エルが目覚めた経緯も聞く必要があるでしょう。ただ、エルも疲れているので、夕食後に改めて話す時間を設けては、いかがでしょう。」
奏人と植田さんを雑に紹介して、アド兄様が、私を部屋へ案内しようとする。
このままでは、奏人達がどんな扱いを受けるか分からない。
屋敷へ帰る馬車の中、私が日本での事を話す間もアド兄様は奏人を睨みつけ、馬車の中の雰囲気は最悪だった。そんな兄の失礼な態度も、奏人は気にせず王子様スマイルを見せ、自分の周りを輝かせていた。さすが、国宝級イケメンは、どんな時も輝くことを忘れない。
ここでは、最上級の客人として迎える必要がある。推しが快適に過ごせる事は何よりも重要だ。折角、大好きな推しが実家に来てくれたのだ。何よりも大切に、丁寧なおもてなしで、満足して頂くのは当然のことだ。
「お父様、彼は私の何よりも大切な大切な大切なお方です。だから、それはもう丁寧な対応をお願いします。お部屋も屋敷で一番の客室で過ごして頂きたいです。良いですよね?」
私がお父様に微笑めば、複雑な顔をしたお父様が、渋々といった感じで奏人と植田さんを丁重に扱うように皆に指示している。
「それじゃあ、ゆっくり休んだら一緒に夕食を取ろう。それから、いろいろ話を聞かせてくれるね。」
「はい、お父様。私ね、話したいことが沢山あるのよ。」
私の言葉に、お父様の表情は柔らかくなり、優しい笑顔を見せる。
「あの、奏人も植田さんもゆっくり休んでね。」
屋敷や私の家族に圧倒されていた植田さんも安心した表情をみせる。奏人はずっと表情を崩さず、王子様な奏人を保っている。
「ありがとうミアちゃん。」
植田さんのひと言を最後に、二人は部屋へと案内されていく。
「それじゃあ、私も部屋に戻ろうかな。」
メイドに声をかけると、私の部屋まで案内してくれる。そこは、私が6歳まで使用してた部屋で、部屋の中は綺麗に整理されていた。お気に入りのぬいぐるみや絵本もそのままで、家族が私を大切に思っていた事が伝わって、涙が止まらなかった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「エル、おかえり。僕の可愛いエル。目覚めてくれて嬉しいよ。ルカ兄様だよ。勿論、覚えているよね?」
長身に金色の髪で緑色の瞳を持つ男性が、嬉しそうに近づいてきた。幼い頃の記憶よりも更に格好良くなっているが、人懐っこい所は変わらないようだ。
「ただいまルカ兄様。勿論、ちゃんと覚えてるよ。兄様に会えて嬉しい……けど、アハハ、ちょっと……くすぐったい。」
お父様とアド兄様と夕食を取り、談話室へ向かうと、暫くしてルカ兄様が帰ってきた。
再会して直ぐに、私を抱きしめて頬擦りしてくる。くすぐったくて恥ずかしくて身をよじると、またアド兄様が後ろから引っ張って助けてくれた。
「あっ、兄上、邪魔しないでくれよ。折角、目覚めたエルと兄妹の再会を喜び合っているのに……。何?もしかして寂しいの?ヤキモチ?」
揶揄うように、クスクスと笑いながらルカ兄様がアド兄様を見ている。
「うるさい。エルが迷惑しているだろう。少しは自重しろ。さあ、エルは俺の隣に座ろうね。」
アド兄様が、私をそのまま自分の隣に座らせると、ルカ兄様もその隣に腰掛ける。
「兄上だけ、ずるいよ。僕もエルの隣を確保。」
兄二人の変わらぬ様子に、昔を思い出して胸がじんわりと温かくなる。
(はぁ、私は、本当に帰ってきたんだな。)
変わらずに私を迎え入れくれた家族の優しさに、変わらずに私を大事に思ってくれる愛情に、嬉しくて幸せで目に涙が浮かぶ。
「お兄様たち、大好きよ。」
私の言葉に、二人が目を丸くして固まった。それから、直ぐに表情を崩す。
「俺もエルが大好きだよ。」
「僕だって、エルが大好きだからね。」
そう言って、嬉しそうに二人は優しい笑顔を見せる。
「お前たちは、本当に仲の良い兄妹だな。さて、仲の良いのは分かったが、まずはエルミアの話を聞かせてくれないか。」
お父様の言葉を聞き、お兄様達も真剣な表情になり、私を見つめる。
「そうですね。まずは、私が6歳で死んで後、日本と言う国に転生したことからお話しますね。そこでは……。」
私は、日本で美子姉さんに拾われたこと、魔法は存在しないが、高度な技術を持つ世界であること、そこで私は女子高生だったこと。そして日本で死んで、気がついたらカヌレの森にいたことなど、これまでの全てを話した。
「それで、日本で死んだ時に奏人にくっついていたからなのか、間違って一緒に奏人と植田さんも転移したみたいなの。」
お父様とアド兄様の表情は険しく、とても不機嫌だ。ルカ兄様だけが、怪訝な顔で私を見ている。
「お父様、私の転生についてお父様は何か知ってますか?これって、もしかして私の魔法なの?」
不機嫌なお父様に、転生について確認する。何か知っているなら奏人と植田さんを日本に帰すヒントが分かるかもしれない。
「そうだな。これはエルミアの力だよ。特殊能力になる。エルミアだけが持つ能力だ。だから、誰にも話してはいけないよ。家族以外には知られてはいけない。ヴァレンシア家では、特殊能力を持つのは、エルミアとアドクリスだけだ。エルミアの能力は、''再生''で、アドクリスの能力は、''幸福''だ。」
私とアド兄様だけが持つ特殊能力。私の能力は転生することだけど、アド兄様はどんな能力だろう。
「私の能力は、私が心の底から幸せを望んだ相手に、生涯幸運をもたらす能力だよ。」
私が尋ねる前に、アド兄様が私の顔を見て先に教えてくれた。
生涯の幸運か。アド兄様の能力も桁違いに凄い能力だ。
「凄い能力ね。お兄様は能力を使ったことはあるの?」
私の能力は使おうと思って使ったものではない。死んだら勝手に発動する能力だと思う。でも、お兄様は違うようだ。望んだ相手と言うことは、自分の意思で使えるということだ。
お兄様が、心の底から幸せにしたいと望む相手が誰なのか、私的にはとても気になる。
「使ったことは……あるよ。」
「えっ!誰に使ったの?」
まさか本当に使ったことがあるなんて、誰なのかとても知りたい。
「エルだよ。エルに使った。」
「へっ?わた…わたし?」
予想外の答えに驚きすぎて、それ以上言葉が出ない。
「10年前にエルが毒を盛られた日だ。エルが意識を失う前に、エルが幸せになるように願ったんだ。」
そういえば、あの時アド兄様が最後に何か言っていたのを思い出した。私は、死にそうだったから声は聞こえなかったけど、まさか能力を使っていたなんて知らなかった。
「エルミア、本来ならちゃんと死んで転生するのが君の能力だ。だが、エルミアの体は死んでいなかったんだ。ここでは、ただ眠っているだけで、心臓は動いていた。多分、魂だけが体を離れて転生したんだ。これは一つの仮説だが、アドクリスの特殊能力がエルミアの特殊能力に何らかの影響を与えたんだ。それで、体は眠った状態のまま維持された。だから、エルミアはニホンで死んで、再び元の体に戻ってきたんだ。」
特殊能力同士が影響し合って、本来の能力とは少し違った結果をもたらした。
そもそも、特殊能力は何度も使えるものなのだろうか。
「お父様、それならもう一度死んでも転生して日本に戻るかは誰にも分からないの?私は、まだ能力を持っているの?」
奏人と植田さんを日本に帰す方法を見つけなければならない。死ぬ方法しかないなら仕方ないと思う。でも、出来ることならそれは避けたい。
「転生先は選べないと思うが、詳しくはお父様も知らないんだ。だが、エルミアの能力は、消えてないはずだよ。寿命で死ぬ以外、君は何度でも転生できる。でもね、アドクリスの能力のこともあるから、次はどうなるか正直分からない。次こそ体も死んでしまうかもしれないからね。だから、危険なことはしないで欲しい。」
お父様が悲しそうな表情を浮かべる。私は、この10年間、家族に辛く悲しい思いをさせていたのね。
「分かってる。私も死ぬのは嫌だし、家族と離れるのは嫌だから、次こそちゃんと生きて幸せにるからね。」
私は、家族にはいつだって笑っていて欲しいから、この能力は絶対に使わない。
「うーん、でも、それなら困ったな。奏人と植田さんを帰す方法は、お父様も分からないんだね。どうしよう。」
奏人は叶えたい夢があるから日本に帰りたいと言っていた。推しの夢は必ず叶えてあげたい。これは、私を含めたファンの皆の願い。
(本人にも、何て説明しよう)
帰る方法が分からないって言ったらショックを受けると思う。ああ、どうしたらいい。
「エル、ちょっといいか。その、カナトとウエダサンってのは誰なの?エルの友達?」
ずっと怪訝な顔して、私たちの話を聞いていたルカ兄様が、皆が黙った隙をついて疑問を口にする。
「そっか、ルカ兄様はまだ会ってなかったね。植田さんは奏人のマネージャーで……えっと、お世話係みたいな感じ?の人なの。それで、奏人は……奏人はね、私の大好きな人だよ。大切な私の推しなの。」
ピキッと音がして、テーブルの上のカップやお皿が全て割れた。そして、テーブルや部屋全体がガタガタと揺れている。
(えっ?地震?)
この世界にも地震があるのかと怖くてアド兄様とルカ兄様の腕を掴む。
「ルカ、いい加減にしろ。エルが怖がってるだろう。魔力を抑えろ。」
アド兄様の怒ったような低い声に、ピタリと地震が収まった。
「ふぅぅ、いや…怖がらせてごめん。エルが好きな人って言うから、怒りが抑えられなかった。それで、そいつらは何処にいるの?今すぐ連れてきてよ。エルに相応しい相手か僕が見てあげる。」
ルカ兄様が、悪い顔をしている。これは、奏人を会わせたらダメなやつ。万一、推しに何かあればファン失格。全力で兄から奏人を守らないと……ここはファンの底力を見せてあげる。
「ルカ兄様、もしも奏人に何かしたら私は、絶対に許さないからね。私は、身も心も全てを奏人に捧げているの。私の全ては奏人の物なのよ。だから、奏人に意地悪したらルカ兄様を嫌いになるからね。」
どうだ。ここまで言えば奏人に手出しはできないでしょう。
「何だって……身も……心も……」
ルカ兄様が、顔面蒼白でこの世の終わりみたいな顔でブツブツと何かを呟いている。
「エルが…エルが……そんな……。」
「私の…私の可愛い……私だけの…。」
何故かアド兄様もお父様までもが、同じような顔で、ブツブツと言い始めてしまった。
「三人とも、どうしたの?ねぇ、大丈夫?」
私の声にも三人とも反応無し。放心状態でこれ以上は話しにならない。仕方がないので一旦終了となった。
(このまま、奏人と植田さんに分かったことを話しに行こうかな。)
割れたカップやお皿を片付けるメイドが気の毒そうな顔で、お父様やお兄様達を見ていたのが、私は不思議だった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。




