第六話:神との交換日記
レイラちゃんがどこかへ飛んで行ったあと、静かになった部屋で、僕は机の上の黒いノートを見つめていた。
レイラちゃんは「気軽に使っていい」と言っていた。
でも、相手は神様だ。
気軽に話しかけろと言われても、さすがに少し緊張する。
それでも、どうしても気になっていることがあった。
僕はペンを取り、ノートへ文字を書き始める。
『ダンジョン出現計画についてレイラちゃんから聞きました。
そこで気になったことがあります。
この計画は、僕がノートに「ダンジョンを作る」と書いたあとに考えられたものなんですよね?
それにしては、ちょうど魔物が増えすぎて困っている異世界が存在するなんて、出来すぎている気がします。
これは偶然なんですか?
もし偶然だとしたら、僕がダンジョンを提案する前は、その異世界をどうやって助けるつもりだったんですか?』
書き終えると、しばらくして黒い文字の下へ赤い文字が浮かび上がる。
『そうだよ〜。偶然だね。』
思ったより返事が早い。
『ちょうどその異世界をどう助けようかな〜って考えていた時に、君がダンジョンのことを書いたんだ。
「それ面白そう!」って思って、ダンジョン出現計画を考えた感じかな。』
少し間を置いて、さらに赤文字が続く。
『実はその前は、勇者として地球人を何人か異世界へ送ろうと思ってたんだよね。
でも、勝手に送るのは申し訳ないし、本人たちの人生もあるから。
だから君がダンジョンを提案してくれて助かったよ。
ありがとう。』
さらに赤文字は続く。
『レイラも言ってたと思うけど、二つの条件を達成したあとも、ダンジョン管理のためにボクの眷属を続けてくれたら嬉しいな。』
……思ったより長文だ。
しかも質問にもきちんと答えてくれる。
神様というより、面倒見の良い先生みたいな人だ。
僕は少し考えてから返事を書く。
『眷属については、もう少し考えさせてください。』
返事はすぐに返ってきた。
『うん、もちろん。
それと、このノートはいつでも使っていいからね。
ダンジョンのことじゃなくても、恋愛相談でも、進路相談でも、普通の雑談でも何でも大丈夫。』
赤文字は楽しそうに続いていく。
『ボクの眷属たちって、みんな真面目なんだよね。
話しかけても仕事の話ばっかりで、全然面白くないんだ。
一応、君たちの言う神様ではあるけど、そんなに偉い存在だと思わなくていいよ。
気軽に話しかけてくれたら嬉しいな。』
最後に一文だけ付け加えられる。
『……と言っても、もうすぐ学校が始まるから忙しいだろうけどね。』
学校?
その一言で、ようやく思い出した。
ノートの検証に一週間。
ダンジョン出現計画を考えるのにさらに一週間。
気が付けば春休みはほとんど終わっていた。
カレンダーを見る。
もう既に四月に入っている。
新学期まで、あと一週間ほど。
……学校のこと、完全に忘れてた。
いや、待て。
世界規模の計画を進めるんだぞ?
学校なんて行ってる場合じゃなくないか?
そう考えた僕は、ノートへ書き込む。
『ダンジョン出現計画について色々考えないといけないので、学校は休もうと思います。』
すると、返事は一瞬だった。
『ダメ。』
短っ。
思わず笑ってしまう。
続いて赤文字が浮かぶ。
『せっかくの青春なんだから、ちゃんと楽しみなよ。
ダンジョン出現計画は、そんなに急ぐ必要ないから。
極端な話、学校を卒業してから本格的に始めてもいいくらいなんだ。』
さらに続く。
『もちろん学校へ通いながら少しずつ考えてくれたら嬉しいけど、無理はしなくていい。
そこまでボクはブラックな神様じゃないからね(笑)』
『でも、向こうの異世界は魔物が増えて困ってるんですよね?』
少し気になって聞いてみる。
『そうだけど、ボクたち管理者は数十年単位で物事を考えるからね。
向こうも今すぐ滅ぶわけじゃない。
ボクも元々、勇者を送る計画は二十年後くらいを考えてたし。
それまでに向こうの管理者とも色々相談しないといけない。
だから焦らなくて大丈夫。
ゆっくり、最高のダンジョン出現計画を考えてくれればいいよ。』
そう返事が返ってきて、ふと一つ気になることが浮かんだ。
『じゃあ、最初に「一週間以内に条件を達成する方法を考えて」って言っていたのは何だったんですか? あれのせいで、結構焦ったんですけど。』
すると、赤文字は少し間を置いてから答えた。
『あー、それ?』
『期限を決めないと、君なら「そのうち考えよう」で終わりそうだったから。』
『え?』
『実際、一週間って言われたから真剣に考えてくれたでしょ?』
『……まぁ、それはそうですけど。』
『だから、ちょっと背中を押しただけ。もちろん、思いつかなくてもペナルティはないって最初から書いてたしね。』
その言葉を読んで、不思議と肩の力が抜けた。
僕だけが焦っていたらしい。
『分かりました。
これからゆっくり考えていきます。
今日は色々教えていただき、ありがとうございました。』
しばらくして、最後の返事が返ってくる。
『こちらこそ。
ボクも楽しかったよ。
それと、敬語じゃなくてもいいからね。
堅苦しいの、あんまり好きじゃないし。
じゃあ、またね。』
そこで赤い文字は止まり、ゆっくりと消えていった。
僕はノートを閉じる。
――これが、僕と神との交換日記の始まりだった。




