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神との交換日記  作者: 黒海苔


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第五話:異世界

「異世界よ」


「……異世界?」


 思わず聞き返してしまった。


 まさかその単語が現実で飛び出してくるとは思わなかった。


「そう。ゼロから世界規模のダンジョンや物質を創造するには、さすがにエネルギーが足りない。でも、地震によって放出されるはずだったエネルギーなら、ダンジョンを維持し続けたり、異世界とのゲートを開き続けたりするには十分なのよ」


 あまりにも当然のように話すレイラちゃん。


 いや、その前に確認しなければならないことがある。


「まず聞いていい? その異世界って、本当に存在するの?」


「あるわよ。無数にね」


 あまりにも即答だった。


 レイラちゃんは空中にふわりと浮かび直すと、小さく腕を組み、先生のような口調で説明を始める。


「地球より文明レベルが進んでいる世界もあれば、逆に遅れている世界もある。それに、地球には存在しない物理法則が成り立っている世界もあるわ」


 レイラちゃんが軽く指を鳴らす。


 すると空中にいくつもの光る球体が現れた。


 それぞれが一つの世界を表しているらしい。


「世界同士は普段、完全に隔離されている。そして、それぞれの世界には管理者が存在するの。あんたたち人間の言葉で言えば”神様”ってところね」


「なるほど……」


「ここまでは理解できた?」


「まぁ、大体は。じゃあ、ファンタジー小説に出てくるような剣と魔法の世界も、本当に存在するってこと?」


「そういうこと」


 レイラちゃんはあっさり頷いた。


「今回やろうとしているのは、その隔離された異世界と地球を繋ぎ、その接続地点をダンジョンにすること」


 空中に浮かぶ光の球の一つと、地球を表す青い球が一本の光で繋がる。


「もちろん勝手には繋げられないわ。向こうの管理者の許可も必要」


「じゃあ、向こうは許可してくれるの?」


 当然の疑問だった。


 レイラちゃんは「それがね」と小さく笑う。


「最近、魔物が増えすぎて困ってる異世界があるのよ。その管理者が、ご主人様に相談してきたらしくてね」


「魔物が増えすぎた?」


「そう。だから地球側へダンジョンという形で一部を繋げれば、魔物を分散できる。地球はダンジョンを手に入れ、向こうは魔物問題を解決できる。つまり、お互いに利益があるってわけ。」


 なるほど。


 それなら確かに、一方的な侵略でも救済でもない。


「これが、ご主人様から聞いている『ダンジョン出現計画』の大まかな流れよ。理解できた?」


「まぁね」


 僕は苦笑する。


「大変そうだなってことだけは、よく分かった」


「当たり前でしょ」


 レイラちゃんはため息をつく。


「そもそも、あんたが始めた物語なんだから。ちゃんと最後まで責任は取ってもらうわよ」


 その言葉に思わず苦笑する。


 確かに、巨大地震を消そうなんて書いたのは僕だ。


「それと」


 レイラは人差し指を立てた。


「この計画の途中で、あんたに死なれたら困るの。だから、二つの巨大地震を消す条件を達成するまで、あんたは不老不死。まぁ、ご主人様の眷属って認識で大丈夫よ。」


「…………え?」


 一瞬、思考が止まる。


「今、サラッととんでもないこと言わなかった?」


「言ったわよ」


「僕、人間やめたの?」


「一時的だから安心しなさい」


 安心できる要素が一つもない。


 レイラちゃんは僕の反応など気にせず話を続ける。


「条件を達成したら、不老不死は解除できると思うわ。でも、その後もダンジョンの管理は続くでしょうし、ご主人様としては、そのまま眷属を続けてほしいみたい」


「眷属ねぇ……」


 ゲームや小説なら格好いい肩書きだが、自分がなるとなると話は別だ。


「まぁ、どうするかはその時考えればいいわ。今は実感なんて湧かないでしょうし」


 それはその通りだった。


 異世界。


 神様。


 不老不死。


 情報量が多すぎて、脳の処理能力を完全に超えている。


「今日は説明ばっかりだったし、このくらいで終わりにしましょう」


 レイラちゃんは大きく伸びをする。


「明日から、本格的にダンジョンの設計を始めるわ」


「了解」


「あと、一応言っとくけど、私はあんた以外の人間には見えないようになってるから。外で私と話す時は気を付けなさい」


「それは助かる」


 街中で妖精と会話していたら、完全に危ない人だ。


「じゃあ私は、久しぶりに現世へ降りてきたし、少し見て回ってくる」


 そう言って窓の方へ向かったレイラちゃんが、ふと思い出したように振り返る。


「あ、そうそう。一応何かあったら、そのノートを使えばご主人様と会話できるから、ぜひ使ってね……だって」


「へぇ」


「基本、暇してるから話し相手になってほしいらしいわ」


「神様って意外と暇なんだ……」


「まぁ、ご主人様は仕事のほとんどを私たち眷属に任せているから暇なだけで、普通の真面目な管理者は暇じゃないと思うわよ……」


 レイラちゃんは肩をすくめると、小さな羽を羽ばたかせ、夜の街へと飛び去っていった。


 静かになった部屋で、僕は黒いノートを見つめる。


 数日前までは、ただ進路に悩むだけの普通の高校生だった。


 それが今では、異世界と地球を繋ぎ、世界中にダンジョンを創ろうとしている。


 怒涛の一日だった。


 それなのに、不思議と恐怖よりも期待の方が勝っている。


 これから始まる未知の世界に、胸が高鳴っていた。


 ――って言っても。


 僕は人間やめたらしいけど……。

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