嫌いが好きな人-8- *
岬に抱かれるために部屋に入った。
前と同じで選択肢は二つあった。岬には、どっちを選んでも同じ結果だって言われた。
でも葉山の家へ送ってもらう方を選んでいれば、この未来はなかった。送り狼すると言っても、きっと岬は「残念だなぁ」と笑って葉山のことを逃してくれただろう。
好きにしなよと投げやりに言われて、岬から好きにすることを許されて、葉山は一瞬で頭の中がぐずぐずに溶けてしまった。
何一つ好きに出来なかった自分が、好きにしていいと言われた瞬間、真っ先に岬の身体が欲しかった。
明日も岬が葉山を好きでいてくれる自信がなかった。それなら、今夜、岬が今の感情を失わないうちに抱かれたかった。
お互いの今の気持ちだけは、分かったから。
あと数分後には、嫌いになっているかもしれない。抱きたいなんて気持ちは綺麗に消えてしまうかもしれない。とにかく焦っていた。
喉が渇いて水が飲みたくて、目の前に水があった。多分、それを飲まないと、からからに渇いて死んでしまう。そんな切実な欲求。
マンションの部屋についてすぐ、洗面所を借りて泣いてぐしゃぐしゃになった顔を冷たい水で洗った。鏡を見れば、自分の顔が見たこともない表情をしていて気持ちが悪かった。きっと同じ顔を岬に初めて抱かれたときにもしていた。こんな醜い顔をして、岬を誘っていたのかと嫌になる。
もっと上手く隠せばよかった。
隠すことのできない、はっきりとした発情を身体中から感じた。今すぐ岬にむちゃくちゃにされたい。
けれど、今度は誘い方が分からない。体が熱くて、触れて欲しくて、触れたくて。好きにしていいと言われたのに、今度は自分の身体を好きにする方法が分からない。
一言、抱いて欲しいと言うだけなのに、その言葉が心や体よりも重かった。
それは葉山の責任だった。
岬に暗い過去を消して欲しくてしたセックスは、簡単だった。欲しいものを得るためだけに、何もかもを傷つけてもいいと思っていたから。岬も自分さえも壊してしまいたかった。けれど今は岬を傷つけたくなかった。自分を傷つけてもいいと思えば、岬が傷つく。それを分かっているから、触れ方もわからない。どんな顔をすればいいのかも分からない。
何を言っても、何をしても、岬の心を踏みにじってしまいそうだった。何も知らなかったときの方がよかった。
知らなければ、あの日のように奔放に求めることができた。岬のことを知るほどに怖くなって身動きが取れない。
体をつなげることを怖がっても、反対に気持ちよくなっても、葉山の過去が岬の頭の中にチラついて、不快な思いをさせるんだと思うと、岬の体を欲しがることさえも罪な気がした。
リビングの扉を開けて中に入ると喪服の黒と壁の白のコントラストに、少しの正気を取り戻した。性欲と不安がないまぜになった重く濁った感情を一生懸命に払拭する。
これじゃ駄目だと思った。岬の顔もまともに見られない。
「おかえり、遅かったね」
「……はい」
「どしたの? そんなとこ突っ立って、おいでよ」
岬はソファーに座って煙草をふかしている。車の中で岬は、葉山の養父の葬儀に行くつもりだったと言った。
勝手なことをされて、秘密を全て暴かれて腹が立っている。けれど、岬がそうした理由を考えれば考えるほどに苦しくなって涙が溢れた。
これ以上、一人でする答えあわせにバツ印を付けられなかった。自分にとって都合のいい答えをなかったことにして、目を閉じることができなかった。
「葉山くん、手冷たい。洗面所お湯出なかった?」
岬の前に立つと手を引かれ隣に座らされた。手を掴まれただけなのに身体中がぞわりとなって力が抜けそうになる。隣に座ると岬は、葉山の手を温めるように握ってくる。冷たかった手は一瞬で岬の熱を奪い取った。
「……暑かったから」
「そう? 冬なのに」
「うん」
「なんか、こうやって、葉山くんの手握ってると、悪いことしている気分になるなぁ」
「――悪いこと、しないんですか」
「んーするよ? 大事なお話が終わったら」
だったら、早く。そんな事を言ったら、きっと、あの夜のことを思い出して気持ち悪がられる。
岬は時間が経つごとに初めてこの部屋で葉山を抱いたことを思い出し、正気になったのかもしれない。
葉山は岬がそう感じることを非難できない、自分が岬に酷いことをしたのだから。
岬はソファーに座って煙草を吸いながら、その場で寛いでいる。車のなかで見せた、岬の欲はもう消えてしまったのだろうか。
岬と繋いだままの右手が熱くて、この熱が自分だけなのだと思うと怖くて、この場から逃げ出したくなる。同じじゃなくてもいいと言われたのに、同じじゃないと駄目だと思ってしまう。
お互い、明日の気持ちもわからない。それどころか一瞬先のことだってわからない。岬と同じじゃないのが怖くて怖くて不安で、こんな不安定な感情を持ち続けるくらいなら、全て投げ捨てて壊したい。
「お茶飲まないの?」
岬の目線の先、ローテーブル上には、ティーカップが置いてあった。この前と違って、適当なレンチン牛乳じゃない。ちゃんとしたお客様向けのカップに入っている。――が。
「……なんで、ティーバッグ入ったままなんですか」
適当にするにしても、裏書きの通り時間になったらカップから出すくらいのことはしないのかと思った。
「なんでって、前にレンチン牛乳に文句言われたから、ちゃんとしようと思って、良いカップは出したけど、途中で面倒になったんだよね」
「……え」
「ん? なぁに?」
「岬さん、いま演技してる?」
「して欲しいならするけど。本格的にお茶点てようか? 美味しいお茶が飲みたければ、お湯の温度測るやつもあるし、やれと言われれば出来るけど。これ、俺のプライベートだし、気取ったところでねぇ」
「……なんでもいいですけど」
「ま、美味しいお茶は今度ね」
そもそも、お茶を飲みに岬の部屋にきたわけじゃないのだから、なんだっていい。
あの日甘く感じた牛乳だって、ただの岬の気まぐれだ。いま目の前に無造作に出されている違和感しかないティーカップも。岬の意図なんて考えるだけ無駄だと思った。
答え合わせなんて、させてくれないから。
「葉山くんが、そのお茶、いつ突っ込んでくれるかと待ってたんだけどなぁ」
岬は戸惑う葉山を横目にしてどこか楽しそうだった。
「やっぱり葉山くんは、雰囲気が大事なのかなぁ。けど、ッ、ごめん無理……耐えられないこの空気」
岬はそういって、突然一人でくつくつと笑いだす。
「な、何、笑ってんですか!」
「だって、さ。部屋入ってから葉山くん、ずっと俺のこと見てくれないし、なんか喜んでくれてるけど申し訳ないし、我慢できなくて。どうやって、この雰囲気をぶち壊そうかと、で、そのお茶ですよ」
「よ、喜ぶって? 意味がわからない」
「ちょっと肩の力抜けって」
突然の答えあわせに面食らっていた。ただの気まぐれなんだとわかっていても。答えを言ってくれたことに戸惑っている。
「あと、一つ。葉山くん、言っておくけど」
岬は、くわえ煙草のまま大真面目な顔で葉山の顔を見る。
「な、なんですか」
「これ、コスプレじゃないからね」
岬は自分の黒いネクタイの結び目に指をかける。
「な、何が?」
「だから、喪服。葬儀なんだから、私服で行くわけにいかないだろ? それだけ。それ以外に意図はないから」
「分かって、ますけど」
「そ? じゃ、何でそんなに喜んでるの? スーツがいいの? 岬さんがカッコよくてテンション上がっちゃう?」
「はい?」
岬の言っている意味がわからなくて聞き返していた。
「だって、誘ったけどさ。やっぱり無理、怖いって言うかと思ったら、素直に部屋までホイホイついてきたし、なんか心境の変化あったんだろ」
「それは……そう、ですけど」
「だから、そんなに俺の喪服が良かったのかって思ったら、面白くて。いや、好きなら、今後もいろいろ考えなくもないけど、せっかく役者やってんだし、俺は別に葉山くんがどんな趣味でも尊重するよ?」
岬は煙草の火を消すと葉山をソファーに押し倒して不敵に笑った。
「ッ、は? 何言って」
「そんなに、俺のこと見て、ドキドキきゅんきゅんされると、照れるなー。やっぱ、演技している俺がいいの?」
「っ……」
車の中でのコスプレの話がまだ続いているとは思っていなかった。
「葉山くんが、俺に抱かれてもいいって、この部屋までついてきた決め手は、服?」
「へ、変態……」
「いや、大事な話よ。だって、葉山くんは、演技している役者の俺が一番いいんだよね、だったら、これが答えかなって」
「からかわないで、ください……俺は、真剣に」
役者としての岬が好きだ。多分一番。それは変えられない。岬に対して恋心を抱いているのだとしても、多分、選べと言われれば、役者同士でいることを選ぶ。そういう優先順位の話だ。
「じゃ、真剣に言って。でないと、葉山くんがコスプレエッチに惹かれてうちに来たってことにするよ」
「服とか、別になんでも」
「ほんと? 目がハートになってるよ」
さっき鏡で見たから、バカみたいな顔をしていることはわかっている。けれど、それは岬だから。
「なってない」
「怒るなよ、可愛いなぁ」
岬は、そういって葉山の頭をかき混ぜる。
「可愛くないです」
「そんな、嫌そうな顔するなって、いつもファンにするみたいに、俺にもアイドルな神対応してよ」
葉山のことを見下ろしながら、楽しそうに笑っている岬を見上げていると、なんだか色々考えていたことがバカらしく思えてくるから不思議だった。
本当の岬は、静かで、仕事をしている時の岬は、賑やかで、演技をしている時の岬は怖い。そうやって、岬の本当を見ようとしなかったのは自分だ。本当の岬は目の前の全部。その全部は好きになれない。
良い人でもないけど、悪い人でもなくて、自由で、羨ましくて。そんな岬に憧れて、彼が欲しくなった。葉山の中で心境の変化があったのだとすれば。
岬と同じように、諦めたんだと思った。
諦めて、受け入れた。それだけ。
「俺が笑ったら、嘘になる……そんなの」
笑って欲しいと言われて、笑った。そんなの本当じゃないと思う。ただの演技だ。けれど、笑えば、岬が喜ぶんだと思うと笑いたいと思う。
「嘘でもいいよ、嫌じゃないなら、笑ってろよ」
岬に触れられた頬が熱かった。
「で、決めてはなんですか? どこが良かったの。顔? 体? 性格は……あー、違うな。うんそれは、分かるよ」
「服じゃない」
人のことを、バカにしたような、好き勝手に人のことを翻弄するその瞳に囚われている。
「じゃ、顔ね。まぁ、好きになる理由としては、ありか? 顔が好きって、俺も、葉山くんの可愛いお顔好きだよ。まぁ君は褒めても、全然喜んでくれないけどね」
岬は、あまり残念そうでない口調で、葉山のネクタイに指をかけて引き抜き、床に落とした。
「怖くない?」
岬は、ふいに目を細めて葉山の顔を見下ろす。その優しげな目が怖くて、葉山は顔を伏せ焦るように、同じように岬のネクタイを指で引き抜いて床に落とす。少しでも岬の心を迷わせたくなかった。
(……早く、しないと)
そんな焦る心が岬に届いてしまったのか、頬をつままれる。
「――君はねぇ、ほんと、せっかちだな。焦らなくても岬さんは逃げないよ。怖かったら怖いって言えば良いから。待つって」
岬は小さく笑い、押し倒した葉山を抱き起こして、胸に抱いた。岬の心臓の音を聞いていると、泣きそうになる。泣きたくないのに。
「ほら、我慢しないで、言いたいことは、さっさと言う」
「……あの」
「はい、どうぞ、葉山くん」
背中をぽんぽんと叩かれて先を促された。
「岬さんが、欲しくて、欲しくて、たまらないんです」
「うん、良いんじゃない? 普通普通。健康な証拠だし、別に変なことじゃないだろ」
「でも、岬さんに思い出させたくない……虫のいい話だって分かってる。でも、怖い。汚いって思われたくない。自分が、こんなにセックスしたいって思うのは……過去に」
それ以上の言葉を岬の手で口を塞がれ止められた。
抱かれていたから。開発されたから。そう思われるんじゃないかと思っている。
「葉山くんさ。お互い、思い出さないなんて無理だろ。もう知っちゃったし。だから、俺は、葉山くんを抱きたいって欲情している自分が嫌になる。葉山くんを傷つけたやつと同じなんだって。傷つけるって分かった上で、セックスするなんて正直無理」
「……うん」
「で、そう言ったら、葉山くんは楽になる? 違うだろ、分かってても欲しいって思ったんだろ、俺だって欲しいの我慢できないし、だから仕方ない」
葉山は目を見張った。
「俺がシたいって言って嫌だった? 気持ち悪かった? 流されて仕方なしに、俺が可哀想だし抱かせてやろうとか思ってる?」
葉山は首を横に振った。嬉しかったから。欲しいと思われたことが。
「嫌じゃない」
「なら嬉しいよ。欲しがってくれて」
「嬉しい?」
「まぁね。そりゃ上書きしろとか言われて嫌だったけど。なんで、俺なんだって思ったけど。上書きして欲しいって思ったのが、他の誰でもない俺だったんだろ? だから次に思い出すのは俺だって、思うことにしたから」
それでいいだろと岬は言う。
「……岬さんが……欲しいです」
「好きなだけやるよ。いらないって言っても、あげるから安心して、欲しがりなさい」
「なんで、そんな上からなんですか」
「楽しいだろ? 俺は葉山くんとプライベートで楽しい思い出作りたいの。泣きながらとか無理。俺、繊細なんだって、言っただろ?」
「……繊細な人は繊細とか言わない」
「つか、それ以前に、そもそも葉山くんは、セックス下手だから、別に慣れてるとか思わないよ」
「へ、下手って」
「キスも出来ない、体はガチガチでぎこちないし、マグロだし」
「っ、なっ」
「だから、キスから、もう一回しよ」
岬は大事な話は終わりと言って、葉山の額にそっと口付ける。視線が交差して、それを合図に唇を重ね合わせた。マンションにきてから、あんなにぐずぐずに発情して抱かれたくてたまらなかった体は、岬と話している間に一度更地にされてしまった。
――悪いことをするけど、大事な話が終わってから。
岬の言った通りだった。葉山のなかに最後までつっかえて残っていたしこりまでも溶かされていた。
きっと、ずっと言えないと思っていたことさえ、言ってしまった。
一度綺麗に冷めた発情は、口付けが深くなるごとに、再びじりじりと熱を上げていく。苦くて、甘くて。岬に教えられたばかりの優しいキスで頭の芯が蕩けていく。そんな覚えたてのキスをした。
体の間で繋いだ手が温かい。さっきまで自分ばかりが欲しがっているんじゃないかと不安だった。けれど、その不安は岬の優しさに溶かされていく。
「葉山くん、ベッドいこ」
手を引かれて、岬のベッドに行くほんの数メートルなのに、酒を飲んだあとのように足元がおぼつかない。ふらふらとベッドに倒れこみ、葉山を組み敷く岬を陶然とした心地で見上げていた。
「寒い?」
「……あつ、い」
「だよね、顔真っ赤、葉山くんが、興奮してるなぁって」
暑くて、寒い。体は暑いのに、触れられたところから、体が粟立って寒気に似たものを感じた。ぷちぷちとシャツのボタンが外され、胸元を肌蹴させられる。大きな手のひらが白い肌の具合を確かめるように表皮の上を滑った。
「服、俺も脱いでいい?」
「なんで、そんなこと聞くんですか」
「いや、着衣が好きなら、着たままするよ?」
「もう、それ引っ張らなくていいですから。早く……脱いで、ください」
「はいはい、そんなに見たいの? 俺の裸」
「……なんて、言えばいいんですか」
正解が分からなかった。男の裸を見て興奮する趣味はない。もちろん岬の肌を見たからと言って、大喜びしたりもしない。ただ、その肌に触れたいとは思う。
それが喜ぶってことなら、多分、そうなんだろう。
「普通に見たいって言えば? 興奮して勃起するから、早く脱いでとか」
「言いません」
「えー言ってよ」
岬がジャケットとシャツを脱ぎ捨てて、下肢の衣服さえも取り払って自分の前に立つ。自分と違うがっしりとした肩幅に、胸筋に、バランスの整った体躯をちゃんと目に捉えた。不思議な気分だった。興奮しないと思っていたのに、心臓はとくとくと次第に速くなっている。
「すごい見てるし。やっぱ、喪服より裸が興奮する?」
「しない、です」
慌てて視線をそらせる。
「ほらほら、ぼけっと惚けてないで、葉山くんも全部脱いでよ。セックスするんでしょ、俺が脱がす?」
岬の手が自分のスラックスのウエストにかかる。
「い、いい、です。自分で脱ぐ」
「じゃあ、俺は服脱いでいる葉山くん見て楽しむから、どうぞ」
「そんな、じっと見ないでください。脱げない」
「見るよ、興奮するから」
「し、静かにして」
「やだよ、静かなの耐えられないし、葉山くんとは、楽しく明るいセックスを目指すことにしたの。雰囲気とか二の次にするから、もう諦めて」
笑った岬の顔に少しだけ腹が立ったけど、仕方ないと思った。静かに交われば、葉山が泣くとでも思っているのか、岬はずっと笑ってつまらない冗談ばかり言う。
服を脱いだら、待っていたとばかりに性急に後ろから抱き寄せられて、お互いの肌が触れあった。触れ合う間も、からかうような冗談が耳元では続いていて頭がおかしくなりそうだった。
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半ば無理矢理にバスルームに放り込まれ、全然動く気力もなかったのに、明るい全てが丸見えの状態で尻に指を突っ込まれ、初めて風呂に入れられた猫のように大暴れして葉山は抵抗した。
頭の中がセックスのことでいっぱいいっぱいな時は何も感じないのに、正気な状態で、岬に触れられるのは耐えられなかった。
中に欲しいなんて言わなければよかったと激しく後悔した。
「まだ怒ってるの? 怒らないって言ったのに」
「……正気じゃなかった」
「え? 風呂でイったこと? 何回も出して元気だなぁとは思ったけど」
「……違う」
「ま、セックスなんて、正気でするもんじゃないから、いいんじゃない」
もう一歩だって動きたくないくらいの疲労感を感じていた。ベッドにもどってきてからずっと、岬に背を向けていた。
「……今度は、ゴムしてください、お願いします」
「お、今度があるの? 嬉しいなぁ」
飄々と楽しそうに笑われて、葉山は緩慢な動作で体を起こして隣に寝ている岬を見下ろした。
「そんなの、わからないけど」
岬とどうなりたいとか。どうすればこの気持ちがこの先全部ありになるのか。まだ葉山は分からなかった。
いまも岬に触れるのは少し怖い。けれど欲しいって気持ちだけは、同じだったから、そばにいようと思った。
「じゃあ、分からなくてもいいから。嫌になるまでは、そばにいてね」
岬は「いないと、寂しいし、俺はつまらない」と言ってくれた。
お互い狡い自分を諦めた。
そうしたら昨日より少しだけ、自由に息ができた。




