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嫌いが好きな人-6-

 ■


「社長、岬ですけど。いま事務所いますか?」

 葉山に電話をかけたが、結局繋がらなかったので、事務所の社長に電話をかけた。

 もし母親に会うことに関して社長に話しているのなら、それでいいと思った。助けろと言われた訳ではないし、葉山が望んで母親についていったのなら余計なお世話だろう。

「岬? いるわよぉ」

「じゃ、今から行きますね」

 電話を切ると足早にエレベーターに乗り込み、最上階の社長室へ向かった。

「――で、おたくの息子さん、今誘拐されてませんか?」

 岬の言葉に、社長は驚かなかった。

「……誘拐。まぁ、ある意味、誘拐ね。榊原マネには、私の用事で呼び出したあとタクシーで帰ったって言っておいたわ。ほんと周りに心配ばかりかけて、ダメねぇあの子」

「餓鬼なんですよ」

「手は掛かるけど、可愛い子よ?」

 社長はそう言って笑った。

「母親って、本人は下の受付に言ったみたいですが」

「それで? 岬は、どこまで本人に聞いてるの?」

「何も。とりあえず、父親と仲が悪くて、そのせいで色々ぶっ壊れてるのは知ってる」

「そう、そこまで知ってるなら、いいわ。――真幸ちゃんの育ての親。もっとも、まともな子育てなんてしてなかったし、あの子を傷つけてボロボロにした人たちよ。そいつらが、真幸ちゃんを連れて行った」

「そうですか」

「で、真幸ちゃんを心配した岬は、あたしに何のご用事?」

「葉山くんのことを全部、教えてください」

 知ってどうするか、なんて考えていなかった。

 ただ、どうせ今も一人で泣いているのだろう。だったら、とりあえずは、その顔を見に行こうと思っている。

 泣き虫のくせに、決して助けてとは言わない。岬に助けられることも望んでいない。プライドが許さないから。

 どうせ泣くのなら、自分が泣かせる方がいいと思った。それだけだった。

「真幸ちゃんが、あなたに話していないことを、私に言えと?」

「俺が教えろって言ったところで、言わないからねぇ葉山くんは」

「確かにね。言わないわ」

「そういう子ですよ、葉山くんは。本当は俺からの電話が欲しいって思ってるくせに、自分からは電話かけてこないし、俺がかけたらかけたで、出ない。酷くないですか? 俺、先輩ですよ?」

 岬がそう言うと社長は吹き出して笑う。

「あらぁ似た者同士じゃない。人の腹ばっかり探ってるところ。まぁ、あの子の場合は悪意はないんだけどね」

「ほんと、嫌になる」

「――まぁ、いいわ。どちらにしても、あの子が葬儀に出るなら、近々、どこかから話は漏れるし、ついて行ったのなら、マスコミに書かれるリスクは覚悟してるんでしょう」

「葬儀?」

「久我正隆、知ってる? 久我グループを設立した人。もう経営からは退いているけどね。その人が真幸ちゃんの養父。あの子、元々孤児なのよ」

 不動産関連事業で財を成した久我グループ。名前くらいは誰だって知っている。

「それで、その久我正隆が亡くなった。それで葉山くんは、お通夜とお葬式に出るために呼び出された」

「……馬鹿かな」

「馬鹿よ。殴り返せば良かったのに……。でも、出来なかったのね……可哀想に。私がもう少し早く戻っていれば、代わりに殴ってあげたわ、二度と顔を出すなって」

「そんなことしたら、この会社潰れるんじゃないですか?」

「そうね。で、岬は、これを聞いてどうするの?」

 岬は、深く息を吐く。

「とりあえず、仲良しの後輩のパパが亡くなったんだし。香典でも持って、お通夜で泣いてくればいいですか。役者だし、俺上手いよ? たとえ少しも悲しいと思ってなくても、簡単に涙は流せる」

「それはさぞかし、カメラマンが撮りたがる素敵な絵になるでしょうね」

 式の場で、あの葉山が神妙な顔をして、美しい顔に一筋の涙をこぼすのだと思うと、想像するだけで背中がゾクゾクした。

 その姿を見たいと役者の自分は、酷く残酷な願いを持っている。面白いだろうなと思っている。きっと、どんな役者よりも美しい絵になるだろう。

 それでも葉山のプライドを踏みにじり、その美しい演技を自分の手で壊したかった。

 泣いて、泣いて、顔をぐしゃぐしゃにして、取り乱して、助けて、ここから連れ出してと言わせたい。

 それが叶わないことを知りながら、岬は願わずにはいられなかった。

(俺にだけは、可哀想で可愛いと、思われたくないんだよな。知ってるよ)

 ――俺もだ。



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