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異世界右手お祈りゲーミング  作者: ペリ一


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第9話:ライフで受ける

 さて、今の俺の状況を再確認しよう。

 所持コストは1。ハンドはこんな具合。

 掘削の魔法陣。コスト可変、使用凍結中。

 遺骸より湧き出る。コスト2。

 盾の召喚。コスト5。

 闇の母蜘蛛。コスト8。


 うんちハンドやね。

 普通にハンド3枚と同じ状態なのが特にヤバい。

 運営は死ね。


「遺骸は重ねがけできるのか……?」


 なんでそういうとこをさ、明記しないのかな?

 運営さん、死んでくれないか?


「は、くだらない獣ですね!」


 ウエノの義手をキメラの継ぎ目部分に突き刺され、竜頭蛇尾が甲高い断末魔をあげ死亡する。

 そして即座にその身体から闇の子蜘蛛が飛び出し、糸を吐いた。

 流石に不意を突かれたのかウエノがよろめく。


「お、チャンス!」


 ローリスが這うようにしてウエノに距離を詰めた。

 時間経過でコストが1増える。


「遺骸より湧き出る。対象闇の子蜘蛛」


「面倒な……!」


 義手から煙が噴出され、糸の一部が焼き切られる。

 そして寸でのところでローリスの刀を受けた。


「今だ! いけいけ!」


 俺の指示で闇の子蜘蛛が飛びかかる。

 腕に飛びつき、スーツの一部が破れた。


 ウエノの義手が露出する。

 その義手は——腕の中部から蜘蛛の脚のような器官が展開されていた。

 スーツのために閉じてたが、破れてしまったから開き直ったってとこか。


「悪趣味だな」


 直感で理解する。

 あいつが撃ったのはビームじゃない。

 圧縮した蜘蛛糸だ。


 ハンドを見る。

 ドローしたのはファイア・ストライク。

 今は軽めの魔物を引いて欲しかったが、贅沢は言わない。他の使用凍結中の魔法陣シリーズを引くよりマシだ。


 戦況としてはローリスの刀は全て義手で受け止められ、闇の子蜘蛛は死に、新しい闇の子蜘蛛が出てきたところ。


 いまいち決定打に欠ける。

 どうすれば勝てるだろうか。


「膠着状態……いや、どうだろうな」


 ローリス単騎だと押されてそうな気配がする。

 闇の子蜘蛛に連携するほどの知能がないのが厳しいな。そのせいで数の利がいまいち活かせていない。


 コストを貯めて闇の母蜘蛛を出すべきだったか?

 つっても6コスト以降は溜まるのが遅いからなぁ。


「ギギー!」


 あ、闇の子蜘蛛が死んだ。

 こりゃあ俺に攻撃が向くかもしれん。


「あ、っぶね!」


 圧縮糸が飛来する。

 撃ってくるタイミングを読み、とりあえず出鱈目な方向に飛び込んでいて助かった。


「勘と運が良いんだよ俺は!」


 コスト1。もう少しで2。

 どうする? ファイア・ストライクで次のドローを見るか?

 次の圧縮糸は避けられないと踏んで盾の召喚までコストを溜めるか?

 攻めるか、守るか。


「攻めるね。その方が守れる」


 所持コストが2になる。

 俺はウエノの元へ駆け出した。


「お前、その義手……元々は作業用だろ!」


「ほう」


 腹のあたりが強烈に熱くなる。

 だがそれだけだ。

 致死には足りない。

 まず最初に、戦闘用にしては人間の手指部分を残しているのが引っかかった。

 腕が開いて複数になるのも、作業に向いた特徴に思える。


 そうして俺の勘は当たり、ウエノの眼前まで迫った。


「ファイア・ストライク——」


 俺の手札のファイア・ストライクをウエノに見せつけた。

 ウエノが咄嗟に後ろに飛び退きながら義手を展開する。


「——を、ハンドに持ってます」


「!?」


 発動はしない。

 代わりに俺は隠し持っていたナイフを目に向けて投擲した。


 オラァ! 俺自身が手ぶらなわけねぇだろうが!

 ガチの武器は高ぇから、雀の涙程度の火力しか出せないこのナイフ一本しか買ってねぇけどな!


 ナイフはかわされた。まぁ素人の投擲なんぞ当たらんもんだ。

 しかし、ウエノは避けるために無茶な姿勢を取った。その隙を逃さずローリスが斬りかかる。


「ぐっ、う!?」


 叩きつけるような剣戟。

 義手の一部が折れ曲がった。

 

「あはは! 右手くん最高!」


「だははは!!! あ、ファイア・ストライク発動」


「がぁッ!?」


 タイミングをズラした発動により焔がウエノに直撃する。

 まさか命懸けでフェイントをしにくると思わなかったか?

 俺はそのぐらいやれるぜ。

 さーてと。次のドローは?


「ふざけた、野郎だッ!」


「マジしつけぇな〜。さっさと死ねよ!」


 焼けこげたせいでスーツはボロボロだ。

 ウエノが叫ぶ。


「ああ、クソ! コストを食うからやりたくなかったんですがね!」


 ウエノの背中が膨らみ、蜘蛛の腹部のようなものが出現する。

 お、嫌な予感がするねぇ。


「召喚、ストーキング・フライ!」


コスト1:魔物:ストーキングフライ

 獲物に対して執拗に追跡を行う羽虫。

 口器を突き刺して攻撃する。


 拳大の蚊のような魔物がウエノに向け飛んでいく。

 そして片手間で叩き潰された。

 弱ぇ〜。後でデッキから抜こう。


「いい加減に死ねッ!」


 展開された蜘蛛脚の全てが赤熱し始める。

 周囲を見る。遮蔽物は? 無し!

 こりゃまずい。

 

「ヤバそー」


 ローリスは間の抜けた声でそう呟きながら、背中に展開した腹部へ攻撃を試みる。


 しかしそれが届くよりも早く、圧縮糸の雨が俺に降り注いだ。

 

「あ」


 全身がずたぼろになっていくのが分かる。

 あぁ、なんだ。


 こんなにあっさり死んでしまうものなのか。


 意識が薄れ、視界が黒く染まる。

 そして俺は——。




「運営に、死んで欲しいんだってね」


 真っ白な空間に立っていた。

 思わず自分の身体を確認する。

 親に貰った大切な身体は穴一つない綺麗な状態だ。良かった。

 まぁ親の顔すら思い出せないけど。


「誰お前?」


 枯れ木のような男だった。

 腕や脚は異様なほど細く、事実立つことができないのか、この白い部屋の壁によりかかってこちらを見ていた。


「えーと……君にその能力を与えた人間だよ。運営とも言える」


「あっそう。どうせもう死んだから言ってやるけどお前マジで無いわ。一回殴り合いの喧嘩しようぜ」


 勝てそうな勝負はガンガンしたい。

 さっき負けたばっかでイライラしてるしな。

 殴ってこいよそのほっそい腕でよ。


「……今、君の意識を引き延ばしてこの会話をしている。この状態にもリソースを使っているんだ。殴り合いの喧嘩をする暇はない」


 正論だな。

 だが正しさだけで人が動くと思わないことだ。


「一旦話を聞いてやる。俺は飲み込みが早いから、殴り合いの時間は作れると思うぞ」


「本当はもっと豪華な部屋を用意するはずだったんだ。君がバグ技でリソースをバカみたいに消費したからこんな具合さ。本当は俺の見た目だって君から好感を得られるように美少女にするつもりだった」


 バグ技? 普通にテキスト通りにカード使っただけなんすけど。


「美少女だったら殴られないと思ってたのか? 浅ぇな」


「そもそも殴られると思ってなかったかな……」


 ぶん殴るに決まってんだろ。こっちは命がかかってるってのにクソ不親切なテキスト量産しやがって。

 転移前にちょろっと触ってた効果テキストが不親切で有名なソシャゲですら、ものすごく増やすだの少し増やすだの、一応の度合いは書いてたぞ。


 あとカード使わないとドローできないから初期ハンドの事故がどうしようもなさすぎてクソなんだよ。マリガンさせろ。


「あー……俺はあんまりカードゲーム触ったことなかったから……次から気をつけるね……」


「次からもクソもあるか。俺は死んだんだよ。いいか? 一度も事故らないデッキなんか無いんだ。引き運が絡む以上、どうにもならない負けは発生する。そんなものを軸にして能力化して俺を死地に向かわせてたんだよ。分かるか?」


 カードは遊びなんだよ。殺し合いは遊びではない。お分かりか?


「ああ。理解してるよ。理由はちゃんとあってね……ランダム性を持たせてブレを作れば、最大値が上がる。俺の提示できる能力と、君の生前の趣向からして、この能力の出力は理論値と呼ぶべきものだった。それに——事故負けのケアはしてあるよ」


 何だと?


 つっても事故で負けた感じでは無いんだよな。

 多分ファイア・ストライクを使ったのがミスだ。

 フェイントはまぁ良いとして、チラつかせて警戒させつつ盾の召喚用のコストを溜めてガメっとくのが正解だった。

 一旦出し切った風の俺を見てあの蜘蛛糸ガトリングを放ってきた感じだしな。

 プレイミスでの負け。俺の実力不足だ。

 だからこそムカつく。


 俺が反省とイライラを繰り返していると、枯れ木野郎が口を開いた。


「もう時間がないからこれだけ伝える。今から君がシステムメッセージで見るリソースは、2度と回復しない。それがゼロになったら終わりだ。いいね?」


「そりゃあ!!!!!!!」


 時間が無いらしいので俺は大急ぎで枯れ木野郎をぶん殴った。

 

「ぐわあああああああああ!!!!!?!!?」


 悲鳴が響き、段々と遠のいていく。

 意識がどこかに引き戻される感覚がある。

 視界が徐々に広がる。


 これは、まさか。



『ライフポイントが1減少しました。残りのライフポイントは、2です』



 ああ、そうすか。

 俺ってライフ制だったのね。


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