第10話:ローリスという男
「さて。これで戦闘を継続する理由は無くなったのでは?」
右手くんは穴だらけにされて、地面に伏した。
このウエノって人は、俺は殺さないと言っていた。
そっか、ならもういいか。
「うーん」
本当に?
今本気で殺しにいけばウエノは殺せる。
多分依頼元の企業は俺たちの戦いや発言を把握していて、右手くんが強い敵を用意されると強くなるのを把握していたんだと思う。
だから右手くん曰く作業用の義手をつけた、そこそこの強さのコイツがやってきた。
ならコイツを殺した後は?
“次のヤツ”がやってくるんじゃない?
しかも、もう俺しかいない。強いヤツを温存する意味が消える。
次の相手には瞬殺されるかもしれない。
「あー。その通りかもね」
俺が刀をしまったのを見て、ウエノが安堵した表情を浮かべる。
「ふう。損失が少なく済みました。さて、報酬ですが……はぁ、本社の方にお越しいただけますか? 本来は貴方のような身分の人間は入れたくないのですが、特別に対応させていただきます」
何となくの打算と、享楽を軸に生きてきた。
得意なことは叩いて壊すことで、掃除屋はそれなりに適性があった。
何より掃除屋は自分みたいな、考えて生きるのを諦めた奴がいっぱいいたのも楽で良かった。
「右手くんってマジで変な奴だったな」
「え? あぁ、ハハ……転移者のようでしたが、王に取り立てられていない時点で程度は知れるでしょうねぇ」
右手くんの目の色には何というか、諦観を感じなかった。
常に何か考え事をしている風だったし、他の同僚みたいに受け流すような会話をしてこなかった。
律儀に正面から見据えて罵倒してきた。
面白いやつだったなぁ。
でも、死んだのかぁ。
そんな事をぼんやりと考えながらウエノに近付く。
ある程度近付くと、ウエノが名刺を渡してきた。
「そちら差し上げます。さて、ご案内しますよ。いやぁ、随分と駒が減りましたから何とか補充しておきたいところですねぇ」
「へー。大変だね」
ウエノの隣を歩きながら、腰に差した刀を抜き、即座に背中に突き刺す。
「ゴボ……ぉ……!?」
刺した勢いでウエノの身体が一瞬浮かぶ。肺まで貫通したのか、ゴボゴボと溺れているような呻き声をあげた。
そのまま地面に倒れたウエノの後頭部に刀を振り下ろす。
「多分さ。このままお前と一緒に本社ってのに行って報酬を貰いさえすれば、俺はそこそこハッピーな気分になれる」
そして、右手くんのことは忘れてしまうだろう。
ああなんか……そんな奴がいたなぁ。
その程度の記憶になっていく。
「それが嫌だったんだよな。なんか」
頭蓋の白と血肉の赤でぐちゃぐちゃになったウエノを眺めながら。
「あーあ、明日からどうすっかなぁ」
そんな事を考えた。
◇
『ライフポイントが1減少しました。残りのライフポイントは、2です』
そんなメッセージと共に、俺は地面に倒れた状態で蘇生された。
コストはどうなってる。ハンドは?
だが1つだけ確実なことがある。
今は死んだふりをするのが丸い。
そんな事を考えて、俺はしばらくその場で死んだふりを続けていた。
そうして——。
「多分さ。このままお前と一緒に本社ってのに行って報酬を貰いさえすれば、俺はそこそこハッピーな気分になれる————それが嫌だったんだよな。なんか」
ウエノを不意打ちでぶっ殺したローリスのとんでもねぇサイコ発言を聞き、俺は身震いした。
どんな価値基準だよ。怖すぎだろ。
『戦闘終了』
俺のデッキホルダーから電子音が鳴る。
それに気付いたのか、ローリスがこちらを見た。
目が合う。途端にヤツは笑顔になった。
「え!? マジ!? 右手くん生きてるじゃん! なんで?」
はぁ、クソ。こいつもやり過ごそうと思ったんだけどな。
俺は立ち上がり、作業着についた砂埃を払った。
「いや服すっげー。水玉みたいになってるじゃん。てか頑丈すぎね? だからあんな前に出てきたん?」
「うるせぇな。一回死んだよ」
ローリスが目を丸くする。
「転移者は残機あるって噂、マジなんだな。あと何回死ねる?」
「おいなんだその好奇心に満ちた目は。やめろよマジで。もうねぇから残機」
本当はあと2個ある。
……あと2個か?
ラストの1個がガチ命だった場合死ねるのってあと1回にならね?
「たいていライフを削り切られたら負けるよな。いや待て、削り切った後ダイレクトアタックで勝ちのタイプもあるか」
説明しろやマジで。
あークソ、生き返るって分かってたら殴る前に色々仕様について問い詰めたのに。
ローリスの隣に立ち、ウエノだったものを眺める。
「こっからどうするよ」
「知らね。埋める?」
埋めねーよ。
こいつを殺したせいで次はもっと強いのが来るかもしれん。
通報だな。司法に助けてもらおう。
依頼はなんか……騙されてたって感じで。
「とりあえず都市の中心に戻るぞ」
「了解〜」
俺はウエノの死体から目ぼしい物を回収した後、ローリスと一緒に都市部へ走った。
◇
「スポーンテクノス社ね。なんで組合を通さずに個人で依頼を受けたわけ? 脱税に加担してるって分かってたんじゃないの?」
「……俺はこの世界に来て日が浅いんですよ。てっきりそういう事もあるもんなんだと思って」
「ふーん……」
あの殺人企業を通報し、最終的に前の世界でいう取調室的な場所に連れてこられた俺達は、そこで経緯を説明させられた。
話はなかなか終わらず結局深夜になり、ローリスが具合が悪いと言い出しようやく俺達は解放された。
俺らのお咎めが無しだと助かるが、どうだろうな。
こうやって帰されたあたり許してもらえそうだが。
「はぁ、疲れた。こんだけ働いて給料無しだぜ。嫌になるな」
「でもウエノの持ってた金があるっしょ?」
まぁな。
財布代わりの袋を取り出して確認する。えーと……まぁ3日ぐらいなら宿に泊まっていられる額だな。
「宿はどうせ見つかるし、まず最初にやることがあるな」
「お? 飯?」
飯は適当に済ませりゃいい。
一番大事なことがある。
「カードゲーマーが紙シバいた後ってのはな……風呂に入らなきゃならないんだよ!」
ローリスが首を傾げる。
やれやれ。理解してないようだな。
「俺カードゲーマー? なの?」
「違うけど、とりあえず身体は毎日綺麗にしなきゃならん」
「当たり前じゃん?」
そう。当たり前のことなんだ。
それができない層がいるんだぜ。悲しいことにな。
俺はローリスと強引に肩を組み、うお臭っせぇなこいつ。
血とカドショの臭いがする。
「お前……作業着を最後に洗ったのっていつ?」
「え? あー、たまにアルバートさんがついでで俺のも洗ってくれてたから……いつだっけな」
アルバート……惜しい男を失ったぜ。
「一旦風呂入って別の服に着替えろ。別の服あるよな?」
「一応」
良し。俺が普段通ってる温泉にはコインランドリーも併設されてる。
そこに俺とこいつの作業着を突っ込んでおいて、適当に飯を食う場所を探そう。




