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異世界右手お祈りゲーミング  作者: ペリ一


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第11話:選択

 温泉に入り、飯を食った。

 いつも通りの時間とはズレたせいか、ヤクマとは会えなかったが……俺はほぼ毎日温泉に入りに行く。

 また明日会えるだろう。


「相部屋か……」


 深夜ギリギリというのもあっていつも利用している格安の宿の部屋が空いていなかった。

 渋々次点で安い場所に向かったが、そこも一部屋のみ。

 無理を言って2人で入らせてもらったが……まぁ本来1人用なだけあって狭い。

 2人で寝ようと横になるとなおさら狭い。


「右手くん毛布取んなよー」


「うるせぇ」


「寒いんだってー」


 そういやコイツ体調悪いとか言ってたな。

 風邪か?

 感染ると面倒だな。俺はろくに貯金が無いので毎日自転車操業だ。

 薬は高くて買えたもんじゃないし、ゴミみてぇな体調で機械兵を掃除しにいかなきゃならんと考えると憂鬱すぎる。


「……」


 俺が明日の心配をしていると、隣のアホがピーピー寝息をたて始めた。

 呑気なもんだ。


 思考が段々止まってくる。

 俺も眠くなってきた。

 明日のことは明日考えよう——。




「やあ。さっきぶりだね。良い拳だったよ」


 白い空間。

 申し訳程度に机と、それを挟んで向かい合う形で椅子が置かれている。


 対面の椅子には、例の枯れ木野郎が座っていた。


「夢、ってわけじゃないんだろうな。何の用だ」


 椅子に座りながら、枯れ木野郎を睨む。


「質問があるだろう? それと要望も」


「当然。ライフポイントは2つ削られたらアウトなのか? とかテキストを整備しろ、とか。あとデッキが1種類しか作れないのも何とかして欲しいな。あとマリガンもさせて欲しいし、3枚超えてダブったカードの使い道がないのもゴミだね」


 枯れ木野郎が笑う。

 笑いごとじゃねーぞボケ。

 というかいちいち枯れ木野郎と呼ぶのも面倒だな。


「あとアレだな。お前、名前は?」


「え。あー……えぇと、アオバ。アオバシゲルだ。意外だな、俺個人に興味を持つなんて」


 アオバシゲル。なるほど。


「日本人なのか? てっきり神様的なやつだと思ってたんだが」


「ハハ、そう思った上で殴ってきたんだね……俺は少し長生きで、生存能力が高いだけの人間だよ」


 アオバが椅子をガタガタ鳴らして座り直す。

 おお、なんだなんだ。


「君が神束遊戯を使えば使うほど、このスキルは成長する。より具体的に言えば——新しいカードを実装できたり」


 ほう。

 俺も思わず姿勢を正す。

 新弾。カードゲーマーの大好きな言葉だ。


「さらに新機能やUIを成長させたり」


 それは成長とは呼ばんね。

 改善、だね。


「まずはデッキの複数作成だけど……可能だと思うよ。そう大したリソースは使わないはず」


「おう、そうか。最初からやれよ」


「……カードゲームやったこと無いんだって」


 やったこと無くても分かるだろ。

 いや待てよ。分からないのか?


 場合によってデッキを使い分ける……なんて事はせず、一番勝てるデッキ作ってそれを握れば解決、とか考えるんだろうか。

 

「うーん。まぁいいか。ある程度は大目に見よう」


 アオバが笑みを浮かべる。


「ありがたいね。では本題に移ろう。君には選択してもらいたいものがある」


 アオバの後ろに文字が浮かび上がる。

 何だ?


「コストのシステムについての話だ。現状維持を選んでも良いけど……緊急起動や相手に合わせた初期コストの変動は、日に限りがある機能だと知っているかい? それを念頭に置いて、今から提示する選択肢の中から選んで欲しい」


 浮かび上がった文字が俺の前に移動し、ハッキリと見えるようになる。


【初期コスト3固定】


「これは君が圧倒的に有利な状況でも、だ」


 なるほど。固定か……難しいところだな。

 この選択の最大のメリットは、パーティーメンバーが自由になる点だな。

 強い奴の力を借りたとしても初期コストは3のまま。

 人員を増やし得ってわけだ。


「仲間は実質固定の初期ハンド。君はそう思っていたはず。そこで、こんな選択肢も用意してみた」


【初手のハンドに空白のカードを固定追加】


 空白のカード?

 アオバに視線を送り、説明を促す。


「これは相手の同意を得ることで、別の生物を登録できるカードだ。使用できないが、このカードに登録された生物と同一の生物は、初期コスト計算に絡まない」


 なるほど。

 ハンド圧迫をどれだけ重く見るか、だな。

 それと仲間が1人で固定になっちまう。

 ……いや、別に初期コストが下がりすぎない程度に入れるのも可能か。

 

「これは任意だよな? それとも未登録でも固定で空白のカードが入る?」


「確定で空白のカードが入る」


 うーん。ソロでやりたい日もあると思うんだよな。

 毎回2人でやってちゃ報酬が不味い。

 もう1つの選択肢は?


【変更無し】


「一旦やめておくという手もある。現状、何とかなっているからね」


 なるほど。

 まとめると、選択肢はこの3つ。


【初期コスト3固定】

【初手のハンドに空白のカードを固定追加】

【変更無し】


 迷うところだ。

 初期コスト3固定は一見魅力的に思える。

 だが、今回の機械兵のようなパターンには対応できない。

 これを活かすには仲間が要る。

 強い仲間が居れば居るほどアドが取れる選択だと言えるだろう。


 では空白のカードは?

 ハンドが1枚圧迫されるが、1人限定とはいえ強さを気にせず組めてそれ以外はいつも通り。

 どうせローリスしか仲間がいないとしたら、これが一番アドを取れるんじゃないだろうか。


 大型の機械兵の依頼はそうそう無いが、この選択肢を取った場合俺の出力はかなり高くなる。

 事故も、ローリスが時間を稼げるかもしれない。


 そんで最後に変更無し。

 俺はこれまでこれでやってきたし、今日の地獄のような戦闘も潜り抜けた。

 全くない選択肢ではない。


「さて、どうする?」


 背もたれに深く身を預ける。

 しばらく沈黙の時間が続いた。


「決めた。空白のカードでいこう」


「ほう! それはどうして?」


「コスト調整機能は必要だ。むしろ俺の能力で一番強い部分とすら言える」


 アオバが頷く。


「では何故変更無しにはしないんだい?」


「俺は人と組んだ瞬間にさっき言った強みを半分くらい失う。これが弱い。初手事故をある程度はケアする事を考えるなら、仲間は居た方が良い」


 それに、小物狩り程度ならハンドが1枚死んでいても何とかなる。

 それよりは対大型のことを考えるべきだ。


「以上が理由だ。変更を頼む」


「了解。次起きた時には変更されているよ」


 よし。じゃあ次の話に移ろうか。


「マリガンとダブったカードは?」


 俺の言葉に、アオバがうんうんと頷いた。


「まぁ、それは一旦置いておいて。新カードについても選択して欲しいんだ」


 新カードね。ま、確かに優先度はそっちの方が高いか。


 アオバが指を3つ立てた。


「候補が3つある。どの新弾を実装するか、選んでくれ」


「おいおいおいおいマジかよ。時間足りるか?」


 アオバの後ろに3つのパッケージが浮かぶ。


【異界の英雄達】

 なんか短剣を持った目つきの悪い奴が表紙になってる。

 あと……なんだ? なんかアラビアンな美女もいるな。

 

【召喚士の嗜み】

 俺をデフォルメしたようなキャラが装備品をあれこれと付けている表紙。

 なるほど。そういう新規テーマか。


【魔導の掟】

 魔法陣が記されただけのシンプルな表紙。

 うーん。完全に呪文に寄せた構築が可能になる感じか?

 何となくだが、ロマン砲の気配がする。


「ちなみに詳細なカードリストは俺もまだ把握できてない。そういう指向性を持たせるってだけだからね」


 なるほど。あれ? じゃあ普段のテキストは?


「あのクソテキストって……」


「あれは出来た後に俺が解析して頑張って書いてる」


 なるほどね、やっぱお前じゃねぇかこの野郎。

 頑張ってるからって許されると思うなよ。


 ……まぁこいつの追及は後でやるとして、問題は新弾の選択だ。

 個人的に【召喚士の嗜み】はアツい。

 おそらく俺に装備する系のカードが実装される。

 魔物は破壊されれば終わりだが、装備は違う。俺が生きている限りアドが取れるわけだ。

 とはいえ、秒数制限がある可能性もある。

 そうなった場合微妙なんだよなぁ。


 あとイラストアドで見るなら【異界の英雄達】だ。

 美女1人は確定でいるし、皆会話ができそうなのも良い。


 【魔導の掟】はまぁ……意外とこういうのの方がぶっ壊れカード入ってたりするんだよな。

 シンプルなテキストでヤバい系。

 

「……」


 そこでふと気になった。

 アオバは何の目的でこんな事をしているんだろう。


「決まったかい?」


「いや……そうだな……」


 俺の出力の最大値を狙った。

 では何故それだけの出力が必要だったのか?


「お前は何のために、俺の能力を強化しているんだ?」


 ならさっさと質問してしまおう。

 アオバは少し申し訳なさそうな表情を作ったあと、言った。


「すまないがそれは君がもう少し強くなるまで言えない。思考感知のチート持ちの存在を確認しているからね」


 喋れない、か。

 だが……目的が存在することは確定した。

 それとチート持ちどもと敵対する可能性も。


「その目的を達成するのは良いことか? 俺にとって」


「……分からない。世界にとっては良いことだ」


 そこでそう言えるならお前は誠実な奴なんだろう。

 よし。一旦納得してやろう。


「新弾は召喚士の嗜みで頼む」


「了解。じゃあ、またね」


「いやまたねじゃねぇ。マリガンとダブったカードは?」


 視界が徐々に暗くなる。

 おいふざけんな!

 どうせリソース不足とかそういうのだろうけどさぁ! てめぇよぉ!


「あ、そうだ。ライフポイントは0になった上でもう一度死んだらアウトだよ」


 あ、そうだじゃねぇよ! それを最初から説明するように——

 そうして、意識が暗転した。


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