第12話:変異
『新弾実装記念! パックポイントを00300追加!』
『現在の所持ポイントは01600です』
やかましい電子音により、意識が完全に覚醒させられる。
なんつった?
てかなんか結構ポイント貯まってたか?
まだ疲労が残る身体を無理やり起こし、メッセージを確認する。
「あー……新弾か……」
ウィンドウに表示された新弾の表紙と、以前のカードプールを眺める。
旧と新、どっちを引くか選択なのか。
どうすっかな。
「うーん……」
そうやって考え込んでいると、ローリスに寝返りついでに脚を蹴られた。
やんのかてめぇ。
「右手くん朝からうるせー」
「あぁ? しょーがねぇだろこんなクソ狭い……布団、で……」
毛布をガバッと放り、金髪碧眼の女が起き上がってくる。
髪型は変わらずツーブロだし、顔立ちもローリスと雰囲気は似通っている。
だが声に加え、全体的なこう……丸みと曲線が、こいつが女であることを示していた。
どういうことだ。
「…………そういう体質か?」
ローリスが首を傾げる。
「? 何が?」
何ってお前。
お前なにも感じないのか?
「いいか。落ち着いて聞けよ。お前、昨日と性別が変わってるぞ」
「え?」
ローリスが自分の身体をぺたぺたと触り、最終的にズボンの中身を確認する。
「うわマジだ。右手くん引くわー」
「俺のせいじゃねぇよ!!!!!」
大声を出したせいで隣の部屋から壁ドンをされる。
クソッ、やっぱアレか?
異世界の格安宿ってファンタジートコジラミがいて刺されると性転換とかさせられるのか?
だとしたら俺も危ないな。
実際全くあり得ない話じゃない。身体の構造を変化させるようなもんを注入してくるやべぇ機械兵だって過去に報告がある————待てよ?
「お前、あのアラクネ型機械兵に触手ブッ刺されてたよな?」
「え? あー……でももう治ったよ?」
「それだな」
もっと早めに違和感を持つべきだった。
怪我があっという間に治る。
攻撃以外の意図があったと読むべきだった。
よくよく考えれば、アルバートは捕縛された後吊るされていた。
そして闇の母蜘蛛は「産みつけられている」と表現した。
つまり……あの機械兵は、捕らえた人間を母体に改造してからあの小型機械兵の苗床にする機能を持っていた。
ローリスは半端に注入されたせいで性別が変わる程度で済んだ。
推論だが、そんなとこか。
だとしたらあの機械兵はマジでヤバい個体だったようだな。
繁殖機能のある機械兵は最優先駆除対象だ。俺らみたいな木っ端の掃除屋じゃなく、この国の軍部が出張ってくるレベルの個体。
「腹減ったー。飯行こうぜー」
こいつイカれてんのか?
イカれてたわ。
「お前……良いのか?」
「何が?」
「いやお前多分それ……元に戻るの絶望的だぞ」
機械兵によって受けた後遺症は完治の例もあるが、いずれも最先端の技術が駆使され奇跡的に噛み合った結果であり、通常は一生向き合っていくものだ。
国営絡みの仕事で受けた後遺症ならサポートもあるらしいが、今回の件でそれは望めないだろう。
ローリスが肩を押さえながら腕をぐるぐる回す。
「んー。確かに身体感覚変わってる。動かしづらいかも」
戦闘能力の事しか考えてねぇ。
信じられん。
「お前なぁ……とりあえず駆除業者の登録内容変えねぇとまずいな。あと身内は居るか? その辺にも説明しねぇと」
「うーん。親はいないし仕事仲間も昨日右手くん以外死んだし……」
そうか。
まぁ俺も似たような状況だけどな。
「そうなるとあの機械兵に関してもっと詳細な報告をしなきゃならんな……また時間がかかるぞ……」
そこまで考えた上で、俺は再度布団に寝転がった。
「うーん、無理! めんどくせぇから今日は何もしねぇ!」
「飯は? 行かねーの?」
それは行く。
俺達はのそのそと荷物をまとめた後、部屋を出た。
◇
「でさー、マジ寝苦しかったわけ。今日も同じ部屋だときつくねー?」
こいつギャルみたいだな。
最寄りの定食屋で肉野菜炒めをつつきながら、俺はそう思った。
「金ねぇだろ」
「マジでそれなんだよなー。アルバートさんの死体漁れば良かった。あ、でも肉塊なってたし無理か」
この軽薄な口調も、見た目が金髪碧眼の美女になった途端にギャル口調に思えてくる。
何か脳の変なところをハックされている気分だ。
「てかなんかポイント貯まってたじゃん。パック開封ってやつ見せてよ」
ギャルにオタクいじりされてる気がしてきた。
これ以上俺を変な気分にさせないでくれ。
というかパック開封ね。やらなきゃいけない事ではある。
「……はぁ。まぁいいか。勝手に見ろよ。別に見てもよく分からんと思うけどな」
「お! よっしゃ〜! そこは右手くんが良い感じに解説よろしく」
オタクに優しいギャル? 実在したのか。
……いや待て待て待て。
こいつは単なる気まぐれ殺人鬼だ。騙されるな。
俺にだけは若干優しいっぽいがそれだけだ。
落ち着け落ち着け。
「とりあえず宿の部屋に戻るか。あんまり公開したい情報ではないからな」
あの安宿の壁じゃこの店で喋るのと大差無いかもしれんが、一応な。
ローリスが頷いた後、申し訳なさそうな顔をする。
「どうした」
「あー……戻る前に服屋寄っていいか? なんか、擦れて痛くて……」
なるほど。まぁ明日以降の業務のことも考えるとその辺の装備は必須か。
「仕方ねぇな。金は折半してやるから買いに行くぞ」
ちょうど飯を食い終わったので席を立つ。
ウエノから盗んだ財布を取り出し、会計分の金だけを取り出しておく。
「あーいや! それはちょっと……なんか恥ずいから……1人で行くわ」
「そうか? じゃあ先に戻っとくぞ」
レジでさくっと会計を済ませ、店を出た。
ローリスはそのまま中央通りに向かい、俺は安宿へ戻る。
綺麗な街並みだ。
何とか生活を安定させて部屋を借りたいところだが……なかなか厳しそうだ。
安宿に向けて歩いていく。
街並みはどんどん粗雑なものに変わり、物乞いやら俺と同じようにくすんだ作業着姿のやつをちらほらと見かけるようになってきた。
「あれ? ライト?」
道を曲がったところで、見慣れた坊主頭の青年に会う。
ケーキ職人のヤクマだ。
「おう。何してんだこんなとこで」
「えーと、子供達と遊んでた……」
後ろを見ると、警戒心マシマシの顔でこちらを見る子供が5人。
大所帯だなぁ。
「なんで昨日は銭湯に来なかったんだ? 心配したぞ」
「あー……昨日は仕事が長引いてな。疲れたんで今日は休みだ」
「そっか。いや、無事なら良いんだ」
数少ない同郷の友人だ。
俺も逆の立場なら心配しただろう。
「スマホがあればなぁ。連絡が取れないってのは不便だ」
通報も手間だしな。
富裕層の間じゃ通信機器の類は使われてるらしいが。
「俺は店に来てくれれば居るからさ」
「そうだな。問題は俺の方か」
仕事でヘマして死んだとしてもヤクマにその話が伝わることは無いだろう。
いや、今は違うか。
「ローリスって掃除屋は俺の仲間だ。もし俺がいなくなった時は、そいつに聞けば生死くらいは知ってるかもな」
ヤクマの表情が曇る。
「縁起でもないこと言うなよ……」
「はは。そういう仕事だから仕方ないだろ? じゃあまた。今日はいつもの時間にひとっ風呂浴びにいく予定だからその時話そうぜ」
ヤクマの後ろに視線をやる。
それに釣られてか、ヤクマも後ろを見た。
「子供たちが不満そうだ。遊んでやれよ」
「……そうだね。じゃあ、また」
ヤクマにひらひらと手を振り、帰路を歩いていく。
まぁとりあえず今日は宿でごろごろしながらデッキ組んで、時間になったら温泉でじっくり疲れを取る。
昨日は最低の日だった。
だったら今日は最高の日にしねぇと釣り合わないよな。




