第5話:戦力の投入
コストが溜まるまでの時間、俺は本当にやることがない。
そうなるといくらか頭が冷えてきて、状況がよりハッキリと見えるようになってくる。
「悪癖だな」
違和感を持つべき点がいくつかあった。
なのに、運命的なドロー1つで熱に浮かされたように思考を鈍化させていた。
「ゴトウさん! 俺の分析では敵は通常の機械兵だけじゃないはずです! 気をつけて下さい!」
戦力の調整。
単に機械兵の数で調整を行ったのであれば俺も違和感は持たなかったはずだ。
だが電子音のアナウンスは“未知の”戦力と言った。
おそらくだが——特殊型の機械兵が潜んでいる。
「特殊型か! 警戒しておく! ……その形質までは分からないか!?」
「ここまで姿を現してないってのが妙です! 罠を張るタイプかも!」
「分かったッ!」
考えろ、俺が都市の資料館で漁った情報を。
特殊型にはどんなヤツがいた?
大抵は既存の生物を模した個体が多い。
罠を張りそうな生物。待ち伏せを行う生物。
「嫌な予感がすんな」
俺の眼前にいる、蜘蛛。
今しがた述べた特徴に合致する。
自惚れたくはないが、こういう時の俺の勘は当たる。
「ゴトウさん! あとローリス! 敵はおそらく——」
俺が言い終えるよりも先。
機械兵の合間を縫うようにして、高速で何かが跳躍した。
「蜘蛛型——ッ!」
「うおぉおおおおおおお!!?」
素っ頓狂な悲鳴と共に、その一撃を受けたローリスがこちらまで吹き飛んできた。
「ギッ」
「お、ナイスクッション」
闇の子蜘蛛の上をバウンドし、受け身を取りつつ俺の隣まで転がってくる。
「勝てそうか?」
「? ……へへ、まぁ不意打ちはビビったけど別に」
ローリスがにへら、と笑いながらそんな事を言う。
「頼もしいな。俺はもう少し力を溜めてても大丈夫そうか?」
「別に俺はいいけど、あんま手ぇ抜いてたらアルバートさんから怒られるぞ?」
「耳が痛いね……ゴトウさん! いけそうっすか!?」
飛び出した蜘蛛型は、ターゲットをゴトウさんに移していた。
「厳しい! 少しそちらに流れる!」
「俺が抑えるわー」
ローリスが刀もどきを携えて、流れてきた機械兵とやり合い始める。
「すまん、助かる」
俺は心中でローリスの評価を上げつつ、コストを睨む。
もう少しで魔王を召喚できる。
「あと……1……」
クソ、15秒が長い。
はやく、急げ急げ……!
ガシャン。
何の音だ?
自分が足下の金属を踏んだ音か。
——何故、俺の耳はそんなありふれた音をわざわざ拾った?
周囲の状況が頭に入ってくる。
最初に俺達が侵入したラインから見て、かなり“中”の方へ来ている。
だから今、初めて金属を踏んだ。
金属が足下に散らばっている場所まで、初めて到達した。
そして、敵は、待ち伏せ型……!
「召喚! 荒くれ土人形ッ! 2体だッ!」
即座に溜めていたコストを使用し、現状で召喚できる最大戦力を放出する。
同時に、俺へと到達しかけていた蜘蛛型機械兵の牙が遮られた。
「グゴゴゴゴ!」
「ギガガー!」
2体の連携により、蜘蛛型機械兵が迎撃される。
「戦力の逐次投入は悪手だったって事か?」
今まではコイツを複数体出す事は無かった。
そこまで長引くような相手とは戦わなかったというのもあるが……冷静に考えてみれば分かる事だ。
戦力は、単純な足し算ではない。
「余裕があるなら複数体召喚して、倒されないように立ち回るのが正解だったのか……!」
荒くれ土人形2人組が、器用に連携しながら機械兵を屠っていく。
「荒くれ土人形! 行き過ぎだ、下がれ!」
「グゴッガー!」
土人形共が下がり、俺を守るようにして左右を固める。
後方には闇の子蜘蛛が控えてるから、多少の襲撃じゃビクともしねぇぞ。
「ゴトウさん! 俺は待ち伏せしてそうな地点を潰します!」
「分かった!」
荒くれ土人形を2枚召喚した事で、また山札からカードが補充されている。
溜まったコストは2。引いたカードの内1枚は、親の顔より見たカード。
さて。2度の襲撃で傾向は掴んだ。
奴らが潜んでいるとすれば……例えば、そこ。
「発動、ファイアストライク」
わざとらしく空いた隙間に炎の一撃が放たれる。
「——」
中で断末魔のような音が響き、脚部の破片が穴から噴き出た。
「当たりィ!」
次の巣穴はもっと工夫する事をオススメするぜ!
「やるじゃーん」
「だーっはっはっは! 調子出てきたぁ!」
俺は生まれてこの方、出所不明の自信に突き動かされて生きてきた。
ろくでもない目に遭う事もあるが、これまでの経験が言っている。
「これは乗るべき流れだな!」
土人形と子蜘蛛を率いて、別の隙間へ向かう。
——道中の、別の隙間には気付いてないフリをして釣り出しを狙いつつ。
金属が擦れる音。
「釣れた。闇の子蜘蛛……糸を吐けッ!」
「ギ」
闇の子蜘蛛から糸が放出され、俺を襲うべく飛び出してきた蜘蛛型機械兵が糸に包まれ失速しながらこちらに落下してくる。
「土人形ども! サンドバッグの参戦だぁ! 相手してやれ!」
「グゴゴゴゴ!」
返り血、いや、返り油が頬を掠める。
危ねぇな。目や口に入るとあまりよろしくない……街に帰ったらゴーグルでも買うか?
「腹下しはまだしも、失明は死活問題だしなぁ」
コストがあと1溜まったらもっかいファイアストライクをぶっ放す。
そんで、まぁ……そうさな。
この戦いに魔王サマは必要無いって事で。
勢いに乗った俺と、経験者のゴトウさん、ローリス。
殲滅を終えるまでは、そう時間はかからなかった。
◇
「お疲れ様」
「おっつー」
「お疲れ様です」
返り油まみれの3人。
ゴトウさんが口を開く。
「ライトくん。最初はどうなる事かと思ったけど、君の戦略分析や敵の炙り出しのお陰で楽に戦えた」
「ミギテくん頑張ってたよなー」
ふふん。
俺は得意げに胸を張った。
「君は……いわゆる召喚士という事になるのかな? それにしては君自身も攻撃魔法を使用していたように見えるが」
「召喚士っすね。戦況によってはもう少し強いヤツが呼べますよ。あと、攻撃魔法は今んとこオマケなんで期待しないで下さい」
「なるほど」
ゴトウさんがうんうんと頷くと、手元の時計を確認する。
「ふむ……定刻は過ぎている。手こずっているのかもしれないな」
時計か。戦闘で故障した様子もねぇ辺り、魔道具かもな。
良い稼ぎのようで。
「手こずってるって、アルバートさんが居る方っすか?」
「そうだな。アルバートさんと、オムくんの2人だ」
ふーん。
「同じような特殊型がいると確かに手間取るかもしれないですね」
「アルバートさんは言わずもがな、オムくんも俺と同等かそれ以上の手練れなんだが……あの程度の特殊型で……?」
ゴトウさんがううむ、と唸る。
ローリスはと言えば、思考が止まった顔で集めた機械兵の核をガシャガシャ鳴らしている。
「あー、そっすね。心配なら一応見に行きません? 援護する事になったとしても……俺含めて、報酬の配分に文句言い出すような奴はいないでしょうし」
俺の提案に、ゴトウさんがふっと笑う。
「君とは長くやっていけそうだ」
「俺もそう望んでますよ」
「なぁなぁ、俺は?」
「うるせぇな。そうだよ、てめぇもだよ」
このアホとも長くやっていかなきゃならないのがネックだ。本当に。




