第6話:魔王の召喚
「お、初見の敵を大量に倒したからか?」
アルバートさん達の担当区域に向かう道すがら、パックポイントをチェックする。
既に500以上のポイントが貯まっていた。
「開けとくか……」
「なにそれ」
後ろからローリスが肩に顎を乗せてくる。
ダル絡みやめろや。
「企業秘密だ」
「触っていいのこれ」
「触ったら殺す」
伸ばしてきた手を強めに叩き落とす。
パック開封は俺の心のオアシスだ。
絶対に他人にはやらせん。
「そろそろ着くぞ」
「はい」
流石にじっくりとやる訳にはいかないので、サクッと開封する。
ふむ、鏡面の魔法陣3枚目に……?
「蜘蛛の炸裂じゃん。これは激アツ」
「え? どれ?」
「まとわりつくな鬱陶しいッ!」
ローリスを跳ね除け、デッキ編集画面を開く。
「デッキ複数種作れるようにしとけよな、マジで」
どうせ討伐を手伝うと言っても俺の手はほぼ要らないだろう。
なので、より闇の母蜘蛛の召喚を狙う方向にデッキをいじる。
「見れたらいいな、っと」
鏡面の魔法陣も3積みで完成。
是非とも魔王サマを拝ませてくれよな!
「うん。ここの結界の先だな。まだ終わっていないのか……」
到着したらしいのでデッキ編集画面を閉じ、顔を上げる。
「ちゃちゃっと助太刀済ませて、一杯やりに行きましょうよ」
「はは。そうだな」
先導するゴトウさんに続く。
結界を通る感触。
そして、中の光景が目に入ってきた。
『敵意を感知。システムを緊急起動』
『初期コストは、42です』
「ゴトウさんッッッ!!!」
自身から悲鳴のような声が漏れたのが分かる。
だが、全てが遅過ぎた。
最初に退路が塞がれた。
いや、誘い込まれていたと言うべきか。
結界の内部はワイヤーの束でできた壁に囲まれており、俺達が通ってきたはずの場所も既にワイヤーで埋められていた。
次に、ワイヤーに掠め取られるようにしてゴトウさんが引き摺られていった。
絶望の表情で彩られたまま。
そして最後に、その絶望の意味を知る。
「死ん、でる……」
巨大な、アラクネ型の機械兵。
その周囲にはいくつもの死体がぶら下がっており、その内の新鮮な死体は——。
見覚えが、ある、男。
アルバートだ。
「はッ、はッ」
息ができない。
まずい、心が折れる。
ここで折れたら、動けなくなる。
「なぁ」
遠くから声が聞こえる。
「マジやばくね? どうすんべ」
伸びてきていたワイヤーを斬り伏せながら、ローリスが隣に並ぶ。
その表情は、相も変わらず気が抜けていて。
「……お前は」
ローリス。
お前の頭のネジが外れていて助かった。
「発動、鏡面の魔法陣。使用コストは8ッ!」
コストX:呪文:鏡面の魔法陣
コストXのカードを1枚選び、相手に見せてから手札に加え、その後山札をシャッフルする。(Xはデッキ内に存在するカードのコストの内、任意の数値)
コスト8のカード。
それはこのデッキにおいては1枚しかない。
いくつかの候補の中から、俺はそのカードを掴み、取り出した。
地面に現れた巨大な鏡に、魔王が映る。
「俺が手札に加えたのは……闇の母蜘蛛だ」
赤黒いオーラを放つそのカードを、アラクネ型機械兵に見せつけた。
コスト8:魔王:闇の母蜘蛛
『闇夜を織りて、八束となる』
《子喰らい》このカードの召喚コストをX支払う代わりに場に召喚されている闇の子蜘蛛X体を破壊しても良い。(Xは8以下の任意の数値)
《無尽の卵嚢》貴方がコストを1得る時、コストを得る代わりに闇の子蜘蛛を1体召喚する事を選んでも良い。
《闇の軍勢》貴方の手札にある、闇の子蜘蛛を召喚する効果、または闇の子蜘蛛の数を参照する効果を含んだカード全てのコストはその時召喚されている闇の子蜘蛛の数と同値分低下する。ただしその際、コストは0以下にならない。
そして残るコストは34。即座に召喚が可能。
「召喚! 闇の母蜘蛛! 魔王の威厳を見せてやれッ!」
俺よりも2回りほど大きいアラクネが召喚された。
そして召喚と同時に自身の糸で周囲のワイヤーを薙ぎ払う。
『同族か? いや、少し違うな』
なんだ? ボイス付きか?
闇の母蜘蛛に対して何か語りかけてみようかと思ったところで、ローリスが割り込んできた。
「何そいつ。俺は何すりゃいい?」
「守ってくれ。俺が場を整えるまで……コイツも含めて」
「あいよー」
気の抜けた返事が今は頼もしい。
『そのような存在に守られるほど脆弱では無い』
「オーケー、悪かった。じゃあ俺達を守ってくださいよ、魔王サマ」
『言われずとも既にやっている』
会話が通じるタイプなのね。
これは連携が取りやすい。
初期コストが多かったせいで、コスト配布の間隔は乗っけから15秒毎になっている。
「コストを得る代わりに闇の子蜘蛛を召喚することを選択」
デッキホルダー上に現れた選択肢。
闇の母蜘蛛の効果によって、俺はコストを得る代わりにそのコスト数分の闇の子蜘蛛が召喚できる。
「基本的に今余ってる28コストだけで手札回して、配布されるコストは闇の子蜘蛛の召喚に全ぶっ込みしようと思ってるんですが! 闇の母蜘蛛さん的にはどうですかね!?」
『ワケのわからない言葉を使うな』
「ア……す、すいません」
怒られは発生したが、段々と頭は冷えてきた。
いつもの俺の自信がじわじわと顔を出し、絶望感を後退させていく。
「ゴトウさん!」
ワイヤーで吊り下げられている様子のゴトウさんに声をかける。
反応無し。
だがどうにもまだ死んだようには見えない。
気絶させられている……?
「何の為に捕縛してんだ? クソッ、間に合ってくれよ」
手札を確認しつつ、戦況を分析する。
周囲には取り囲むようにして蜘蛛型機械兵。
そんでもってアラクネ型機械兵が定期的にワイヤーで攻撃をしてきている。
周囲の蜘蛛型機械兵はローリスと闇の母蜘蛛で牽制できてはいるが、いつ崩れるか分からない。
そんでもってワイヤーの迎撃は完全に闇の母蜘蛛頼りだ。
『あの男は諦めろ』
「……理由は? 救助を最優先にするなって話なら同意するけどよ」
『既に産みつけられておる。どう足掻いても助からん』
産みつけ?
待て。深く考えるな。
意味もなく恐怖が増幅させてしまうのはディスアドにしかならない。
考える内容を取捨選択しろ。
今俺が考えるべき事は一つ。どうすればあのデカブツを殺せるか?
「魔王サマ、戦力的にはあと何匹ほどの眷属がご入り用で?」
『それを考えるのがお前の役目だろう』
「オーケー。10匹ほど召喚したあたりで蜘蛛の炸裂を一発撃って様子を見たいとこですね」
『そうか』
高飛車だな。興奮してきたぜ。
「状況は最悪。気が合いそうだった仲間は死んで、俺は恐怖で今にも叫び出しそうだ!」
28のコストを用いて場にモンスターを並べていく。
蜘蛛の炸裂2枚分のコストは残したいから……いや、そうか。
闇の子蜘蛛関連のカードなら母蜘蛛のコスト軽減効果が入る。コストは2残せばいい。
大丈夫、楽勝だ。
自分にそう言い聞かせて、手の震えを抑える。
「薄っぺらくとも、虚勢でも。何枚も何枚も重ね貼りすりゃダンボール程度にはなるもんだ」
『客観的なのか主観的なのか分からぬの』
現実的に言うなら自己暗示。
ポジティブに言うなら、あー……バフか?
「魔王サマ」
『なんじゃ』
「美しいお姿に感動しました。俺とお付き合いして頂けませんか?」
『は? ……気色が悪い。殺されたいのか』
勢いじゃダメ、と。
どう口説くかは生き残ってから考えるか。
俺の周囲では、召喚した闇の子蜘蛛や荒くれ土人形や獣人っぽいクリーチャーやらがわらわらと集い、蜘蛛型機械兵と殴り合っている。
さて、頃合いだな。
「発動、蜘蛛の炸裂」
1枚目を試すとしよう。




