第26話:魔導の掟
今日もダンジョンに来ている。
今いるのは区画C。
区画Dは危険度上昇の懸念及び調査のためしばらく立ち入りを禁止しているらしい。
青いホテルマンが使用していた空間、通称エントランスの調査だそうだ。
ランク自体はDのままだが、詳細が分かり次第おそらく昇級になることと、コドクの口添えもあって区画Cの許可が降りた。
区画Cは住宅団地だった。
地下であるにも関わらず頭上には曇天の空が広がっている。
ここは全体的に薄暗い。重く、服が肌に張り付くようなべとついた空気も気分を低下させる。
「それに出てくる魔物がなぁ」
住宅部分に入ると廊哭が出る。
この場所の雰囲気も相まってかなりの不気味さだが、狭い分特定が容易で倒しやすい。
問題は、外部を歩いていると出る魔物だ。
特徴的な足音、荒々しい息遣い。しゃがれた声。
そして何より執念深く、しぶとい。
『システム起動。初期コストは6です』
——通称、団地ドラゴンである。
「ギャオオオオオオオオ!!!!!」
「クソッ、急にバカゲーみたいな敵出してきやがってッ!」
団地ドラゴンは2m程度の身長で、鉤爪が発達している以外は恐竜に近い見た目をしている。
翼はなく、発達した脚力を活かし急激に距離を詰め、顎で敵を粉々に砕く。
存在のトンチキさに反し、非常に厄介な敵だ。
さてハンドを確認。
“自由自在”ローリス。
魔力盗みのゴブレット。コスト3。
適応する魔槍。コスト4。
サモンファング。コスト1。
「うっひょお〜! 最強ハンド!」
今朝引いた新弾カードがさっそくきたぜ!
「魔力盗みのゴブレット。対象は俺!」
コスト3:付与:魔力盗みのゴブレット
付与中:呪文カードでダメージを与えた時、コストを1得る。
これで残り所持コストは3。
次の引きは……。
コストX:呪文:鏡面の魔法陣
コストXのカードを1枚選び、相手に見せてから手札に加え、その後山札をシャッフルする。(Xはデッキ内に存在するカードのコストの内、任意の数値。コストXのカードは指定できない)
ふむ。まぁ良かろう。
魔導の掟の軸は間違いなく魔力盗みのゴブレットだな! まだ2枚しか持ってねぇが重複した時が強すぎるぜ!
やっぱ呪文はそのぐらいしてくれねぇとな!
コスト払って単発で終わるの上に避けられたら何のアドも無いのがキツいんだわ!
「サモンファング」
コスト1:呪文:サモンファング
目の前に魔力による牙を発生させ噛み付かせる。
コストを1を消費。
団地ドラゴンに直撃。一瞬怯む程度の火力だが、問題ない。
呪文カードによりダメージが発生。コストを回収。
残りコストが3に戻る。それだけじゃない、カードを使用したからドローが入る。
0コストでダメージ与えてドロー!?
最強じゃねぇか。
「なんか楽しそうじゃん」
団地ドラゴンが怯んだ隙に懐へ潜り込んでいたローリス。
斧を団地ドラゴンの顎に向けカチ上げるように振るう。
「グ、ギュア!?」
団地ドラゴンがよろめきながら前脚の爪を振るう。
それをローリスが後ろへ飛び退き、回避した。
「グ……」
喉奥からガラガラと音が鳴る。
まずい、酸のブレスだ。
「オエエエエエエエエエ!」
そのブレス音何とかならんか?
俺は咄嗟に建物の影に隠れ、ローリスも同様にブレスを避けた。
地面からじゅうじゅうという音がする。
「ケェエエエエエッ!」
即座にドスドスという足音。
吐いたばっかなのに元気だな!
コストが貯まる。所持コスト4。
建物の影から飛び出し、隠れていた俺を団地ドラゴンが視認する。
「適応する魔槍」
コスト4の呪文カード。
首を目掛けて邪悪なオーラを放つ槍をぶん投げる。
「グブゥ、ガァア!」
半身逸らされ、槍は前脚の上部に当たった。
だが命中さえすれば良い。
コスト4:呪文:適応する魔槍
呪われた槍が出現し、指定した対象1体に飛んでいく。
命中時:コストを-1した『適応する魔槍』を1枚、山札に加えてシャッフルする。(コストは0未満にならない)
「命中時の効果、コストを-1した『適応する魔槍』を1枚山札に加えてシャッフルするぜ」
コストは0未満にならないんですって。マイナスにさせろ。
ゴブレットの効果でコストを1回収。次のドローは……。
コスト2:呪文:アクア・ウィップ
水を束ねて、敵を打ち据える。
無難な呪文カード。悪くない。
「そりゃ!」
そんなこんなでローリスが間に合う。
背後から跳躍しながら斧を振り下ろす。
「ギィゲェエエエエエエッ!」
背中に深々と斧が突き刺さる。
血飛沫をあげながら団地ドラゴンが振り返った。
ローリスは刺さった斧を手放し、即座に刀を構えていた。
「よっ……と」
振り下ろされた鉤爪を刀で受ける。
受けた衝撃を逃すように側面へステップし、鉤爪の付け根を浅く裂く。
「グゥ……ググ」
痛みで旋回が微かに遅れる。
ローリスはその隙を逃さない。
俺の適応する魔槍で負傷した箇所に再度斬撃を与えた。
前脚の一本がちぎれかけだ。
「ギィイギギギギ」
団地ドラゴンが住宅に向け跳躍した。
足の爪の力で一瞬壁に張り付き、即座に飛び蹴りを行う。
「あ、ッぶね!」
ローリスが地面を転がりながら回避。
団地ドラゴンの目が俺に向く。
「ケェエエエエエッ!」
突進。
こいつ半端に賢くてうぜぇな!
ギリギリでコストが貯まる。
所持は2。
「アクアウィップ!」
狙うのは後ろ脚。
「ギィアッ!?」
水で鞭がしなり、団地ドラゴンの足元を薙ぎ払う。
前脚を庇おうとしていたのか、重心が崩れ盛大にすっ転ぶ。
次のドローは……牙無き者の為の杖。
コスト3:付与:牙無き者の為の杖
《付与中:10秒経過毎》
>サモンファングを1枚付与対象者の手札に加える。
定期的にサモンファングを手札に加える付与カード。
今欲しい札ではない。
むしろサモンファングが直接欲しかった。
「ただまぁ、終わりかな」
転倒した団地ドラゴンにローリスが襲いかかる。
刺さった斧を蹴り、一息に頭部へ跳躍。
空中で身体を回転させながら、刀を振り下ろした。
「ガッ」
団地ドラゴンの首が落ちる。
その後しばらく痙攣した後に、死骸が消失した。
『戦闘終了』
赤い魔石を拾う。
ふむ。流石にドラゴンは強いな。
「対あり」
◇
「いやぁー……ダンブルグにも銭湯があるとはなぁ」
区画Cでの初仕事を終えた俺は、転移者が経営しているらしいスパリゾートへ来ていた。
隣でコドクも同様に浸かりながら息を吐く。
「綺麗好きなのか。カードゲーマーなのに」
「は? 刺青入ってる人は湯船に浸からないでもらえますか」
「おい」
コドクがこちらを睨む。
かかってこいや。確かにカドショは臭い。
カードゲーマーもその傾向にある。
だけどな……えぇっと……まぁ……。
「俺はカードゲーマーである前に、人であろうと思っていますんで」
「人であろうとしない奴が多いってことか?」
いや、逆に考えて欲しい。
人であることを捨てたような奴ですら楽しめる娯楽。それがカードゲームなのだと。
福祉だと思って欲しい。
お湯に肩まで浸かりながら、新弾のことを考える。
なかなかのパワカ揃いに見えた。
それに、日々引けるパックの量も掃除屋の時より増えている。
これは大幅な強化だ。
まだ引けていない闇の母蜘蛛に相当するレアカードが引ければ……Bランクは近いんじゃないだろうか。
「CからBって、どのぐらいの納品数があれば上がりますか?」
俺の問いに、コドクガにやにやと笑いながら答える。
「ん? そうだなぁ……今のお前達は良いペースだ。なぁに、半年もせずに上がれるさ」
あっそ。
真面目にやるだけじゃ期限には間に合わない、と。
頼みの綱は階層主だな。
あっちが会う気になってくれないと厳しいってのがネックだ。
そんで、そもそも遭遇したとして勝てるのかって問題もある。
「コドクさん」
「おう、なんだ」
「ちょっと稽古つけてくれませんか」
コドクが目を見開く。
やがて薄く笑みを浮かべ、頷いた。
「稽古、ね。具体的には」
「手加減した状態で、ちょっと俺らと戦ってくれません?」
喉奥を鳴らすようにしてコドクが笑う。
俺は引き以外で劇的には強くなれない。
なれるとすれば、ローリスだ。
アイツのここ最近の動きのキレは凄まじい。
もっと強い奴と戦えば、何かを掴んでくれるかもしれない。
「なぁ、そんな提案をしたなら俺がどう言うか分かってるよな。あんまりに不甲斐ない負け方をしたなら、推薦の話は無しだぜ。たとえ期限内にBランクになったとしても、な」
「いいっすよ」
リスキーだ。
だがリターンも大きい。
なに、この程度の賭けは日常的にやっている。
今更一件増えたとしても問題はないだろう。




