第25話:目的
「最後の魔石についてですが、査定に時間がかかります。具体的には……そうですね、3日ほどいただいてよろしいでしょうか」
俺たちは青いホテルマンを討伐後、廊哭に遭遇しつつも無事突破。
こうして無事ギルドで報告と納品を終えたわけだが……。
「その3日間も通常通り仕事をして良いんですよね?」
「はい。構いませんよ。査定はこちらの仕事ですので、今回の報酬の一部……つまりは青い炎の魔石の支払いをお待ちいただく以上の影響はございません」
「わかりました。ではよろしくお願いします」
「はい。お任せください」
受付嬢が恭しく礼をする。
綺麗な所作だな。流石プロだぜ。
カウンターを去り、ローリスと肩を組む。
「よし、飯行くぞ飯!」
「コドクのとこ?」
「行かねぇよバカ」
今日はまともなとこで飯を食う。
そう意気込んでギルドを出た。
「よう後輩候補。新種のホテルマンに遭遇して討伐したらしいな」
ギルドの入り口で紫煙をくゆらせ待っていた男がいた。
全身に刺青が蠢く男、コドクだ。
「期限付きの目標を言い渡しておいて食あたりで1日潰す。流石の先輩力だ。尊敬しちゃいますね」
1日、のところで中指を立てつつまくしたてる。
謝罪に来た時は余裕がなくて煽れなかったのでね。今の内にしっかり言っておこう。
「……お前、なかなか良い度胸してるよ」
コドクが呆れた表情を浮かべながら、吸い殻を地面に捨てた。直後に靴でぐりぐりと消火する。
マナーが終わってるな。
「安心しろ。良い調子のお前らに一昨日の詫びも兼ねたお祝いだ。飯を奢ってやる。何が食いたい?」
「肉!」
ローリスが元気に答える。
コドクが頷き、俺に耳打ちする。
「一昨日も聞こうか悩んだんだが……この嬢ちゃんは何なんだ?」
「仕事仲間っすね」
「おお……うーん……まぁいいか」
何だよ。言いたいことがあるなら言えや。
コドクは俺のそんな視線を咳払いして誤魔化し、声を張った。
「よーし、俺のお気に入りのところに案内してやる。期待してろよ」
期待、ね。任せとけ。
俺達は力の限り飯を食い、散々コドクの財布にダメージを与えた後に帰宅した。
◇
「久しぶり」
見覚えのある白い空間。
アオバが椅子に座っている。
「よう。最後に会ったのはフロウダインで死にかけた時か」
「そうだね。君は今……もうダンブルグで仕事を始めているようだね。大したものだ」
俺の現在地を把握していないのか?
アオバが数度首を横に振る。
「把握しているさ。今はキンさんの知り合いの店の、物置を借りさせてもらっている。そうだろ?」
そうそう。
布団まで貸してもらって、そんで俺らがいない内に干してくれてる。
僅かばかり金を渡してはいるが、宿泊費として考えると破格だ。
「今日は何の用だ?」
「転移者の討伐と、青いホテルマンの討伐でリソースが確保できた。新弾を実装しよう」
「魔導の掟で」
「まぁ待って欲しい」
魔導の掟だろ。
コンボしたいコンボ。
もう一つは異界の英雄だろ?
強カードの予感はするけどさ。
「魔導の掟で。それとも新規の選択肢があるのか?」
「……まぁ無いけど」
無いんかい。
じゃあ話は終わりだな。
「闇の母蜘蛛様を……呼んでいただけますか?」
「待ってくれよ。話はまだあるんだ」
えぇー。何すか。
椅子に腰掛け直し、アオバの方を見る。
言ってみなさい。
「空白のカードを増やせるようにしておいた。これで2人目の仲間にも対応可能だね」
ほう。
「何枚まで作れる?」
「カード自体は何枚でも。デッキ編成時に空白のカードを何枚含めるか選べる」
まぁパーティーメンバーは往年のRPGよろしく3人までって事か。
4枚空白のカードを入れるとハンドがそれだけで埋まって俺が置物になるからな。
「ま、強化だな」
「あと余ったカードについてだけど」
っしゃきたァ!!!!!!!!!
俺は椅子から身を乗り出し、アオバににじり寄った。
「カードの分解生成システムか? それとも他の何かか?」
「分解生成は厳しい。ランダム性を崩しすぎると要求されるリソースの量が増える」
おう、そうか。
まぁそこはいいわ。じゃあどうするわけ?
「圧迫面接だなぁ」
うんうん。それで?
君は何ができるんだい?
「既存のカードの強化だね。複数枚を1枚にまとめることでそのカードの出力を上昇できる。場合によっては効率化もあり得るだろうね」
「ダメージ上昇かコスト軽減ってことね? はっきり言いましょう! テキストもはっきり書きましょう! ありがとうございました! そちらの方からお帰りください!」
「く、クソ面接官……」
真っ当な指摘だろうが。
さて、こいつのぼかした物言いはともかく、かなり明確な使い道ができて驚いた。
素直に嬉しいね。
「強化の上限回数は?」
「1回だね」
うーん……。
結局結構余らない?
「頻繁に出るカードはそれだけ強化の要求枚数が多いよ」
そうすか。
まぁ元々価値のないゴミだったものだ。
シンプルなアドとして受け取っておこう。
「つまり魔王レベルになると……?」
2枚で済んだり?
「ああごめん、魔王は強化はない。完成体なんだ」
ふーん。
そういうとこはね。
俺は好きだよ、アオバくん。
椅子の上でふんぞり返る。
さっさとカード強化したくなってきた。
ファイアストライクどのくらい強くなんのかなー。
盾の召喚もどんな具合になるんだろ。
てか普通に新弾が楽しみだ。
「そんじゃこの辺でお暇させてもらう」
「えっ」
アオバが目を丸くして俺を見……いやこれ俺じゃないな。
俺の後ろだ。
「ほう。帰るのか」
威厳ある声音が俺の身体の芯を揺らす。
振り返ると、闇の母蜘蛛がいた。
「あー……いえ、その、魔王様の活躍の場をですね。一刻も早く増やすため奔走すべきでは、と思いましてね」
「本当か?」
闇の母蜘蛛の前脚が俺の顎に添えられる。
え? 顎クイされてる?
「ほ、ほほほほほ本当です」
嘘ではない。だって魔王様を召喚するのが現状取れる動きの中で1番強いから。
そこを目指せるなら目指すに決まっている。
魔王様はしばらく沈黙し、俺を観察している様子だったが、不意に前脚に込められた力が抜ける。
「では、期待しておく」
そして、そっと前脚で引っ張られ、ふらふらと進む内に他の脚の上に座らされた。
な、何すか急に。
「ダンジョンに潜るならいずれ出会うであろう階層主。それに対抗できるのは、私しかいないだろうからな」
そうなの?
魔王様とアオバを交互に見る。
アオバが頷いた。
「ダンジョンマスターは死亡している。階層主は基本これ以上再湧きできない……だから身を隠しているだろうけど、確かに存在する」
へー。マスターが死んでると再湧きできないんだ。
雑魚魔物は再湧きしてるよな。
リソースの問題ってやつか?
というか、待てよ。
青いホテルマンってひょっとして階層主だったのか? 倒しちゃったよな。
アオバを見る。
「まぁ、そうだね。何か思うところがあったんだろう。それと彼は……少し、事情があってね。おそらく再湧きしているはずさ」
「マジ?」
客骸無限スポナー健在か。アツいね。
「酷い言い方するね」
酷いか? そういう旨み込みでのウェルカムドリンクなんじゃないのか?
というか何故あの青いホテルマンは俺に会いに来たのだろうか。
どうしてこれまで隠れていた奴がわざわざ俺を殺しに……違うな。何となくだが、単に殺すことが目的だったようには思えない。
どちらかと言えば、俺を試すような。強くしたいような。そんな意図を感じた。
ダンジョン側の意思なんだろうか?
アオバは、思うところがあったのだろうと言った。
これまでの情報から、関連しそうな出来事を思い返す。
「アオバ。お前は俺にやって欲しいことがあると言ったな。それに関係しているのか?」
「ふむ。我ながら、良い拾い物をしたと思ってるよ。君は物事を繋げて類推する力がずば抜けて高い」
そうでもねぇよ。
だって他に繋げるとこあるか?
俺は魔王様に前脚で撫でられながら、続けた。
「ダンジョンマスターは失敗したんじゃないのか? お前と同じ目的を果たそうとして」
思うところがある。
俺がその目的を果たせるだけの人物なのか?
自分達の主人にできなかったことを成せるような男なのか?
そういう意図での行動だった。ってのはどうだ。
「合ってるか?」
「……彼は誠実で、努力家だった。自分の命を懸けるに足る目的を見つけたらそこへ突っ走っていってしまうような」
ふむ。
俺の推理は合ってるんだな?
そして道半ばで死に、ダンジョンとその階層主達が残った。
「単に強いだけではダメなんだ。ミギテ・ピカライト。分からないだろうけど」
いいや?
「分かるさ。足回りのカードの大切さは嫌というほど知ってるからな。単に強いカード突っ込んだだけじゃデッキにならねぇ……まぁデッキになっちゃって誰も太刀打ちできないみたいな時もあるけど」
結局再現性なわけ。
ほんで対応力の幅なわけよ。
アオバが微笑む。
「そっか。そうだったね」
視界が白く染まり始めた。
ここらで時間か。
俺は目を瞑り、意識が覚醒するのを待った。




