第22話:引く男
終わりのない地下鉄をひたすら歩く。
時折柱に数字とアルファベットが記入されており、これが今いる場所の目印になる。
「そろそろ引き返した方が良いのか……?」
入って10分ほどで初戦闘。その後もちょくちょくあの異形スーツと遭遇し、計5つの魔石を手に入れた。
ノルマは達成している。
初回はこんなもんにして退くべきか?
「ローリスはどう思う?」
「んー。まぁ右手くんの好きにしたら良んじゃね」
丸投げしやがって。
人に生殺与奪の権を握らせた自覚はあるんだろうな。
じゃあてめぇ今から俺ら2人で好き放題裸踊りしながら魔石バリボリ食いますつったらするんだな?
今日はたまたまそんな事は言わないけど。
命拾いしたな、おい。
俺はそんな抗議の意を込めてローリスを睨んだ。
「へへ」
笑いごとじゃねぇぞ。
「よし、今日は一旦帰ろう。初回にしちゃ上出来だ」
「おっけー」
俺達は慎重に柱の番号を確認しながら入り口へ戻った。
◇
運良く帰り道で追加の異形スーツに遭遇し、俺達は魔石6つを持ち帰ることができた。
ダンジョンの出入りを管理する施設を出て、隣接するギルドへ向かう。
「Fの魔石6つですね」
書類にサインし、納品完了。
いくらかの手数料が引かれた額が手渡される。
ふむ。
掃除屋よりは割りが良い。
最下級のFでこれなら上がっていけば2倍か3倍の収入になるかもな。
というか掃除屋の報酬がしょぼすぎなのか?
「物価はヴォイドヘイムのが安いんだよな」
飯が高くてビビったぜ。
さて、金も手に入れたし色々と買い物をしないとな。
「あの、すいません。ダンジョンに関する資料とかって……」
「資料というと? 地図であればこちらで販売していますが」
「魔物の種類とかそういうやつです」
受付嬢がうーんと唸る。
え、無いの? 嘘だろ?
「2階の資料室にギルドのデータベースにアクセスする機器はありますが……その、文字に関して高度な教養が必要なので職員の付き添いが無いと厳しいと思います。今は手が空いてる職員が少ない時間帯となりますので……」
「高度な教養?」
よくわかんねぇが、現代文の教科書ネタを擦ることならできるぜ。
それで何とかならねぇかな。
「文字は書けるとの事ですが、その……えぇと、まずキーボードという物がありまして」
キーボード?
「あ、ひょっとしてローマ字?」
「! そうです。もしかして転移者の方ですか?」
おお、すげぇ。なろう主人公の気分だ。
職員の手を借りずに資料見れる俺ツエー!
というかアレだな。悲しいことに、掃除屋全体がそういう層と見られてるんだな。
ローリスは実際字を書くのが苦手そうだったし、人によっては読む事すらできないんだろう。
思えば、発生場所の告知や報酬の受け取りも全て音声案内付きだった。
「そうですね。転移者です」
とりあえずそう珍しくない存在っぽいので、素直に肯定しておく。
すると、受付嬢にちょいちょいと手招きをされた。
言われるままに顔を寄せると、小声で告げられる。
「転移者なら、2階の受付の方に伝えれば何段階かランクを飛ばせるかもしれません。登録証発行と同じ場所です」
マジか。
ランクを飛ばす、かぁ。どうだかな。
俺も小声になり受付嬢とやり取りをする。
「ノルマが発生しますよね、確か」
「そうですね。Dランクからは月に一定数の魔石の納品記録がない場合Eランクに降格となります」
「降格時のペナルティとかってあるんですか?」
「ありません。ですがDランクからはギルド及びダンブルグからの援助が受けられるようになりますので、それの利用が停止されることが実質的なペナルティです」
なるほど。
なら一旦高いランクになってても良いのか?
単に優秀な人材をこの国に留めるための措置の1つな気はする。
待てよ。
「ギルド及びダンブルグって言いました? ひょっとしてこの国以外にも支部があるんですか?」
受付嬢が頷く。
「はい。エルダーウッドと……いえ、他にはエルダーウッドのみです」
何か含みがあったな。
公的には認めてない支部があるとかか?
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。今後とも我々ギルドをご贔屓に」
エルダーウッドか。
行ってみても良いかもな。
どのくらいの距離があるんだろう。
話を終えた俺は席を立ち、振り向いた。
「よし、待たせたなローリス。資料を見に行こうぜ」
「えー」
えー、じゃない。
つまんなそうに前髪をいじるな。
「俺だってめんどくせぇよ。でも行くぞ」
「おもしろくねー」
わがまま言うな。
必要なことなんだよ。
そして必要なことはたいてい面倒臭いんだ。
◇
2階の職員は手慣れた様子で俺の能力について口頭で調べ、最終的に妙な魔導機でおおよその出力を計った。
結果はDランク。援助が受けられるとのことだ。
具体的にはギルドの系列店での割引。
迷宮入場料や登録証再発行料の無償化。
特に入場料はありがたい。
元々一般客よりは割り引かれた価格ではあったが、仕事場に行くのにいちいち金を取られるのはストレスだった。
あとついでにローリスのランクもどうにかならないか相談した。
結果としては能力に組み込まれている事実を加味して同ランクであるDに昇格させてもらった。
転移者、サイコー! って感じだ。
転移という現象自体には中指を立てたいところだが。
そうして長い長い書類記入作業を終え、追加で資料を見に行き——。
「さぁてローリスくん。よく頑張ったな。飯を食いに行くぜ」
「……」
テンション低っ。
完全に死んだ目で空を見つめるローリスの肩を揺さぶる。
「めーしーいーくーぞー」
「肉がいい。あと酒も飲む」
お前なぁ。
この辺の店まだよく知らねぇんだよな。
適当な居酒屋入ればいいか。
「適当に飲み屋街行くかぁ」
「うん」
すっかりへにゃへにゃになったローリスを連れ、しばらく歩く。
街はすっかり陽が落ち、店の明かりが道路を照らしていた。
街灯すっくねぇな。
この国金ねぇのか?
飲み屋街に入る。
心地よい喧騒だ。もう通路で寝てるアホもいて、気分が安らぐ。
「人が少ねぇとこが良いよなぁ」
並ぶのは面倒だ。
「地酒あります……ここにするか?」
「んー」
何お前もう酔ってる?
いいから行くぞ。
古びた木製の扉を押し、薄暗い店内へ入る。
「いらっしゃい。……へぇ、なんだ。ソウイチロウから聞いたのか?」
全身に蛇や蜥蜴、百足や蜂、クラゲなんかの刺青が入った店員がカウンター越しににやりと笑う。
「まぁ座れよ。歓迎してやる」
その刺青達は、まるで生きているかのようにもぞもぞと動いていた。
店内には他に客がいる様子もなく、ただただ不穏な空気が充満していた。
「……」
「右手くんマジ引き強いね」
おい急に元気になってんじゃねぇぞローリス。
肩組むな! 店に無理やり入れようとすんじゃねぇ!
「うそうそ! 金ない! 無一文! 腹も減ってない!」
「はっ、賑やかな奴だな。金なんか要らねぇよ、早く座れ」
クソ、ふざけやがって。それを先に言えよ。
俺はローリスを引っ張って即座に席に座った。
「肉料理ってあります?」
「……あるよ」
店員が奥に引っ込み、がさごそと準備をし始めた。
ったく。この街は物価が高ぇからな。
タダ飯は逃せねぇぜ。
「右手くん引くわー」
何? 強いカード引くわーってこと?
ありがとうね。




