第21話:区画F
「積み荷重すぎんだろマジで……」
「まぁジャンクパーツってことはアレ全部金属だし。そりゃ重いっしょ」
そう言われればそうだけどさぁ。
てかあの重さなら積み荷が崩れて押し潰されたら死んでたな。
痛む腰をトントンと叩きながら、目的の施設を目指す。
その施設とは——冒険者ギルドだ。
どうせ転移者が設立したんだろう。気持ちはわかるぜ。
お決まりだもんな。
「しっかし綺麗な街だな」
街並みはガッツリ現代寄り。ほのかにヨーロッパっぽさを感じる建築物もちらほらあるが、日本のそういうコンセプトの通り程度の感触だ。
道は舗装され、車道と歩道がある。
ただ車は少ない。
ヴォイドヘイムの方じゃ結構な数走ってるんだが……こっちじゃ値が張るんだろう。
別にあっちでも安くはないけど。
「車欲しいな」
目的金額それにするか?
いやぁでも維持費がなぁ。なんか税金取られてるよな。
そう言えば抜け道あるってキンさんが言ってたっけ。
「……いや」
待て待て。
脱税はやめとこう。良い思い出がない。
お国の靴を舐めて生活していかねぇとな。
「っしゃ着いたぁ!」
ローリスの声で顔を上げる。
ギルドの文字と、赤レンガの外装。
古風にしようとしている雰囲気を感じるが、自動ドアや、そこから見える現代的すぎる内装のせいかチグハグな印象だ。
「よし、行こう」
中へ足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
入り口で、さっそく制服を着た女性に挨拶をされた。
すげぇ! 受付嬢だ!
なんかモロ企業の受付って感じでファンタジー感薄いけど!
ローリスがキョロキョロと辺りを見渡しつつ、受付嬢にたずねる。
「すいません。ダンジョン入りたいんすけど」
「なるほど。観光でしょうか?」
「いや……仕事」
受付嬢が訝しげにローリスと俺を交互に見る。
ああ、なるほど。
俺はデッキホルダーしか持ってないし、ローリスは嵩張る斧やら刀やらはキンさんの身内の店に置かせてもらってる。
だからまぁ、観光に来たヤンキーカップルにでも見えたんだろう。
俺はローリスを押し退けて受付嬢に話しかけた。
「俺もそいつもヴォイドヘイムで掃除屋をやってた身です。まぁ早い話が出稼ぎというか」
「はあ……掃除屋ですか」
俺らみたいな元掃除屋はちょくちょく居ると思ってたが、そうでもないのか?
あー待て、違うな。掃除屋は業界用語だ。
「掃除屋というか、機械兵の駆除業務ですね」
「なるほど、そうでしたか。ダンジョンで仕事となると、ギルド登録が必須となります。登録手続きは2階の窓口で行っております」
合点がいったのか、受付嬢がすらすらと喋る。
機械兵駆除の話をした途端にこれだ。
やっぱよくある事なんだろう。
「ありがとうございます。行こうぜローリス」
うろちょろし始めたローリスを引っ掴んで2階に連れて行く。
2階は打って変わってオフィスのような雰囲気で、受付らしき場所に人が並んでいた。
「結構混んでるな」
「待つのめんどくせー」
デッキリストを眺めて暇を潰したいところだが、これ見よがしに能力を見せびらかすのも抵抗があるな。
ダンジョン内の治安もよく知らないし、警戒しておこう。
「結構並ぶんですね」
それとなく次に並んでる奴に話しかける。
Tシャツにジーンズの浅黒い肌の男だ。
男は少し驚いた表情をした後に、答えた。
「まぁな。俺が登録した時はもっと並んでたぐらいだ」
「ん? 今日登録ってわけじゃないんですか?」
「おう。ダンジョン内で登録証を失くしてな。再発行だ。多いんだよ、本当に。戦闘中にポケットの事なんか気にしてらんないだろ?」
こいつ結構喋ってくれるな。
良い奴に当たったぜ。
「確かにそれはそうですねぇ。ダンジョン内の落とし物なんて戻ってきそうにないし……」
「いや。登録証に関してはたまに返ってくるぜ。ここに届けると小銭が貰えるからな。それ以外の物は……まぁ、どっかの露店で見つかればラッキーってとこか」
なるほど。
小銭以上のリターンがある悪用法は無い感じか?
「お、そろそろ俺の番だ。じゃあな」
「どうも」
去っていく男に対して軽く会釈する。
程なくして俺の番がやってきた。
俺は登録証発行料という名の実質的な入会金を払い、手痛い出費に顔を顰めた。
パンフレットには入会金無しって書いてた癖によ。普通に詐欺じゃねぇか。
◇
そしてその日の内に俺達は準備を整えダンジョンへやってきた。
地下迷宮の上層。
正式な名を、都市直下迷宮:区画F。
ギルドの最下層である俺達Fランクや、護衛付きで観光客の立ち入りが許される区画。
そして、このダンジョン内はかなり見覚えのある光景だった。
「地下鉄……」
転移者の遺産というのは本当らしいな。
構内の店なんかも再現されていた。
当然商品のような物も置かれていたが……どれを触ってもゴムのような感触で、見た目だけの物だった。
それにレジなんかの機器も全く動かない。
そういう風に削り出した石か何か。そんな印象を受ける。
「同じような空間が延々と続くな……頭がおかしくなりそうだ」
「これ持って帰っていいのかな」
ローリスがコンビニおにぎり型の何かをぐにぐにと触っている。
「嵩張るだけだ。やめとけ」
「ポケットに入れとこ」
こいつ……平気そうだな。
まぁ俺がなまじ地下鉄を知っているからこの空間に違和感を持っているだけなんだろう。
実際の地下鉄はこんなに無意味に通路が続いたり、線路部分に階段があったりはしない。
「観光客でも入れるだけあって全然魔物がいないな」
「なー。金稼げないじゃんね」
そんな会話をしながら、通路を曲がった時だった。
「——」
それは、スーツを着ていた。
スーツを着て、鞄を持っていた。
のっぺらぼう。茶色い身体で、頭部が不自然に縦に伸びている。
そして肌には、ウジが這ったかのような模様がびっしりとついていた。
「うお、キモッ……!?」
『システム起動。初期コストは2です』
思わず声を出してしまったせいか、異形スーツがこちらに気付く。
俺はハンドにきたファイアストライクを即座に叩きつける。
コスト2:呪文:ファイア・ストライク
直線上に伸びる炎を放出する。
「死ねや!」
異形スーツが炎に包まれ、その場を転げる。
そこへローリスの斧が振り下ろされた。
床を震わすような衝撃の後、首が断たれる。
『戦闘終了』
「おいキモすぎだろ! 普通ゴブリンとかさぁ! そういうのだろうが!」
「右手くんの出す魔物の方がキモくね?」
「キモくねーし!」
まったく。
こんなガキのようなやり取りをしている場合ではない。
異形スーツの死骸は徐々に姿が薄くなり、石ころを1つ残して消えた。
「これが魔石ってやつか」
「うおー、マジ綺麗だな」
見た目よりは軽い印象を受ける。指先程度の黒い石。
俺はその魔石を背中に背負ったリュックサックに入れた。
「これを5つも集めりゃあ掃除屋の日給に届くらしいぜ」
「へー。微妙じゃね?」
まぁ微妙だ。
さっさと入れる区画を増やさないとな。
どこであろうと熱心に仕事をするしかないってわけだ。
「気合い入れていこうぜ。キモいだけで弱い。数見つけっぞ」
「まぁそうだなー」
おいやる気出せやる気を。
はあ、宝箱なんかが見つかればデカいんだけどな。
浅い区画じゃほぼあり得ないらしいし、それは高望みしすぎか。




