第20話:この世界の景色
「いやぁ良い町だったなぁ!」
結局2日も滞在してしまった。
荷台に揺られながら、獣の転移者との戦いを思い出す。
盗人の仕事靴はおそらく敵にも付与できる。
1人に重ねがけして二重に軽くできるかは要検証……ふむ。
3枚積んでも意外と仕事するかもなぁ。
俺がデッキを眺めるばかりで暇だったのか、ローリスが運転席に向けて喋りかけ始めた。
「そういやキンさん、これって何運んでんのー?」
「ん? ああ、言っとらんかったか。こりゃ魔導工学絡みのジャンクパーツだよ。ダンブルグじゃ結構な値で捌ける。ダンブルグではダンジョンで掘れた素材を仕入れる。そんでまた都市に戻ってそれを売るわけだ」
ダンジョンって素材が掘れるんだな。
てか今から行く場所なのにダンジョンのこと全然知らねーわ。
「なぁキンさん。ダンジョンって結局どういう場所なんだ?」
「んー? そりゃあアレだろう。魔物が出てきて、そいつを殺すと魔力燃料が落ちる。内部じゃあ宝箱なんかも湧く」
魔力燃料……よくあるとこだと、魔石的なやつか?
「宝箱まで湧くのか。都合良いなぁ」
「そうさなぁ。なんでも大昔に死んだ転移者の遺産だって話だ」
ああ、なるほど。
ダンジョン運営系のチート持ちが湧いたのか。
でも死んだんだな。諸行無常を感じるぜ。
「教えてくれてありがとう、キンさん。まぁ概ねイメージ通りってことで良さそうか」
「なぁに、良い思いさせて貰ったからなぁ。あの町の酒は美味いんだ」
酒か。プレイが露骨に下手になるから、この世界に来てからは飲まないように心がけていたが……少し勿体無いことをしたかもしれない。
……この世界、ねぇ。
ソウイチロウに会って断片的ながら思い出した、前の世界の記憶。
相変わらず固有名詞まわりはフワフワしたままだが、何となく。
一緒にカードをやる仲間がいたような気がする。
大型大会に出向いて、帰り際に飯と酒。
そんな日々が、あったような。
「右手くん、何か忘れ物した? 取りに戻る?」
「いいや。大丈夫だ」
「あっそ。てかさー、これ見ろよ」
ローリスが斧……の鞘的なやつを見せてくる。
なにそれ。
鞘っつーか斧カバー?
「貰った」
「そりゃ良かったな」
得るものがあったようで何よりだ。
旅は長い。俺は周囲の警戒をローリスに任せて優雅に昼寝をキメることにした。
ちょっと昨日食い過ぎてな。
◇
アレから数日が経過し、俺達はようやくダンブルグの領土内に入った。
関所の規模感はヴォイドヘイムよりも立派で、経済的な潤いを感じる。
「右手くーん。これ見ろよー! ダンジョン探索のパンフレットだってさ!」
関所で貰ったビラをローリスが寝転がって眺めている。
この荷台にも慣れたものだ。
ローリスに言われてパンフレットとやらを見てみる。
【高収入! 迷宮探索員求ム!】
「うおー……怪しい……」
なになに? ダンブルグの直下にある地下迷宮の上層で魔石を集めよう……やっぱ魔石をドロップするんだな。
「直下がダンジョンってダンブルグの立地終わってねぇか?」
「確かに」
そこんとこどうなんだよ、キンさん。
俺は荷台から身を乗り出して運転席に声をかけた。
「あー? 何十年か前にフロアオーバーフローで大騒ぎになったらしいが……国営の迷宮制圧隊がすぐさま抑えたって話だ。対処できるからその立地で長く栄えてるんだろうさ」
この旅で幸運だったのは、この博識なキンさんと同行できたことかもしれないな。
俺は転移者なので、色々とこの世界の常識が欠けている。
あとローリスも何故か欠けている。
そんな俺たちにとって外の世界も知るキンさんの情報は正しく金の如き価値があった。
「フロアオーバーフローって?」
「複数の階層が1つになる現象だよ。魔物が“詰まる”と起きるんだと。昔のやつはアレだな、地上と一階層が同化して、一帯の国民が酷いパニックになった。制圧隊の迅速な措置がなきゃ国民の5分の1くらいが死んでたんじゃないかねぇ」
「ひゃー、マジか。教えてくれてありがとなキンさん」
「はは! いちいち礼なんて言わんでいい!」
礼くらい言うさ。
さて、フロアオーバーフローね。やっぱ立地終わってるじゃねーか。
気を取り直してパンフレットに目を戻す。
君も冒険者ギルドに登録して、S級を目指そう!
すばらしい級って何?
あんまキモい等級作らんといてな。
「転移者の文化が半端に伝わっちゃった感じか?」
えーと、区分はFから始まって順にA……そんでSか。
なんでSなのか分からなくて適当に理由付けしたのかな。
スーパーって単語だけ伝わらなかったのか?
急にスーパーなのも変ではあるけど。
「なぁ、ひょっとしてこの世界ってアレか? 発展の結構な部分を転移者に依存してる感じか?」
「え? 知らねー。あ、でもこの街道も転移者が作ったって話だぞ」
「おい現地人ちったぁ頑張れよ」
「確か名前が……ドボクショク?」
土木職じゃねーか。名前じゃねぇよ。
元からできるやつが頑張っただけじゃねーかそれ。
……待て。流石に1人でこの量は無理があるからチート持ちではあったのか?
「まぁ努力しても定期的に上位互換みたいなのが湧いて出るから真面目にやる気起きないんじゃね」
ローリスがそう言って寝そべり直す。
腹出てんぞ。
「やる気が起きない、ね」
強かにやることやってる奴はいると思うが、技術革新はいつも転移者によって齎されてそうだな。
そんな俺達の会話を聞いていたのか、キンさんが声を張り上げて言った。
「この辺の国家はその傾向が強いけどなぁ、エルダーウッドまで行くとまた違うらしいぞ! あそこはガチガチの魔法主義やからなぁ!」
エルダーウッド。
ソウイチロウが向かうと言っていた場所だ。
魔法主義……正直気にはなっていた。
俺はいちいちコストを払って魔法を発動させてもらっている。
では本体が普通に撃てるようになればどれだけ強いのか。
「魔法主義ってのは!?」
「過度な科学を拒んでるって話だ! 純然たる魔法を信じてる国家!」
トラックで行けねーじゃん。
不便だからやめね? そういうの。
しかし魔法は気になるな。
やっぱ魔法学校的なのあるんだろうか。
短期集中講座とかやってねぇかな。
あとアレだな。
国家の名前的にアオバがいる樹界ってやつと繋がりがあるんじゃないか?
「樹界ってのはどこにある?」
試しにきいてみる。
デッキホルダーは答えない。
「なんか言ったか!? というかそろそろ着くぞ! 積み荷を下ろす準備をしとけ!」
先ほどから入っていた農場地帯を抜けて、街へ入る。
奥には荘厳な城のような建物。
活気があり、そこら中で武器を背負った奴がうろちょろしている。
明らかに人間じゃない見た目のやつや、露天で平然と売られている武器や防具、妙なアクセサリー。
ダンジョンのある街と聞いて連想するような景色の数々。
そうか、ここが。
「迷宮国家……」
冷めたスタンスを取ってはいたが、こう直接見ると思わず興奮してしまう。
そうだな、素直に言うなら。
「わくわくしてきた……!」
「俺も俺も! ここ思った以上にやべぇわ!」
ローリスが無理やり肩を組んでくる。
鬱陶しいが機嫌が良いので許してやろう。




