第19話:奈落院
「腹減ったな」
ひとまずベッドに腰掛け、横の小棚の上に置かれていたりんごを齧る。
多分見舞いの品だよな?
さて、素直に考えるなら町の人に手当てしてもらったってとこだが。
何時間ぐらい経過したんだろうな。
カーテンを開け、窓から外の景色を見る。
ばたばたと忙しそうに木材を運んでいる集団が見えた。
復興作業中か?
そうして様子を眺めていると、背後で扉が開く音がした。
「目が覚めたようだな。体調はどうだ、ミギテ・ピカライト」
振り向く。
そこに立っていてのは、ほぼ紐みたいな服装に背丈ほどの槍を持った女だった。
え、嘘……なにその格好……。
「この姿は能力の都合であって本意ではない。私は奈落院所属の転移者、ソウイチロウだ」
そ、そうか。流石にな。
イラストだと見慣れている露出度だが、実際現実で目の当たりにすると迫力が違う。
俺はなるべく目を合わすようにしながら、口を開いた。
「既にご存知のようですが、俺はミギテ・ピカライトです。えぇと……奈落院というと、その……」
言葉を濁す俺に、ソウイチロウが頷く。
「ああ。転移都市の管理者、その直属の精鋭の1人だ」
なるほど。奈落院ってそういう組織なんだな。
俺は感心したような声をあげ、ソウイチロウを観察した。
なんか見覚えある姿なんだよな。
——あ。思い出した。
「そのキャラ……黎明の残響セラフィナ・ヴァルグリスか?」
「!?」
ソウイチロウの表情が固まる。
当たりか。
「いやぁー、あのカードはなぁ」
「最悪、だろ?」
「何言ってんだ、最高だよ」
マジで強かったな。黎明コントロール。
どの大会のデータだったか忘れたが、使用率35%とかだっけか?
ミラーはひたすら睨み合いながら数枚の自由枠を探る激キモ試合……俺はそういう激キモな試合が大好きでねぇ。
「セラフィナのお陰でアグロをシャットアウトできるんだよな。終盤も墓地起動で仕事できるし」
最初テキスト読んだ時、都合が良すぎてビビったもんなー。
そういやあの環境がきっかけで試合の制限時間が伸びたんだっけな。
コントロール同士の試合が頻発するからなぁ。まぁ当然両負けが多発して問題になったわけだ。
「そうか。セラフィナ様を知ってる転移者はお前で5人目だ。皆カードの悪名を知っているだけのライトオタクだったが……」
そういや元ネタ、カードじゃないんだっけか。
なんかのソシャゲのコラボパックだったなぁ。
「タイトルなんだっけな……」
「アーケイン・エクリプスだ。まぁあまり目新しいシステムのソシャゲではなかったが……ストーリーが良くてな。推しキャラだった」
「あー、それだそれ。アケエク環境だ」
ソウイチロウがうんうんと頷きながら更に喋る。
「あのカードテキストは原作再現でな。月蝕戦争で切り込み役を務め、負傷し一時戦線を引いた後……主人公達が再び苦境に立たされたところに戻ってくるんだ。ボロボロで傷はろくに癒えちゃいないが……待て、ネタバレだったな。忘れてくれ」
いいよ別にネタバレしても。
あの墓地起動効果ってそういうことだったんだな。
使った後除外されてたし、ひょっとして死んだ?
「なのに一時期はセラフィナ死ねだのウザいだの……悲しいサジェストばかりで辛かった」
「そ、そうか……なんかごめんな」
「いや、構わない。君は最高のカードと言ってくれたからな」
「まぁな。最高だし最強だった」
強ぇカードは最高だろ。
あれ使って対面のアグロ使いが絶望する顔を見るのが本当に大好きだったんだ。
引かれなきゃ間に合うからアグロもたまにいたんだよなー。
楽しかったぜ、アケエク環境。
「感謝する。久しぶりにここまで穏やかな気分になれた」
「俺も久々に前の世界の事を思い出せた。ありがとな。あんたカードはやってなかったのか?」
「シークレットのセラフィナ様のカードを求めてパックをいくらか開けた。その時にちょっとしたデッキを組んだが……やる相手がいなくて、な」
悲しいなぁ。
転移前に出会いたかったぜ。
さて、それはそれとして。
「なんでその……推しキャラの格好を?」
「お前にだから言うが、俺の能力は推しキャラに変身することでな」
なるほど。
わざわざその言い方をする辺り、他にも変身できるキャラがいそうだ。
いや待て、他にも変身できるキャラがいるのにわざわざこんな紐みたいな格好のキャラを……?
「それと。君は奈落院に入りたがっているときいたが、本当か?」
「え? あー……そうすね」
あのおっさんに候補生です、とか何とか言ったのを曲解してそうだな。
入りたい……かなぁ……嫌寄りかも……。
「俺の方から口添えをしておこう」
「ありがとうございます……」
とりあえず頭を下げておく。
ソウイチロウが満足げに頷いた。
「ふふ。俺にもようやく後輩ができる、か……。ところでミギテ。どこを目指して旅をしていたんだ?」
「迷宮国家ダンブルグですね」
うっかり崩れていた敬語を戻す。
なんか先輩になるかもしれないらしいからな。
「ふむ。エルダーウッドの方面であれば同行できたが……厳しいな」
どんだけ俺を気に入ったんだよ。
ちょっとカード褒めただけだぞ。
「ありがたいお話ですが、俺の個人的な出稼ぎ兼修行にわざわざ奈落院の方を付き合わせるのは……ちょっと……」
「ははは。そう畏まるな。なるほど出稼ぎと修行……ならダンブルグほどの適地はあるまい。存分に励むといい」
ソウイチロウがくるりと背を向ける。
うおマジか……尻ほぼ丸出しじゃねぇか……。
「また会おう! さらばだ!」
扉を開け、ソウイチロウが帰っていく。
これアレだな。
多分俺の素行が悪そうなら処分しようと思ってたな。
気に入られたお陰で助かった。
……まぁ正直、気に入る気持ちは分からんでもない。俺もバリバリに前世界のカードトークできる奴いたら気に入っちゃいそうだし。
俺達は記憶が半端な分、前の世界の話に飢えているんだ。
「右手くーん、なんか痴女とすれ違ったんだけどー」
ソウイチロウが帰ってから数十秒もしない内に、ノックも無しに人が入ってきた。
ローリスだ。
あんま失礼な事言うなよ。
「痴女じゃねぇ、奈落院所属のソウイチロウさんだ」
「へー」
興味無さそうな返事しやがって。
ベッドから立ち上がる。
旅はまだ途中だ。この町、フロウダインは中間地点に過ぎない。
「キンさんはどうした?」
「町で呑んでるよ。俺らしばらくこの町で飲み食いし放題だから」
マジかよ。
爆アドすぎる。
明日にでも出発しようと思っていたが、これは計画変更だな。
「よしローリス。飯を食いにいくぞ。この町で1番高い店は?」
「知らね。とりあえず中央通り行ってみる?」
「よーし目についた店でちょっとずつ好きなもん食おう。豪勢な食べ歩きをやるぜ」
俺は借りていたらしい民家を後にし、町へ出た。
血を抜かれた分はドカ食いして回収だぜ。
ついでにキンさんにも会ってここの滞在期間を延ばしてもらおう。




