↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/34

Ep11_コンビニエンスヤタイ24H 01

 木々に張り巡らされた鈍い光沢のある糸。そこに等間隔に飾られたウツボカズラの袋のような奇妙な植物。その袋の中でふわふわと揺れ動く光の球体。夜も更けてまるで洞窟の中にいるような真っ暗な中、その青白い光は月明りに変わりに夜の森を歩く人影たちを照らす。


 鬱蒼とした森には場違いの整った執事服に身を包む老人。手にしたランタンを揺らすこともなく静かで優美な足取りで歩くさまはどこか気品差を感じさせる。そしてその後ろを歩くのは……。


「相変わらずこの森はなんだか陰気ですねー。"ラシーナ"と違って建造物としての造形美もない……ただ広いだけの陰鬱な森じゃないですかこれもう」

「そう文句を言うものではないぞ、"リア"。これはこれで風情があっていいではないか」

「感性も感覚も乏しいご老人は何にでも風情を見いだせて羨ましいですね? "ワイザー"」

「……あいかわらず辛辣じゃな。無機質という表現が相応しすぎるわい、お主の笑みも声も物言いも」

「造魔種《ぞうましゅ》として……百装人形《ハンドレッドドール》として誉め言葉ですよー、無機質というのは」


 リアと呼ばれた給仕服に身を包む女性はくすくすと笑う。その表情は作り笑いと一目でわかる異様な笑みのまま人形のように固まっている。


「まったく、"アダマン"のあほが右腕骨折ならぬ"右腕盗難"とかいう怪我なんぞせんとけば少しは気楽な慰安旅行にもなっただろうに、よりによってお前さんしか動けるのがおらんとはの」

「あら? こんな美人とお出かけなんて老い先短い"箱入り翁"にはご褒美ではないのですかー?」

「"毒舌人形"と仕事で出張なんぞ罰ゲームじゃろ。それに、そのお出かけ先が既にご褒美とは程遠い"種族会談"じゃぞ? 癒し要素が少しは欲しいのう」

「ふふっ、まあどうせ全種族いるわけもなく……どうせいつもの"5種族"じゃないんですかー? いっそ5種族会談に改名してもいいんじゃないですかね?」


 リアの皮肉染みた物言いにワイザーはやれやれと首を横に振る。


「まあ協調性のない人魔種《じんましゅ》の馬鹿どもは相変わらずのボイコット。陸嫌いの海魔種《かいましゅ》もまずこんな森には来んじゃろ。死霊種《しりょうしゅ》の連中は……」

「この時期は先祖を祭る儀式で忙しい……おおかたそんな言い訳じゃないですかー?」

「そうじゃの。まああやつらはわしら以上に出不精じゃ。会談の開催地があやつらの住処の"ラシカーハ"にでもならん限りは顔を合わすこともないじゃろ……って、どうしたリア?」

「はて……あれはなんでしょう?」


 リアが指さす先、歩くものを照らす不気味な植物の照明に交じり吊るされているのはどこか温かみを帯びた灯り。その正体は赤を基調とした提灯《ちょうちん》の数々。


 そしてその灯りの下に陣取るように佇むのは露店……というよりは天幕をかけた屋台。『コンビニエンスヤタイ24H』と描かれたポップな看板。目を引く色とりどりのデザインの装飾は壁代わりと言わんばかりに屋台を囲んでいる。


「いらっしゃいませ」


 明るい店舗とは対照的な平淡な声。屋台の中に置かれたハイカウンターの奥でぴょんぴょんと跳ねて頭をひょこひょこと出しては存在をアピールする小さな女性。どこか和やかなその様子にリアはにっこりと口元だけを微笑ませ首を傾げる。


「こんなところで何してるんですかー? お嬢さん?」

「お嬢さんじゃなくルーシャですよお客様」

「お客様ー?」


 ずれ落ちそうになる頭にかぶせた猫のお面を正し、ルーシャもまたリアを倣《なら》い首を横にする。


「何をしているかは見てわかりませんか?」

「わかりませんねー」

「ふむ……お祭りには欠かせない灯篭が並んでいたのでてっきりこれから屋台が並び始めると踏んで第一号店を展開したのですが」

「オンリーワン店になるんじゃないですかー? ここ、祭り会場じゃなくて面倒な会談の会場ですよー?」


 くすくすとからかうような笑い声をあげ、リアはぐんと自身よりも頭一つ小さいルーシャへと顔を近づける。そして小さな子供をあやす様にぽんぽんとルーシャの頭を撫でるも当の本人は意に介さず、口元に手を当てて考え込む。


「ふむ……会談会場でしたか。つまり……結局人が多く集まる。そして競合店はいないオンリーワンな独壇場。商人にとってはお祭りですね」

「ポジティブですねー」


 それまで口元だけが笑っていたリアの目元が穏やかなものに変わる。だが頭を撫でていた手がシュッと手刀のようにしてルーシャの首元に添えられる。


「それで……あなたどこの種族の人ですかー? 一見して人族みたいですけど……ふふっ、こんな肝の据わったお嬢さんが人族のわけありませんか。見たことない顔ですけどどこかの種族の荷物持ちとかですかね?」

「優れた鑑識眼ですねお客様。私は人族ではありませんよ。荷物持ちというのもいい線行っていますが、生憎と商人をしています」

「あはは、だそうですよワイザー。私のこの眼、褒められましたー。新しいのを着けてきた甲斐がありました」


 ぐるっと首だけ振り向かせ、リアがけらけらと笑う。やれやれとため息をつきワイザーが顔を上げる。


「いや、答えをもらっとらんじゃろ。ルーシャとか言ったな? どこの種族か知らんがこれからすぐそこの魔蟲種どもの巣"ヨハイル"で各種族の代表による会談が行われるのを知らんのか?」

「各種族の代表ですか。それなら多くの種族が集まるので様々な需要が生まれそうですね」

「いや、いずれもわしのような"頭脳"やリアのような"左腕"などの"五臣隊《フィフス》"レベルのものが来る厳かな会談なんじゃぞ? そんな場に屋台を開くとは事情を知らぬとはいえいささか軽薄、いや、無礼というものではないか?」

「よくわかりませんが各代表のVIPが来るのに何も娯楽やおもてなしを提供しないのは商機を軽視、いえ、VIPに対し不躾というものではないでしょうか?」

「あ、娯楽は欲しいですねー。ただでさえ退屈なので」

「……一旦商売の話は置いといてくれんか? あとリア、さぼるな」

「商人に商売を忘れろとは……人族に呼吸をするなというようなものですよ? 営業妨害ですよ?」


 ぷくりと頬を膨らませ無言の圧でワイザーを睨むルーシャ。そのそばでやれやれと呆れた様子で首を振るリア。


「え? 悪いのわし?」

「そうですね、ワイザーの場違いな指摘が悪いですー」

「この上ないほどに的確な時と場所と状況を鑑みての指摘じゃないかと思っとるんじゃが?」

「まあ適切な時と場所と状況の三拍子に加えもれなく逸品も揃ったうちの店で何かご購入いただければ今の無礼は割引しますよ? 1割ぐらいは?」

「1割しか帳消しにならんのってそれもう許さないのと一緒じゃろ? 九割お怒りってことじゃろ?」

「ふむ……中々に冴えたお客様ですね」

「普段は口うるさくて無視推奨で同僚から煙たがれるだけの爺様なのですが……一応はこれでも造魔種《ぞうましゅ》の"頭脳"という役職《ポジション》なんですよー」

「リア……お主は他人《ひと》を貶めるときだけその無駄口が異様に冴えわたっておらんか?」


 ぎゃあぎゃあと言い合う二人を前に"頭脳"と聞いてもピンとこないのかルーシャは無言のまましばらく黙っていたが……ふと何かに気付いたのか屋台の奥に置かれたいつもの大きなカバンをごそごそとまさぐり始める。


「このあと会談ということで……会議に使える商品などいかがですか?」


 屋台のカウンターにあれやこれやと様々な品を並び終え、ルーシャは指をそっとランタンの近くに人差し指を伸ばす。その指には小さく魔法陣が刻まれた指輪がはめられている。


 指先からふわふわと小さな火の玉が放たれランタンの芯に触れるとその明るさにいがみ合っていた二人もはっと目を向ける。昼か夜かもわからない暗がりの中、まさに七色の光を代わる代わる放つランタン。炎の色とは思えぬ虹のような灯りにワイザーとリアがまじまじとランタンを見つめている。


「……なんじゃこの灯りは。このランタンに何か仕掛けが? いや……もしやこれはお前さんの術式かなにかか?」

「"ネオ・ランタン"という道具です。あいにくと一品ものなので売り物ではないのですが……皆さまVIPのようですのでご要望とあればお値段90%オンでご提供しますよ」

「あ、お怒りの九割が値段に乗せられてますよー。良かったですねワイザー」

「うむ、購買意欲が一気に失せたわい。しかし何とも奇妙なもんをぞろぞろと……この細い筒みたいなもんはなんじゃ?」


 ワイザーは黒く細長い筒状の商品を手に取り、初めて見る品に少し警戒した様子で観察している。その筒の先にある小さな穴に気付きいよいよ気になってルーシャへと視線で問いかける。


「ああ、それは"イレイザーポインター"ですね」

「うん? イレイザー? ポインター?」


 ルーシャはワイザーから商品を受け取りその筒を森の先に向ける。そして筒の横にあるスイッチをオスと筒から真っ赤な線上の光が伸びる。


「こうして収束した特殊な光を放つので遠くのものを指し示すときに非常に便利なんです」

「ほー、よくできとるのう」

「それにこの光を会談中にちょっと面倒な相手の目に向けるともれなく視覚を奪い黙らせることもできる一石二鳥な会談用グッズですよ」

「それ使用用途間違っとらん? なんだか不適切で禁止されてそうな使い方じゃないか?」

「会議室もまた戦場ですよ?」

「線上だけにですかー?」


 リアの合いの手にルーシャははっとリアの方を向く。そしてすかさず無言のままハイタッチをし、うんうんと納得したように頷く。


「え? なぜそんなに意気投合しとるのお主ら?」

「なんだか私この子とは仲良くできそうですー」

「優れた鑑識眼に始めてご覧になる商品への理解度……さすがVIPの方ですね」

「ふふふ、ベリー隠居してほしいパーソンのワイザーと違って私は真のVIPですからねー」

「リア……お主……」


 リアはまた褒められたとくるくるとその場で踊るように回る。それを見てワイザーは頭を抱え大きくため息をついた。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。