Ep10_縄張り争いとロープ活用方法02
「なんかけったいなもんばっか……というか……ロープしかなくない?」
「今日は年に一度のロープ商品ピックアップセールなので各種取り揃えてみました」
「いやなんでロープなん? しかも、え? 年一のそんな奇抜なセールをよりによってこんな森のどまん中でやるん?」
「魔獣種や魔蟲種に魔植種が犇めき日々縄張り争いに暮れるこの森の中でこそ需要がありそうな商品……そろってますよ?」
「表現がなんか怖い……」
ルーシャは並べたロープのうち不思議な緑色のロープを手にとり、少し怯えた様子のフェンヘと差し出す。
「これなんていかがでしょうか?」
「それ、色は珍しくて興味は惹かれるけど工芸品か何かかな?」
「こちらなんと無限に伸びるロープとなっております」
「無限に? 伸びる?」
「どうぞそちらをもって離れてみてください」
ルーシャに促されフェンはロープの端を持ち距離をとる。そしてロープがピンとまっすぐに張るほどに離れたところでさらにゆっくりと一歩距離を置く。
「うわわっ、本当に伸びた!? え? これどうなってるの?」
「製法や入手経路は企業秘密ですが……伸びても強度や太さが落ちることもなく、伸びる前のロープと同じ状態を維持できますのでこれ一本あれば生涯もうロープは不要。まさに一世一代一本のロープお買い得チャンスですよ? 商品名は"無限ループロープ"……どうですか?」
「すごいすごい! 僕こんな商品見たことないよ! ねえ、これいくら?」
「小銀貨3枚でいかがでしょう?」
「買った!」
「お買い上げありがとうございます」
フェンは銀貨をルーシャに私、手に入れたロープを見てにこにこと嬉しそうに眺め始める。それを横でじとりと怪訝そうに見るセド。
「お前、買ったはいいけどそのロープ何に使うん?」
「え?そりゃあ商品の梱包とかに? ああ、険しい道を行くときの命綱なんかにも使えるよね」
「いや……そのロープひっぱったら無限に伸びるんやろ? 梱包はおろか命綱に使えるん?」
「え……?」
フェンはセドの指摘にぽかんと口を開けたまま固まり、そのまま視線をルーシャへとむける。その視線の先ではどこかほくほく顔の小さな商人が受け取った小銀貨を速やかに懐へとしまっている。
「ねえこれ無限に伸びる効果を解除する方法とかはあるの?」
「無いですね」
「これ、ちなみに主な用途は何なのかな……?」
「それはもう使用者のセンス次第で様々な用途が?」
「返品期限っていつまでかな?」
「要相談ですかね?」
「ぷぷぷっ、あかんわ。一杯食わされた様やな、フェン……くくっ」
フェンが開いた口も閉じれず呆けている横でその様子があまりにも滑稽だったのか、セドは笑いをこらえつつポンポンとフェンの肩をたたく。無論、励ますというよりは楽しそうに煽っているそのしぐさに徐々にフェンがわなわなと体を震わせる。
「そうそううまい話は転がってないんやで、フェン」
「あ、そういったご要望でしたらそちらの金のロープなどいかがですか?」
「うん? なんやそれ? めちゃめちゃピカピカしてるけど」
ルーシャが拾い上げたロープはまるで純金でできているかのような黄金の光沢を見せている。本物の金ではないと察してはいるものの、セドはごくりと喉を鳴らし恐る恐るその輝くロープを指さす。
「み、見た目はまあまあやな。でもただピカピカしてるだけじゃあうちの購買意欲は微動だにせんで」
「こちら輪っかを作って設置しておくと輪の中に金になるうまい話が舞い込むという一品物のアイテムです」
「そそそ、そんなうまいはな……うまい話があるとかほんと信じられんわちょっともうほんと……ななななあ、フェン」
「声が大地震よろしく動揺しまくってるよセド……」
「ふむ、お気に召しませんか。それじゃあ……」
「ま、まあ効果は全然信じてはいないけどちょっとデザインは気に入ったし買うたるわ! それいくらなん?」
「小銀貨2枚でどうでしょう?」
「さっきの品もそうだけど安すぎない? というか君のいう効果が本当ならそんな安いわけが……」
「まあまあええやないか。それで? これこんな感じで控えめに小さな輪っかにしたけどあとはこれを置いとけばええんか?」
「はい、おいておけば勝手に儲け話が舞い込みますよ」
「控えめって……これロープいっぱいいっぱい使ってるよね」
ロープの端と端を結び自分の身の丈はありそうなほどの大きな輪っかを作ると地面の上に広げるセド。ワクワクとした表情で辺りをきょろきょろと見まわすが特に動きはなく、時間がたつほどに徐々にセドの表情にいら立ちが見え始める。
「なあ、なんも起きんのやけど。え? 騙された?」
「ただいま今回の儲け話の抽選でもしてるのでは?これだけ大きいと候補は多そうですし」
「これ、作った輪っかの大きさによって効果が強まるの?」
「輪っかの中に納まるほどの儲け話の種が引き寄せられる……といった感じですかね」
「どういう原理なのそれ……てか儲け話の種ってホントなんなのさ」
ルーシャの説明に再度目を輝かせて辺りをきょろきょろと見まわすセド。それをよそ眼に大きくため息をつくフェン。
「一番よくある儲け話はその輪に納まるくらいの大きさの魔族が寄ってくるとかですかね? もちろん、儲けにつながる程の高価な素材が取れる魔族ですよ?」
「それって大丈夫なの? 高価な素材が取れるってことは強力な魔族なんじゃ……」
「そうですねぇ……その大きさだとこの辺りだと魔獣種の"ゴールデンベア"ぐらいですかね、来そうなのは」
「ゴールデンベアって……金の毛並みを持つC級の中でも上位の魔族だよね? あの毛皮めったに出回らないからかなり高値で売れるんだよねぇ」
「そうですね。まあ希少な存在でめったにその姿を見ることもありませんが……ああ、来ましたよ?」
「うん?」
首を傾げルーシャの視線の先へと目を向け、フェンは顔を青ざめる。少し頭に血が上っていたセドもサーっと血の気が引くのを感じている。
「あれを倒せばお金になりますよ?」
「勝手に儲け話が舞い込むって……そういう仕様かい!」
「うまい話はほんと転がってないもんだねやっぱり……」
二人は恐れから震える体をなんとかわずかな勇気で抑えこみ、ぐっと口を噛みしめる。短い深呼吸で気持ちを落ち着け、森の奥からのそのそと歩み寄ってくる金色の毛並みをまとう大きな熊をゆっくりと睨みつける。
睨んだ対象は一匹ではない。先頭に立つ一回り大きな巨体。その背後に並ぶ複数の影にいよいよガチガチと震えた歯の音が鳴りやまない。静かな森の中、二人と一人は金色の毛に包まれた熊の群れと対峙した。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




