Ep09_緊急クエスト時の実演販売はご遠慮ください02
「お前、ほんと前も思ったけどただの商人じゃないだろ!? どんだけ肝が据わってんだよ」
「まあそれだけ自分の売っている商品の性能に自信があるということですよ」
ヴァチカの村を守るようにして多くの冒険者が散開している村から少し離れた草原地帯。その一角で一際目を引く大きなカバンを前に、地面に敷いた白い布の上に様々なアイテムを置き始めるルーシャ。
最初こそ呆れていたギーネだったが、見慣れないアイテムが並び始めふと視線を奪われる。無論それは彼女だけでなく、後ろに控えていたサクラとモカもまた近づいて並んでいくアイテムを見つめている。
「おい、この丸い玉は投擲アイテムか? 火薬玉の類なら虫相手にもってこいなんだけど」
並べられたアイテムのうち白い布のようなもので固められた片手で持てるサイズの球体を手にギーネはルーシャへと向き直る。
「それにいきなり目をつけるとは、お目が高いですね。お察しの通りそれは火薬玉の類ですよ……パーティ用ですけど」
「お、それなら買っておいても……ん? パーティ用?」
「はい、なんと見た目はド派手に燃えるのに熱さは感じさせない綺麗な色した炎を鑑賞できるアイテムです。商品名は"ハッタリハナビ"。どうです? パーティの余興にはもってこいですよ?」
あんぐりと口を開けたまま手にしたアイテムをそっと元に戻し大きくため息をつくギーネ。
「このあとの緊急事態に持っていったら死ねるやつだな」
「ふむ……お気に召しませんか?」
「このあとの魔蟲種相手に役立ちそうなのないのか? なんかこうサクッと投げれてズバッと効果を発揮しそうなやつ」
「だめだよギーネ。そんな無茶な要求されたらルーシャちゃんも困っちゃうよ」
「ズバッとですか……ならこれとかどうですか? 見たところ投げナイフはお得意のようですし」
ルーシャはギーネの太もものベルトに何本も差し込まれている投擲用のナイフに目を向けてぽつりとつぶやく。その手には同じく投擲用と思しき真っ直ぐとした刃と柄を持つナイフが握られている。
「お? なんだそれ? もしかして対魔蟲種の毒でも散布されてるのか?」
「いえ、むしろ逆で投げて何かに刺さると魔蟲種を強烈に誘う薬剤を散布するナイフです。名付けて"ナイフポイホイ"……どうです?」
「望まないのに群がって来るのに……わざわざ引き寄せる必要なくない!?」
「魔蟲種以外の普通の害虫にも利くので農業従事者ご用達の可能性を感じませんか?」
「戦闘従事者がこの後の激戦を乗り越えれる可能性を上げるアイテム売ってくれないかなぁ?」
「あ、そう言った品をお求めなんですね。最初に言ってくれればいいのに、お客様も意地悪ですね」
「いや、この状況でパーティや農業面での需要があると思わないだろ……」
「売れないと思ったら売れないのですから、需要を気にせずいついかなる時でも売ろうという気持ちは大切ですよ?」
「実にいいセリフだがせめてその気持ちは命の危機がないときに言ってくれ」
他にも様々なアイテムが置かれているが、既に不穏な流れを感じたのかギーネは少し引き気味の表情で一歩また一歩と後ずさり距離をとる。そこにすれ違うようにしてサクラとモカがアイテムの近くでしゃがみ込む。
「なんだか見慣れないアイテムばっかりだね」
「そうですね……魔蟲種を引き寄せるナイフだなんて聞いたこともありませんよ」
「ふむ……見たところそちらのお方は術師のようですね。こちらなどいかがですか?」
ルーシャは布の上に置かれたアイテムのうち蔓にまとわりつかれたデザインのハンドサイズの十字架を手に取る。
「なんだか独特なデザインのようですが……そちらはどんな効果が?」
「こちら装備者が両手で祈るように持てば半径1メートル以内の空気をまるで森林の中を散歩しているかのように清涼な空気に変えるという効果があります。これがあればいつでもどこでも気分は森林浴ですよ?」
「え、ええっと……とても素敵な効果ですけれどちょっと戦闘中にはそんな余裕は……」
「いえいえ、むしろ戦闘中のふとした空き時間に絶大なリラックス効果を得られると思えばお得な一品ですよ。まあ使用している間は大地に根が這ったようにその場所に固定され動けなくなるというちょっとしたデメリットはありますが」
「それ致命的だよ! ルーシャちゃん!」
「そ、そうですねぇ……さすがに戦闘中に移動できなくなるのは……」
「お気に召しませんか? この"マイナイオンクロス"。まあ、癒しの神聖術式と併せて使うと気分もちょっと良くなるかなと思いましたが」
ルーシャは特に残念がる様子もなく無表情を保ったまま手にしていた十字架をもとの場所に戻す。その横でサクラがアイテムの一つを手に取り目を輝かせる。
「この手甲、なんだか仄かに桜色をしててすごく可愛い! 私の名前にもちなんでいてて欲しいんだけどこれ!」
サクラは自身の腕にカチャリと金具をはめ、手の甲を覆う自身の名を冠した桜色の防具の感覚を確かめる。
「ああ、そちらはまさに桜をモチーフにした"ブロッサムガントレット"。冒険者だけど見た目にもこだわりたいという方にはうってつけの一品ですよ」
「えへへ~、やっぱり女の子だからせっかくなら可愛い装備、身に着けたいよね」
「そうですね。そちらを装備すれば"あらゆる魔族からの……特に魔蟲種からの注目も得られて"まさに注目の的ですよ」
「……ヘイトの的かな? そんなに注視されたら穴が開くんじゃないかな? というか、え? これもしかして呪われた防具の類!?」
「失礼な。れっきとした防具効果ですよ。想像してください。パーティでいわゆる敵の注意を惹くタンク役にとっては喉から手が這えるほどの性能ですよ?」
「う~ん……言われるとそうかぁ。これがあればパーティのみんなへの敵の注意もそがれて危険が減るんだ」
「まあちょっと効果が強すぎて遠方の魔族すらも引き寄せるというちょっとしたデメリットもありますけどね」
「おい、それ急いではずせ……サクラ」
げんなりとした表情でギーネがサクラの背後から指示する。その言葉を待たずにサクラは急いで装備を外そうとするも中々金具が外れないようでモカにも手伝ってもらうが……。
「ねえ! ルーシャちゃん! なんかこれ全然外れないんだけど!?」
「その防具に選ばれた……ということですかね。良き装備は使用者を選ぶものですよ」
「え? 私選ばれちゃった? えへへ~、なんだか照れるね」
「馬鹿言ってないでさっさと外せよそれ! そろそろ魔蟲種が来るんだぞ!」
周囲の冒険者がどこかざわめき出したのを見ていよいよ敵の襲来を察知したギーネがサクラを急かす。だが慌てるほどに手甲は外れるどころかどこかぴったりとサクラの肌に吸いつくようになじんでいく。
「魔蟲種の群れが来やがったぞ!」
最前線に布陣していた冒険者パーティからの号令に冒険者たちは得物を手に前を向く。その先からは予告通り巨大な蜂のような魔族の"バレットビー"。そして堅牢な甲殻を纏い、球体のように身を丸めゴロゴロと勢いをつけて転がる"アイアンラウス"の群れがやって来る。それは数多に点在する冒険者たちへと各々狙いを定め向かい始め……ることもなくただ一点を目指しまっすぐと進軍する。
それまで武器を構えていた冒険者も自分たちを無視して素通りしていく様に違和感と疑問を感じ始め、ゆっくりとその向かう先を見つめ始める。
「な、なんか魔蟲種の群れ……全部こっちに向かってない?」
「うちの自慢の商品ですから。性能はお墨付きですよ?」
「あ、あはは~……すごいなー……」
自虐的に笑うサクラとその腕をとり必死に装備を外そうと試みるモカ。なかなか進展しないその惨状にギーネはくしゃくしゃと頭をかきぐっと二人の肩をつかむ。
「このままじゃサクラ目指して敵さんが全部こっちに来る。もうそれ外すの諦めて逃げるぞ!」
「え、ええ~!? だ、だめだよそんなの! それじゃあヴァチカの村があぶな……」
「お前が狙われてるんだ! だったら村から離れた場所までせめて誘導するぞ! いいから走れ!」
「わ、わかった!」
サクラはそっとモカの腕を払い、そっと背後のヴァチカの村を確認すると村から離れるように走り始める。その背中を見て顔を見合わせたギーネとモカもこくりと頷き、サクラの後を追いかける形で走り始めた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




