Ep09_緊急クエスト時の実演販売はご遠慮ください01
「村人の皆さんは急いで教会へ避難してください! あそこなら窓を板で防げば魔蟲種もそう簡単に入れないはずです!」
「ドアの閂をはめるのも忘れるなよ! 大型の魔蟲種の中には大男のタックル並みにきついのかましてくるのがいるぞ!」
怒号のように各所から飛び交う声は冒険者からのアドバイスがほとんど。その声が聞こえているのかどうなのか、逃げ惑う村の人々の中には慌てるあまりさして重要でない身近なものを手に、この"ヴァチカの村"で一番の堅牢さを誇る教会へと逃げ込んでいく者の姿もちらほらと。
「サクラ! 敵の集団はあと10分ほどでこのの村に着くとのこと……先行した斥候部隊によると敵は"バレットビー"と"アイアンラウス"の群れとのことです」
「うげぇっ! アイアンラウスはまだ飛べないから戦いやすいけどバレットビーはちょこまかと飛んでて私苦手だよ~!」
「ったく、お前も少しは遠距離の攻撃手段を持っておけよ、サクラ」
手にしたナイフを器用にトスしてはつかんでを繰り返すギーネはあきれ顔で視線を村の出口である門へと向ける。開けた視界の先には今のところまだ迫りくる脅威は見えないが、準備にいそしむ冒険者たちが所狭しとひしめき、皆その表情を緊張と不安で曇らせている。
「しっかし、やっと橋が直ってヴァチカの村に着いたと思ったら早々に魔族の襲撃とか……やってられないな」
「しょうがないでしょうギーネ。これも緊急クエストなんだから」
「そうだよギーネ! ここで頑張って魔族をいっぱい倒せば晩御飯が豪華になるよ!」
「ふむ……サクラにしてはいいことを言うな。ちょっとやる気出てきた」
「私にしてはって……あれ? 普段から名言残してないかなぁ私」
「迷言なら数知れず?」
「なんだか私の考えてる"メイ"のニュアンスと違う気が……」
「ほらほら、おしゃべりしていないで! 神聖術式で強化かけちゃうから二人とも近くに」
「あいあい、お願いします神様"モカ"様悪魔様……ついでにあたしの加護の主の精霊様っと」
ギーネは頭の後ろで手を組んだままモカの傍によると地面に腰を下ろす。その肩にモカは手にした杖の先を当てすっと目を閉じる。
「慈愛の具現壁!」
詠唱とともに杖の先が光、仄かに桜色を放つ光はうっすらと輝きを放つ膜のようにギーネとサクラを覆いつくす。
「ありがと! モカ! これで敵の攻撃なんてへっちゃらだね!」
「過信はダメですよサクラ。シールドは一定のダメージを受けると壊れるのですから」
「まあサクラの場合元が頑丈だからシールドが無くても多少のダメージはそもそも気づかないんじゃないか?」
「こらこらギーネ、私もか弱い乙女なんだから!」
「"か弱い"と"乙女"は異議ありだな」
「それ全否定じゃないかな!?」
緊張感が漂う空気の中どこか普段通りのじゃれつきを見せるサクラとギーネにモカがどこかほっとしたような笑みを浮かべる。強く握りすぎて少し震えていた杖の先も静止し、大きく深呼吸する。
「それにしても最近魔族の活動が本当に活発ですね。都を騒がせている人魔種を筆頭に各ダンジョンの魔族たちも活性化していると聞きます」
「そうだね。特にこのヴァチカの村は南東に魔植種がいる"リトカーダンジョン"。北東には魔蟲種ひしめく"ヨハイルダンジョン"。そして……」
「東にずっと進んだ先に魔獣種のテリトリーである"アルマーズダンジョン"だろ? ばかっぴろい大森林に点在しているとはいえ、ほんとこの先の森の道を抜けれるやつなんてもうろくにいないだろ」
ヴァチカの村を抜けて東に出るとしばらくは草原地帯が続く。だがその先には今大陸でも一・二を争う広大さを持つといわれる"トライアルトフォレスト"が広がっており、その森の中に今ほど二人が名を連ねた3つのダンジョンが存在する。
以前はこのヴァチカの村と森を東に抜けた先にある"海の都アクアズム"をつなぐ交易路がつながっていたのだが……。
「魔植種の活動の影響で森が交易路を飲み込んだってのは本当なのかなぁ」
「どうでしょう……ただ異常な森林の拡大となるとやはり魔植種の暗躍が一番可能性としては高そうですけど」
「……おい、二人とも」
目に手を当て遠くを覗き見るギーネがどこかばつが悪そうに眉をハの字にひそめる。それを見て何事かとギーネの視線の先へとモカとサクラも向き直るとぎょっとした表情を浮かべる。
「なんか見覚えのある馬鹿でかい鞄を背負った見覚えのあるすんげー無気力で無表情な……もう見覚えしかないちっこい商人がこっちに来るぞ」
「"見覚えある"も3回続くならもう確信でいいんじゃないかな。それで……あれってルーシャちゃん……だったよね?」
「ええ。ああよかった、彼女も無事だったんですね」
モカは村の中から自分たちがいる村の門の方へと歩いてくる巨大な鞄を背負った少女に向かい駆け寄っていく。その姿に気付いたのか、どこかぼんやりとした表情のまま感情を一切変えぬまま首だけを傾げるルーシャ。
「ルーシャちゃん! あなたもこの村にいたのですね?」
「ふむ……あなたは確か以前ラシーナダンジョンで怪我をされていた……?」
「覚えていてくれたのね。あのときは本当にありがとう。あなたのくれたポーションが無かったら本当にどうなっていたことか……」
「ポーションのお代はいただいていますので、お礼は結構ですよ。それよりも……なんだか騒がしいみたいですがなにかあったのですか?」
「ああ、ルーシャちゃんもしかしたらこの村について間もないのかしら?」
「そうですね。先ほど着いて商売でもと思ったのですが……なんだか誰からも購買意欲を感じませんでしたのでノンストップでこのまま村を出ようと? まるで命の危機に晒されて逃げ惑うように皆さん大慌てで騒々しい村ですね」
「いや……思いっきり答え言ってるじゃねぇか。今この村は緊急事態なんだよ」
呆れ顔を浮かべるギーネだがその口元は懐かしい友人にでも会えたようで少し緩んでいる。それに対し一切緩むことのない無表情のルーシャは口元に手を当てて考え込む。
「はて……あなたもどこかでお見かけしたような気が……」
「おいおい、モカ姉のことは覚えてるのにあたしのことは覚えてないってか?」
「ああ、たしかパーティでツッコミ役を担当されていた……」
「その役割……パーティには要らないと思うぞ? ったく、ギーネだよ、ギーネっ!」
「えへへ~、ルーシャちゃん! 私のことは覚えてる?」
くいくいっと自身を指さし期待に目を輝かせるサクラ。それを見てポンと合図値を打つルーシャ。
「落とし穴から落ちて顔面着地。そんな命の危機すらも"はわわ~いたい~"で済ませた面の皮が物理的に厚そうで丈夫さだけが取り柄のような冒険者様」
「その覚え方やめて! あと結構オプションの装飾もひどくないかな!?」
顔を真っ赤にしてルーシャの胸ぐらをつかみ揺さぶるサクラ。その様子をケラケラと笑うギーネとなんとか笑いをこらえようと顔をそむけるモカ。
「ふ、二人とも笑わないでよ!」
「ふむ……お気に召しませんでした? であればどうやって覚えれば……」
「サクラ! 私の名前はサクラだよルーシャちゃん! 名前を覚えよう!」
「商人にとって"サクラ"は味方みたいなものですし覚えやすいですね」
「……なんだか違うニュアンスに聞こえる」
「あ、ついでに"サクラ"をお願いしてもいいですか?」
「え?」
ルーシャはドスンと背負っていたカバンを降ろし、すぐさままた鞄によじ登り中からごそごそと取り出し始める。その様子にギーネは嫌な予感を感じてか顔を引くつかせる。
「あー……今はお前の商売に付き合ってる暇はないぞあたしら」
「そうだよルーシャちゃん! あなたも早く避難しないと! もう少ししたら魔蟲種の大群が押し寄せてくるんだよ!」
「なるほど。商売のお邪魔虫の大群が来る前にちゃっちゃと商売を済ませないと……ですね」
「いや避難を済ませろ! 命大事にだろうが!」
「そうですね。命を守るための便利なグッズ……各種そろえてますよ?」
「お前ほんと商魂たくましいのな。身なりはちっこいのに」
「最後の余計な一言が無ければお得意様価格で割引も考えましたが……まあ名前すら憶えることもできなかった相手なら多少ぼったくってもよさそうですね」
「いや、そういうのはせめて客の前で言わな……じゃなくてっ! ほんといまは緊急事態だから逃げとけよお前」
ギーネの後ろで見守っていたモカも不安そうな表情でこくんと頷く。それを見てぽりぽりと頭をかくルーシャ。
「なるほど……商品をゆっくり説明している時間はないということですね」
「ようやくわかってくれたか。まあ、お前には以前モカ姉を助けてもらったこともあるし今度はあたしたち冒険者が……」
「つまり……実演販売しかないと」
「もうほんと教会行って少しは怯えてろよお前!」
今にもルーシャに掴みかかりそうになるギーネをサクラが慌てて羽交い絞めにして止める。モカも慌てて二人に駆け寄るもルーシャはひょいっとまた鞄を背負いこれから魔蟲種の大勢が迫り来るであろう門の出口へとひょこひょこと移動し始める。
その様子を最初ぽかんと見送っていた3人だが……その姿が出口の門をくぐり小さくなり始めたところで慌てて追いかけ始めた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^
【2026.08.10追記】
誤字報告いただき修正いたしました。ご指摘ありがとうございました^^




