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Ep08_よく見かけないパーセントオフセール02

「フィスのお洒落のセンスは"他の追随が無い分野"だから独壇場ですね~」

「そうよ! ことお洒落に関しては他の追随を許さな……ん? テンネ? あなた今なんて……」

「細かいこと気にしたらだめですよ~。それより、その靴下にも何か効果があるんですかお嬢さん~?」

「お嬢さんではなく……ルーシャです」

「ルーシャちゃんていうんですね~。それでそれで~? その靴下は何なんですか~?」


 テンネは釈然としていないフィスティーをよそ目に、ぐいっとルーシャの眼前に顔を近づけにっこりとほほ笑む。


「簡単に言うとこの靴下を履くと自身に付与されるどんなバッドステータスをも50パーセントカットできます」

「ほんとですか~!? それ、とんでもない効果じゃないですか~?」

「テンネの言うとおりだ。もしそれが君の言う通りなら一種のアーティファクト級の効果じゃないか? 特定のバッドステータスとかではなく際限なくバッドステータスの影響を減少させるなんて……」


 セイギの言葉にルーシャはふと口元に手をあて考え込む。そして何かを言おうと口を開こうとしたが……。


「あんた……まさか嘘ついてあたしたちからカモろうとしてるんじゃないでしょうね?」


 ルーシャの言葉をフィスティーが遮る。フィスティーはテンネの笑顔とは似ても似つかない冷ややかな笑みを浮かべ、のほほんとした様子のルーシャに顔を寄せ無言で問い詰める。だが彼女の台詞にピクリとルーシャの眉が動く。


「騙して物を無理やり売ったことはないですし……騙して売るほど生憎商魂たくましくはないですね」


 相変わらずの表情だがルーシャの言葉にはどこか威圧感にも似た重みがあり、フィスティーもそれを感じとったのかぐっと口を閉じ身を引く。


「それに……心配なさらずともちゃんとメリット相応のデメリットもありますからご安心を」

「あ、心配になってきた……」

「私もです~」


 先ほどのデメリットの凄まじさを知ってか一歩後ずさるセイギとテンネ。そんな二人とは違い、先のやりとりをよく聞いていなかったフィスティーは眉をひそめ首を傾げる。


「どうしたのよ二人とも?」

「いや……さっきちょっとなぁ」

「さっきちょっとですね~……」

「まあまあお二人さん。それよりこちらの靴下ですが、なんと術式によるあらゆるバフ効果を99パーセントカットするという他には無い効果付きですよ?」

「確かに他には聞いたことのない……デメリットね。どういう仕組みなのよそれ」

「以前大量に仕入れ過ぎた抗薬レジストポーションがあったので適当に素材に……おっと、そこは企業秘密ですね」

「なんか適当って聞こえたんだけど?」

「適当って聞こえたね」

「聞こえました~」


 ここにきて息の合った3人のツッコミにルーシャはぷいっと顔をそむける。


「はて、一品一品ハンドメイドの品ですから適当とは無縁なのですが……」

「え? ハンドメイドなの? 呪物だけど手作りってのはすごいね」

「呪物じゃなくて商品です」


 どこか不貞腐れたように口を尖らせるルーシャだがその表情に怒りはない……無論他の感情もない。


「いいでしょう、これは私も本腰を入れて商品を提案しないとですね」

「すでになんだかもう逃げ腰なんだけど俺?」」


 その場を離れたいという様子の三人を前にルーシャはお構いなしにまた鞄によじ登り、鞄の口からいくつかの品を取り出し戻ってくる。


「何をしている……何やらその商人と話し込んでいるようだが、いい加減この後どうするか決めないのか?」

「ああ、悪い"ドンファン"。この子がついつい興味深い購入したくない品を持っててさ」

「うん?」


 それまで距離を置き周囲を警戒していたドンファン。脅威となる存在が近くにいないと察知したようで、背負っていた巨大斧の先を地面に突き刺すようにしておろし、凝り固まった肩をほぐすようにぐるぐると腕を回す。


「あまりゆっくりしているとここで野宿になるぞ」

「あ、野宿にぴったりのグッズも取り揃えてますよ? 例えばこれなんてどうでしょう?」

「いや野宿しようといっているわけでは……なんだそれは?」


 弁明よりも疑問が先だったドンファンの前で頭一つも二つも小さなルーシャは手にした大きな布を広げる。陽の光を受けキラキラと光る灰色の布は勢いよく広がり、その広さは優に5,6人は上で寝れそうな広さだ。


「こちら魔除け効果のある敷き布です。野宿の際にこちらの布の上にいればなんと自身よりも弱い魔族が姿を見せられなくなるという萎縮効果があるんですよ?」


 そう言ってルーシャは靴を脱ぐと地面に敷いた布の上に乗りその快適さをピーアールする。無論その表情には愛想も笑顔などもなく、相変わらずの無の感情だけが浮かんでいる。


「ふむ……それが本当ならすさまじい効果だな……ん? どうしたお前たち?」


 ルーシャの商品に関心を寄せるドンファンから少し離れた場所で集合した3人が危険物でも見るような目つきで二人を見ている。その様子に首を傾げるドンファン。


「いやぁ……今度はどんなとんでもないデメリットとやらがあるのかなぁと」

「興味深いですけど怖いですね~」

「あんた前衛でタンク役なんだからこっちまで飛び火しないようにしてよ」


 ぷくっと頬を膨らませ無言のままじっと3人を睨むルーシャ。その光景にセイギとテンネが苦笑で応えフィスティーはそっと目をそらす。


「よくわからんがデメリットがひどいのか? お前の商品は?」

「ひどい悪評ですね。心外以外の何ものでもないですよ」

「ふむ、それでこの布はどんなデメリットがあるんだ?」

「デメリットというほどではありませんよ。この布の上に乗ると身に着けている装備品の効果を"倍"にして周囲に共有するというものですよ」

「それは……末恐ろしいな。魔除け効果よりもむしろそちらが目立ち本来の効果がなんだか霞んで見えるな」

「値札と商品と支払先の私さえ見えていてくれれば問題ありませんよ」


 ドンファンはそっと値札を手にじりじりと近づくルーシャに気圧され、仲間たちのいる方へと後ずさる。


「な、なんだか変わった商人だな」

「言った通り、興味深いだろ? 買いたくはないけどね」

「そんなに言ったらルーシャちゃんがかわいそうですよ~、ね、ルーシャちゃ……あれ? 何してるんですか~?」


 テンネが首を傾げた視線の先でルーシャは先ほど紹介していた悪趣味な靴下とブーツをそそくさと身に着ける。


「あんたそれ売り物じゃなかったの?」

「そうですね、でも今回の"使い方"はこれが正解のようですので」


 ルーシャがブーツをはき終えぴょんと立ち上がる。それと同時に様子を見ていた4人に異変が起きる。


「な、なんだ? なんだか体がいように軽い……いや、浮いてないかこれ?」

「ど、どういうことよこれ!? ま、まさかルーシャあなたやっぱり魔族であたしたちに……」

「言ったでしょう……この布の上に立つと身に着けている装備品の効果を"倍"にして周囲に共有するんですよ? 体重50%オフの効果が倍になり実質体重は0に。そしてスタミナ減少のバッドステータスもありますがそれは靴下の"自身に付与されるどんなバッドステータスをも50パーセントカット"が倍になるので帳消し。まあ……術式のバフ効果もなくなりますがあいにくと使わないのならデメリットにもならないので」

「そ、そうか……それはなんともすごい組み合わせだな。それで? なんでいきなりこんなことを?」

「どうやら皆さんがいなくなるまで私はこの布から降りない方がよさそうですので。まあ、河を渡れずにお困りのようでしたので今回は先行投資。サービスとお考え下さい」

「な、なにをいって……うん? なんだいその紙は?」


 セイギの疑問も意に介さず、ルーシャが四人に向かい一枚の証書を向ける。何事かと一同がその証書を凝視するがルーシャは小さく息を漏らすような声で囁く。


「契約を履行し暴風を起こしなさい。それで借金の10%は免除してあげますよ」

「あんたなによそ……れ!?」


 ルーシャのかざした証書。そこに描かれた不思議な紋章が仄かに光り、次の瞬間まるで滝が真横に流れるかのような勢いで暴風が吹き荒れる。それを真正面から受け、ルーシャの商品による効果で体重がゼロになっていた四人は勢いよく吹き飛ばされていく。


 先ほどまで立ち往生するしかなかった広大な河川を軽々と超え、はるか彼方へと飛んで星となる様をルーシャはさして興味なさそうに眺めていた。


「まあお疲れのようでしたし……あれでトラスティンまでだいぶ近づいたでしょう。この布から離れたのでやがて体重も元に戻るでしょうし……」


 ルーシャはやれやれといった様子ではいていたブーツと靴下を脱ぎもとの靴へと履き替える。そしてゆっくりとした足取りで地面に敷いていた布から離れる。


「それで……橋を壊した理由、聞いてもいいですか?」


 誰もいなくなった河のほとり。誰もいないはずの河からはただ流れる水の音だけが聞こえる。


「聞こえてますよね? 魔除けの布から出たのでもう姿を隠さなくてもいいですよね?」

「お前……何者だ……」


 どこからともなく聞こえた女性の声にルーシャは無言と無表情のまま静かに声の主がいるであろう水面へと視線を向けた。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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