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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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校外学習、地獄行き?

校外学習。懐かしいですね。学生時代など、今はもう何もかもが懐かしい…。

「うわぁ…うぐぉお…」

 真っ白な原稿用紙を前に唸り声をあげ、頭を抱える和也を前に私は読んでたファッション誌を置いて首を傾げる。

「また?」

「先が思いつかねーっ!くっそぉ…前はどんどんアイデアが湧いて出て来たってのによ…」

「和也もスランプ?」

「かなぁ…」

 机に突っ伏して呻く和也。三日前あたりから筆が進まないらしく、定期的にああして悲痛な叫びを上げたりしている。相談してくれれば、とは思うけど、いざ話が始まると絶対についていけなくなるのも分かるから下手に口を出せない。

 そんな訳で何度も元気づけようとあれこれ苦労していたら、付き合いの長い犬飼君やルリちゃんが下手に口出ししても無駄だから適度に相槌打っておけばいずれ治るとアドバイスをくれた。お蔭で最初こそ罪悪感があったけど、今ではもう黙ってお茶を置いておくだけで十分だって分かった。

 けれども今日、そろそろ指摘しておかないといけないことがあった。

「ねえ、ホームルーム覚えてる?」

「覚えてない…」

「明日だよ?校外学習」

「え?何だって?」

 本気で分かっていないらしく、キョトンとした顔でこっちを見てくる和也。その気の抜けた顔がなんだかハムスターみたいで可愛らしく思える。顔の傷がハムスターの髭に見えちゃった私はきっと末期だ。

「だから、校外学習。明日は朝から皆でバスに乗って遊園地に行くの」

「ああ。遠足か」

「遠足?校外学習じゃないの?」

「同じようなモンだろ。それより、今はこっちの方が最優先だろ…はあ、どーするかなぁ」

「馬鹿。漫画家の仕事を許可してくれたの、学校行事優先にするのが条件だったじゃない。忘れたの?」

「あー…そーいやそんなこと滝先生も立花さんも言ってたなぁ…」

「もー。しっかりしてよ。この調子じゃ明日の朝普通に登校しそうな勢いね」

 学校の予定表をカバンから取り出してボーっと見つめる和也に、私はため息を付いて肩をすくめる。いつもはもうちょっとしっかりしてるんだけどな。

 少しだけ意外に思う私を尻目に、和也は渋々と言った顔で原稿用紙とペンを片付けて立ち上がる。

「なら今日は早めに帰るか。こうしててもアイデアが浮かぶわけでもないしな」

「でしょ?」

 ちょっとだけホッとしながら一緒に片付ける。そして五分後には部室の鍵を職員室に返して家路に着いていた。

「そーいや、どこの遊園地に行くんだっけ?」

「確か、海映グランドパークだったかな?どんなところなんだろ」

「海映グランドパーク…?」

 一瞬動揺した顔を見せる和也だけど、すぐさまスマホを取り出して何やら調べ始める。そして一分と経たずに検索結果を見直して首を傾げた。

「あった。二か月前に海外の企業に買収された企業だな。海映って。昭和中期に映画会社としてスタート。五年前までは業績も好調で、グランドパークも三年前にオープンしたばかりだが、ちょうどその頃に漫画実写映画ブームが終わった上に、そのタイミングで五本も大金つぎ込んだ映画を作ってたせいでメイン事業が傾いてきてたらしいな…」

「うーん…世知辛いね。でも、そんな有名な映画会社だったんだ。海外じゃ聞いたことないし…」

「ま、日本映画は基本海外受けしないらしいからな」

 それだけ言ってスマホをしまう和也。そこから先は和也お勧めの日本映画の傑作について色々とレクチャーを受けながらゆったりと帰る。

 今日は最後まで平和なままだった。



「プロフェッサーD!計画は順調か?」

 『JACK』日本支部。新たに支部長に就任したキャプテンZの指示のもと、部下であるプロフェッサーD率いる彼ら、実働部隊『JACKER』は日本中に張り巡らされた蜘蛛の巣型の展開図を前に敬礼する。

「ええ。キャプテンZ…殿。日本ズタズタ作戦の下準備は、既に仕分けの段階に入っています」

「よし。分かっていると思うが、この計画はまだ公安や葦原和也には知られてはいかん。出来る限り慎重にやってくれ」

「はっ!!」

 部下たちがきっちりと揃った敬礼をこなす横で、苦々しい思いを抱えながら渋々敬礼するプロフェッサーD。

(なぜワシがこんな若造の下で働かねばならんのだ…!)

 憤りを胸に、本来であれば自分の居場所のはずだった支部長室に入っていくキャプテンZの背中を睨みつけ、そのまま作戦室兼研究室に戻る道すがら、プロフェッサーDは苛立ち紛れにブツブツ呟いた。

「手柄だ。今はプライドなど気にしている場合ではない…何としてでも手柄を上げ、大首領に認めてもらわねば…その為ならば悪魔にでも魂を売ろう…」

 完全に危ない奴として認識され、基地の人間たちはおろか部下たちにも遠巻きで見られる中、プロフェッサーDが心の底から願っていたチャンスは不意に訪れた。

 作戦室に入り、一人で各地で不測の事態が起こっていないかを確認する作業をしていた部下が困惑した顔で報告してきた。

「プロフェッサーD。情報をキャッチしました。どうやら明日、葦原和也が所属する天川学園高等部一年が、我々の保有する仕分け場に校外学習に来る模様。いかがいたしましょうか?」

「なに…?奴が仕分け場に来るだと…?」

「ええ。ここはやはり、支部長の判断を仰ぎましょうか?」

「いや待て!」

 プロフェッサーDは不敵に笑い、部下の肩を掴む。

「この件、ワシに任させてもらおう。お前はこのことを一切公言するな。分かったな?」

「え、でも…?」

「黙って従え!ワシは幹部だぞ…その気になれば貴様一人、初めから居ないことにすることだって出来るのだ…」

「ひっ…わ、わかりました!!」

 震え上がる部下を蹴りつけ、プロフェッサーDはニヤリと邪悪に笑う。

「見ておれ、若造ども。ワシの力を見せつけてくれるわ」



「はっ!?もう着いたのか!?」

「起こして悪かったな。だがまだだぞ」

「あ…?ああ。そうか…なら着いたら起こしてくれ。昨日の夜もなんやかんやで寝れなかったんだ…」

 隣の座席に座る誠が心底どうでも良さそうな顔をして頷くのを見て、俺はもう一度窓に首をもたれかけさせて眠る体勢に入る。しかし、その時になってまた誠が肘で脇腹を突いてきた。

「なんだよ…」

「寝てる場合かっての。お前の彼女がカラオケで歌うんだぞ」

「んあ…?ま、まあまだ彼女ってわけじゃねーんだけどな」

 ちょっと言い訳するみたいな口調をしてしまう自分に内心首を傾げつつ、背もたれにもたれ掛かって聞く体勢に入る。そんな俺の仕草に満足げに頷いた誠が通路側に身を乗り出してOKとサインを送る。どうやらこの為だけにカラオケ大会を一時中断していたらしい。なんか悪いことしたな。

「じゃあ、『ラブソング』。皆、静かに聞いてね?」

「おおーっ!」

 主に男子の声援をバックに、ヒカリが少しだけ恥ずかしそうに歌い出す。バスに備え付けられたカラオケ特有の音質の悪さや、高速通路のガタガタと言う雑音を物ともせずに清らかな歌声を披露するヒカリに、俺もこの時ばかりは眠気を忘れて聞き入っていた。

 ヒカリの歌声は穏やかで、暖かくて、安心できる不思議な魅力を放っている。以前家事を手伝ってくれた時に、微かに口ずさむ程度でしか聞いたことが無かったけど、それでも歌が上手い事は知っていた。

 が、クラスの殆どがそれを知らなったせいか、歌い終わると共に拍手が巻き起こると言う遠足の行きのバスの中では考えられないような光景が広がっていた。

「お、おい!お前の彼女、歌まで上手いのかよ!?」

「あー。お前の彼女、音痴だもんな。安心しろ。アイツは料理が普通に下手だ」

「いや弱点聞いてる訳じゃねーよ…つーか彼女が歌ったのに彼氏が歌わない訳にはいかないんじゃね?」

「あ?」

 誠に言われて気づけば、既にマイクがバケツリレー方式で真っ直ぐこっちに向かってきている。しかも、半分近くは長い付き合いだからもう分かっててやってる顔だ。

「お前ら…最後は綺麗に締めるのが漫画の鉄則だろうがよ」

「そーかぃ?でもな、もうリクエストは出てるんだよなー。頼むぜ、見事なオチをよ!!」

「既にオチっつってんじゃねーか!!」

 天井から突き出した画面に親父の漫画、『THE HERO』の初代アニメOPが映る。もう逃げ場はないと覚悟を決め、俺はマイクを握りしめ――――――



「着いたな…」

「ああ…」

 俺達のバスは予想通り完全に盛り下がったテンションの中で海映グランドパークに到着した。同じバスに乗っていたクラスメイトたちは、ある者は静かに首を横に振り、またある者は可哀想な物を見る目でこっちを見てくる。

「去年より下手になってたな。予想以上だったぜ」

「ヒカリの歌の後だから余計にそう感じたんだよ…」

「あり?ちょっと傷ついてる?」

「な訳あるか。ったく…」

 何故だか分からないけどイライラしつつ、俺はカバンを背に渡されたチケットを受け付けに渡す。

「ハイ。では、こちらの半日パスポートをご利用ください」

 渡された半日パスを制服のポケットに入れ、正面入り口のパーク見取り図前で俺を待っていてくれたヒカリと合流する。

 が、何というかちょっと距離を感じる。

「…歌、下手だったんだ」

「言うな…」

「あ、わ、私ね?海外で少しボイストレーニング受けたことあるし…その…」

 慰められると逆に辛い。

「まあいいだろ。で、どうアトラクションを回るんだ?」

「うーん。まずは、ジェットコースター?」

「了解」

 開園直後と言うこともあってかまだ客も並んでいないジェットコースターに乗り込む俺達。後ろに何人か同じ制服を着た奴らが乗り込むのを待って、ジェットコースターはゆっくりと動き出した。

「…ゆっくりだね」

「そりゃ、上がるときはな。でもなぁ…」

 何となくだけど、俺達にはジェットコースターは向いてないんじゃないかなぁ。そんな言葉を呑み込み、ジェットコースターが最頂点に到達。そして、結構な速さで急降下した。

「おっ…」

 意外と早いな。俺とヒカリの感想はそれだけだった。後ろでキャーキャー騒いでる奴らが居るけど、常日頃から空を飛んだり、空から撃ち落とされたりを繰り広げている俺達にはそれ以外の何の感想も浮かんでこない。

 たとえジェットコースターが空中で縦に三回転半したって、上下逆さま地面擦れ擦れを通過したって同じこと。むしろヒカリは眼鏡が落ちないか心配する余裕があった。

 これは失敗だったな、とお互い確信したその時だった。ジェットコースターのラストは湖の中に作られたガラスのトンネルを通り抜けてフィニッシュなのだが、その途中でトンネルのガラスが割れて大量の水が流れ込んできたのだ。

「なっ!?」

 突然目の前に大量の水流が現れ、更に何とかしようにも安全ベルトがやたら堅くて外せない。おまけに俺の足に足枷らしきものが。

「こいつは…まさか!!」

 『JACK』の罠。そう思った俺は咄嗟に隠し持っていた原稿用紙を取り出し、風圧と水流でダメになる前に目を通して変身する。

 そして力づくで安全ベルトと足枷を外すと、ボードブレードを巨大化させて楯を作り、コースターの前に斜めに置いて水の侵攻を防ぎ、更に浸水してくる水流もコースターの勢いに任せて排水させる。

「くっ!?」

 何とかなったのを確認し、正体がバレないように速攻で変身を解いて元の座席に座る。幸い、後ろの生徒たちは水の前で目を瞑っていたから見ていなかったらしい。

 そんなこんなでジェットコースターは終わり、俺たちは降りると同時に従業員に詰め寄った。

「お前…まさかとは思うが、俺たちを殺すつもりじゃないだろうな!?」

「この足枷、なに?まさかと思うけど、私達にだけ作動してるってことないよね?」

 ただのイベントか何かと思って何事も無かったかのように立ち去っていく生徒たちを横目に従業員に詰め寄る俺達。だが、従業員はニヤリと笑って後ずさる。そして開かれた口から聞こえて来た声は、いつしか聞いたことのある声だった。

「馬鹿め!貴様たちは、このプロフェッサーDの罠に嵌ったのだ!」

「スイカジジイ!!お前!?」

「教えてやろう!この海映グランドパークは我が秘密実験場。故に、様々な仕掛けで客としてきた連中を自由にできるようになっている…フフフ。貴様たちに、この死のテーマパークを攻略できるかな?」

 それだけ言い残し、スイカジジイの声をした従業員は高笑いをしながらどこかへ走り去っていく。

「あ、待て!」

「和也!アイツよりも、この遊園地の仕掛けって奴をどうにかしないと…!!」

「そ、そうか!そうだな!!急ごう!!」

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