ヘルズシーカー
ちょっと長め。二話完結にしようと思うと長いし、三話完結にしようと思うと短いし…。
「全く…どうして君は毎回騒動の中心にいるんだ?」
「偶然偶然。それよりもあれ、どうなってるの?」
警察署の個室で千葉刑事に睨まれつつヘラっと笑ってみせる俺。その姿勢に千葉刑事はあからさまにため息を付くけど、それでも机に置いてあった捜査資料のファイルを開いて見せてくれた。
「公安課の三条からの要請でこっちでも調べていた件だ。どこぞのテログループが日本…それもこの街に大量の危険物を持ち込んだ上、あちこちの危険勢力にばら撒いたのは事実だ。特に、考えの浅い若者グループが要注意と言うことで、『ヘルズシーカー』も我々が目を付けていた組織の一つだったのだが…まさか、下っ端までもが拳銃を所持しているとはな」
「使ったのは初めてだったみたいだった。多分、どんなモンなのかも分かってなかったんじゃないか?」
「同感だ。大方、エアガンの延長位にしか考えていないんだろう。それが余計に厄介だ」
「銃って、子供が使う玩具じゃないのに…」
レーザーガンとは言え、何度も使ったことがあるからか、ふと呟いてしまったヒカリをじっと見つめる千葉刑事。ガキの癖に、なんて思っているんだろうか。
「それよりも、さっきも言ってたみたいに下っ端まで銃持ってるんなら、『ヘルズシーカー』は危険物を横流ししてる奴らと相当な繋がりがあるんじゃないかって思って。で、聞きに来たんだけど」
「それを俺が一般市民相手に話すと思うか?」
「思わない」
「だろうな。資料は上の命令で三条警部補の所に送ってある。見たければ向こうを通して見てくれ」
これ以上は駄目、とファイルを閉じる千葉刑事。そこをなんとか、と言いたくもあったけど、生真面目な千葉刑事としてはこれが自分で許せる最低ラインだったんだろう。
諦めて帰るか、とヒカリと二人で立ち上がったその時、俺達の居る警察署の入り口辺りで爆発が起きた。
「な、なんだ!?」
血相を変えて飛び出す千葉刑事を追いかけて走る俺達。やっとの思いで正面玄関を見下ろす二階の広間にたどり着くと、そこには何と布やフードで顔を隠した青年たちがショットガンやアサルトライフルを手に乗り込んで来ていた。
いきなりのことで動揺してあたふたするばかりの警官たちに、巻き込まれた来客や受付の人たちもパニックになっていて、一部の武装した警官たちも思うように動けていなかった。
「な、なんだこれ…いつからこの街は世紀末になったんだ?」
「知らん!だが、まさか警察署を襲うとは…!!」
「あ、あれ!!」
ヒカリの指さす方を見れば、そこにはどこから仕入れたのか手りゅう弾を片手に狙いを澄ます輩が。
「あんなもん、ここで使ったら死人が出るぞ…!!ったく!!」
「あ、おい!」
止める千葉刑事を背に、俺は手すりを乗り越えて騒動の起きている正面玄関に飛び降りる。そしてちょうど真下で暴れている奴を足場にしてジャンプし投げられた手りゅう弾を空中でキャッチし、爆発するよりも早く外に投げた。
結構本気で投げたためか、人のいない空中で爆発する手りゅう弾。しかし、その爆発で俺は襲撃犯たちの注目を浴びてしまった。
「なんだテメエ!?邪魔するんじゃねえ!!」
「邪魔だ?お前らこそ、今ここに居る全員の邪魔をするんじゃねーよ!」
「んだとぉ!?」
「何粋がってんだテメエ!?俺達誰だと思ってんだ、ああ?」
「知るか!」
既に戦闘は避けられないと感じていた俺は、先手必勝とばかりに後ろから金属バットで殴りかかって来た奴に回し蹴りのカウンターを叩き込む。
「なっ…!?何すんだ!!」
「こっちのセリフだ」
慌ててショットガンを構える奴が引き金に指をかけるよりも先に接近し、銃口を蹴り上げて上を向かせる。その衝撃で暴発したのか、ショットガンの弾が何もない方向に飛んでいくのを確認してからもう一発蹴りを叩き込んで気絶させる。
「な、何しやがんだ畜生!!」
次々と倒されていく仲間を見てか、それとも千葉刑事の号令でようやく動き出した警官たちに仲間が制圧させ始めたのを見てか、アサルトライフルを持った奴がやたら滅多に乱射しながら叫ぶ。
「ちっ!銃撃つなら、せめて俺だけに当てやがれーっ!!」
銃口が一般市民に向けられたのを見た俺は全速力で駆け抜けながら、その場に落ちていた石の塊を投げる。俺の投げた石は銃口と一般市民の間に割り込むと、ギリギリのタイミングで彼らの盾になってくれた。
ひとまず無事なことだけ確認し、そしてそのまま飛び蹴りでアサルトライフルを持った奴を蹴り飛ばす。
「何なんだよぉっ!?お前、何なんだ!?俺達に何の恨みがあるってんだよ!?」
「ああ?恨みつらみはねーよ。初対面だし」
「だ、だったらなんでなんだよ!?正義の味方とでも言うつもりか!?ああ!?」
「正義の味方…ねえ?ちと違うぜ。俺はな…」
倒れている馬鹿にトドメの一発を叩き込みつつ、コイツだけにでも聞こえるようにしっかりと言い切る。
「お前らが傷つけようとしてた人たちの味方だ。よーく覚えとけ。馬鹿野郎」
気絶した馬鹿を転がしつつ、周囲を見渡す。どうやら攻め込んできた奴らは気絶したか、警官たちに制圧されたらしい。市民の避難誘導を手伝っていたヒカリと、犯人の一人に手錠をかけた千葉刑事が駆け寄って来る。
「和也、何とかなったみたいよ」
「協力感謝するぞ。だが、いくらヒーロー活動家だからと言って、学生があまり出しゃばるんじゃない」
「ヘイヘイ。それより、問題はこっちだな」
「ん?」
俺は何のことだか分かっていない顔の千葉刑事やヒカリをよそに、気絶している馬鹿の服の袖を捲る。そこには案の定、『ヘルズシーカー』の刺青が。
「こいつら…やはりあの発砲犯の仲間か!」
「まさか、下っ端取り戻しに警察署に襲撃かけるとはね…ま、それもただの口実だったのかもしれねーけどな」
最初の手りゅう弾の爆発で開けられた穴を前に、俺たちは予想以上に事態は深刻であると認識を改めざるを得なくなった。
「ヒカリ。爺さんに連絡してくれ」
「うん。分かった」
これ以上、奴らを野放しにはできない。俺は心の中でそう宣言すると、服の下に隠していた原稿用紙を握りしめるのだった。
その日の夜十一時。繁華街に通じる国道を『ヘルズシーカー』の一団が通過していた。皆一様に改造した大型バイクのアクセルを吹かし、マフラーが取り外されている為にエンジン音がまるで爆音のように響き渡る。
「朝倉サン!今夜も快調っすね!!」
「おお…!テメエら、このまま朝まで街中回すぞ!!」
「イエーッ!!」
住宅街のど真ん中でありながら一切の配慮も無い轟音。上空で待機してる私たちにも耳障りなんだから、あのあたりに住んでる人たちにしてみれば溜まったものじゃないんだろうな。
『ヒカリ、聞こえてるか?』
「ちゃんと聞こえるよ。ターゲットは住宅街を抜けて繫華街に向かってる。そろそろポイントだね」
上空から『ヘルズシーカー』を監視しつつ、私は作戦予定地の橋に向かう。ここから繫華街に行くにはあの橋を通らなくてはいけないのは、この街の住人なら誰でも知っている。あそこなら、どんな騒ぎになっても迷惑にはならないハズ。
そう思いながら橋の上空に待機し、レーザーガンのエネルギーをパラライズに切り替えて待ち構えて、そうして待つこと一分半。『ヘルズシーカー』の一団が橋に侵入した。
「今だ!!」
橋に全員が入ったのを確認し、三条警部補の指示で闇に隠れていた覆面パトカーが一斉にパトライトを照らす。
「うわっ!?」
「お、お巡り!?なんで!?」
「くっ…!引き返せ!!」
リーダーの朝倉の指示でバイクを止めるも、彼らのすぐ後ろからも大量の覆面パトカーが迫る。逃げ場のない橋の上で挟み撃ちにされた『ヘルズシーカー』は、パトライトの赤い光に照らされつつもバイクに搭載していた重火器を取り出そうとする。
「勝てると思ってる?」
この期に及んでまだ抵抗する気なのか、と呆れかえりつつ、ヒカリは拡散パラライズレーザーを発射。
「え…?」
予期していなかった方角からの攻撃に呆気に取られる『ヘルズシーカー』のメンバーたち。そして、レーザーに当たったメンバーたちは次々と身体が麻痺して動かなくなって倒れていった。
「よーし!確保だ!!」
千葉さんの合図でレーザー照射を止める。いくら重火器で武装しているとはいえ、流石にただの暴走族ならこれだけで鎮圧できるはずだった。
「え…?この反応…!千葉さん、離れて!!」
「あ?」
だけどその時、私の眼鏡にナノマシンの反応が現れた。数は一で、出現場所は橋のど真ん中。つまり『ヘルズシーカー』のメンバーの中にイマジネーターが居たと言うこと。
私は慌ててレーザーガンをパラライズモードからビームモードに切り替えて狙いを澄ます。だけど敵の姿を確認するよりも先に、何者かの攻撃で確保に向かっていた警官が殴り飛ばされた。
「がっ…!?」
「な、なんだ!?何が起きている!?」
次々と警官が吹き飛ばされ、覆面パトカーのパトライトが破壊される。
「誰がそこに居るんだ!?」
恐怖に駆られる警官たちの中で、千葉さんが唯一自分を奮い立たせて拳銃を抜く。しかし、相手はイマジネーター。通常の相手ではない。
「千葉さん、離れて!!」
私は咄嗟にレーザーガンを撃つけど、上手く狙いを定められなかったレーザーは一瞬だけ敵の姿を照らすことしか出来なかった。
「お、お前は…」
そこに居たのは、人型の蛇だった。しかし、ただの蛇ではない。腕や肩、腹や胸と言った全身の彼方此方からマシンガンやショットガンやらが突き出た異形の怪物だった。
「サツなんぞに、俺が負けるかよぉ!!」
「ぜ、全員退避ーっ!!」
千葉さんの掛け声が届くかどうか怪しいほど素早く、朝倉と呼ばれていたリーダーは全身の銃火器を撃ち放った。
夜中の道を、まるでハリネズミのような大量のガンファイヤが照らす。全方位に発射された銃火器の弾は覆面パトカーや橋を破壊していく。しかし、それらの銃弾は空から飛んできたボードブレードに防がれて千葉さんたちには届かなかった。
「和也…!!」
コミックマンに変身した和也は、ボードブレードに乗って飛んできた勢いをそのままにドロップキックを叩き込み、蹴り飛ばされた朝倉ごと橋から川に落ちた。
「があ…っ!!お前ぇ!!」
「これ以上の暴走はさせねえぞ。お前ら全員、免停で教習所からやり直して来やがれ!!」
前方に全火力を集中させた朝倉の総攻撃をボードブレードで軽く凌ぎ、そのまま接近した和也は防御したついでのように軽々と斬りつけていく。
ボードブレードの切っ先がガトリング砲やショットガンの銃口を切り裂き、朝倉は苦痛の叫びを上げる。
「ふざけるんじゃねえ!!俺が負けてたまるかよ!!」
押されていることを感じ取った朝倉が吠える。その姿はまさに肉食獣だった。だけど和也はそんな朝倉の攻撃など物ともせずに蹴りを入れる。
「言っとくぜ。お前に勝ち目は…ゼロだ!!」
起き上がり突撃してくる朝倉と、それと相対する和也は一瞬で姿をサムライモードに変えて迎え撃つ。そして一瞬の交錯を得て、イマジネーターである朝倉は敗北の証である爆発を起こしたのだった。
数日後。千葉刑事が天龍寺邸を訪れた。どうやら俺達に言いたいことがったらしいが、とりあえずはあの事件のその後だ。
「それで全員、仲良く逮捕ですか?」
「ああ。やったことはどれも重大な法律違反だ。ただの暴走族なら法律上の問題はない場合もあって立件は難しいんだが、ここまで暴れてはな」
新しいファイルを開きながら零す千葉刑事。ヒカリと二人で読んでみれば、メンバーの一人一人にかなりの数の立件理由が事細かに書かれていた。
「まず全員、銃刀法違反に迷惑防止条例違反…その後は個別にいろいろだな」
「暴走族って言っても、色んな犯罪に手を伸ばしてたみたいね。おまけに『JACK』とも組んでたわけだし…」
「まあ、まず間違いなく家庭裁判所行きはあり得ない。ここまで来れば超法規的措置として、一般の法廷で裁かれることになるだろう。自業自得ではあるがな」
千葉さんはそう言いつつも、どこか寂しげに笑う。あくまで彼らは、迷惑な奴らに唆されただけだと分かっているんだから当然かもしれない。
一歩間違えれば、他のグループが彼らになっていたかもしれないと思うと、彼らの人生は何だったのかと考えたくもなる。
「だがそれは俺達の仕事じゃない。それよりも、だ。今回は世話になった。だが出来る事なら今回だけにしておきたい。ヒーロー活動もいいが、あまり目立つようなことはするなよ?」
「分かってるさ。アメコミヒーローみたいな目には合いたくないからな」
「そりゃあそうだ。じゃあ、ここで行くとしよう。色々と忙しいんでな」
千葉さんはそれだけ言い残して出ていった。残された俺たちは、ようやく事件が終わったと思うと何だか久しぶりに気が抜けてしまった気がした。
「…ルリの店に行くか?」
「賛成。いこっ!」
俺の提案にヒカリは満面の笑顔で頷き、そして自然な流れで俺の手を掴むのだった。
感想待ってます。




