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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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モールバトル

ショッピングモールでのテロって、海外じゃ普通にあることなんでしょうかね?日本に住んでると、テロ事態が絵空事な感じがします。まあ、それくらい日本が平和と言うことでしょう。

 日曜正午。新オープンした大型ショッピングモール『G-Mall』の駐車場に止められていた一台の車が突如爆発。それと同時に利用客に混じって待機していた二十三名のテロリストが各入口を封鎖。テロ発生当時に店内に居た従業員と利用客、合わせて約七千人を人質に立てこもるという事件が発生した。

「どう?」

「うーん…全然情報が入ってこない。事件が起きたって言うのは流れてるけど…」

 テロ発生当時、偶然にも『G-Mall』のフードコートに居た私は、スマホでニュースサイトやテレビのワイドショーなどを見て回る。だけど具体的な情報が手に入った訳でもなく、ルリちゃんとさくらさんと一緒に無人のフードコートの厨房に隠れてテロリストたちをやり過ごしていた。

「行った?」

「そうみたいね…」

 大混乱のフードコートにテロリストが二名ほど襲撃し、騒ぎ立てる皆を天井にショットガンを発射して黙らし、そのまま人質たちを下に連行していったのを見届けた私達は、ほっとしたような、見知らぬ人とは言え皆を見捨てた様な罪悪感を感じながら腰を下ろした。

「ねえ、ヒカリ。もしかして?」

 その時、さくらさんが不安そうな顔で私を見つめる。あのテロリストたちは『JACK』と何か関係があるんじゃないかって不安なんだと思うけど…。

「分からない。けど、テロリストなんていくらでもいるし…」

「いやー。それはどーでしょーね?普通、テロリストと遭遇する人生って日本じゃあり得ないんじゃ…」

 ある意味ではこの中で一番幸せなルリちゃんの言葉に、私はほんの少しだけ戸惑いを覚えながらスマホの電話帳を開く。まずは和也に連絡しないと。

「和也…あ、もしもし?私、今…」

「留守番電話サービスです。ピーッという音の後にメッセージをどうぞ」

 こういう時にはとにかく頼りになる和也を呼ぼうと電話するけど、何故かこういう時に限って電話が通じない。

「もう、出てよ…馬鹿」

「本当にいっつも肝心な時に使えない奴…」

 ルリちゃんが長年の付き合い故か、心底恨めそうな顔で吐き捨てる横でメッセージを残す。

「和也?私。ニュース見た?今、そこに居るの。だから出来るだけ早めに助けに来てほしいな…って。無理そうなら、おじいちゃんに頼んでアレを送ってくれるだけでいいから。お願いね」

「アレ?」

「な、何でもないよ。ヒカリのおやつだって」

 事情を知らないルリちゃんが首をかしげるのを見たさくらさんが何とか誤魔化してるけど、この状況でおやつは無いよね。なのに、ルリちゃんが納得したような顔してるし。

 その時、表で何やら騒がしくなってきた。テレビを付けると、どうやら警察の機動隊が突入の準備を始めたらしい。そんな所まで生の報道をしていいのか不安になるけど、テロリストたちはどう動くのか。

『あ、今交渉を始めるようです!』

『あーあー。そちらの要求はなんだー!立てこもり犯の事件解決時の生存率は分かっているんだろうなー!!』

「言う所、それじゃないよね」

『我々の要求は二つ!日本政府に対し百億円の身代金と、逃亡用の車と飛行機だ!!この二つが二十四時間以内に達成されなかった場合、仕掛けた爆弾でモールごと人質を全員殺す!!』

「仕掛けた爆弾…最悪、全員死ぬ気ってことかな」

「はた迷惑ね。よそでやりなさいよ」

 さくらさんとルリちゃんの辛辣なコメントをよそに、警察の交渉役はやたら目立つように拡声器で叫んで呼びかけている。普通、こういうのって電話で聞こえないようにやると思うんだけど。

 不思議に思ったその時、私達が居るフードコートから見て逆方向のどこかで爆発が起きた。

「きゃっ!?」

「爆発…!!」

 激しい揺れと音にショックを受けるルリちゃんをよそに、テレビに映った報道ヘリからの空撮映像を見ると、どうやら従業員入口から機動隊が侵入しようとしていたらしい。その辺りから爆炎が上がっていて、何人かの機動隊員が負傷者を引きずって撤退していく所がバッチリ映っていた。

『このモールの全ての出入口に人感センサー付きの爆弾を仕掛けた!我々の許可なく侵入を試みれば即死だ!分かったら百億と車をさっさと持ってこい!!』

 その言葉を最後にテロリストたちからの声は途切れ、警察も攻めあぐねているかのように一定の距離を保ちつつ動きを止める。

「これ、長くなるかも」

「え?どうして…」

「海外じゃ、こういう事件はたまにあるからね。モールでの立てこもりは初めてだけど…でも、ここまで大規模なテロは解決に時間がかかるから…」



 図書館。俺はここ数日の各紙新聞を読み終え、今度は海外SFの古典を読み漁っていた。手塚治虫や石ノ森章太郎も様々な小説、特にこの手の小説を愛読していたというし、知識やネタの引き出しは多い方が良い。それこそ文字通り寝食を忘れる勢いでレイ・ブラッドペリの火星年代記を読み進めていく間、ヒカリからの緊急の連絡があったことを知ったのはかなり後になってからのことだった。



 バタバタ、とやけに荒い足音がフードコートに響く。私達はビクっとしつつ呼吸を止めて気配を消す。

「あーあ。ったく、なんでここまで来てハンバーガーが食べたいなんて言うかね」

「しょうがないだろ。もうじきこの国ともおさらばだ。ここの味も食い納めってな」

 やはりテロリストのメンバーらしい。大人数での長期戦を予期してモールに立てこもったのは、こうやって色々な料理を食べれると言うこともあるのかも。

「そーいや、どうやって作るんだ?」

「あ、俺昔バイトしてたんで分かるっスよ。材料は全部置いてありますし…」

(声が若い…もしかして、下っ端かな?)

 下っ端二人がガサゴソやってる音を聞きつつ、私は超高性能メガネの縁を操作して隠れているうどん屋の壁越しにサーモグラフィで確認する。声の通りで数は二。どこから調達してきたのかライフル銃を持っているけど、ナノマシンの反応は無い。というかむしろ、この建物内にナノマシンの反応が一切ない。

(『JACK』とは無関係…とは言い切れないか。それより…)

「お、出来たな」

「じゃ、早速食うか」

 出来上がったばかりのハンバーガーを食べる音が聞こえてくる。そう言えば、テロが起きた時まだハンバーガー食べてる途中だったっけ。おまけに朝ご飯も少なかったし…。

(うっ…そう思うと、お腹が空いてきちゃったぁ…)

 ぐうーっとお腹の虫が鳴き、ルリちゃんとさくらさんに思いっきり睨まれる。そんな目で見ないでよ。何もこんな時に、と自分でも思ったんだから。だけど、仕方ない。私はお腹が空いちゃったんだ。

「誰だ!?」

「まだ人質が居たか!?リーダー!!」

「ああもう!!ヒカリ、アンタ責任取りなさいよーっ!!」

「ごめん…」

 気付かれた。そう判断したさくらさんが近くに落ちていた箒を引っ掴んで飛び出す。

「なっ!?女!?」

「だからって舐めんなよぉーっ!!」

 小学校男子が掃除の時間によくやってるアレと同じ要領で立ち向かってくるさくらさんに、テロリストが明らかに困惑している。だけどさくらさんは中学剣道日本一。しかも解消されたとはいえ一時ナノマシンでイマジネーターになっていたんだから、その気になれば大人一人簡単に制圧できるくらいには強い。箒の取っ手で放った突きは、一撃で十分テロリストを気絶させられた。

「何しやがる!!」

 しかし残ったもう一方がさくらさんを後ろからライフル銃で狙う。私は咄嗟に飛び出し、フライトスーツで強化されたパワーで飛び上がり、そのまま飛び蹴りを叩き込んだ。

「グエッ!?」

 潰れたカエルみたいな悲鳴を上げて気絶するテロリスト。

「す、すっごーい…」

 唯一一般人のルリちゃんが茫然と呟きながら姿を現す。

「さくらさんは強いって知ってたけど、ヒカリさんもそんなに強かったんですね」

「まあ、ね。でもどうしよう?この二人、リーダーに報告してたよね?」

「ええ。これは、無事で済むためにはもう私達で戦うしかないね」

 さくらさんの言葉に頷く私。まあ、今も絶賛混乱中のルリちゃんをどうするかも考えないとだけど。

「取りあえず、スポーツ用品店に行こう。そこなら武器があるわ」

「分かった。ルリちゃん、ここに居たら危ないし…」

「え、ええ?そりゃ、付いて行きますよ?むしろ私を一人でおいていくつもりですかぁ!?」

「それもそうね」

 テロリストたちが何人か近づいて来ているのを超高性能メガネで確認した私は、二人を連れてスポーツ用品店に走った。



「なにぃ?フードコートにやった連中からの連絡が途切れた?」

「は、はい…確保し損ねた人質を見つけたって言う奴からの連絡を受けて迎えに行ったんですが、もう十五分です」

「長いな…なにを遊んでやがる。まさか、特殊部隊がもう中に入り込んだって訳じゃないだろうな」

 テロリストたちが中央ホールで昼ご飯を食べながらしかめっ面をしながら会議してる。人質たちは専門店街の中央通路で座らされ、交代でライフル銃を構えながら見張っているらしい。

 私は眼鏡の縁を抑えて戦闘モードに切り替える。レーザーガンが無いのは不安だけど、代用品はスポーツ用品店で見つけて来た。

「ルリちゃん。どう?」

『捕まえた奴が言ってた通りだったよ。三階の北側の窓には爆弾仕掛けられて無い。このことを警察に伝えればいいんだね?』

「うん。お願い。警察が動いてる間に、私達で何とかするから」

『…素人なら窓のこと教えて隠れるべきなんですけどねー。なんででしょ』

 電話の向こうのルリちゃんが首を傾げているのが目に見えるようだった。だけど、今はそんなこと気にしてられない。

「じゃあ、行こっか」

「ええ。行きましょ。思う存分暴れてやるわ」

 さくらさんはニヤリと笑って竹刀を構える。そして私はアーチェリーの弓を構え、眼鏡の照準補正を合わせて正確に当たる様に構え、矢を放った。

「うぐおっ!?」

 矢は真っ直ぐリーダーが大事に持っていたスマホを貫く。フードコートで捕まえた奴が言うには、あれが爆弾のスイッチの役割を果たしているらしい。

「な、何モンだ!?」

「とりゃっ!!」

 平然と二階から着地し、そのまま竹刀でテロリストたちをしばき倒していくさくらさん。

「な、なんなんだよ!?女子高生が、なんで俺たちを!?」

「女子高生の休日を台無しにした罪よ!!覚悟しなさい!!」

 普通なら派手な音が出るだけでそれ程大したダメージにならないハズの竹刀なのに、さくらさんは鍛えたパワーと正確な狙いで弱い部分に打ち込んでいて、テロリストたちは次々と痛みに呻きながら倒れ込んでいく。

「こ、このぉ!?俺達を舐めるんじゃ…」

「たあっ!!」

 さくらさんにライフル銃を向けるテロリストを見つけた私は咄嗟にアーチェリーでライフル銃を射抜く。そしてようやくこっちに気づいたテロリストが銃口を向ける中で、私は足裏ジェットを吹かして飛び上がる。

「と、飛んだぁぁぁぁ!?」

「今どきの女子高生は飛ぶのか!?」

「そんな訳あるか!!撃ち落とせ!!」

 テロリストたちがリーダーの命令でライフル銃を撃って来るけど、私の服の下に着ているフライトスーツの防弾性はライフル程度じゃ撃ち抜けない。手で顔だけは覆ってライフル弾を防ぎつつ、私はジェットの力でホバリングしながらテロリストたちにキックを叩き込んでいく。

「たあっ!とりゃ!うりゃ!!」

「グフッ!?」

「ケフっ!?」

「ウギャッ!?」

 強化されたキックを受けたテロリストたちが次々と倒れていく。私はさくらさんほど技術がある訳じゃないから怪我が残ったりしないか心配だったけど、今はとにかく気絶させないと。

「な、舐めんなぁ!!」

 その時、リーダーが私の背中目がけてショットガンを発射した。

「うっ…!!」

 流石に衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされて、背中が痛むのを感じながら何とか床に降りる私。だけど起き上がろうとした時には、既にリーダーは私目がけてショットガンを突きつけていた。

「ヒカリ!!」

 部下のテロリストの最後の一人を気絶させたさくらさんが私の状況を見て驚く。リーダーはそんなさくらさんと私を交互に見ながら叫んだ。

「動くんじゃねえ!!その綺麗な顔を吹っ飛ばされたくは無いだろぉ!?」

「うっ…」

 目と鼻の先にショットガンの銃口を突きつけられる。このまま引き金を引かれたら、防御も間に合わず殺されちゃう。

「その竹刀捨てろ!そんで両手を後ろに組んで膝立ちになれ!!」

「くっそぉ…!!」

 悔し気に言われた通りにするさくらさん。私は心の中でこの状況を作ってしまったことを謝りながらリーダーを睨む。せめて、ここにレーザーガンがあれば…。

「テメエら、一体何者なのかは知らねえが、ここまで暴れたんだ。ただで済むと思うなよ。取りあえずだな…」

 ショットガンを構えたまま舌なめずりするリーダー。下衆な顔で、一体何を命令するつもりなのか。

 思わず歯噛みする私。やがてリーダーはさくらさんに向けて口を開こうとしたその時だった。

「とおりゃああああああ!!私渾身のスマーッシュ!!」

 ルリちゃんが全速力で駆け寄って来たかと思えば、リーダーが何か反応するよりも先にバドミントンのラケットでリーダーの頭を渾身の力で叩きのめした。

「おあっ…!?」

「どうだあ!!私だってやりゃあ出来んのよ!!」

「ルリちゃん…!!」

「やるわね…!!」

 頭を押さえて悶絶するリーダーにキックを叩き込み、私は人質状態から解放される。そして体勢を立て直したルリちゃんとさくらさんと並んで立ち、リーダーの前に立ちふさがる。

「ひいっ!?」

 リーダーは逃げようにも腰が抜けたように座り込んでしまう。私たちはその姿にちょっと満足したけど、すぐさまお互いうなずき合った。

「そう言えば…私の顔を吹き飛ばすとか言ってたよね?」

「え、えへへ…!?」

 許さない。その一言が届いたのか、テロリストのリーダーは声にならない悲鳴を上げた。



「あれ?」

 ヒカリからの連絡に気づいた俺が慌ててモールに到着すると、既にそこには解放された人質たちと事後処理に入った警察たち。そしてなにがおきたかわからないと言った顔のマスコミたちばかりだった。

「な、何が起きたんだ…?」

 別に大した事件じゃなかったのか?それにしては警察やマスコミの規模は大きいし…とにかく、ヒカリたちを探して無事かどうか確かめて…。

「遅かったね。和也?」

「え…?」

「そうそう。普段からカッコつけてる割には肝心な時に役に立たないのね。昔っから」

「うえ…?」

「ちょっと…幻滅かな?どうやったら元の水準まで戻ると思う?」

「ちょ…」

 振り向けば、冷たい視線で俺を見つめる三人の瞳。

「え、えーっと?お嬢様方、いかがいたしましたか?」

 この時ほど、俺は自分がヒーロー失格だと思ったときは無いだろう。後に事件の顛末を聞かされた俺は暫くの間、ヒカリたちには逆らえなくなったのだった。

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