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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
25/75

決戦!コミックマン対二代怪人

ちょっと長め。お話はまだまだ続きます。

 夜景をバックに二人空を飛ぶ。このままどこかへ飛んで行きたくもあったけれど、俺の仕事が終わっていない。

 滝先生が待っているビルの役員用レクリエーションフロアの窓ガラスの穴に向かって飛ぶ。着地し、力が入らず腰の抜けた天竜寺を床に下ろす。

「やったじゃないか二人共!俺のナイスアシストが効いたみたいだな!

「えっと…滝先生?どうして…」

「ってか、警備員さんたち全滅してるじゃん。あんた、ホントに教師か?」

「言ったろ。オヤジがFBIの…」

「おのれぇぇぇぇぇぇ!!」

 突然上の方の窓ガラスをぶち破ってあの厚化粧蜘蛛がこのレクリエーションフロアに侵入してきた。

 天竜寺と滝先生が身構えるが、俺はそれ以上に嫌な予感を感じていた。何というか、DQNを必要以上に叩きのめしたら、そのDQNがナイフ持ち出してきた時のような気配を感じる。

「お前ら全員消えろぉぉぉぉぉ!!」

 そう叫ぶと、口から大量の糸を滅茶苦茶に吐き出してきた。二人を庇ってボードブレードを床に突き刺して盾にするが、こんなにも広かったレクリエーションフロアが一瞬にして蜘蛛の巣に変わってしまう。

 その上、俺の体もボードブレードごと全身を固まった糸で絡め取られて動けなくなってしまった。

「くそぉ。さっきからこんなのばっかじゃねーか!いい加減学習しろよ俺!!」

 後ろの二人は無事だけど、これじゃあ動けない。その上、あの厚化粧蜘蛛は俺を集中砲火してきやがる。ボードブレードのお陰で何とか防ぎきれているが、このままじゃ貫かれてしまう。

「どうするよ、俺…?」




「死になさいよぉ!!お前たち二人共早く!!」

「きゃあっ…!?」

「や、やべえ…」

 滝先生と一緒に葦原君の背中に隠れ続けているけど、あの人の憎しみに満ちた声が私の心を苛んでくる。あんなにも、私はあの人に憎まれるようなことをしていたんだろうか。

 あの拷問を受けながらも、私はあの人の声をはっきりと聞いていた。私の身勝手な願いがあの人を苦しめていたと言うことなのだろうか。私がお母さんを欲しがったことが、それ程までにあの人を?

「ぐっ…ヤバイな。先生、天竜寺連れて逃げてくれないか!?」

「出来りゃとっくにやってるよ!」

「なら…何とか逆転するしかないか!」

 いや、そんなことを考えている暇なんか無い。確かに私の我が儘がこの事態を引き起こしたんだとしても、これはもう私だけじゃなくて、滝先生や葦原君の戦いでもあるんだ。なら、今の私にできることは後悔じゃない。

 目を凝らし、あの怪人が吐き出す糸を観察する。そう言えば、こっからじゃ見えないけど、糸で雁字搦めにされているのに葦原の盾には糸が届いているんだよね。なら、もしかしたら…。

「お、おい天竜寺さんや?」

 意を決してそばに落ちていた蜘蛛の糸を手に取る。思っている以上の切れ味で、触れた手のひらから血が流れる。だけど、この程度どうってことはない。

「えいっ!!」

 痛みに耐えて剣のように糸を振り下ろす。どんなに硬い糸で雁字搦めにされても、同じ糸なら切れるはず。私の予測通り、葦原君の体にまとわりついていた糸は切り離された。

「馬鹿な!?なぜ…?いや、今は!!」

「くっ…!!助かった!!けど危ない!!」

 私目掛けて吐き出された糸から私を庇う葦原君。私を抱きしめる背中に突き刺さった蜘蛛の糸。葦原君は痛みに呻くけど、すぐさま私をそっと放して背中に刺さった糸を引き抜き投げつける。

「ううっ!?」

 まるで槍のように蜘蛛怪人の胴体に糸が突き刺さった。崩れ落ちる葦原君と同時にあの人も元の姿に戻った。

「大丈夫か?葦原…!?」

「葦原君…」

「大丈夫さ。これくらい、すぐ治る…」

 葦原君は変身を解かず、そのまま座り込んだ。流石に疲れてしまったのかもしれない。

「うあぁ…なんで…」

 声のした方を振り返る。そこには、人に戻ったと言うのに糸が消えなくてお腹を貫かれたままのお母さんが居た。しかも、すぐ後ろには私たちが通った窓ガラスが。

「お母さん!!」

 外に向かって倒れ込んでいくお母さんを見て、咄嗟に駆け出して手を取る。思ってたより重たい。どんどん私も落ちていきそうになってしまう。

「待ってろ…今俺たちが…!!」

 葦原君と滝先生が慌てて追いかけてくるけど、捕まる所がなくてどんどん私が落ちていきそうになる。

「お母さん…どこでもいいから掴んで!!」

「私を…なぜ…」

「そんなのいいから!!」

 不思議そうに私を見上げるお母さん。ダメ、このままじゃ私ごと落ちちゃう。今度は葦原君も間に合わないかな。

 ふとそう思ってしまった時、お母さんがにやりと笑ってお腹に刺さった糸を引き抜いた。

「殺してやる」

「え?」

 気づいたときには、私は手を離していた。お母さんが振り抜いた蜘蛛の糸は、私の首元数ミリ下を空振りしていた。

「はははははははははは!!」

 ビル風でもかき消せないほどの高笑いが私の耳にも届いた。やがて、その声が不意に止んだ。

「なんで…?」

 どうして、手を放してしまったの?ああしなきゃ殺されて、一緒に死んでいただけだって分かっている。だけど、私はあの人を殺してしまった…?

「天竜寺…」

 葦原君が静かに私を抱きしめた。ヒーローの体は硬くてゴツゴツしていて何の暖かさも伝わってこない。こんなにもこの人は優しいのに。

「なんでだろ…葦原君。私、頑張ったよね…?」

「ああ。けど、頑張るだけじゃどうしようもない問題だってあるさ」

 諦めろと言っているんだろうか。でも、もうどうしようもない事なんだ。

「精一杯頑張って、ダメでも頑張ったならいいじゃないか。なんて出来る奴の上から目線さ。俺はそんなことは言わない。出来るのはこれ以上はお前が泣かないように俺が頑張ることだけなんだ」

 自分に言い聞かせるようにそう言って、葦原君は私を放す。

「滝先生。天竜寺のこと、お願いします」

「任された。お前はどうする?」

「逃げた奴が一体いる。そいつを倒してから戻るよ」

 そう言う彼の目線の先には、さっきまでのゴタゴタに紛れて飛び去っていったヘリを見据えていた。

「葦原君…!!」

 行っちゃダメ。ここに居て。そんなことヒーローに言っちゃダメだってこともわかってる。でも、せめて心の中だけなら。

「帰ってきてね…和也君」

「ああ。ちゃんと戻るさ。ヒカリ」

 振り返った顔は、一瞬だけ笑顔の和也君の素顔に見えた。

 そしてヒーローは再びあのボードブレードに飛び乗り、どこかへ飛び去っていったコウモリの乗ったヘリを追いかけていった。




 離れていくコウモリ野郎のナノマシンの気配を感じ、ボードブレードの速度を上げていく。ヘリの速度は結構早いが、この調子ならもうそろそろ追いついてもいい頃だ。

「見えたぞ…!!」

 先を急ぐヘリから感じる気配。遠慮はいらないな。

 一気に加速をかけ、隣に並びヘリの扉をぶち抜いて内部に入る。中は操縦しているコウモリ野郎だけが乗っていた。

「やはり来たか。彼女では時間稼ぎしかできなかったみたいだね」

「お前、あのおばさんを捨て駒にしたのか?」

 不敵に笑うコウモリ。コイツは、最初から思ってはいたが絶対に仲良くは出来ないタイプの奴だ。

「君が私たちの気配を感じれるように、君の気配は私も感じ取れる。大体の強さもね」

「なるほど…行く先々で襲われるわけだ。最初からあのメモリはフェイクって知ってたのか?」

「その通りさ。あの催眠による脳内データ保存技術も元々は我々の技術だ。完璧に隠すにはそれ以外ないと思っていた。事実、別人名義とは言え彼がフランスに解析機具を発送していたからね」

「コウモリの割には鼻が利くな…まあいいさ。ここでお前を倒せば今度こそエンディングだ」

 ボードブレードを突きつける。しかしコウモリは変身することすらせずヘリの操縦桿を握り締める。

「いいのか?ヒーローが変身していない怪人を殺してヘリを街に落すと言うのか?」

「安心しろよ。もう少し近くに海がある」

「なら一安心だ」

 そう言って操縦桿を思い切り横に倒した。ヘリが一気にバランスを崩して錐揉み落下を始める。思わず体勢を崩した俺をよそに、コウモリ野郎は怪人に変身してフロントガラスをぶち抜いて外に脱出した。

 くそ、何が一安心だよ。思わず心の中で愚痴ってボードブレードをヘリの床に突き刺し脱出。そのまま落下しつつボードブレードを思い切り海の方角に向けて飛ばした。

 ボードブレードに従ってヘリが海へと飛んでいき、それを見届けホッとしたのも束の間、音もなく飛んできたコウモリ野郎の蹴りが腹に直撃する。

「それでは空を飛べまい?私には翼があるから分からない悩みだが」

 勢いを付けて叩き落とされていく俺に向かって嫌味ったらしく口を開く。確かにこのままだとワンサイドゲームか。だが、もうヘリは海の上まで飛んでいったらしい。

「来い!!」

 ヘリの鉄板を貫いてボードブレードが飛んでくる。空中で体勢を整えてボードブレードに着地すると、そのままこれ見よがしに翼をはためかせるコウモリ野郎に向かって飛んでいく。

「未来風だろ?アナログなお前には眩しいかもな」

「減らず口ばかり…!!」

 お前もな、と言う台詞を飲み込み、飛んでくるコウモリを回避しながら突撃していく。コウモリ野郎は舌打ちして後退していくが、こっちもこれ以上逃がしたくはない。一気に詰め寄って叩きってやる。

 更にスピードを出して接近していき、それを見たコウモリ野郎は夜の雲の中へと逃げ込んだ。だが気配で何となくは場所が分かる。この一番でかい雲の中だ。

 雲の中から不意打ち気味に襲ってくるコウモリを避け、避けきれない一匹は空中でジャンプしてボードブレードを手でキャッチして叩き落としてからもう一度ボード状態にして乗り込み雲の中へと突入する。

「雲の中で戦うというのは新鮮だな。目隠しで戦う緊張感がある」

「自分で逃げ込んだヘタレが言う事か?」

 お互い気配を頼りに突撃。俺のパンチと向こうのパンチがお互いの左肩に当たり、その衝撃で周囲の雲が晴れた。

「楽しいねぇ。お前もそう思うかい?ヒーロー!!」

「生憎だが全然面白くないんだよ!!」

 お互い同時に再び距離を取り、ミサイルみたいにコウモリが飛んでくるのを雲から脱出しながら回避する。今度は向こうがこっちを追う番だ。

 コウモリミサイル(仮)の追撃を回避しつつ、追ってくるコウモリ野郎を観察する。どうやら最高速度はこっちが上みたいだが、向こうはこっちより小回りが効くらしい。さっきから雲を意図的に避けて飛んでいるが、こっちが大ぶりな動きで回避しているのに向こうは雲のスレスレを飛んでいる。お陰で速度では勝ってるのに全然距離が開いてこない。

「ふん!!」

「あぶねっ!?」

 かなり近い所をコウモリミサイルが通り抜けていった。しかもそれに驚いた拍子に距離を詰められてしまった。

「拳に自信はあるか!?」

「無い!!」

 空中で何度もぶつかり合い、お互い何発もパンチをくらい合う。気づけばかなりの高度まで来ていた。かなり近くに航空機が飛んでいる。このままじゃまずいな。下手すると無駄な二次災害がおきかねない。

「だったら…!!」

 まるで壁でもあるかのように垂直に急停止したボードブレードを足場にしてジャンプ。咄嗟だったのでコウモリミサイルを避けられなかったが、向こうも予想外の動きで上手いこと攻撃できていない。

「はっ!!」

 かなりの勢いの付いた飛び蹴りがコウモリ野郎の腹に入った。が、まだ倒れない。それどころか蹴り足を掴まれて叩き落とされてしまった。

 ボードブレードを手元に呼び戻すより先にコウモリミサイルが一斉に襲いかかってくる。まともな足場が無くては抵抗できない。しかも数もかなり多い。どんどん視界がコウモリで染まっていく…。

「これで終わりだな…中々強かったぞ。その血を吸えば、私はどれほど強化されるのだろうか…」

 肩で息をしながらも上から見下ろし、更なるコウモリミサイルを発射してくる。こいつら全部に襲われれば、いくらゾンビみたいな再生能力があっても無事では済まなさそうだ。おまけにどんどん落下しているし。

 しかしその時、僅かに残っていた視界に勝手に飛んでるボードブレードが入ってきた。最後のチャンスが巡ってきた。

「ははは…これで、私もっ!?」

 ボードブレードを脳波で操作し、コウモリ野郎を背後から切りつける。右の翼が切り落とされ、俺を襲っていたコウモリミサイルの大群も離れていく。

「もう一度来い!!」

 ボードブレードを呼び戻し、着地。そしてバランスを崩して錐揉み落下していくコウモリ野郎に一発強烈なパンチを叩き込む。

「がはっ!!」

「吹っ飛べ!!」

 渾身の力を込めて拳を振り上げる。コウモリ野郎はそのまま上空へと飛んでいき、俺はそれを上回る速度で更に上空へと飛んだ。

「止めだ!!」

「ま、、待て!!私を殺すのか!?私を殺せばイマジネーターに関する一切のデータが…!!」

 知ったことか。もう、俺に迷いはないんだ。こんな奴を野放しにするくらいなら、まだ暫くはヒーローのままでいるほうが余程ましだ。

 ほぼ重力の影響も無い大気圏ギリギリでボードブレードを足場とし、上昇していくコウモリ野郎目掛けて必殺技のエアリアルブラスターを叩き込む。

「うおりゃああああああああ!!」

「うぐああああああああああ!!」

 一瞬の交錯の間に拳を振り抜き、コウモリ野郎の体を貫いた。通り過ぎた真上で爆発するコウモリ野郎。俺は追いついてきたボードブレードに再び着地すると、そのままゆっくりと速度を落としてコンクリートの地面に降り立つ。

「はあ…はあ…きっつ…」

 崩れ落ちると同時に変身が解けて人の姿に戻る。その時、すぐ真後ろにコウモリ野郎が落下してきた。

「驚いたな…まだ変身していられるのかよ…」

「残念だったな。私も、お前もイマジネーターの中でも特殊だ。ナノマシン定着率九十パーセントオーバーの最優良個体…お前のナノマシンは倒したイマジネーターのナノマシンを機能停止にして人に戻すが…九十パーセントオーバーの個体は元には戻せん…恐らく、お前はもう二度と人には戻れんだろう」

「…そうか…」

 渾身の気力で立ち上がり、最後の力で人に戻ったコウモリ野郎を見下ろす。コイツは、もしかしたらもう一つの俺の姿なんだろうか。せっかく勝ち残ったと言うのに、後に残るのはこんな気分の悪い思いだけなのか。

「もういいんだ…お前が最後だ。戦うことなんかもうない…ゆっくり人に戻る術を探すさ」

 人が作ったものなんだ。作った博士がもう居なくても、もう一度作り直すことだってできるはずだ。

「はははははははははは…お気楽なやつだ」

「何がおかしい?」

「教えてやろう…私はあのヘリの中で、今回の件で得られたデータを世界中にばら撒かせてもらった」

「なんだと!?」

 思わず駆け寄り、首根っこを掴む。まさか、そんなことをしていたとは。これじゃあ俺は一体、何のためにここまでやったって言うんだ…!?

「いずれお前たちを狙い、世界中の悪意が襲って来るだろう!その時、お前は今ここで倒されておけばよかったと後悔する時が来る…お前はいつまでヒーローで居られるかな?」

「ふざけるなよ…!!世界中の悪意が襲って来るっていうのなら、全部返り討ちにしてやる…!!例え終わりがなくても、お前の言う通りにはなってたまるか!!」

「…なら地獄で見届けさせてもらうとしよう…!!」

 その言葉を最後に、コウモリ野郎ことバッディ・カーチスは動きを止めた。バッディの遺体を地面に降ろし、俺は一人立ちすくむ。果たして、俺は今の決意を貫くことができるのだろうか。

「…やってやるさ。せいぜい地獄で笑ってろ」

 そう自分に言い聞かせ、俺は一人歩き出した。そして一度も振り返らず、遠くから聞こえてくる彼女の声のする方へと歩き続けていく。

 果たして俺は、彼女を最後まで守れるだろうか。

 最後に心の中に浮かんだ疑問を押し込み、俺は近づいてくる滝先生の車に向けて手を振った。

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