蜘蛛女の恐怖
ラスボス戦開始!
その時、俺の強化された聴覚が数人の足音を耳にする。ナノマシンの気配は無いから、どうやら警備員らしい。
マズイな。こうなったら強行突破しかないが、滝先生を庇ったまま警備員を相手にしつつ天竜寺を探す、っていうのはちょっと難しいな。
「やれやれ。俺の出番だな。葦原、お前はこのまま上に行け。警備員は俺が何とかする!」
「え?」
「俺にも意地があるんでね!生徒を守って戦う教師が居てもいいじゃないか!」
滝先生はそう言って走り出す。そして曲がり角から現れた警棒を持った警備員たちを次々となぎ倒していった。いや、相手は多分何も知らない警備員だと思うんですけど。これじゃただの押し込み強盗ですよね?
でも、先生って滅茶苦茶強いじゃないか。明らかに教師じゃなくて特殊部隊に居た方がいいよ、あの人。
「ほら、早くいけ!お前はヒーローやるんだろ!?」
「早めに終わらせて、先生の経歴に傷がつかないように頑張らせてもらいますよ!!」
天井をぶち破り上の階に登っていく。ナノマシンの気配は残り二つ。多分あのコウモリと、あと一人は誰だ?まさか、現社長か?
やがて最上階にたどり着き、ナノマシンの気配を辿って社長室の隣にある大きめの会議室の扉をボードブレードでたたっ斬ってこじ開ける。
「ヒーローが来たか。だが、遅かったな」
「コウモリ…!!」
「改めて自己紹介させてもらおう。バッディ・カーチスだ。あだ名で呼ばれる筋合いはないのでね」
コウモリ野郎はすかした笑顔でそう言い、コウモリ怪人に変身する。数匹のコウモリを飛ばしてくるが、俺はそれらを全て空中で切り落としていく。
「一度見た技は通用しないか?まさにヒーローだな」
「そういうお前はなんだ?まさかバッドマン気取りってわけでも無いんだろ?」
「そうだな。BATでは無くBADマンと言う所か。我ながらセンスの欠片もないな」
ドヤ顔で自分のセンスを笑ってやがる。何というか、どっちかって言うと読み手じゃなくて書き手の感じがするな。まあ最も二流以下の作品しか作れないだろうけどさ。
「天竜寺はどこだ?」
「ふむ…二人いるが、まあ君が知りたい方は決まっているな。安心したまえ。データの方はたった今ほぼ全て私が回収させてもらった所だ」
「何?」
「ふん。残念だけど死んではいないわよ。案外しぶといんだから…」
知らない声のした方を見れば、そこには見覚えのないケバいおばさんが力なく座り込んでいる天竜寺の腕を掴んでいた。ナノマシンの気配も感じるし、こいつが最後のイマジネーターだろうな。
「なんだお前?こっから見ても分かるくらいに化粧が厚いな」
「なんですって!?」
いきなり地雷を踏んでみれば、腕が黒い毛に包まれた蜘蛛の足に代わり、その先から白い糸が飛んできた。咄嗟にボードブレードで防ぐも、勢いが強くて吹き飛ばされてしまう。
会議室の防音壁に背中から叩きつけられ、その上でコウモリ野郎が追撃してくる。ボードブレードを投げつけて牽制し、そのままタックルを決めるがコウモリはふわりと浮かび上がって回避されてしまう。
「そこよ!!」
「何っ!?うぐっ…!!」
次の瞬間、全身を蜘蛛の怪人へと変身させた厚化粧ババアの吐いた糸が俺の腹部をコミックマンの装甲ごと貫いた。
力が抜けてボードブレードが床に突き刺さる。
「私の糸はダイアモンドすら砕かずに貫けるのよ。素晴らしいでしょう?」
「口から糸吐きながら自画自賛するおばさんか…!!新しいな!!」
「なんですって!?」
口から糸を吐き出し続けながら器用に叫び、そのままジャイアントスイングのように俺は会議室の左右の壁に叩きつけられ、最後には糸を引き抜かれてコウモリ野郎の元まで投げられ、そしてまともな防御姿勢すら取る暇すら与えられずに殴り飛ばされる。
くそ、滅茶苦茶痛いな。既に傷は塞がり始めていて血は流れていないが、傷口は痛すぎてどんどん熱く感じてきた。これが『焼け火鉢でひっぱたかれた』ようなとか言う比喩表現の由縁か。
「葦原君…!?」
おいおい、もっとボロボロの癖して俺の心配なんかしてるんじゃないよ。
安心して座ってろ、と言って格好良く立ち上がろうとするが、今度はコウモリ野郎がわざとらしく背中を踏みつけてきた。俺は男に踏まれて興奮するような趣味はないぞ。
だが、コウモリ野郎が何か言うより前に厚化粧ババアが目の前に降り立ち、天竜寺を後ろ足で掴み上げた。その上で俺の目の前にある蜘蛛の胴体からあの厚化粧ババアが元の顔を突きつけてくる。
「どうかしら?こんな惨めな小娘より、私たちと組む気はない?」
何言ってんだコイツ?このタイミングで出てくる話題ではないだろうに。まさか、天竜寺を人質に取ったつもりか?
「お前の力は中々だ。リザードを一瞬で返り討ちにした件や、これまでのイマジネーターたちを全滅させてきた実力は評価できる。イマジネーターの力の源は想像力。ならば、漫画家志望としてはこれからも活動を続けるメリットは大きいのではないか?」
結構俺のこと知ってるみたいだな。だがどうやら、俺を踏みつけてるコウモリ野郎も俺を勧誘するつもりらしい。
笑わせてくれるな。この体のままでいることがメリット?喧嘩の実力を評価する?どれもこれも俺には必要ないものばかりだ。
ちらりと離れた場所に刺さっているボードブレードを見る。まだ消えていないな。
「ねえ?分かるでしょう?こんな薄汚い小娘なんかよりも、薔薇のように美しい私と共に居られる方がずっと幸せなことじゃなくって?」
グイっと顔を近づけてきやがる。おまけに大量の香水の入り混じった刺激臭が鼻につく。ってか変身しても臭うってどんだけ香水付けてるんだよ。
「はっ…泥まみれの雑草より汚ねえババアの間違いだろ。自意識過剰だな」
答えはノーだ。それも特大のノーを叩き込んでやる。
「そいつは薄汚なくなんか無いさ。確かに残念な部分も多けど、お前と違ってすっぴんが可愛いから、俺にとっちゃ厚化粧ババアなんかとは比べ物にならないくらいにストライクゾーンなんだよ!」
顔を真っ赤にしてキレる厚化粧ババア。意識が完全にこっちに向いた瞬間を待ってたんだ。
ボードブレードを手元に呼び戻し、そのまま動かせる範囲で厚化粧ババアの顔目掛けて突き立てる。化粧の部分までしか突き刺せなかったが、今度は背中のコウモリ野郎目掛けて振り回す。
ジャンプして避けるコウモリ。ようやく立ち上がれる。
「あーあ。化粧が厚くて剣が届かなかったじゃねーか。どーしよー」
自画自賛に耐えうる素晴らしい棒読み加減。厚化粧ババアは怒り狂って顔を胴体の中に隠して金切り声を上げ、あの糸を滅茶苦茶に吐き出す。
それらの全てを一本づつ避け、最後の一本をボードブレードで空中でたたっ斬って落とそうとする。だが、予想以上の硬度で軌道を逸らすことしか出来ず、狙われた腹部じゃないが右足を貫かれてしまう。
「くっ…!?」
やべえ。調子乗ってたらまずい事になった。
反省するまもなく、今度はコウモリ野郎のチビコウモリが大量に襲いかかってくる。襲いかかっては来ないが、視界が遮られてしまった。これじゃあ数が多すぎて一匹づつ落としていくわけにもいかない。
「許せないぃぃぃぃ!!誰がババアよぉぉぉぉぉぉ!!」
ヒステリックな声と共に、コウモリの壁を突き破って蜘蛛の糸が俺の腹部を貫く。ヤバイ。しかも痛いだけじゃなくて糸で後ろの壁に縫い付けられてしまった。
「もう許せないわ!バッディ!コイツ殺すわよ!!いいわよね!?」
「お姫様の仰せのままに…既に必要なデータは揃っておりますので」
「うっ…」
「天竜寺!!」
蜘蛛怪人は窓ガラスをぶち破り、天竜寺を外へと放り投げた。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
助けなきゃ。だけど、このままじゃ助けに行けない。なら、最後の手段だ。
「はあっ!!」
「何…?」
変身を解除し、生身に戻って蜘蛛の糸に貫かれた体を無視して無理やり抜け出す。当然腹の半分がぶった切られた形になったが、その傷もやがては再生していく。
「馬鹿な!?再生限界の傷のはずだ…まさか、それが奴の新型ナノマシンの性能か!?」
何やら後ろで言ってるが、そんなことなんか関係無い。もう変身の為の原稿は無いけど、俺の体の再生能力があればクッションくらいにはなるだろ。
「間に合え!!」
全速力で駆け抜け、割られた窓ガラスを飛び越えて落下していく天竜寺を追う。関係ないけれど、夜景は滅茶苦茶綺麗だった。
こんなシュチュエーションの中で、ヒロインを助ける為に飛び降りヒーロー。もし生き残れたら、是非漫画に反映させてもらおう。
そんなことをだけ考えて全力で天竜寺を追う。だけど、速度が中々出ない。このままじゃ、天竜寺が先に地面に落下してしまう。
「葦原ぁ!!こっちを見ろぉ!!」
ダメかも、と思ったその時、耳になんだか懐かしく思えてしまう滝先生の声が聞こえた。ちらりと声のした方を見れば、少し下の辺りに五階分をぶち抜いて作られたガラス張りのレクリエーションフロアがあって、そこの窓ガラスをぶち抜いて滝先生が一冊のノートを投げていた。
「お前のアイデアノートだ!!俺が没収してそのまま持ってた!!」
「助かったぁ!!ありがと先生!!」
ナイスタイミングで投げ出されたノートをキャッチし、最初のページを開く。ちゃんとヒーローデザインの完成案が書いてあるやつだ。これがあれば、また変身できる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
ノート一冊丸ごとナノマシンのオーバーヒートで燃やし、その炎に包まれて変身。ボードブレードに乗って加速し炎を突き破る。
「葦原君…!!」
「遅くなったぁ!!」
落着寸前で抱き止め、そのまま上昇。かつて不幸なアメコミヒーローは同じシュチュエーションでヒロインを失ったというが、俺は同じ轍は踏まなかったらしい。
「…悪かったよ。一度とはいえ負けちまってさ」
まずは謝っておく。これでも俺はヒーローだからな。負けてヒロインを連れさらわれたなんて失態なんてもんじゃない。
だが、天竜寺はギュッとコミックマンの装甲を抱きしめる。俺にはその暖かさも柔らかさも届かないが、それでも心は伝わった。
「…来てくれた。それだけでいいの…」
「嬉しいこと、言ってくれるじゃないか」
感想待ってます。




