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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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じいちゃん襲来!!

第二章開幕。悪の組織が現れます。

 あの戦いから半月。俺は久しぶりにズバット編集部を訪れていた。いつも通り受付の人に目礼し、それを受けて編集部の立花さんに連絡が届く。そしてそのままエレベーターでズバット編集部のある階に到着した。

「…やっぱあるかぁ」

 すぐ目の前に設置してある、『THE HERO』の等身大パネル。とっくの昔の漫画なのに、いつまでもこうして我が物顔でズバットの門を叩く新人を見守って居る。

 いい加減外せよな、と心の中で呟くが、苦い顔をしていたいままでと違って自然と笑顔がこぼれた。

 そうこうしている間に、俺はズバット編集部の扉を開けた。入口から右手の席でタバコを吸っていた立花さんが、俺に気づいてタバコの火を灰皿で消しつつ片手を上げた。

「おう、やっと来たか」

「立花さん、なんだか久しぶりな気がするなぁ」

「そりゃないだろ。昨日アパートのガス爆発で検査入院したお前を見舞いに行ったばかりじゃないか」

「そうでした。ボケてきたかな?」

「馬鹿野郎。年寄りの前でそんな口きくんじゃない。まあいいさ。で、原稿が完成したんだって?」

「はい。これで、どうでしょうか」

 そう言って俺は、新作『コミックマン』の原稿を立花さんに渡す。

「ヒーローものか。ようやく決心がついたってところか。どれどれ…」

 メガネをかけ、立花さんが受け取った『コミックマン』を読み始めた。じっくりと時間をかけ、一コマ一コマ隅から隅まで読み通す。

「成程なぁ。これからも二人は一緒に幸せに暮らしました、か。まあヒーロー物で変にバッドエンドっぽいもんを持ってこられても読者は戸惑うしな」

「そうっすよね。最初はヒロインとお別れにするつもりでしたけど、やっぱここでヒーローをさらに追い詰めるのもなんか可哀想な気がしたんですよ。それにヒーローの心境を考えたらちょっとリアリティが無いというか…」

「なんだ。変に説得力があるじゃないか。まあこれなら雑誌掲載もアリだな。来月の読み切り祭りに乗せられないか、会議に出してもいいか?」

 立花さんの言葉に思わず背筋が伸びる。

 雑誌掲載。俺の描いた漫画が、親父と同じズバットに載る。

「はい!よろしくお願いします!!」

「おいおい。まだ掲載が決まったわけじゃないぞ。会議の結果次第だ。それに人気が出ても、お前が高校を卒業するまでは連載しない方針は変わらないからな」

 思わず立ち上がって頭を下げる俺に、立花さんが少し呆れた顔でくぎを刺す。だけど、今の俺にはそんなことで冷静さを取り戻せるほど頭の中は複雑に出来てなかった。

「ただまあ、色々と大変なことがある中でよく頑張った。思い出すなぁ。思えば二十五年前、猛の奴が漫画を持ち込んできた処から始まって…」

「あ、あの立花さん?」

「最初の漫画からしてアイツは凄かった。素人とは思えないほど確立されたコマ割りにストーリー。そしてお前さんが生まれて、わずか三歳で見よう見まねで漫画を描きだしたときには猛と二人で驚いたもんだ…」

 完全に過去を懐かしみだしてしまった立花さん。年寄りの昔話は長いのだが、生憎聞いていく時間がない。

 チラリと周囲に助けを求めると、奥でパソコンを弄っていた編集長がこちらに気づいてくれた。

「あの頃、俺もアイツも若かったなぁ。猛の奴は変なところで意地っ張りだから、俺が没にした原稿に手を入れて突き返してきたこともあった。ありゃあ参ったが、やっぱり一番参ったのは…」

 一人で昔を思い出し、男泣きをする立花さんを置いてズバット編集部を後にする。少なくとも、後三十分くらいはあのままだろう。親父のことを思い出すと、昔話が止まらなくなるのが立花さんの欠点の一つだ。

 編集部のあるビルを出て、最寄りの喫茶店に入る。かつて石ノ森章太郎は喫茶店で漫画の原稿を書いていたと言う。一度だけでもいいからやってみたい物だ。

「あ、終わった?」

 喫茶店の奥の席で、俺の姿を見つけたヒカリが手を上げて呼んでくる。既に大量の皿が積まれているが、この三十分足らずでどれだけ食ったのだろうか。店員さんの縋る様な目つきが突き刺さって痛い。

「おう。原稿渡してきた。もしかしたら来月の本誌読み切りに載るかも、だってさ」

「やったじゃない。毎日あんなにも頑張って描いてたもんね」

「ああ。手伝ってくれて助かったよ。ってな訳で、今日はちょっと豪華なモン作るかな」

 テンションの上がった俺はやたらと分厚い伝票の束を手に取る。追加注文するたびに新しい伝票を作ったせいだろう。おかげでクリップに挟めずゴムでまとめてある。

「…これ、どんだけ食ったんだ?」

「え?これくらいおやつだよ」

「普通、おやつにナポリタンとオムライスの文字を見ることは無いんだが…まあいいか」

 よく見れば、それぞれに×2とか書かれているのから目を逸らして伝票をレジに置く。ヒカリを除く、喫茶店中の全員が注目する中、金額はまさかの五万七千円。何と言うことでしょう。一人暮らしの一月分の食費よりもお高いんじゃありませんか?

 喫茶店の支払いを天龍寺グループのクレジットカードで支払い、帰路につく俺たち二人。他愛のない話をしながら進む道は、今まで俺が住んでいた自宅兼仕事場ではない。

 あの家は『ガス爆発』で跡形も無くなってしまい、立て直すにも時間や手間が惜しいと思って途方に暮れていた俺に手を差し伸べたのが、ヒカリだった。

 ちょうどあの義母が居なくなり、たった一人で豪邸に住むことになってしまったヒカリは、俺に家賃代わりに食事等の家事を手伝うことを条件に同居することを提案してきた。俺としては渡りに船だった。

「ま、そこでサイボーグ二人が大気圏で燃え尽きていくわけだ。それを地上で見上げている姉弟が、燃え尽きていく二人を流れ星だと錯覚して…」

 いつもの漫画談義を興味深そうに聞くヒカリ。オタクの一人語りなんぞ、女子高生が聞いていて楽しいもんなのかと不安にはなるが、まあこれ以外に喋れることがないんだからしょうがない。ヒカリも自分から喋るネタが豊富な訳でもないし、これはこれでお互いに何とかなっているんだろう。

「本当に、色んなお話があるんだね。それも新しく届いた漫画の山の中に入ってるの?」

「ああ。ちょうど昨日届いたんだったな。まだ整理出来てないけど、先に読んでみるか?あの美しい絵も魅力だぜ。作者は少女漫画を描いてた経験もあるから、ヒカリにも読みやすい絵だと思うんだ」

「じゃあ、帰ったら読んでみるね」

 お互いこの上なく落ち着くこのひと時。誰にも邪魔されたくないと思うが、残念ながらそう言う訳にはいかないのがヒーローの宿命。

 俺は周囲を包む強烈な敵意を感じ取って立ち止まった。

「ん?どうしたの」

「ちょっとな。下手に動くなよ…?」

 今の一言で敵襲を悟ったヒカリが周囲を警戒するように動きを止める。俺はヒカリを庇うように前に出る。

「お前ら!!こそこそしてないで出てきたらどうだ!?」

 俺の声を合図に、黒服を着た屈強な男たちがあちこちの物陰から姿を現してくる。一人、二人…今日は六人くらいか。少ない方だな。念のために後方支援を警戒しておくか。

「今日はどこの回し者だ?CIAか、MI6か?」

 問いかけに答えることなく、男たちは次々と警棒やスタンガンを片手に襲い掛かって来た。全員からはナノマシンの気配を感じないので、俺は変身することなく素手で男たちを蹴散らしていく。

 警棒を片手で受け止め、スタンガンを構えた男にハイキックを叩き込んで蹴り飛ばす。手加減はしているから、殺しはしないだろう。

 あっという間に五人を蹴散らし、最後に残った一人のパンチを受け止めて関節技を決める。拙い技術だが、身体能力差でカバーして相手の動きを止めた。

「言え!お前らの上は何処のどいつだ!?」

「い、言う物か…!!」

「言わない?だったら用無しだ。とっとと失せろ!!」

 そう言って放してやると、男は蹴散らされた仲間たちの元によろよろと駆け寄っていった。

 こういうエージェントと言う奴らは、勝てないと言うことをここまで思い知らせてやりさえすれば、このまますんなりと帰っていくのが今までの経験の中で学んだことだ。やけになってもどうにもならないと、職場で学んでいるんだろう。

「ほら、帰ろうぜ」

「うん…」

 何とかひねり出した笑顔で手を差し伸べる。ヒカリは暫く俺の手を苦し気に見つめていたが、やがて俺の手を取って駆け出してくれた。

 あの戦いでコウモリ野郎が俺とナノマシンの情報を世界中に拡散させて以来、俺たちの生活は漫画も真っ青なスリリングな物になっていた。

 ほぼ毎日のように現れる、各国政府の情報機関や諜報部のエージェントたち。最初こそ極秘裏に接触してきて、金と引き換えに協力を要求して来たが、それを全て断ってからは実力行使も辞さない姿勢を固めて来た。日本政府からは何のアクションもないのが唯一の救いか。

(いつまで続くのだろう…こんな日々が…)

 毎日人気のない所で襲われ続け、俺と同じようにターゲットとして認定されてしまっているヒカリの神経は既に限界に近かった。

 最初こそ、やはり俺がここから離れた方がいいのではないか、と思うこともあった。俺がここにさえいなければ、ヒカリは狙われることは無いのではないか、と。

 しかし、奴らは中途半端にばら撒かれたデータの欠落部分は、ヒカリが握っていると考えているらしいと知ってからは考えを改めざるを得なかった。恐らく、俺が居ようが居まいが襲われ続けることだろう。なら、一緒に居て守り続けるのが今できる最善だ。

「また怖い思いさせちまって悪かったな」

「ううん、いいの。それより、いつも守ってくれてありがと。本当に感謝してるし、頼りにしてる」

 ヒカリはさっきまでの曇った表情を消し飛ばし、満面の笑顔を俺に向けてくれた。この笑顔と感謝の言葉だけでヒーローは戦えるってもんだ。

「あ、ああそう?ま、まあほら、あれだ。家に着いたぜ」

「あれ?顔真っ赤じゃん」

「うっせ…ってあり?鍵開いてるな…」

 扉の鍵を差し込むと、いつもと違う感触に首を傾げる。まさか、どこぞの機関がここをこじ開けたのか?だが、その割にはずいぶんと小奇麗な鍵穴だ。ピッキングやらでこじ開けられた形跡がない。

 ヒカリと顔を見合わせ、十分に警戒しながら扉を開ける。すると、家の中からネットのような物が投げかけられた。

「うおっ!?」

 思わず手を伸ばすと、ネットに触れた途端に全身に激しい痺れが走った。

「あばばばばばばばばば!?」

「和也!?」

 強烈な電流に身動き一つとれない中、突然の出来事にオロオロするヒカリに向かった駆け寄る人影があった。

 気づいて何とか逃げろ、と叫ぼうとするが、電流ネットに拘束されていて声すら出せない。

 そして、人影がヒカリにタックルするようにして抱き着いた。

「ヒ~カァ~リィ~!!大丈夫だったかぁ~!?」

「お、おじいちゃん!?」

 突如現れたヒカリの祖父。このジジイの襲来が、俺たちの新しい戦いの幕開けだった。

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