第7話 6月の舞踏会。
「なんだこりゃ?」
ハインリヒは部屋に届けられていたエルナが送ってきた包みを開けて当惑した。
細長い…緑色の…魚?
前に貰ったハンカチの黒猫が咥えていた魚にそっくりの…もっと、でかいやつ。
尾っぽまで入れると、ちょうどエルナの身長ぐらいあるかもしれない。
ベージュ色の長いまつげの目は閉じられていて、よくよく見ると、同じ色の糸で波型のウロコ模様まで刺繍されている。添えられていた手紙を開くと、どうも滞在のお礼らしい。
「……」
置いておくところがないので、寝台に寝かせて置いた。
ハインリヒはここのところ…殿下に付いてフール国に言って以来、ゆっくり休んだことがない。
公務と言う名目だったが、実際のところ、フール国王女とのお見合だった。殿下が白黒つけずに帰ってきたものだから…6月の殿下の誕生日に、婚約者のいないご令嬢を招いて舞踏会が開かれることになってしまった。もちろん、フール国の王女も来る。ブリア国内で最有力なのは、公爵家の御令嬢。
…いっそ、二人のうちどちらかでいいのじゃないだろうか?
ついでの様に、まだ婚約者のいない貴族令息も招待される。
名簿の精査。問題のある家は呼ばれないし、独身と言えど離婚歴などあればなおさら。爵位は伯爵家以上。…それだけでも、何軒あることか…。
「ハインリヒもお客様で来てよね~。まだお相手いないんでしょ?」
のんきにそんなことを言っている殿下をしり目に、身元確認をしながら、先日ようやく招待状を出し終わったところだ。
「はあああっ…」
久しぶりに今日のうちに帰ってきたハインリヒは、ベッドに潜り込む。
転がっていた魚を枕にしようとして、中々抱き心地がいいことに気が付いた。なんか、いい匂いがする。
そのまま魚を抱いて…眠ってしまった。
キャンキャン、と走り回っている毛糸玉みたいな小型犬に声を掛ける。
「エルナ?バラのジャム入りの紅茶を飲まないか?」
振り返ったあいつが、
「バカじゃないの?」
と言った。
変な夢をみたけど、久しぶりにゆっくり眠れた。
***
王太子殿下主催の舞踏会は6月の末に無事に開催された。
フール国の王女がいらしているので、いつもより警備は厳重だ。殿下には腕利きの護衛騎士を二人付けておいた。
ハインリヒは今日はゲストの立場だが…今までの経験から、こう言った場はあまり得意ではない。そもそも、業務以外の話を、知らない人とするのが得意ではない。女性ならなおさらだ。一方的にすり寄られるのも、黙ってうつむかれるのもどう返していいかわからないからだ。それでも…この国では珍しい黒髪は、アルノルト侯爵家の色。逃げ隠れできない。見渡すと、後ろに控えた重鎮たちの中に自分の父もいる。
16歳になった従弟に付いてきたおばさまの姿も見つけた。
…まあ、殿下のダンスが始まったら、執務室に戻ろう。
ハインリヒはそんなことを考えながら、殿下の後ろに控えていた。




