↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『MEMORIA WAR ―記憶戦争― 信長・武蔵・ジャンヌ――歴史の英雄と名もなき者たち』  作者: 130
第二章 赤き戦原

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/47

第32話 戦果を得る者

歴史上の偉人たちと、名もなき人々が“記憶”を武器に戦う物語です。


※本作には戦闘・死亡・一部残酷な描写があります。

 ナポレオンが、一歩前へ出た。


 ――最終所有権判定を開始します。


 赤い《WAR》が、五人の中央で脈打っていた。


 ナポレオン・ボナパルト、スパルタクス、ジャンヌ・ダルク、ニコラ・テスラ、そして朝倉湊。


 全員が、戦争終了条件を満たした代表者だった。


 湊のスマートフォンに、新しい表示が浮かんだ。


 ――取得権保持者による接触認証を開始。


 ――第一主要記憶核《WAR》は、一軍のみが所有可能です。


「一軍だけ?」


 湊が表示を読み終えるより先に、ナポレオンは動いていた。


「待っ――」


 赤い記憶核へ手を伸ばす。


「皇帝!」


 スパルタクスも反応して走った。


 湊も遅れて前へ出た。


 だが、最初から一歩進んでいたナポレオンの指先が、先に《WAR》へ触れた。


 赤い光が爆発した。


「うわっ!」


 湊は腕で顔を覆った。


 スパルタクスも足を止める。


 全員の頭に、認証音が響いた。


 ――FIRST CORE《WAR》。


 ――接触認証を確認。


 ――所有軍判定。


 一拍置いて、結果が告げられた。


 ――第一軍《CROWN》。


 湊は目を見開いた。


「……取られた」


 赤い光がナポレオンの腕を駆け上がった。


 王冠の紋章の中央に、小さな赤い光が加わる。


 ――第一軍《CROWN》。


 ――主要記憶核所有数。


 1 / 7。


 スパルタクスは数秒黙っていた。


 それから、大声で笑った。


「やったな、皇帝!」


 ナポレオンは《WAR》から手を離した。


「遅かっただけだ」


「次は先に殴ってから取る」


「代表間の攻撃は禁止されていた」


「もう終わっただろ」


「なら次に会ったときにしろ」


「言ったな」


 ジャンヌが二人を見た。


「なぜ終わった直後に、次の戦いの約束をするんですか」


 テスラは興味がないらしかった。


 赤いCOREの残光を見ながら、何かを記録している。


「接触順か」


 湊が呟くと、凛が隣へ来た。


「悔しい?」


「……ちょっと」


「ちょっと?」


「かなり」


 凛が少し笑った。


 湊はナポレオンを見た。


「俺たちが条件見つけたのに」


 聞こえていたらしい。


 ナポレオンが振り返った。


「不満か、朝倉」


「ありますよ」


「なら次は先に取れ」


「簡単に言うな」


「簡単ではない」


 ナポレオンは、赤い光を宿した王冠の紋章を見た。


「だから戦果になる」


 湊は言い返そうとした。


 だが、その前にナポレオンが続けた。


「覚えておけ」


 湊をまっすぐに見る。


「戦争を終わらせた者と、戦果を得る者が、同じとは限らん」


 湊は黙った。


 腹が立つ。


 それでも、否定できなかった。


 戦争の条件を考えた。勝敗を変え、別の道を作り、COMMAND MEMORYを見つけた。


 五軍へ声を送り、BELLUMとも戦った。


 だが、最後にCOREへ触れたのはナポレオンだった。


「……次は取る」


 湊が言うと、ナポレオンの口元がわずかに動いた。


「それでいい」


「皇帝」


 別の声がした。


 織田信長が、刀を肩に乗せて歩いてきた。


「WARを取った程度で、俺の上に立ったと思うなよ」


 王冠軍の空気が、少し変わった。


 徳川家康が小さく息を吐く。


「始まりましたな」


「何が?」


 湊が聞くと、家康は二人を見た。


「王ばかり集めれば、こうなります」


 信長はナポレオンから視線を外さなかった。


 ナポレオンも笑わなかった。


「お前を従わせるつもりはない」


「ならよい」


「だが戦場では、私の判断が正しいと思えば従え」


 信長が笑った。


「俺が決める」


「それでいい」


 信長の眉が少し動いた。


「気に入らんな」


「奇遇だ」


 湊は凛へ小声で聞いた。


「王冠軍って大丈夫なの?」


「たぶん一番まとまりそうで、一番まとまらない軍なんじゃない?」


「ありそう」


 その横から、上杉謙信が信長へ声をかけた。


「次は、敵として会うかもしれぬな」


「それもよかろう」


「今度は背中を預けぬ」


「なら正面から来い」


 謙信がわずかに笑った。


「望むところだ」


 湊は二人を見た。


 本当に戦いそうだった。


 次に会えば、きっと戦う。


 以前なら、それが怖かった。


 だが今は、ほんの少しだけ見てみたいと思ってしまった。


「……俺も毒されてきたかな」


「何が?」


 凛が聞いた。


「何でもない」


 そのとき、中央の《WAR》が最後に強く光った。


 ――主要記憶核所有権確定。


 ――第一主要記憶領域《CRIMSON FRONT》を終了します。


「終了?」


 湊が画面を見る。


 ――領域構成戦闘記憶を整理。


 ――参加個体を安全領域へ退避させます。


「強制転送か」


 テスラが顔を上げた。


「どこに?」


「おそらく進入地点に近い安定領域」


 チューリングが表示を追っていた。


「軍ごとではない。各個体の記憶接続座標を基準にしている」


「つまり?」


「ばらける可能性がある」


「それ早く言って!」


 湊は周囲を見回した。


 相馬、壮真、真奈、蓮。


 伊能や、もう一つの無名軍。武蔵と沖田。


 皆がどこへ戻るのか、分からない。


『湊さん!』


 蓮から通信が入った。


「蓮!」


『こっちも転送表示出ました!』


「黒いノートの男は!?」


 通信の向こうがざわついた。


『まだ縛ってる!』


 壮真の声に、湊は少し安心した。


 だが、すぐに蓮が叫んだ。


『待って!』


「何?」


『光が――』


 ノイズが交じった。


 外周では、黒いノートの男の身体を転送光が包んでいた。


 相馬が腕を伸ばした。


「待ちなさい!」


 男は胸に括りつけられた紙を見た。


 《停戦妨害者》


 《拘束を解かないこと》


 そして、少し笑った。


「便利だな」


 壮真の表情が変わった。


「何が」


「システムが逃がしてくれる」


「ふざけんな!」


 壮真がつかもうとした。


 だが、その手は男の身体をすり抜けた。


 転送は、もう始まっていた。


 男は半分になった黒いノートを胸へ抱えた。


「朝倉湊に」


 一瞬考え、それから首を振る。


「いや、別にいいか」


 光が強くなった。


「どうせまた会う」


 男の姿が消えた。


『くそ!』


 壮真の声を最後に、通信が途切れた。


 湊は拳を握った。


 今度は、システムの転送で逃げられた。


「追えないよ」


 凛が言った。


「分かってる」


「また来る」


「分かってる」


 だから、次は逃がさない。


 湊たちの足元にも、光が広がり始めた。


 その前に、伊能忠敬の声が届いた。


『朝倉』


 湊は声に顔を上げた。


 伊能は測量棒を肩へ預けていた。


『また会えば』


「はい」


『続きを測る』


 湊は少し笑った。


「絶対ですよ」


 伊能は、不思議そうな顔をした。


『当然だ』


 その横から、武蔵も声をかけた。


『朝倉』


「今度は何です」


『少しは戦えるようになったな』


 湊は、一瞬嬉しくなりかけた。


「本当ですか」


『まだ弱いが』


「一言多い!」


 沖田が笑った。


『でも前より面白そうですよ』


「あなたまで」


『今度、僕ともやります?』


「やりません!」


『残念』


「全然残念そうじゃない!」


 白い光が強くなった。


 ジャンヌが湊を見た。


「朝倉さん」


「はい」


「また、敵になるかもしれません」


 白い旗を抱えていた。


「ですよね」


「でも」


 少し笑う。


「今日、一緒に戦ったことは忘れません」


 その言葉が、湊の胸に残った。


 忘れない。


 この世界では、簡単に約束できることではなかった。


 湊はスマートフォンを見た。


「俺も、残しておきます」


 ジャンヌには、意味が分からなかったようだった。


 それでも頷いてくれた。


 テスラは転送の直前まで装置を見ていた。


「朝倉」


「はい?」


「次に会ったら、その端末を調べさせろ」


「嫌です」


「なぜ」


「絶対壊しそうだから」


「壊さない」


「信用できない」


 テスラは、本気で不満そうだった。


「非合理的だ」


「俺のスマホです」


「だから何だ」


「所有権!」


 横からチューリングが言った。


「今回は諦めた方がいい」


「なぜ」


「拒否率が高い」


「数値化するな!」


 ダ・ヴィンチも、スマートフォンを興味深そうに見ていた。


「いつか描かせて」


「スマホを?」


「君を」


「俺?」


「変だから」


「褒めてないですよね?」


 返事を聞く前に光が強まり、三人の姿が消えた。


 スパルタクスとナポレオンも、また目を合わせていた。


「皇帝」


「何だ」


「次は殴る」


「好きにしろ」


「逃げるな」


「お前こそ」


 二人が同時に消えた。


 最後に中央へ残ったのは、湊、凛、大地の三人だった。


 大地が肩を回した。


「終わったな」


「終わった」


「CORE取れなかったけど」


 凛が言った。


「言わないで」


「悔しい?」


「だから悔しいって」


 凛が笑った。


 白い光が、三人の身体を包んでいく。


 そのとき湊は、すぐ近くにある凛の手へ目を向けた。


 六十秒の終わりに握った、その感触がまだ少し残っていた。


 凛が視線に気づいた。


「何」


「いや」


「何?」


「何でもない」


「怪しい」


 大地が二人を見た。


「俺、先に消えていい?」


「何で?」


「何となく」


 湊には意味が分からなかった。


 凛は大地を睨んだ。


「変なこと言わないで」


「はい」


 光が視界を覆い、三人の姿が消えた。


 次に湊が目を開けたとき、空は赤くなかった。


 MEMORIA世界の、灰色の空だった。


 開始領域に近い街。


 壊れたビルと道路が見えた。


 だが、銃声も砲撃もなかった。


 戦争の音が、完全に消えていた。


 湊は立ったまま、しばらく空を見上げていた。


「湊!」


 少し離れた場所から、凛が呼んだ。


 大地も一緒にいる。


 その向こうから、相馬が走ってきた。


 壮真、真奈、蓮も続いていた。


「戻った!」


 壮真が叫んだ。


 湊は思わず笑った。


「みんな?」


 相馬は、すぐに人数を数え始めた。


 一人ずつ顔を確かめ、最後に頷く。


「三十一人」


 湊の胸が、一瞬痛んだ。


 相馬は続けた。


「全員います」


 また、同じだった。


 三十一人で、全員。


 湊はスマートフォンへ目を落とした。


 ほんの一瞬、画面が黒くなった。


 《PARTICIPANT DATA MISMATCH》


 31 / 32。


 すぐに消えた。


 誰なのかは分からない。


 それでも、ここにいない誰かの痕跡が、まだ機械の中に残っている。


 湊はスマートフォンを握った。


「どうしました?」


 相馬がこちらを見た。


「……何でもない」


 まだ、今は言えなかった。


 そのとき、空に巨大な通知が浮かんだ。


 全員が顔を上げる。


 ――MEMORIA NOTICE.


 ――FIRST CORE《WAR》の所有確定に伴い。


 ――次期主要記憶領域の候補形成を開始します。


「もう次?」


 壮真が嫌そうな顔をした。


「休ませてほしい」


 凛が言った。


 表示にノイズが走り、一度消えた。


 そして、新しい文字が現れた。


 ――SECOND CORE.


 一拍置いて、名前が示された。


 ――《BOND》


「BOND……」


 湊が読んだ。


 絆。繋がり。


 そういう意味だったはずだ。


 続いて、領域の名前が現れた。


 ――主要記憶領域。


 ――《LINKAGE CITY》


 連環都市。


 地図は、まだ表示されなかった。


 短い説明だけが続いた。


 ――記憶は、一人では保持できません。


 湊の表情が変わった。


 スマートフォンに残る、知らない少女。


 名前のない写真。


 31 / 32という数字。


 誰かがいたのに、記憶から消えている。


 その自分たちへ、次のCOREが示された。


 《BOND》。


「戦争の次は」


 相馬が静かに言った。


「絆?」


 凛が続ける。


「順番、重くない?」


 壮真が呟いた。


 湊は画面から目を離せなかった。


 最後に、もう一つの表示が加わった。


 ――領域形成まで。


 72:00:00。


 三日。


 初めて、明確な準備時間が与えられた。


 湊は息を吐いた。


「今度こそ」


「何?」


 壮真が聞いた。


「少し休もう」


 全員が、ほんの少し笑った。


 だが、湊のスマートフォンの奥では、誰にも気づかれないまま、一つのファイルが生成されていた。


 ファイル名は、《BOND_00》。


 中身は開けない。


 ただ、そのサムネイルに、一瞬だけ画像が浮かんだ。


 あの、知らない少女だった。


 その隣には、もう一人の人影がある。


 顔は激しいノイズに覆われ、男なのか女なのかさえ判別できなかった。


 二人がどこにいて、何をしていたのかも分からない。


 ERROR。


 画像は乱れたままだった。


 湊は、まだそれに気づいていなかった。


 第一主要記憶核《WAR》。


 王冠軍所有。


 第二部 赤き戦原。


 終。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


『MEMORIA WAR ―記憶戦争―』は、“記憶”と“歴史”をテーマにした異能バトル長編です。


少しでも続きが気になった方は、ぜひ次話もお読みいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。